臨床疑問
心室頻拍(ventricular tachycardia:VT)に対するカテーテルアブレーション後も、VTが再発することがあります。その際に再度アブレーションを行うことは、どの程度安全で、どのような転帰が期待できるのでしょうか?
構造的心疾患を有するVT患者において、再度の高周波カテーテルアブレーションを受ける患者は、初回アブレーション患者と比べて、合併症、VT再発、生存率がどのように異なるのか?
また、再アブレーション後にVTが再発しなかった患者では、初回アブレーション成功例と同程度の生存が期待できるのか?
研究の背景
VTは心室を起源とする頻脈性不整脈で、構造的心疾患患者では心筋梗塞後の瘢痕や心筋症に伴う不整脈基質が原因となります。
VTの再発は、以下のような重大な問題につながります。
- 動悸、失神、血行動態の悪化
- 植込み型除細動器(ICD)によるショック
- VTストーム
- 心不全の悪化
- 入院や死亡リスクの上昇
薬物治療やICDはVTによる突然死を防ぐうえで重要ですが、不整脈の原因となる回路そのものを除去するわけではありません。そのため、VTの発生源や回路を焼灼するカテーテルアブレーションが行われます。
しかし、初回アブレーション後もVTが再発する患者がいます。再アブレーションでは、すでに一度治療された不整脈基質を再評価する必要があり、心外膜アプローチやより複雑なマッピングを要する可能性があります。
一方、再アブレーションの安全性や長期転帰を大規模に評価した研究は限られていました。PECO
PICO(PECO)
本研究は治療を無作為に割り付けた比較試験ではなく、実際に初回または再アブレーションを受けた患者を比較した観察研究です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P:患者 | 構造的心疾患を有し、12施設でVTに対する高周波カテーテルアブレーションを受けた患者 |
| E:曝露 | 再アブレーション群(過去にVTアブレーション歴あり、>1RFA) |
| C:比較 | 初回アブレーション群(1RFA) |
| O:アウトカム | 手技時間、心外膜アプローチ、術後VT誘発性、合併症、VT再発、生存率 |
試験デザイン
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 国際多施設観察コホート研究 |
| 参加施設 | VTアブレーションを行う専門施設12施設 |
| 対象患者数 | 1,990人 |
| 初回アブレーション群 | 1,250人 |
| 再アブレーション群 | 740人 |
| 再施行歴 | 平均1.4±0.9回、範囲1~10回 |
| 主な比較項目 | 患者背景、手技特性、合併症、VT再発、生存率 |
抄録だけでは、データ収集が前向きか後ろ向きか、追跡期間の詳細、欠測値の扱いなどは十分に確認できません。そのため「多施設観察コホート解析」として評価します。
また、「平均1.4回、範囲1~10回」は再アブレーション群における過去の施行歴を示す記載と考えられますが、各施行回数別の転帰は抄録に示されていません。
患者背景
初回群と再施行群では年齢、左室駆出率、性別に大きな差はありませんでした。しかし、再アブレーション群は、より難治性のVTを有する患者集団でした。
| 患者背景 | 再アブレーション群 | 初回群 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 年齢 | 62±13歳 | 62±13歳 | 差なし |
| 左室駆出率 | 33±13% | 34±13% | 大きな差なし |
| 男性 | 88% | 87% | 大きな差なし |
| 非虚血性心疾患 | 53% | 41% | 再施行群で多い |
| ICDショック歴 | 70% | 63% | 再施行群で多い |
| VTストーム | 38% | 33% | 再施行群で多い |
| アミオダロン治療歴 | 55% | 48% | 再施行群で多い |
| 2剤以上の抗不整脈薬 | 22% | 14% | 再施行群で多い |
再アブレーション群ではICDショック、VTストーム、複数の抗不整脈薬使用が多く、初回治療では十分に制御できなかった難治例が選択されていたことが分かります。
試験結果から明らかになったことは?

