― 介護施設入所者を対象とした後ろ向き研究(J Rural Med. 2024)
臨床疑問(Clinical Question)
便通が安定している便秘患者では、酸化マグネシウム(MgO)の総投与量を維持したまま服用回数を減らしても、排便回数や便性状は維持できるのでしょうか?
研究の背景
酸化マグネシウム(MgO)は、日本で最も広く使用されている浸透圧性下剤の一つです。添付文書では「通常成人2 g/日を3回に分けて、または就寝前1回投与」と記載されています、実臨床では患者ごとに服用回数が調整されています。
高齢者や介護施設入所者では、服薬回数が多いほど服薬アドヒアランスが低下する、介護者の配薬・服薬介助の負担が増える、といった課題があります。一方で、「総投与量を変えずに服用回数だけを減らしても下剤効果が維持されるか」を検討した研究はほとんどありませんでした。
そこで本研究では、便通が安定している介護施設入所者を対象に、MgOの総投与量は維持したまま服用回数のみを減らした場合の排便状況を評価しました。
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P(Patients) | 便通が安定している介護施設入所者の便秘患者 |
| I(Intervention) | MgOの総投与量を維持したまま服用回数を減らす(3回→2回、または2回→1回) |
| C(Comparison) | 変更前の服用回数 |
| O(Outcome) | 排便回数、Bristol Stool Form Scale(BSFS)、腹部症状、追加下剤の使用 |
試験デザイン
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 単施設・後ろ向き観察研究 |
| 実施施設 | 薬剤師訪問を実施する介護施設(日本) |
| 対象期間 | 2020年4月~2022年3月 |
| 対象患者 | 11例 |
| 平均年齢 | 85.6±6.1歳 |
| 女性 | 8例(72.7%) |
| 観察期間 | 変更前2週間・変更後2週間 |
対象患者は、少なくとも14日間便通が安定しており、頓用下剤を使用していない患者でした。
患者背景
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 患者数 | 11例 |
| 平均年齢 | 85.6歳 |
| eGFR | 73.3±31.3 mL/min/1.73m² |
| MgO投与量 | 821.8±162.8 mg/日 |
| 3回→2回 | 2例 |
| 2回→1回 | 9例 |
H₂受容体拮抗薬やPPIは併用されておらず、MgO以外の定期下剤は一部で併用されていました。
試験結果から明らかになったことは?

排便回数(2週間)
| 評価項目 | 変更前 | 変更後 | P値 |
|---|---|---|---|
| 排便回数 | 7.6±3.4回 | 6.6±4.0回 | 0.09 |
有意差は認められませんでした。
便性状(BSFS)
| 評価項目 | 変更前 | 変更後 | P値 |
|---|---|---|---|
| ブリストル便形状スケール(BSFS) | 3.9±0.9 | 4.0±0.9 | 0.93 |
便性状にも変化は認められませんでした。
腹部症状
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| 腹痛・腹部膨満・悪心・嘔吐 | 変化なし |
観察期間中、新たな腹部症状は認められませんでした。
下剤の追加
- MgOを含む定期下剤の変更なし
- 頓用下剤の使用なし
服用回数を減らした後も治療内容の追加・変更は不要でした。
研究結果まとめ
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| 排便回数 | 有意差なし |
| 便性状(BSFS) | 有意差なし |
| 腹部症状 | 変化なし |
| 頓用下剤追加 | なし |
著者らの結論
便通が安定している患者では、MgOの総投与量を維持したまま服用回数を減らしても、下剤効果は維持される可能性が示されました。
服用回数を減らすことで、患者の服薬負担、介護者の服薬介助負担の軽減につながる可能性があります。
試験の限界(批判的吟味)
本研究は、服用回数の最適化という日常診療に直結するテーマを扱っていますが、結果の解釈にはいくつかの重要な限界があります。
① 症例数が極めて少ない
対象は11例のみであり、統計学的検出力は十分ではありません。排便回数はP=0.09と有意差はありませんでしたが、小規模であるため真の差を検出できなかった可能性があります(Type II error)。
② 単施設・後ろ向き研究である
