― 日本人高齢者1,280人を対象とした中之条研究(J Nutr Health Aging. 2026)
はじめに
ヨーグルトや乳酸菌飲料などの発酵乳製品は、腸内環境や健康維持との関連から広く親しまれています。近年、乳製品の摂取と死亡リスクとの関連を検討した疫学研究が報告されていますが、特定の乳酸菌を含む発酵乳製品については、充分な知見が得られていません。
今回紹介する研究では、日本人高齢者1,280人を対象に、乳酸菌シロタ株(Lacticaseibacillus paracasei strain Shirota:LcS)を含む発酵乳製品の習慣的な摂取と、全死亡リスクとの関連が検討されました。
摂取頻度が過去の記憶に基づいて評価されている点や、食生活・健康意識などによる交絡の可能性を踏まえて解釈する必要があります。
臨床疑問
65歳以上の日本人地域在住高齢者において、乳酸菌シロタ株を含む発酵乳製品を週3日以上習慣的に摂取している人は、週3日未満の人と比較して、全死亡リスクが低いのか?
また、その関連は男性と女性で異なるのか?
研究の背景
発酵乳製品と健康
発酵乳製品は、乳酸菌などの微生物による発酵工程を経て製造される食品です。一般的なヨーグルトや乳酸菌飲料などが含まれますが、使用される菌株、菌数、栄養成分などは製品によって異なります。そのため、発酵乳製品を一括りにして、すべての製品に同じ健康効果があると考えることはできません。
これまでの疫学研究では、乳製品の摂取と全死亡リスクの低下との関連が報告されてきました。
しかし、プロバイオティクスを含む発酵乳製品に限定した場合、全死亡との関連は十分に明らかになっていませんでした。
乳酸菌シロタ株とは?
乳酸菌シロタ株は、Lacticaseibacillus paracasei strain Shirota(LcS)として知られる乳酸菌株です。特定の乳酸菌株について健康影響を検討する場合、一般的な発酵乳製品の摂取と、その菌株を含む製品の摂取を区別することが重要です。
本研究では、LcSを含む発酵乳製品の摂取頻度と、全死亡リスクとの関連を評価しています。
ただし、LcS以外の乳酸菌や製品成分の影響を完全に切り分けることは、観察研究では困難です。
なぜ日本人高齢者を対象としたのか?
高齢者では、栄養状態、身体活動、基礎疾患、生活習慣など、さまざまな要因が死亡リスクと関連します。そのため、日常的な食品摂取と長期的な健康アウトカムとの関係を調べることには、公衆衛生上の意義があります。
一方、発酵乳製品を習慣的に摂取する人は、そうでない人と比較して、健康意識やその他の生活習慣が異なる可能性があります。
この点を考慮して、本研究では通常のコホート解析に加え、傾向スコアマッチングを用いた解析が行われました。
研究デザイン
本研究は、地域在住高齢者を追跡した前向きコホート研究です。ただし、発酵乳製品の摂取状況は、参加者が過去5年間または10年間の習慣を振り返って回答したものです。
つまり、死亡については前向きに追跡していますが、食品摂取歴そのものを長期間にわたり前向きに記録した研究ではありません。
PECO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P(対象) | 日本の地域在住65歳以上の高齢者1,280人 ※群馬県中之条町の高齢者を対象とした中之条研究(ヤクルト本社および東京都健康長寿医療センター研究所などによる共同研究) |
| E(曝露) | LcS含有発酵乳製品を週3日以上摂取 |
| C(比較) | 週3日未満の摂取 |
| O(アウトカム) | 全死亡 |
| 摂取歴の評価 | 過去5年間および10年間の摂取頻度を回想 |
| 研究デザイン | 前向きコホート研究 |
| 統計解析 | Cox比例ハザード回帰、傾向スコアマッチング |
対象者の特徴

原著の方法を確認すると、対象者は中之条研究に参加した、日常生活を自立して送る高齢者でした。年次健診への参加や身体機能の自立などが組み入れ条件とされ、身体活動や生活の質に大きな影響を及ぼす慢性疾患・進行性疾患を有する人は対象から除外されていました。
このため、一般的な高齢者全体というより、比較的健康で自立した地域在住高齢者を対象とした研究と考えられます。
解析方法
全対象者の解析では、Cox比例ハザード回帰を用い、年齢、BMI、喫煙状況、飲酒状況を調整しています。また、傾向スコアマッチングによって、これらの背景因子が類似する参加者を抽出し、結果の頑健性を検討しました。
ただし、食事全体の質、身体活動、社会経済的背景、健康意識などの影響がすべて除去されたわけではありません。
試験結果から明らかになったことは?

