― ヒト乾燥皮膚モデルにおける高周波皮膚電気伝導度の検証(YAKUGAKU ZASSHI. 2017)
- 臨床疑問
- 研究の背景
- 研究デザイン
- 比較した4条件
- どのように「乾燥皮膚」を作ったのか?
- 塗布方法
- 保湿効果をどう測定したのか?
- 試験結果から明らかになったことは?
- 2倍希釈と4倍希釈には有意差なし
- 4倍希釈ではプロペト単独との差がなかった
- なぜ希釈すると保湿効果が落ちたのか?
- 実臨床で重要な「塗布回数」の問題
- 批判的吟味(研究の限界)
- この研究の強み
- 調剤現場ではどう考えるか?
- まとめ
- ✅まとめ✅ ヒト乾燥皮膚モデルにおける高周波による皮膚電気伝導度の検証の結果、ヒルドイドソフト軟膏をプロペトで2~4倍に希釈したところ、有効成分の保湿効果が有意に低下した。4倍に希釈した混合物と白色ワセリン単独との間で、保湿効果に有意な差は認められなかった。
- 根拠となった試験の抄録
- 引用文献
臨床疑問
ヘパリン類似物質製剤(ヒルドイド®ソフト軟膏)を白色ワセリン(プロペト®)で希釈すると、単独使用と比較して保湿効果は低下するのか?
ヒルドイドをプロペトで1:1に混ぜても、塗る量が同じなら保湿効果はあまり変わらないのか?
研究の背景
アトピー性皮膚炎などでは、ステロイド外用薬などによる薬物療法と並んで保湿剤によるスキンケアが重要です。一方、実臨床では、塗布の手間を減らす、アドヒアランスを向上させる、効果や副作用を考慮するなどの目的で複数の外用剤を混合・希釈することがあります。
しかし外用剤は、本来それぞれ薬物の性状、疾患、使用部位などを考慮して基剤と濃度が設計されています。
興味深いことに、ステロイド軟膏では保湿剤との1:1混合によってステロイド濃度が半分になっても、皮膚透過量が増加するという報告もあります。その理由として、結晶の微細化、主薬の溶解性変化、水分の影響などが考えられていました。
つまり「外用剤は薄めれば効果も単純に半分になる」とは限りません。
一方、当時は保湿剤そのものを混合・希釈した場合の保湿効果について充分なデータがありませんでした。
そこで研究者らは、ヘパリン類似物質製剤を白色ワセリン(プロペト)で希釈した場合の保湿効果を、角層水分量と相関する皮膚電気伝導度を指標として検討しました。
研究デザイン
通常の患者を対象としたRCTとは少し異なり、健康成人の前腕に実験的な乾燥皮膚を作製して、同一被験者内で複数製剤を比較する実験研究です。
対象は健康成人14人(男性6人、女性8人)、22~43歳、平均年齢31±5歳でした。
東京逓信病院倫理委員会の承認を受け、文書によるインフォームド・コンセントも取得されています。
比較した4条件
| 条件 | 混合比 | 論文上の表現 |
|---|---|---|
| ヒルドイド®ソフト軟膏単独 | 1 | 単独 |
| ヒルドイド®+プロペト® | 1:1 | 2倍希釈 |
| ヒルドイド®+プロペト® | 1:3 | 4倍希釈 |
| プロペト®単独 | ― | 対照 |
混合製剤は直示天秤で秤量し、ガラス製乳鉢・乳棒で混合されています。
ここでいう「2倍希釈」はヒルドイド1+プロペト1、「4倍希釈」はヒルドイド1+プロペト3です。
どのように「乾燥皮膚」を作ったのか?
