高齢者におけるRSウイルス関連の下気道感染症の発症はワクチンで予防できるのか?
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、新生児や高齢者における急性呼吸器感染症、下気道疾患、臨床合併症、および死亡の重要な原因です。新生児、乳児、幼児に対してはシナジス(筋肉内注射用パリビズマブ(遺伝子組換え)製剤)が重篤な下気道疾患の発症抑制のために承認販売されています。一方で、高齢者のRSV感染症に対して認可されたワクチンはこれまで存在しません。
そこで今回は、60歳以上の成人を対象として現在進行中の国際プラセボ対照第3相試験におけるAS01EアジュバントRSV前駆体Fタンパク質ベースの候補ワクチン(RSVPreF3 OA)の効果を検証したAReSVi-006(Adult Respiratory Syncytial Virus)試験の結果をご紹介します。
本報告では、RSVシーズン前にAS01EアジュバントRSV前駆体Fタンパク質ベースの候補ワクチン(RSVPreF3 OA)またはプラセボを単回投与する群に1:1の割合でランダム抽出しました。
本試験の主要目的は、RSVの1シーズン中に、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で確認されたRSV関連の下気道疾患に対するRSVPreF3 OAワクチン1回接種のワクチン効果を示すことでした。主要目的を達成するための基準は、有効性推定値の信頼区間の下限が20%以上であることでした。重症RSV関連下気道疾患およびRSV関連急性呼吸器感染症に対する有効性が評価され、RSVサブタイプ(AおよびB)に応じた解析が実施され、また安全性についても評価しました。
試験結果から明らかになったことは?
合計24,966例の参加者が、RSVPreF3 OAワクチン(12,467例)またはプラセボ(12,499例)の1回接種を受けました。
ワクチン群 | プラセボ群 | ワクチン有効率 | |
RT-PCRで確認されたRSV関連下気道疾患 | 7例 (1.0/1,000参加者・年) | 40例 (5.8/1,000参加者・年) | 82.6% (96.95%信頼区間[CI] 57.9~94.1) |
RSVに関連する重症下気道疾患 | – | – | 94.1% (95%CI 62.4~99.9) |
RSVに関連する急性呼吸器感染症 | – | – | 71.7% (95%CI 56.2~82.3) |
追跡調査期間中央値6.7ヵ月間で、RT-PCRで確認されたRSV関連下気道疾患に対するワクチン有効率は82.6%(96.95%信頼区間[CI] 57.9~94.1)で、RSV関連の下気道疾患の発症はワクチン群で7例(1.0/1,000参加者・年)、プラセボ群で40例(5.8/1,000参加者・年)でした。
ワクチンの有効性は、RSVに関連する重症下気道疾患(臨床症状または治験責任医師による評価)に対して94.1%(95%CI 62.4~99.9)、RSVに関連する急性呼吸器感染症に対して71.7%(95%CI 56.2~82.3)でした。
RSV A亜型 | RSV B亜型 | |
RSVに関連する重症下気道疾患 | 84.6% | 80.9% |
RSVに関連する急性呼吸器感染症 | 71.9% | 70.6% |
ワクチンの有効性は、RSV AおよびB亜型に対して同様でした(RSV関連の下気道疾患に対する効果:RSV関連下気道疾患 84.6%および80.9%、RSV関連急性呼吸器感染症 71.9%および70.6%)。
様々な年齢層や併存する疾患を有する参加者において、高いワクチン効果が観察されました。
RSVPreF3 OAワクチンはプラセボよりも反応性の高さが示されましたが、報告を求めたほとんどの有害事象は一過性で、重症度は軽度から中等度でした。
重篤な有害事象および潜在的な免疫介在性疾患の発生率は、両群で同様でした。
コメント
2023年5月3日、米国FDAが世界で初めてとなる呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症向けワクチンを承認しました。その根拠となった臨床試験の1つをご紹介します。
さて、本試験結果によれば、RSVPreF3 OAワクチン単回投与は、RSVサブタイプや基礎的な共存疾患の有無にかかわらず、60歳以上の成人において、許容できる安全性プロファイルを有し、RSV関連の急性呼吸器感染症および下気道疾患、RSV関連の重症下気道疾患の予防が示されました。
高齢者においてワクチンの効果が期待できる結果ではありますが、サンプルサイズが2.5万例にも関わらず信頼区間の幅が広いことから、他の試験の結果も踏まえたほうが良いと考えられます。
RSウイルスのワクチン開発については、ファイザーやモデルナも進めているようです。mRNAベースのワクチンの効果の高さは新型コロナウイルス感染症で示されていることから期待がかかります。
続報に期待。
ちなみにシナジスの適応は以下の通り(2023年5月現在);
- 下記の新生児、乳児および幼児におけるRSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)感染による重篤な下気道疾患の発症抑制
- RSウイルス感染流行初期において
- 在胎期間28週以下の早産で、12ヵ月齢以下の新生児および乳児
- 在胎期間29週~35週の早産で、6ヵ月齢以下の新生児および乳児
- 過去6ヵ月以内に気管支肺異形成症(BPD)の治療を受けた24ヵ月齢以下の新生児、乳児および幼児
- 24ヵ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患(CHD)の新生児、乳児および幼児
- 24ヵ月齢以下の免疫不全を伴う新生児、乳児および幼児
- 24ヵ月齢以下のダウン症候群の新生児、乳児および幼児
- RSウイルス感染流行初期において
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