① 全死亡の発生状況
追跡期間中に、男性147人、女性114人が死亡しました。
| 項目 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 対象者数 | 519人 | 761人 |
| 死亡者数 | 147人 | 114人 |
| 死亡割合 | 28.3% | 15.0% |
全体では261人の死亡が確認されました。
ただし、この死亡割合は性別ごとの全対象者における割合であり、LcS摂取による効果を直接表すものではありません。
② 男性:LcS含有発酵乳製品を週3日以上摂取した群で、調整後の死亡ハザードが低かった
過去5年間におけるLcS含有発酵乳製品の摂取頻度を比較した結果、男性では週3日以上の摂取群で全死亡ハザードが低いという関連が認められました。

全対象者解析のHR 0.648は、週3日以上摂取する男性では、週3日未満の男性に比べて、調整後の死亡ハザードが約35.2%低かったことを意味します。傾向スコアマッチング解析でも、約36.0%低いという関連が認められました。
ただし、これは死亡確率が35~36%低下したという意味ではありません。ハザード比と累積死亡リスクは異なる指標です。
③ 重要な点:未調整の死亡割合では、LcS摂取群が低いわけではなかった
原著のTable 1を確認すると、興味深い結果が示されています。
| 男性・過去5年間のLcS摂取頻度 | 対象者数 | 死亡者数 | 未調整の死亡割合 |
|---|---|---|---|
| 週3日未満 | 401人 | 113人 | 28.2% |
| 週3日以上 | 118人 | 34人 | 28.8% |
未調整の死亡割合は、むしろ週3日以上の摂取群でわずかに高い結果でした。それにもかかわらず、年齢、BMI、喫煙、飲酒を調整したCox解析では、HR 0.648という関連が認められています。これは必ずしも統計学的な矛盾ではありません。両群の背景因子や追跡時間が異なれば、未調整の累積死亡割合と調整後のハザード比は異なる方向を示すことがあります。
しかし、この結果は非常に重要です。
単純に「週3日以上飲んでいた人の死亡割合が35%少なかった」と説明すると、事実と異なります。正確には「背景因子を調整した生存時間解析で、死亡ハザードが約35%低いという関連が認められた」ということです。
さらに、傾向スコアマッチング後の死亡割合は次のとおりでした。
| 男性・マッチング後 | 対象者数 | 死亡者数 | 未調整の死亡割合 |
|---|---|---|---|
| 週3日未満 | 112人 | 42人 | 37.5% |
| 週3日以上 | 112人 | 30人 | 26.8% |
マッチング後は摂取群で死亡割合が低くなりましたが、原著のFisherの正確確率検定ではP=0.115でした。一方、生存時間を考慮したCox解析ではP=0.024でした。
この違いも、単純な死亡割合の比較と時間経過を考慮した解析が異なることを示しています。
④ 男性:発酵乳製品全体でも類似の関連
LcS含有製品を含む発酵乳製品全体についても、男性では週3日以上の摂取と全死亡ハザードの低下が関連していました。
| 解析 | HR | 95% CI | P値 |
|---|---|---|---|
| 全対象者解析 | 0.690 | 0.499~0.955 | 0.025 |
| 傾向スコアマッチング解析 | 0.677 | 0.499~0.920 | 0.013 |
この結果は、LcS含有製品だけでなく、発酵乳製品全体の摂取でも同様の関連が認められたことを示しています。そのため、今回の結果をLcSという特定の菌株だけに由来する効果と断定することはできません。
⑤ 女性:有意な関連は認められなかった
女性では、LcS含有発酵乳製品についても、発酵乳製品全体についても、全死亡リスクとの統計学的に有意な関連は認められませんでした。
原著で報告された過去5年間のLcS含有製品の解析結果は次のとおりです。
| 女性・LcS含有製品 | HR | 95% CI | P値 |
|---|---|---|---|
| 全対象者解析 | 1.179 | 0.798~1.742 | 0.408 |
| 傾向スコアマッチング解析 | 1.068 | 0.683~1.669 | 0.774 |
いずれも95%信頼区間が1.0を含んでおり、明確な関連は認められていません。ただし、男性で有意、女性で非有意という結果だけでは、男女間の効果に統計学的な差があるとは証明できません。
男女間の関連の違いを確かめるには、性別と摂取頻度の交互作用などを直接評価する必要があります。
⑥ 平均生存時間の差について