健康成人なので、もともと乾燥皮膚疾患を持つ患者ではありません。以下の方法で前腕におけるヒト乾燥皮膚モデルを作製しています
アセトン/エーテル等量混合液で20分間脱脂
↓
約40℃の微温湯に5分間浸漬
↓
1日1回、2日間反復
左右前腕屈側部に計5か所の1 cm²の評価部位を設定し、4製剤、無塗布を比較しました。
塗布方法
各製剤を2 mg/cm²、1日2回、朝および夜入浴後、14日間塗布しました。
さらに製剤は被験者から分からないようシリンジに入れて渡し、測定者にも塗布部位が分からないようにしており、著者らは二重盲検比較試験としています。
保湿効果をどう測定したのか?
ここが重要です。
本研究では「皮膚が潤った」という主観的評価ではなく、皮膚電気伝導度(conductivity)を測定しています(使用機器:SKICON-200EX)。電気伝導度は角層水分量と相関することが報告されているため、これを保湿効果の代替指標としました。
測定は、1日後、2日後、3日後、7日後、14日後に実施され、各時点で3回測定した平均値を用いています。さらに単純な測定値ではなく、各部位の電気伝導度増加量 − 無塗布部位の増加量を解析し、測定日ごとにTukey型多重検定を行っています。
試験結果から明らかになったことは?

結果:希釈すると保湿効果の指標は大きく低下
論文2ページ目のFig. 1を見ると、その差はかなり視覚的にも明瞭です。ヒルドイド®単独は時間とともに電気伝導度が大きく増加します。一方、2倍希釈、4倍希釈と希釈するにつれて増加量が小さくなっています。
14日後の結果は以下の通りです。
| 製剤 | 電気伝導度増加量 |
|---|---|
| ヒルドイド®単独 | 66.3 ± 30.9 μS |
| 2倍希釈(1:1) | 30.5 ± 18.1 μS |
| 4倍希釈(1:3) | 12.1 ± 12.4 μS |
単独群では、1日後から14日後までのすべての測定日において、2倍希釈・4倍希釈より有意に高値でした。つまり、少なくともこの実験条件では、プロペトを加えてヒルドイドを薄めても保湿効果が維持される、という結果ではなかったということになります。
2倍希釈と4倍希釈には有意差なし
興味深いのはここです。14日後の数値だけを見ると、2倍希釈:30.5 μS、4倍希釈:12.1 μSであるため、かなり差があるように見えます。しかし統計解析では、2倍希釈の方が高い傾向はあったものの、すべての測定日において2倍希釈 vs 4倍希釈に有意差なしでした。
対象者が14人しかいないことも考慮する必要があります。
4倍希釈ではプロペト単独との差がなかった
さらに重要なのが、4倍希釈 vs プロペト単独です。論文では、すべての測定日において有意差なしでした。つまり本研究の実験条件では、ヒルドイド1:プロペト3まで希釈すると、角層水分量の代替指標である電気伝導度について、プロペト単独を上回る保湿効果を統計学的に確認できなかったことになります。
ただし、これは「4倍希釈したヒルドイドはプロペトと完全に同じ」あるいは、「ヘパリン類似物質の薬理作用が完全になくなる」という意味ではありません。
有意差がなかった=同等性が証明されたではないからです。
なぜ希釈すると保湿効果が落ちたのか?
