― ノルウェーで実施されたランダム化比較試験(NORCCAP試験)の追跡調査
臨床疑問
一度だけのS状結腸内視鏡(sigmoidoscopy)検診は、20年以上にわたり大腸がん(colorectal cancer:CRC)の発症や死亡を減少させるのか。
また、その効果に男女差は存在するのか。
研究の背景
大腸がん(colorectal cancer:CRC)は、世界的に主要ながん死亡原因の1つです。
近年では、便潜血検査(fecal immunochemical test:FIT)、S状結腸内視鏡、全大腸内視鏡など様々なスクリーニング法が普及しています。
これまでのメタ解析では、S状結腸内視鏡検診によって、大腸がん発症、大腸がん死亡が約15年間減少することが示されていました。
しかし、「20年以上の超長期効果」については十分なデータが限られていました。
そこで本研究では、NORCCAP試験(Norwegian Colorectal Cancer Prevention trial)の23年間追跡結果が報告されました。
情報元:PubMed論文ページ
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P(患者) | 50〜64歳の一般住民 |
| I(介入) | 一回限りのS状結腸内視鏡検診(±FIT) |
| C(比較) | 検診なし |
| O(評価項目) | 大腸がん発症率、大腸がん死亡 |
試験デザイン
本研究は、ノルウェーで実施された大規模ランダム化比較試験です。
対象地域は、Oslo(オスロ)、Telemark County(テレマルク県)でした。試験参加者は、S状結腸内視鏡検診群または非検診群へ割り付けられました。
一部では便潜血検査(FIT)が併用されました。
主要評価項目はCRC発症率、CRC死亡でした。
情報元:ClinicalTrials.gov(NORCCAP)
解析対象
100,210人がランダム化されました。Intention-to-screen解析には98,654人が含まれました。
| 群 | 人数 |
|---|---|
| 検診群 | 20,552人 |
| 非検診群 | 78,102人 |
検診参加率は、男性61.4%、女性64.7%でした。
試験結果から明らかになったことは?

大腸がん発症率
23年間累積CRC発症率は、男性で大きな低下を認めました。
| 男性 | 検診群 | 非検診群 |
|---|---|---|
| CRC発症率 | 4.3% | 6.0% |
リスク差は、−1.7(95%CIは −2.2 ~ −1.2) percentage pointsでした。
一方、女性では効果は比較的小さい結果でした。
| 女性 | 検診群 | 非検診群 |
|---|---|---|
| CRC発症率 | 4.2% | 4.7% |
リスク差は、−0.5 percentage pointsでした。
大腸がん死亡率
死亡率についても、男性では有意な低下が認められました。
| 男性 | 検診群 | 非検診群 |
|---|---|---|
| CRC死亡率 | 1.4% | 2.2% |
リスク差は、−0.8 percentage pointsでした。
一方、女性では明確な死亡率低下は認められませんでした。
| 女性 | 検診群 | 非検診群 |
|---|---|---|
| CRC死亡率 | 1.3% | 1.4% |
リスク差は、−0.1(95%CIは −0.3 ~ 0.1) percentage pointsでした。
つまり、女性では統計学的に明確な死亡減少は示されませんでした。
効果が強かった部位
検診効果は、直腸S状部がん(rectosigmoid cancer)で最も強く認められました。
これはS状結腸内視鏡の観察範囲と整合的です。つまり「見える範囲の癌予防効果が強かった」と解釈できます。
FIT追加の影響
興味深い点として、便潜血検査(FIT)追加によって、S状結腸内視鏡単独と比較した追加利益は認められませんでした。
つまり、本試験では「1回のS状結腸内視鏡」自体が主要効果を担っていた可能性があります。
なぜ男女差が生じた可能性があるのか?