原著では、制限平均生存時間(RMST)についても検討しています。RMSTとは、あらかじめ設定した期間までの平均生存時間を表す指標です。男性のLcS含有製品について、次の結果が得られました。
| 解析 | 週3日以上群と週3日未満群のRMST差 | 95% CI | P値 |
|---|---|---|---|
| 全対象者解析 | +4.51か月 | −1.99~11.02 | 0.174 |
| 傾向スコアマッチング解析 | +9.80か月 | 0.656~18.95 | 0.036 |
全対象者解析では、平均生存時間の差は統計学的に有意ではありませんでした。マッチング解析では有意差が認められましたが、信頼区間は広く、推定には不確実性があります。
したがって「LcSを摂取すると寿命が9.8か月延びる」と解釈することはできません。 あくまで観察された摂取習慣と、設定された追跡期間内の生存時間との関連です。
批判的吟味(研究の限界)
① 観察研究であり、因果関係は証明できない
本研究はランダム化比較試験ではありません。発酵乳製品を週3日以上摂取する人と、そうでない人では、食生活、身体活動、健康意識、医療機関の利用状況などが異なる可能性があります。こうした違いが死亡リスクに影響している可能性を排除できません。
傾向スコアマッチングによって一部の交絡は調整されていますが、測定されていない因子による残余交絡は残ります。
② 摂取頻度は過去の記憶に基づいている
本研究の大きな限界は、過去5年間または10年間の摂取頻度を回想によって評価している点です。数年前の食品摂取頻度を正確に思い出すことは容易ではありません。また、過去5年間を通じて一定の頻度で摂取していたのか、途中で摂取習慣が変化したのかについても、回想による情報には限界があります。
このため、曝露の誤分類が生じる可能性があります。
③ 調整した交絡因子が限定的である
原著の主要なCox解析では、年齢、BMI、喫煙状況、飲酒状況が調整されています。しかし、全死亡に関係する要因はこれらに限られません。例えば、身体活動、栄養状態、慢性疾患、社会経済的状況、食事全体の質なども重要です。これらの因子が摂取習慣と死亡リスクの双方に関連していれば、結果に影響した可能性があります。
特に、本研究が身体活動と健康に関する中之条研究を基盤としていることを考えると、身体活動の影響をどの程度取り除けているかは重要な検討点です。
④ 未調整の死亡割合と調整後のHRが異なる
男性のLcS含有製品の解析では、週3日以上の摂取群の未調整死亡割合は28.8%、週3日未満群では28.2%でした。一方、調整後のHRは0.648でした。これは背景因子や追跡時間の違いなどによって説明できる可能性がありますが、解析結果が調整モデルに依存していることにも注意が必要です。
したがって、調整前後の結果が異なる理由を十分に検討せずに、単純な死亡リスク低下として説明することは避けるべきです。
⑤ 男女差の解釈には注意が必要
男性では有意な関連が認められ、女性では認められませんでした。しかし、これはLcS含有製品が男性にのみ有効であることを意味しません。女性では死亡者数が比較的少なく、統計学的検出力が不足していた可能性があります。また、男性と女性では摂取習慣、生活習慣、基礎疾患などが異なる可能性もあります。
男女差を確定するには、交互作用の検証や独立した集団での再現が必要です。
⑥ 特定の菌株による効果かどうかは不明
本研究では、LcS含有発酵乳製品だけでなく、発酵乳製品全体でも男性に類似の関連が認められました。そのため、結果がLcS固有の作用によるものなのか、発酵乳製品に共通する成分や、摂取者の生活習慣によるものなのかは明らかではありません。また、食品の摂取頻度と実際の乳酸菌摂取量は同一ではありません。
本研究から、最適な菌数や摂取量を決定することはできません。
⑦ 対象者の一般化可能性に限界がある
本研究は、日常生活が自立している日本人高齢者を対象としています。そのため、要介護状態の高齢者、重い慢性疾患を有する患者、施設入所者などに同様の関連が認められるかどうかは不明です。
また、対象地域や生活習慣が異なる集団でも同じ結果が得られるか、追加検証が必要です。
⑧ 企業による研究支援と利益相反
原著の利益相反申告によると、本研究は株式会社ヤクルト本社から一部支援を受けており、複数の著者が同社の従業員です。著者らは、研究資金提供者はデータ収集、データ解釈、投稿の意思決定に関与していないと申告しています。企業からの支援や著者の所属だけで研究結果が誤っていると判断することは適切ではありません。
一方、特定の企業が取り扱う菌株や製品に関連する研究であるため、研究デザイン、解析方法、結果の解釈については、独立した研究による再現性も含めて慎重に評価する必要があります。
臨床的意義:乳酸菌シロタ株を摂取すると長生きできるのか?