最も単純には、同じ2 mg/cm²を塗布しているため、希釈すると単位面積あたりのヘパリン類似物質製剤量が減ります。しかし、この研究だけから「主薬濃度が半分だから保湿効果も半分」と単純には説明できません。
外用剤では、基剤、水分量、相構造、混合による物性変化、皮膚への薬物移行、閉塞効果などが影響し得ます。実際、著者らも緒言で、外用剤の混合によって主薬の溶解性や結晶状態などが変化し得ることを指摘しています。
したがって、本研究から直接確認できるのは「この製剤・混合比・塗布量・実験モデルでは、希釈するほど電気伝導度による保湿効果の指標が低下した」というところまでです。
実臨床で重要な「塗布回数」の問題
著者らはもう一つ重要な問題を指摘しています。保湿剤は通常1日複数回使用することがありますが、ステロイド外用薬と混合すると、ステロイド側の用法に合わせて1日1回になってしまう場合があります。著者らは既報として、ヒルドイド®製剤では1日2回塗布の方が1日1回より2.5~4倍保湿効果が増加したことを挙げています。
したがって実臨床では、混合による希釈に加えて、塗布回数減少まで重なる可能性があります。
そのため著者らは、ステロイド軟膏とヒルドイド®ソフト軟膏を混合する場合には、ステロイドの効果だけでなく保湿効果も確認し、必要に応じて保湿剤を別途指示する必要があると考察しています。
批判的吟味(研究の限界)
この論文は調剤実務に直結しそうな結果ですが、一般化にはかなり注意が必要です。
1.対象者はわずか14人
最大の試験の限界です。対象はn=14しかありません。同一被験者内比較なので個人差を抑えられる利点はありますが、小規模研究であることに変わりありません。特に「2倍希釈と4倍希釈に差がない」、「4倍希釈とプロペト単独に差がない」という非有意差については慎重に読む必要があります。
検出力不足によって差を検出できなかった可能性があるからです。
2.患者ではなく健康成人の「人工的乾燥皮膚」
対象はアトピー性皮膚炎、皮脂欠乏症などの患者ではありません。22~43歳の健康成人に、アセトン/エーテル処置などで人工的に乾燥皮膚を作っています。
したがって、高齢者の皮脂欠乏症、アトピー性皮膚炎、慢性的な乾燥皮膚疾患で同じ結果になるとは限りません。
3.評価したのは臨床的な「保湿効果」そのものではない
本研究のアウトカムは皮膚電気伝導度です。これは角層水分量と相関する客観的指標ですが、患者にとって重要な、乾燥感、掻痒、鱗屑、亀裂、皮膚炎、QOLなどを評価したわけではありません。
したがって、電気伝導度が低い=臨床的治療効果がそのまま低いと完全に置き換えることはできません。
4.「ヘパリン類似物質一般」の研究ではない
使用した製剤は、ヒルドイド®ソフト軟膏です。さらに基剤は論文中で油中水型(w/o型)乳剤性基剤とされています。
したがって、ヒルドイドローション、ヒルドイドフォーム、他社ヘパリン類似物質製剤、クリーム剤、その他、異なる基剤の後発品まで同じ結果になるとは限りません。
外用剤では主薬が同じでも基剤が違えば製剤特性が異なるため、ここは特に重要です。
5.希釈剤もプロペト®に限定される
本研究で使用した希釈剤は、日本薬局方白色ワセリンのプロペト®です。したがって、「何で希釈しても同じ」とは言えません。
まして他の乳剤性基剤、尿素製剤、他の保湿剤との混合にそのまま外挿することはできません。
6.14日間の短期試験
評価期間は14日間です。したがって、数か月使用した場合、長期的な皮膚バリア機能、症状再燃、ステロイド必要量、服薬アドヒアランス、患者満足度などは不明です。
7.「希釈すると無効」ではない
この研究から最も避けたい誤解です。
2倍希釈でも14日後の電気伝導度増加量は30.5±18.1 μSでした。つまり保湿指標の増加自体がゼロになったわけではありません。研究が示したのは、ヒルドイド単独より有意に低かったということです。
したがって、「1:1混合するとヒルドイドの効果がなくなる」ではなく、「1:1でプロペトと混合すると、この実験モデルではヒルドイド単独より保湿効果の指標が低下した」が正確です。
この研究の強み
一方で、非常に面白い実験デザインです。同一人物の前腕に、ヒルドイド単独、2倍希釈、4倍希釈、プロペト単独、無塗布を設定しているため、被験者間の皮膚特性の違いをある程度抑えながら比較できます。また、被験者だけでなく測定者にも製剤塗布部位を知らせず、二重盲検で測定しています。
さらに、毎回同一測定者が同じ機器を使用し、各時点3回測定の平均を採用するなど、n=14ながら測定条件をかなり丁寧に統制しています。
調剤現場ではどう考えるか?
