2型糖尿病患者におけるプロトンポンプ阻害薬使用と心血管疾患および死亡リスクとの関連性はどのくらいですか?(英国人口ベースコホート研究; J Clin Endocrinol Metal. 2022)

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2型糖尿病患者におけるPPI使用と心血管疾患および死亡リスクとの関連性は?

糖尿病患者における食道蠕動機能障害は、1967年にMandelstamらにより報告され、その後、糖尿病患者と胃食道逆流症(GERD)や逆流性食道炎の関連性が指摘されるようになりました(PMID: 5006759PMID: 2820221)。糖尿病患者においてGERD が惹起される原因としては、胃迷走神経障害による胃排出能の低下や食道運動機能障害が主な原因になるとされています。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸関連疾患の治療薬として広く使用されており、腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性があります。しかし、2型糖尿病(T2D)患者におけるPPI使用と心血管疾患(CVD)および全死亡のリスクとの関連性の評価は充分にされていません。

そこで今回はUK Biobank研究のデータを用いて、成人T2D患者19,229例のPPI使用と冠動脈疾患(CAD)、心筋梗塞(MI)、心不全(HF)、脳卒中、全死亡のリスクとの関連性を分析した英国の人口ベースコホート研究の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

中央値 10.9~11.2年の追跡期間中に、合計2,971例の冠動脈疾患(CAD)、1,827例の心筋梗塞(MI)、1,192例の心不全(HF)、738例の脳卒中を記録し、合計2,297例が死亡していました。

ハザード比 HR
CADHR 1.27
(95%CI 1.15~1.40
MIHR 1.34
(95%CI 1.18~1.52
HFHR 1.35
(95%CI 1.16~1.57
全死亡HR 1.30
(95%CI 1.16~1.45
脳卒中HR 1.11
(95%CI 0.90~1.36
PPIの使用と各アウトカムの発生リスク

PPIの使用は、CAD(HR 1.27、95%CI 1.15~1.40)、MI(HR 1.34、95%CI 1.18~1.52)、HF(HR 1.35、95%CI 1.16~1.57) および全死因死亡(HR 1.30、95%CI 1.16~1.45)の高リスクと有意に関連していました。一方、PPI使用と脳卒中との間に有意な関連は認められませんでした(HR 1.11、95%CI 0.90~1.36)。

PPIの適応、抗糖尿病薬の使用、抗血小板薬の使用などの要因で層別化したサブグループ解析でも結果は一貫していました。PPI使用者と非使用者の1:1傾向スコアマッチ集団での解析でも、同様の結果が得られました。

コメント

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸関連疾患の治療薬として広く使用されていますが、長期的なリスクベネフィットについてデータが不足しています。

さて、本試験結果によれば、PPIの使用は、T2D患者におけるCVDイベントおよび死亡の高いリスクと関連することが示唆されました。あくまでも相関関係が示されたにすぎませんが、これまでの報告と矛盾しません。何らかの交絡因子が残存していることからさらなる検証が求められます。

各アウトカムのリスク増加は、個人的にそこまで大きくないと考えます。とはいえ、これまでの報告も踏まえると、PPI使用とリスク増加との関連性は疑いようがない事実です。本試験結果も含めて、これまでの報告を踏まえると、PPIの漫然投与について再考する良い機会になるのではないかと考えます。

本当にPPIを必要とする患者はどのような集団であるのか、続報に期待。

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☑まとめ☑ PPIの使用は、2型糖尿病患者における心血管イベントおよび死亡の高いリスクと関連することが示唆された。

根拠となった試験の抄録

背景:プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸関連疾患の治療薬として広く使用されており、腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性がある。我々は、2型糖尿病(T2D)患者におけるPPI使用と心血管疾患(CVD)および全死亡のリスクとの関連性を評価することを目的とした。

方法:UK Biobank研究のデータを用いて、成人T2D患者19,229例のPPI使用と冠動脈疾患(CAD)、心筋梗塞(MI)、心不全(HF)、脳卒中、全死亡のリスクとの関連性を分析した。

結果:中央値10.9~11.2年の追跡期間中に、合計2,971例のCAD、1,827例のMI、1,192例のHF、738例の脳卒中を記録し、合計2,297例が死亡していた。PPIの使用は、CAD(HR 1.27、95%CI 1.15~1.40)、MI(HR 1.34、95%CI 1.18~1.52)、HF(HR 1.35、95%CI 1.16~1.57) および全死因死亡の高リスクと有意に関連していた(HR 1.30、95%CI 1.16~1.45)。PPI使用と脳卒中との間に有意な関連は認められなかった(HR 1.11、95%CI 0.90~1.36)。PPIの適応、抗糖尿病薬の使用、抗血小板薬の使用などの要因で層別化したサブグループ解析でも結果は一貫していた。PPI使用者と非使用者の1:1傾向スコアマッチ集団での解析でも、同様の結果が得られた。

解釈:PPIの使用は、T2D患者におけるCVDイベントおよび死亡の高いリスクと関連することが示唆された。T2D患者におけるPPI使用の有益性と危険性のバランスを慎重に検討し、PPI治療中のCVD有害事象のモニタリングを強化する必要がある。

キーワード:心血管疾患、冠動脈疾患、心不全、死亡率、プロトンポンプ阻害薬、2型糖尿病

引用文献

Proton Pump Inhibitor Use and Risks of Cardiovascular Disease and Mortality in Patients with Type 2 Diabetes
Tingting Geng et al. PMID: 36573284 DOI: 10.1210/clinem/dgac750
J Clin Endocrinol Metal. 2022 Dec 27;dgac750. doi: 10.1210/clinem/dgac750. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36573284/

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