今回の研究では、日本人高齢男性において、LcS含有発酵乳製品を週3日以上摂取する習慣と、全死亡ハザードの低下との関連が認められました。全対象者解析と傾向スコアマッチング解析で類似の結果が得られたことは、研究結果を支持する要素の一つです。
しかし、観察研究であることに加え、未調整の死亡割合では摂取群に明確な利益が認められなかった点や、調整した交絡因子が限定的である点を考慮する必要があります。また、発酵乳製品全体でも類似の関連が認められたため、LcS固有の作用と考える根拠は十分ではありません。
したがって、現時点で「乳酸菌シロタ株を週3日以上、約9年間摂取すると死亡リスクが35%減少する」と、因果的な効果として説明することは適切ではありません。
一方、今回の結果は、発酵乳製品の習慣的な摂取と高齢者の長期的な健康との関連を、さらに研究する価値があることを示しています。
まとめ
本研究は、日本人の地域在住高齢者1,280人を約9.3年間追跡し、発酵乳製品の摂取習慣と全死亡リスクとの関連を検討したコホート研究です。男性では、過去5年間にLcS含有発酵乳製品を週3日以上摂取していた群で、調整後の全死亡ハザードが低いという関連が認められました。全対象者解析ではHR 0.648(95%CI 0.438~0.958)、傾向スコアマッチング解析ではHR 0.640(95%CI 0.434~0.943)でした。一方、女性では統計学的に有意な関連は認められませんでした。
本研究を解釈するうえで、特に重要なのは次の3点です。
- 男性で約35%低い死亡ハザードが認められたのは、交絡調整後の解析結果であること。
- 未調整の死亡割合では、LcS摂取群に明確な低下が認められなかったこと。
- 観察研究であるため、LcSの摂取による寿命延長の因果関係は証明されていないこと。
結論として、本研究は、日本人高齢男性におけるLcS含有発酵乳製品の習慣的摂取と全死亡ハザード低下との関連を示した研究ですが、特定の乳酸菌製品による死亡予防効果を確立したものではありません。
そもそも健康意識の高い人が、健康習慣の一つとしてLcS含有発酵乳製品を習慣的に摂取していたのかもしれません。コホート研究では、この健康志向バイアスの影響が大きいことが知られています。今回の研究のように、約9年という長期間のランダム化比較試験の実施は困難であり、現実的ではありません。したがって、より質の高い研究デザインでの実施は困難です。
いくつかの観察研究の実施し、観察期間や主要評価項目の設定などをなるべく統一し、メタ解析を行うことが現実的な落としどころになるものと考えられます。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 日本の観察研究の結果、LcSを含む発酵乳製品の習慣的な摂取は、高齢の日本人男性において、全死因死亡リスクの低下と関連していた。一方、女性においては、この関連性が認められなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:乳製品の摂取は、全死因死亡リスクの低下と関連している。しかし、プロバイオティクスを含む発酵乳製品に関するエビデンスは依然として不明確である。本研究では、ラクトカセイバチルス・パラカゼイ・シロタ株(LcS)を含む乳酸菌を含む発酵乳製品の摂取と全死因死亡との関連性を検討した。
方法:65歳以上の在宅日本人1,280名(男性519名、女性761名;平均年齢73.5歳)を解析対象とした。参加者は、過去5年間および10年間における発酵乳製品の摂取頻度(週3日未満または週3日以上)の遡及的回想に基づき、2つのグループに分類された。全死因死亡リスクは、全サンプルおよび傾向スコアマッチングを行ったサブサンプルにおいて、Cox比例ハザード回帰分析を用いて評価した。
結果: 9.3年間(112.05ヶ月)の追跡期間中、男性147名(28.3%)および女性114名(15.0%)が死亡した。男性において、5年間にわたり週3日以上LcSを含む発酵乳製品を摂取したことは、全サンプル解析(ハザード比 [HR] 0.648、95%信頼区間 [CI] 0.438-0.958、p = 0.030)およびマッチング解析(HR 0.640、95% CI 0.434-0.943、p = 0.024)の双方において、週3日未満の摂取者と比較して、全死因死亡リスクの低下と有意に関連していた。LcS製品を含む発酵乳製品全体についても、同様の関連性が認められた。女性においては、LcS製品および発酵乳製品全体について、いずれの関連性も認められなかった。
結論:LcSを含む発酵乳製品の習慣的な摂取は、高齢の日本人男性において、全死因死亡リスクの低下と関連していた。
キーワード:発酵乳製品;死亡率;中野城研究;プロバイオティクス
引用文献
Association between habitual intake of fermented milk products containing lactic acid bacteria and all-cause mortality: a community-based cohort prospective study
Yukitoshi Aoyagi et al. PMID: 42612506 PMCID: PMC13508645 DOI: 10.1016/j.jnha.2026.100956
J Nutr Health Aging. 2026 Oct;30(10):100956. doi: 10.1016/j.jnha.2026.100956.Epub 2026 Aug 18.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42612506/

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