一般的には、病変部位分布、生物学的差異、右側結腸癌頻度、内視鏡到達範囲などが関与している可能性があります。
女性では右側結腸癌が比較的多い可能性が指摘されており、S状結腸内視鏡だけでは十分検出できない可能性があります。
ただし、本研究から直接証明されたわけではありません。
試験の限界(批判的吟味)
本研究は非常に長期かつ大規模RCTですが、いくつか重要な限界があります。
まず、追跡は国際レジストリ(national registry)を用いて行われており、個別患者の詳細情報は限定的でした。
また、検診参加率は約60%であり、完全遵守ではありませんでした。
さらに、本研究はノルウェー住民を対象としており、食習慣、医療制度、背景リスクが他国と異なる可能性があります。
加えて、本研究は、1回限りのS状結腸内視鏡であり、現在多くの国で普及している全大腸内視鏡戦略とは異なります。
女性で死亡率低下が認められなかった理由についても、本研究のみで明確には説明できません。
まとめ
今回のNORCCAP試験の23年追跡の結果では、1回限りのS状結腸内視鏡検診によって、大腸がん発症、大腸がん死亡が長期的に減少することが示されました。
ただし、その効果は男性でより強く、女性では死亡率低下は明確ではありませんでした。
本研究は、「1回の検診でも、20年以上にわたる予防効果があり得る」ことを示した非常に重要な長期RCTと言えます。
一方で、現在の臨床では、FIT、全大腸内視鏡、リスク層別化なども含めた総合的スクリーニング戦略が重要となります。
日本でも同様の結果が得られるのか、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の長期追跡研究の結果、ルウェーでS状結腸鏡検査によるスクリーニングを提供したところ、大腸がんの発生率は女性よりも男性でより大きく減少し、大腸がんによる死亡率は男性でのみ減少した。
根拠となった試験の抄録
背景: ランダム化試験のメタアナリシスにより、S状結腸鏡検査によるスクリーニングが15年間にわたり大腸がん(CRC)の発生率と死亡率を減少させることが示されています。
目的: 23年間にわたるS状結腸鏡検査の有効性を報告する。
試験デザイン: ランダム化比較試験(NORCCAP[ノルウェー大腸がん予防]、ClinicalTrials.gov:NCT00119912)。
試験設定: ノルウェー、オスロおよびテレマルク県の人口。
試験参加者: 無作為化時点で大腸がんのない50歳から64歳までの人。
介入: 1回のみのS状結腸鏡検査によるスクリーニング(便潜血免疫化学検査の有無は問わない)、またはスクリーニングなし。
測定項目: 大腸がんの発症率と死亡率。
結果: 合計100,210人が無作為に割り付けられ、98,654人がスクリーニング意図分析に含まれた。スクリーニング群は20,552人、非スクリーニング群は78,102人であった。スクリーニングへの参加率は男性で61.4%、女性で64.7%であった。男性では、23年間のCRC累積リスクはスクリーニング群で4.3%、非スクリーニング群で6.0%であり、リスク差は-1.7パーセントポイント(95%信頼区間、-2.2~-1.2パーセントポイント)であった。女性では、対応するリスクは4.2%と4.7%であり、リスク差は-0.5パーセントポイント(信頼区間、-1.0~-0.01パーセントポイント)であった。男性では、23年間のCRC死亡の累積リスクは、スクリーニング群で1.4%、非スクリーニング群で2.2%であり、リスク差は-0.8パーセントポイント(信頼区間:-1.1~-0.5パーセントポイント)であった。女性では、対応するリスクは1.3%と1.4%であり、リスク差は-0.1パーセントポイント(信頼区間:-0.3~0.1パーセントポイント)であった。この効果は直腸S状結腸癌で最も顕著であった。S状結腸鏡検査に便潜血検査を追加しても、スクリーニングのメリットは変わらなかった。
制限事項: 追跡調査は国の登録制度を通じて行われる。
結論: ノルウェーでS状結腸鏡検査によるスクリーニングを提供したところ、大腸がんの発生率は女性よりも男性でより大きく減少し、大腸がんによる死亡率は男性でのみ減少した。
主な資金提供元: ノルウェー政府およびノルウェーがん協会
引用文献
Twenty-Three-Year Benefits of Sigmoidoscopy Screening for Colorectal Cancer : A Randomized Trial
Edoardo Botteri et al. PMID: 42114097 DOI: 10.7326/ANNALS-25-05456
Ann Intern Med. 2026 May 12. doi: 10.7326/ANNALS-25-05456. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42114097/

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