後ろ向き観察研究であり、患者選択や診療方針に伴う選択バイアスを避けることはできません。また、単施設研究のため一般化可能性にも限界があります。著者ら自身も、多施設前向き同等性試験の必要性を述べています。
③ 便通が安定している患者のみが対象
対象は「MgOで充分にコントロールされている患者」に限定されており、便秘コントロールが不十分な患者や新規導入患者へ結果をそのまま適用することはできません。
④ 観察期間が2週間と短い
評価期間は変更後2週間のみであり、長期的な便通維持や服薬アドヒアランス、安全性までは評価されていません。
⑤ 血清マグネシウム濃度は充分に評価されていない
高齢者では高マグネシウム血症が重要な安全性課題ですが、血清マグネシウム濃度が測定されたのは11例中4例のみでした。そのため、安全性に関する評価は充分にできていません。
⑥ 同等性試験ではない
本研究は「差がないこと」を証明する同等性試験(equivalence trial)や非劣性試験(non-inferiority trial)ではありません。「有意差がなかった」ことと「同等である」ことは統計学的には異なるため、この点には注意が必要です。
実臨床への応用
本研究は、便通が安定している高齢患者では、MgOの総投与量を維持したまま服用回数を減らしても、少なくとも短期間では排便回数や便性状が維持される可能性を示しました。
薬剤師の視点では、服用回数の削減は服薬アドヒアランスの向上だけでなく、介護施設や在宅医療における服薬介助の負担軽減にもつながる可能性があります。一方で、本研究は症例数が少なく、同等性を証明した試験ではないため、「すべての患者で服用回数を減らしても問題ない」と結論づけることはできません。
実臨床では、便通が十分に安定している患者に限り、排便状況を継続的に評価しながら段階的に服用回数を減らすというアプローチが現実的と考えられます。
まとめ
- 日本の介護施設入所者11例を対象とした単施設後ろ向き研究
- MgOの総投与量を維持しながら服用回数を減らしても、排便回数・BSFSに有意な変化は認められなかった
- 腹部症状や頓用下剤の追加も認められなかった
- 服用回数削減は服薬・介助負担軽減につながる可能性がある
- ただし、症例数が少なく、後ろ向き研究かつ同等性試験ではないため、結果の解釈と一般化には慎重さが必要である。
あくまでも仮説生成的な結果ではありますが、実臨床において非常に重要な研究結果です。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 単施設の後ろ向き観察研究の結果、酸化マグネシウムの1日あたりの投与回数を減らしても、その効果には影響しない可能性が示唆された。
根拠となった試験の抄録
目的:良好な排便のある患者において、マグネシウム酸化物(MgO)の1日投与量を維持しながら、1日投与回数を減らすことによる緩下作用を調査する。
患者と方法:薬剤師による訪問看護を伴う介護施設に入所した便秘のためにMgOを処方された、規則的な排便のある患者11名を対象とした後向き分析を行った。この調査は、2週間にわたって1日投与回数を3回から2回、または2回から1回に減らす前と後に実施した。
結果:排便回数は、投与頻度変更前と変更後の2週間でそれぞれ7.6 ± 3.4回と6.6 ± 4.0回であった。この差は統計的に有意ではなかった(P =0.09)。ブリストル便形状スケールは、変更前と変更後の2週間でそれぞれ3.9 ± 0.9と4.0 ± 0.9であり、有意ではなかった(P =0.93)。変更から2週間後、MgOの投与方法は変更されず、必要に応じて下剤も投与されなかった。
結論:今回の結果は、MgOの1日あたりの投与回数を減らしても、その下剤効果には影響しないことを示唆している。
キーワード: 便秘;酸化マグネシウム;1日あたりの投与回数;介護施設
引用文献
Effect of reduced daily magnesium oxide doses on laxative effect: a single-center retrospective study
Norio Watanabe et al. PMID: 38975042 PMCID: PMC11222616 DOI: 10.2185/jrm.2023-038
J Rural Med. 2024 Jul;19(3):192-195. doi: 10.2185/jrm.2023-038. Epub 2024 Jul 1.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38975042/

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