この研究から実務的に最も重要なのは「ワセリンで薄めれば、主薬濃度は下がるけれどワセリン自体にも保湿作用があるから、全体として保湿効果は同じだろう」とは必ずしも言えないことです。
著者らも最終的に、2倍希釈でもヒルドイド単独より保湿効果が有意に低下するため、安易に希釈すべきではないと考察しています。
ただし、これは混合調剤そのものを一律に否定するデータではありません。
混合にはアドヒアランス改善という別のメリットがあり得ます。
したがって実務では、製剤学的・薬理学的な効果と患者が実際に正しく塗布できるかというアドヒアランスを天秤にかける必要があります。
まとめ
健康成人14人の人工的乾燥皮膚モデルを用いて、ヒルドイド®ソフト軟膏をプロペト®で希釈した際の保湿効果が検討されました。
14日後の皮膚電気伝導度増加量は、ヒルドイド単独:66.3±30.9 μS、1:1混合(2倍希釈):30.5±18.1 μS、1:3混合(4倍希釈):12.1±12.4 μSでした。ヒルドイド単独は2倍・4倍希釈より、1~14日後のすべての測定時点で有意に高値でした。一方、2倍と4倍希釈には有意差がなく、4倍希釈とプロペト単独にも有意差は認められませんでした。
したがって一文でまとめるなら “ヒルドイド®ソフト軟膏をプロペト®で希釈すると、健康成人の実験的乾燥皮膚における角層水分量の代替指標は、1:1混合でも単独使用より有意に低下した。ただし、健康成人14人を対象とした14日間の実験研究であり、臨床症状を評価していないため、「希釈によって臨床的保湿効果が失われる」「すべてのヘパリン類似物質製剤を希釈すべきでない」とまで一般化することはできない” という解釈が、この論文の結果と限界の両方を最もよく反映していると思います。
少なくとも、ヒルドイドソフト軟膏については、なるべく単独で使用した方が保湿効果は高いのかもしれません。ただし、少数の限られた症例数での検証結果です。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ヒト乾燥皮膚モデルにおける高周波による皮膚電気伝導度の検証の結果、ヒルドイドソフト軟膏をプロペトで2~4倍に希釈したところ、有効成分の保湿効果が有意に低下した。4倍に希釈した混合物と白色ワセリン単独との間で、保湿効果に有意な差は認められなかった。
根拠となった試験の抄録
ステロイド軟膏は、しばしば保湿剤と混合されます。保湿剤と混合されたステロイド軟膏は皮膚透過量を高めることが報告されている。しかし、保湿剤の保湿効果について行われた研究はごくわずかである。そこで我々は、白色ワセリン(プロペト)で希釈したヘパリン類似物質軟膏(ヒルドイドソフト軟膏)が、乾燥皮膚モデルに及ぼす保湿効果について、角質層の水分量を測定することで調査した。ヒルドイドをプロペトで2~4倍に希釈したところ、有効成分の保湿効果が有意に低下した。4倍に希釈した混合物と白色ワセリン単独との間で、保湿効果に有意な差は認められなかった。このことから、ステロイド軟膏と保湿剤の混合物は頻繁に使用されているが、保湿効果の低下についてはより注意を払うべきであるという結論が導かれる。
キーワード:ヘパロイド系軟膏;ヒルドイドソフト軟膏;白色ワセリン;プロペト;希釈;保湿効果
引用文献
Evaluation of Moisturizing Effect of Heparinoid Ointment (Hirudoid Soft Ointment) Diluted by White Petrolatum (Propeto)
「ヘパリン類似物質製剤の希釈に関する保湿効果の検討」
眞部遥香ら。
YAKUGAKU ZASSHI. 2017;137(6):763–766.
― 続きを読む https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/137/6/137_16-00191/_article/-char/ja

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