アブレーション手技の特徴
| 評価項目 | 再アブレーション群 | 初回群 | 統計学的評価 |
|---|---|---|---|
| 手技時間 | 300±122分 | 266±110分 | 再施行群で長い |
| 心外膜アプローチ | 41% | 21% | 再施行群で多い |
| 誘発されたVT数 | 2.4±2.2 | 1.9±1.6 | 再施行群で多い |
| マッピング不能VTのみ | 15% | 9% | 再施行群で多い |
| 焼灼後もVT誘発可能 | 42% | 33% | 再施行群で多い |
以上はいずれもp<0.03でした。
再施行群では手技時間が長く、心外膜からのアプローチが約2倍必要でした。また、誘発されるVTの種類が多く、血行動態が不安定などの理由でマッピングできないVTや、治療後も誘発可能なVTが多く認められました。
このことから、再アブレーション症例は、初回症例より不整脈基質が複雑だった可能性があります。
合併症とVT再発
| 評価項目 | 再アブレーション群 | 初回群 | p値 |
|---|---|---|---|
| 総合併症 | 8% | 5% | <0.01 |
| 心嚢液貯留 | 2.4% | 1.3% | 0.07 |
| 静脈血栓症 | 0.8% | 0.2% | 0.06 |
| VT再発 | 29% | 24% | <0.001 |
総合併症は再アブレーション群で有意に多く認められました。
心嚢液貯留と静脈血栓症も再施行群で数値上多かったものの、群間比較では統計学的有意差に達していません。
VT再発も再施行群で多く認められました。ただし、再施行群は治療前からVTストーム、ICDショック、薬物治療抵抗性が多い集団であり、この差を再アブレーションそのものの効果や害と解釈することはできません。
VT再発の有無と生存率
| VTアブレーション後の経過 | 再アブレーション群 | 初回群 | p値 |
|---|---|---|---|
| VT再発ありの生存率 | 67% | 78% | 0.003 |
| VT再発なしの生存率 | 93% | 92% | 0.96 |
VTが再発した患者では、再アブレーション群の生存率が初回群より低い結果でした。
一方、VTが再発しなかった患者では、生存率は再アブレーション群93%、初回群92%で、ほぼ同等でした。
したがって、再アブレーションを必要とする難治例であっても、治療後にVTが再発しなければ、初回アブレーション後に再発しなかった患者と同程度の生存率が観察されました。
ただし、これは「再アブレーションによって死亡率が低下した」ことを証明する結果ではありません。
論文の結論
再アブレーションを必要とする患者は、初回アブレーション患者よりも難治性が高く、手技も複雑でした。また。再施行群では以下が多く認められました。
- 非虚血性心疾患
- ICDショック
- VTストーム
- 複数の抗不整脈薬使用
- 心外膜アプローチ
- 長時間の手技
- 合併症
- VT再発
それでも、再アブレーション後にVTが再発しなかった患者の生存率は、初回アブレーション成功例と同様でした。
著者らは、専門施設における再アブレーション後のVT非再発と生存転帰は、難治例を対象としていることを考慮すれば、一定程度期待できると結論づけています。
批判的吟味:研究の限界
1.ランダム化比較試験ではない
本研究では、患者を初回アブレーションまたは再アブレーションに無作為に割り付けていません。
再施行群は、初回治療後にVTが再発し、かつ再度の侵襲的治療が必要かつ可能と判断された患者です。したがって、両群は研究開始時点から臨床的に異なっています。
この研究から、再アブレーションが初回アブレーションより劣る、または優れると結論づけることはできません。
2.本当に必要な比較対照ではない
再アブレーションの有効性を検証するには、本来であれば初回アブレーション後にVTが再発した患者を対象に、以下を比較する必要があります。
- 再アブレーション
- 抗不整脈薬の継続・変更
- ICD治療を中心とした管理
- その他の治療戦略
本研究の対照群は初回アブレーション患者であり、「再発後に再アブレーションを行わなかった患者」ではありません。
したがって、再発例に対して再アブレーションを追加することの純粋な治療効果は評価できません。
3.交絡因子の影響が大きい
再施行群では、VTストーム、ICDショック、アミオダロン使用、複数の抗不整脈薬使用、非虚血性心疾患が多く認められました。
