mRNA COVID-19ワクチン接種後の顔面神経麻痺の発生率はどのくらいなのか?
mRNA COVID-19ワクチンの主要な第3相臨床試験において、顔面神経麻痺の症例が、プラセボ投与群の1例(1/35,611例)、ワクチン投与群で数例(7/35,654例)観察されました(PMID: 33301246、PMID: 33378609)。
臨床試験から因果関係は確立されませんでしたが、米国食品医薬品局(FDA)は、ワクチン接種者の顔面神経麻痺のモニタリングを推奨しました。
そこで我々は、世界保健機関のファーマコビジランスデータベースであるVigiBaseを用いて、この潜在的な安全性シグナルを不均衡分析によって調査した。
試験結果から明らかになったことは?
2021年3月9日、世界保健機関(WHO)のファーマコビジランスデータベースに登録されたmRNA COVID-19ワクチンで報告された副作用 133,883例のうち、顔面神経麻痺(完全な麻痺, facial paralysis)683例、顔面神経麻痺(一部もしくは軽度の麻痺, facial paresis)168例、顔面痙攣(facial spasms)25例、顔面神経障害(facial nerve disorders)13例の合計 844例(0.6%)の顔面麻痺関連事象が確認されました。
ファイザー・バイオンテック社製のワクチンでは合計 749例、モデナ社製のワクチンでは 95例が報告されました。
844例のうち、572例が女性(67.8%)で、年齢の中央値(四分位範囲)は49(39~63)歳、発症までの期間の中央値(範囲)は2(0~79)日であった。
他のウイルスワクチンで報告された1,265,182例の副反応と、インフルエンザワクチンで報告された314,980例の副反応の中から、それぞれ5,734例(0.5%)と2,087例(0.7%)の顔面神経麻痺が同定されました。
他のウイルスワクチン(IC025 = -0.01およびIC025 = -0.06)やインフルエンザワクチンのみ(IC025 = -1.36およびIC025 = -0.32)と比較して、広義および狭義の定義における顔面神経麻痺の不均衡のシグナルは検出されませんでした。
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ワクチン接種において、有効性よりも接種後の副反応に関心が寄せられています。本来ワクチンについても、一般的な医療用医薬品と同様に、リスクとベネフィットを鑑みる必要性がありますが、その有効性よりも副反応のみが注目されやすい背景があります。いかにもワクチン接種と副反応に因果関係があるかのように捉えられがちですが、ワクチン接種によるリスクの程度は明らかになっていないことが多いです。したがって、ワクチン接種と各副反応について、相関関係にあるのか、因果関係にあるのかを検証する必要があります。
各副反応とワクチン接種との因果関係を検証することは容易ではありませんが、一つの手法としてシグナル検出が挙げられます。今回ご紹介した試験では、WHOのファーマコビジランスデータベースを利用しており、顔面神経麻痺とmRNA COVID-19ワクチンとの間に関連性の程度を検証しています。
他のウイルスワクチンやインフルエンザワクチンと比較して、mRNA COVID-19ワクチン接種による顔面神経麻痺のリスク増加は認められませんでした。今のところは、過度に心配する必要はないと考えられます。
✅まとめ✅ 他のウイルスワクチンやインフルエンザワクチンと比較して、顔面神経麻痺の不均衡シグナルは検出されなかった。顔面神経麻痺とmRNA COVID-19ワクチンとの間に関連性があるとしても、そのリスクは他のウイルスワクチンと同様に非常に低い可能性がある。
根拠となった試験の抄録
mRNA COVID-19ワクチンの主要な第3相臨床試験において、顔面神経麻痺の症例が、プラセボ投与群の1例(1/35,611例)と比較して、ワクチン投与群で数例(7/35,654例)観察された(PMID: 33301246、PMID: 33378609)。臨床試験から因果関係は確立されなかったが、米国食品医薬品局(FDA)は、ワクチン接種者の顔面神経麻痺のモニタリングを推奨した。そこで我々は、世界保健機関のファーマコビジランスデータベースであるVigiBaseを用いて、この潜在的な安全性シグナルを不均衡分析によって調査した。
方法:不均衡分析は、医薬品と副作用(副反応)との間の推定される関連性を検出することを目的とした仮説生成手法である。このような手法は、薬物と事象の組み合わせについて、関連性がない場合に予想されるものと比較してどの程度不均衡に発生しているかを定量化するものであるが、実際に薬物に曝露されている集団が不明であるため、リスクの定量化にはならない。これまでに、いくつかの頻出法、多変量法、ベイズ法による不均衡法が開発されている。
