日本における抗インフルエンザ薬の処方傾向は?(2014〜2020年のデータベース研究; PLoS One. 2023)

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日本における抗インフルエンザ薬の使用状況は?

日本では、季節性インフルエンザに対して医師も患者も積極的に取り組んでおり、6種類の薬剤(ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、ペラミビル、バロキサビルなど)が承認されています。

多くの国で全国的なインフルエンザサーベイランスシステムが構築されていますが、全国的な抗インフルエンザ薬の処方実態に関するデータは不足しています。

そこで今回は、リアルワールドデータを分析することにより、日本における抗インフルエンザ薬の使用状況を明らかにすることを目的に実施されたレトロスペクティブ研究の結果をご紹介します。

本試験では、国民健康保険の保険請求データの大部分をカバーする「全国健康保険請求・特定健診データベース」のオープンデータが分析されました。2014~2020年の抗インフルエンザ薬を処方された年間患者数、処方された薬剤、患者の年齢・性別分布、薬剤費、地域格差が推定されました。

試験結果から明らかになったことは?

2014~2019年において、抗インフルエンザ薬が処方された患者数は年間670~1,340万例、薬剤費は年間223~480億円(日本円)と推定されました。また、迅速抗原検査は2,110〜3,200万件実施され、その費用は301〜471億円でした。

2017年に最も処方頻度の高かった抗インフルエンザ薬はラニナミビル(48%)、次いでオセルタミビル(36%)でしたが、2018年は新たに登場したバロキサビルが40.8%を占めました。

COVID-19の出現後、2020年に抗インフルエンザ薬を処方される推定患者数はわずか14,000例にまで減少しました。

2018年では、処方の37.6%が20歳未満の患者であったのに対し、65歳以上の患者では12.2%でした。入院患者への処方は1.1%であり、年齢が高くなるにつれて入院患者への処方の割合が増加し、入院中に抗インフルエンザ薬が処方されるのは女性よりも男性の方が多い傾向が示されました。

コメント

日本では、他国と比較して多くの抗インフルエンザ薬が処方されています。しかし、処方傾向については充分に検証されていません。

さて、日本のデータベース(2014~2019年)を用いた後ろ向き研究の結果、抗インフルエンザ薬が処方された患者数は年間670~1,340万例、薬剤費は年間223~480億円(日本円)と推定されました。

やや古いデータではありますが、2018年では、処方の37.6%が20歳未満の患者であったのに対し、65歳以上の患者では12.2%でした。重症化リスクの高い患者における処方率は不明であるものの、65歳以上の高齢者で処方率が比較的低いのは気にかかるところです。高齢者ではインフルエンザ罹患時に受診頻度が低下している可能性があることから結論づけられませんが、若年層への薬剤処方を見直すきっかけとなるかもしれません。

そもそも抗インフルエンザ薬は、インフルエンザの罹患日数を約1日短縮する効果が得られるのみであり、一般的に健康とされる若年層では、栄養管理と休養で充分とされています。基礎疾患を有しているなど重症化リスクの高い若年層に対してはノータイムで抗インフルエンザ薬を処方することになると考えられますが、臨床的・経済的側面など広く評価が求められます。

続報に期待

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✅まとめ✅ 日本における抗インフルエンザ薬の処方実態が明らかとなった。より重症化リスクの高い患者への処方、リスクが低い患者への対応策の立案が求められる。

根拠となった試験の抄録

背景:日本では、季節性インフルエンザに対して医師も患者も積極的に取り組んでおり、6種類の薬剤(ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、ペラミビル、バロキサビルなど)が承認されている。多くの国で全国的なインフルエンザサーベイランスシステムが構築されているが、全国的な抗インフルエンザ薬の処方実態に関するデータは不足している。そこで我々は、リアルワールドデータを分析することにより、日本における抗インフルエンザ薬の使用状況を明らかにすることを目的とした。

方法:本レトロスペクティブ研究では、国民健康保険の保険請求データの大部分をカバーする「全国健康保険請求・特定健診データベース」のオープンデータを分析した。2014~2020年の抗インフルエンザ薬を処方された年間患者数、処方された薬剤、患者の年齢・性別分布、薬剤費、地域格差を推定した。

結果:2014~2019年において、抗インフルエンザ薬が処方された患者数は年間670~1,340万例、薬剤費は年間223~480億円(日本円)と推定された。また、迅速抗原検査は2,110〜3,200万件実施され、その費用は301〜471億円であった。2017年に最も処方頻度の高かった抗インフルエンザ薬はラニナミビル(48%)、次いでオセルタミビル(36%)であったが、2018年は新たに登場したバロキサビルが40.8%を占めた。COVID-19の出現後、2020年に抗インフルエンザ薬を処方される推定患者数はわずか14,000例にまで減少した。2018年、処方の37.6%が20歳未満の患者であったのに対し、65歳以上の患者では12.2%であった。入院患者への処方は1.1%であり、年齢が高くなるにつれて入院患者への処方の割合が増加し、入院中に抗インフルエンザ薬が処方されるのは女性よりも男性の方が多かった。

結論:日本におけるインフルエンザの臨床管理の実態を明らかにした上で、今後は抗インフルエンザ薬を積極的に処方することの臨床的・経済的側面を評価すべきである。

引用文献

Prescription of anti-influenza drugs in Japan, 2014-2020: A retrospective study using open data from the national claims database
Akahito Sako et al. PMID: 37792686 PMCID: PMC10550188 DOI: 10.1371/journal.pone.0291673
PLoS One. 2023 Oct 4;18(10):e0291673. doi: 10.1371/journal.pone.0291673. eCollection 2023.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37792686/

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