これらはVT再発や死亡に関連する可能性があり、再施行群の転帰が悪かった理由が、再アブレーション歴によるものか、もともとの病態の重症度によるものかを分離できません。
抄録からは、これらを調整した効果推定値は確認できません。
4.選択バイアスと生存者バイアス
再アブレーションを受けるには、初回治療後も生存し、再治療が可能な状態で、専門施設へ紹介される必要があります。
一方、次のような患者は再施行群に含まれにくい可能性があります。
- 初回治療後早期に死亡した患者
- 重篤な心不全で再治療が困難な患者
- 再アブレーションを希望しなかった患者
- 再治療可能な専門施設へ紹介されなかった患者
したがって、再施行群はすべてのVT再発患者を代表しているとは限りません。
5.「VT非再発」と生存率の関係は因果関係ではない
VTが再発しなかった患者では高い生存率が認められましたが、VT非再発が死亡減少の原因とは限りません。
治療後にVTが再発しない患者は、以下のような良好な背景を持っていた可能性があります。
- 不整脈基質が治療しやすい
- 心不全が比較的軽い
- 腎機能などの全身状態が良い
- 心筋瘢痕の範囲が小さい
- アブレーションで標的部位に到達しやすい
したがって、VT非再発は治療効果だけでなく、患者の予後良好性を示すマーカーである可能性があります。
6.再施行回数別の効果は分からない
再施行歴は1~10回と幅がありましたが、抄録には次のような回数別解析は示されていません。
- 2回目と3回目以降の成功率
- 回数増加に伴う合併症リスク
- 何回目から治療効果が低下するか
- 最適な再施行回数
- 再施行を断念すべき基準
したがって、この研究から「VTアブレーションは何回まで行うべきか」という上限を決めることはできません。
7.専門施設の結果である
研究に参加したのはVTアブレーションを行う12の専門施設です。
複雑な心外膜アプローチ、難治性VTのマッピング、周術期合併症への対応には高度な経験が必要です。そのため、同じ成績が症例数の少ない施設でも得られるとは限りません。
8.心外膜アプローチが合併症差に影響した可能性
再施行群では心外膜アプローチが41%で、初回群の21%より多く行われていました。
心外膜アプローチ自体が心嚢液貯留などの合併症リスクに影響する可能性があります。そのため、合併症率8%対5%の差を、再施行回数だけの影響と解釈することはできません。
9.女性への一般化に限界がある
対象患者の約88%が男性でした。
構造的心疾患の原因、不整脈基質、体格、血管合併症などには性差が存在する可能性があり、女性患者に同じ結果が当てはまるかは不明です。
10.構造的心疾患のないVTには適用できない
本研究は構造的心疾患を有する患者が対象です。
心臓に明らかな構造異常を認めない特発性VTでは、病態、アブレーション成功率、再発率が異なるため、本研究の結果をそのまま適用できません。
この研究から分かること・分からないこと
| 分かること | 分からないこと |
|---|---|
| 再アブレーション患者は初回患者より難治性が高い | 再アブレーションが薬物治療より優れているか |
| 再施行では手技時間と心外膜アプローチが増える | 再アブレーションによる死亡減少効果 |
| 総合併症は再施行群で多い | アブレーションの最適な施行回数 |
| VT再発は再施行群で多い | 何回目からリスクが利益を上回るか |
| VT非再発例では初回群と再施行群の生存率が同等 | すべての施設で同様の成績が得られるか |
実臨床への応用
本研究は、初回アブレーション後にVTが再発したからといって、再アブレーションが無意味であることを示したものではありません。
難治例であっても、専門施設でVTを制御できた患者では良好な生存が観察されています。ただし、再施行では手技が複雑になり、合併症も増加するため、個々の患者について次の点を検討する必要があります。
- VT再発頻度とVTストームの有無
- ICDショックの回数
- 薬物治療への反応と忍容性
- 虚血性または非虚血性心筋症
- 心不全の重症度
- 不整脈基質の部位
- 心外膜アプローチの必要性
- 過去のアブレーション内容
- 再治療を行う施設の経験
- 心移植や補助人工心臓を含む高度心不全治療の適応
まとめ
構造的心疾患に伴うVT患者1,990人を対象とした多施設観察研究では、740人が再アブレーション群に分類されました。
再施行群は初回群より難治性が高く、手技時間、心外膜アプローチ、合併症、VT再発が多く認められました。総合併症は8%対5%、VT再発は29%対24%でした。