本研究では、ベイズ型ニューラルネットワーク法を用いて不均衡シグナルを生成し、情報成分の95%信頼区間の下限(IC025)が0より大きい場合に有意であると判断した(PMID: 9696956)。CECIC Rhône-Alpes-Auvergne, Clermont-Ferrand, IRB 5891は、後方視的で非識別化されたデータを使用するため、機関審査委員会の承認とインフォームド・コンセントは必要ないと判断した。
簡単に述べると、2つの対照群(他のすべてのウイルスワクチンとインフルエンザワクチンに限定)と2つの顔面神経麻痺の定義(広いと狭い)で4つの分析を行った。すべての分析は、性別と年齢で調整した。統計解析は、R, version 3.6.2(R Foundation)を用いて行った。
結果:2021年3月9日、世界保健機関(WHO)のファーマコビジランスデータベースに登録されたmRNA COVID-19ワクチンで報告された副作用 133,883例のうち、顔面神経麻痺(完全な麻痺, facial paralysis)683例、顔面神経麻痺(一部もしくは軽度の麻痺, facial paresis)168例、顔面痙攣(facial spasms)25例、顔面神経障害(facial nerve disorders)13例の合計 844例(0.6%)の顔面麻痺関連事象を確認した(一部の有害事象は同一症例でコアポートされた)。
ファイザー・バイオンテック社製のワクチンでは合計 749例、モデナ社製のワクチンでは 95例が報告された。
844例のうち、572例が女性(67.8%)で、年齢の中央値(四分位範囲)は49(39~63)歳でした。発症までの期間の中央値(範囲)は2(0~79)日であった。さらに、他のウイルスワクチンで報告された1,265,182例の副反応と、インフルエンザワクチンで報告された314,980例の副反応の中から、それぞれ5,734例(0.5%)と2,087例(0.7%)の顔面神経麻痺を同定した。また、他のウイルスワクチン(IC025 = -0.01およびIC025 = -0.06)やインフルエンザワクチンのみ(IC025 = -1.36およびIC025 = -0.32)と比較して、広義および狭義の定義における顔面神経麻痺の不均衡のシグナルは検出されなかった。
考察:顔面神経麻痺は、ウイルス感染、外傷、がん、妊娠中のホルモン変化など、多くの疾患に関連して観察される。ベル麻痺として知られる特発性の原因は、片側性で、一般的には自然に元に戻り、顔の部分的または完全な急性の脱力を引き起こす(PMID: 24717284)。
ワクチン接種後の孤立性顔面神経麻痺は、数十年前からほぼすべてのウイルスワクチンで症例報告されており、免疫介在性またはウイルスの再活性化(例えば、ヘルペスウイルス感染の再活性化)によって誘発されると考えられている(PMID: 32696320)。
他のウイルスワクチンと比較した場合、mRNA COVID-19ワクチンは顔面神経麻痺のシグナルを示さなかった。2021年3月9日の時点で、COVID-19ワクチンは全世界で3億2,000万回以上接種されている。したがって、選択的な報告や、ファーマコビジランスデータベース間での症例の報告・転送の遅れの可能性はあるものの、本研究で見られたmRNA COVID-19ワクチン接種後の顔面神経麻痺の報告率は、他のウイルスワクチンで観察されたものよりも高くない。また、性別と年齢を調整しているが、残余交絡や報告バイアスが結果に影響を及ぼす可能性がある。結論として、顔面神経麻痺とmRNA COVID-19ワクチンとの間に関連性があるとしても、そのリスクは他のウイルスワクチンと同様に非常に低いと考えられる。
引用文献
Association of Facial Paralysis With mRNA COVID-19 Vaccines: A Disproportionality Analysis Using the World Health Organization Pharmacovigilance Database
Lucie Renoud et al. PMID: 33904857 PMCID: PMC8080152 (available on 2022-04-27) DOI: 10.1001/jamainternmed.2021.2219
JAMA Intern Med. 2021 Apr 27;e212219. doi: 10.1001/jamainternmed.2021.2219. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33904857/
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