一方、VTが再発しなかった患者の生存率は、再アブレーション群93%、初回群92%で同等でした。
再VTアブレーションは、難治例においてもVTを制御できれば良好な転帰が期待される一方、合併症リスクは初回治療より高くなります。ただし、本研究は初回群との観察的比較であり、再アブレーションの因果的な生存利益や最適な施行回数を証明したものではありません。
個人的な体験談となりますが、カテーテルアブレーションを3回実施した方を担当したことがあります。3回実施してもなお、時々ではありますが動悸や倦怠感を自覚するようで、お困りの様子でした。
そこで文献検索を行ったのですが、カテーテルアブレーションを3回以上実施した報告を見つけることができませんでした。したがって、ここまでに得られた結果から類推することになりますが、

✅まとめ✅
根拠となった試験の抄録
背景: 心室頻拍(VT)に対する繰り返し高周波アブレーション(>1RFA)を評価するデータは限られている。
目的: 本研究の目的は、構造的心疾患を有する患者におけるVT >1RFAの安全性と転帰を明らかにすることであった。
方法: 構造的心疾患を有する患者のうち、過去のRFA歴に関するデータが得られた12施設でVT RFAを受けた患者を対象とした。初回RFA(1RFA)患者と2回目以降のRFA患者の間で、特徴と転帰を比較した。
結果: 1990人の患者のうち、740人が>1回のRFAを受けていました (平均1.4±0.9、範囲1-10)。>1回のRFAを受けた患者と1回のRFAを受けた患者の間で、年齢 (62±13歳 vs 62±13歳)、左室駆出率 (33% ± 13% vs 34% ± 13%)、性別 (88% vs 87%男性) に差はありませんでしたが、>1回のRFAを受けた患者の方が、非虚血性 (53% vs 41%)、植込み型除細動器ショック (70% vs 63%)、VTストーム (38% vs 33%) の頻度が高く、アミオダロン (55% vs 48%) または2種類以上の抗不整脈薬 (22% vs 14%) で治療されていました。 1回を超えるRFA手技は、1回を超えるRFA手技よりも時間がかかり(300 ± 122分 vs 266 ± 110分)、心外膜アクセスが多く(41% vs 21%)、VTを誘発し(2.4 ± 2.2 vs 1.9 ± 1.6)、マッピング不能VTのみを誘発し(15% vs 9%)、RFA後にVTを誘発する頻度が高かった(42% vs 33%、すべてP<0.03)。合併症の総数は、1回を超えるRFAの方が1回のみのRFAよりも高く(8% vs 5%、P<0.01)、そのほとんどは心嚢液貯留(2.4% vs 1.3%、P=0.07)と静脈血栓症(0.8% vs 0.2%、P=0.06)に関連していた。VTの再発は、1回を超えるRFAの方が1回のみのRFAよりも高かった(29% vs 24%、P<0.001)。 VTが再発した場合、>1RFAの生存率は1RFAよりも悪かった(67% vs 78%、P=0.003)が、成功した場合は同等であった(93% vs 92%、P=0.96)。
結論: VTアブレーションの再施行を必要とする患者は、初回アブレーションを受ける患者とは大きく異なる。アブレーションの難易度は高いものの、再施行後のVT再発のない生存率は良好である。専門施設でのRFA後にVTが再発しない場合、死亡率は同程度である。
キーワード: アブレーション治療成績;カテーテルアブレーション;心室頻拍
引用文献
Outcomes after repeat ablation of ventricular tachycardia in structural heart disease: An analysis from the International VT Ablation Center Collaborative Group
Wendy S Tzou et al. PMID: 28506710 DOI: 10.1016/j.hrthm.2017.03.008
Heart Rhythm. 2017 Jul;14(7):991-997. doi: 10.1016/j.hrthm.2017.03.008. Epub 2017 May 12.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28506710/

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