スタチン不耐患者におけるベンペド酸は心血管アウトカム発生リスクを低減できますか?(DB-RCT; CLEAR Outcomes試験; N Engl J Med. 2023)

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ATPクエン酸リアーゼ阻害剤であるベンペド酸の有効性・安全性は?

ATPクエン酸リアーゼ阻害剤であるBempedoic acid(ベンペド酸)は、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール値を低下させること、筋肉関連の有害事象の発生率が低いことが示されています。しかし、心血管アウトカムへの影響は不明です。

そこで今回は、スタチン系薬剤を服用できない、または服用したくない患者(「スタチン不耐症」患者)で、心血管疾患を有する、またはそのリスクが高い患者を対象に、心血管アウトカムについて検証したCLEAR Outcome試験の結果をご紹介します。

本試験は、二重盲検のランダム化プラセボ対照試験であり。患者は、ベンペド酸180mg/日の経口投与とプラセボ投与に割り付けられました。

本試験の主要評価項目は、主要な有害心血管イベント(心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建術)の4要素複合でした。

試験結果から明らかになったことは?

合計13,970例の患者がランダム化を受け、6,992例がベンペド酸群に、6,978例がプラセボ群に割り当てられました。追跡期間の中央値は40.6ヵ月でした。ベースライン時の平均LDLコレステロール値は両群とも139.0mg/dLであり、6ヵ月後のLDLコレステロール値の減少量は、プラセボ群よりベンペド酸群で29.2mg/dL大きく、減少率の観察差はベンペド酸群で21.1%ポイントでした。

ベンペド酸群
(180mg/日)
プラセボ群ハザード比 HR
(95%CI)
主要エンドポイントイベント
(心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建術の複合)
819例[11.7%]927例[13.3%]HR 0.87(0.79~0.96
P=0.004
心血管系の原因による死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合575例[8.2%]663例[9.5%]HR 0.85(0.76~0.96
P=0.006
致死的または非致死的心筋梗塞261例[3.7%] 334例[4.8%]HR 0.77(0.66~0.91
P=0.002
冠動脈血行再建術435例[6.2%]529例[7.6%] 0.81(0.72~0.92
P=0.001

主要エンドポイントイベントの発生率は、ベムペド酸がプラセボよりも有意に低いことが示されました(819例[11.7%] vs. 927例[13.3%]、ハザード比 0.87、95%信頼区間[CI]0.79~0.96、P=0.004)。

心血管系の原因による死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合の発生率(575例[8.2%] vs. 663例[9.5%];ハザード比 0.85、95%CI 0.76~0.96、P=0.006)、致死的または非致死的心筋梗塞(261例[3.7%] vs. 334例[4.8%];ハザード比 0.77、95%CI 0.66~0.91、P=0.002)、および冠動脈血行再建術(435例 [6.2%] vs. 529例 [7.6%];ハザード比 0.81、95%CI 0.72~0.92、P=0.001) についても発生率が低いことが示されました。

ベンペド酸は、致死的または非致死的な脳卒中、心血管系の原因による死亡、およびあらゆる原因による死亡に有意な影響を与えませんでした。

痛風(3.1% vs. 2.1%)および胆石症(2.2% vs. 1.2%)の発生率は、プラセボに比べてベンペド酸で高く、血清クレアチニン、尿酸、肝酵素値についても増加傾向でした。

コメント

高LDLコレステロール血症をはじめとする脂質異常症は、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を引き起こします。治療の基本はHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬)ですが、筋関連事象などの有害事象が認められることから治療継続が困難となる集団(スタチン不耐、低忍容性)も認められています。そのため代替薬による治療戦略の確立が求められています。

さて、本試験結果によれば、スタチン不耐症の患者において、ベンペド酸による治療は、主要な有害心血管イベント(心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈再灌流)のリスクの低下と関連していました。主要評価項目の内訳として、致死的または非致死的心筋梗塞、そして冠動脈血行再建術のリスク低減が占める割合が多いようです。ソフトアウトカムだけでなく、ハードアウトカムのリスク低減が認められている点は評価できます。

有害事象としては、痛風および胆石症の発症リスク増加が認められていますので、引き続き注視した方が良い事象であると考えられます。この他、血清クレアチニンや尿酸、肝酵素値についてもリスクが増加するのか否か検証が求められます。

2023年3月現在、ベンペド酸は日本で承認されていません。今後の試験結果、申請状況に注目したいところです。

続報に期待。

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☑まとめ☑ スタチン不耐症の患者において、ベンペド酸による治療は、主要な有害心血管イベント(心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈再灌流)のリスクの低下と関連していた。

根拠となった試験の抄録

背景:ATPクエン酸リアーゼ阻害剤であるBempedoic acid(ベンペド酸)は、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール値を低下させ、筋肉関連の有害事象の発生率は低いが、心血管アウトカムへの影響は不明である。

方法:スタチン系薬剤を服用できない、または服用したくない患者(「スタチン不耐症」患者)で、心血管疾患を有する、またはそのリスクが高い患者を対象に、二重盲検ランダム化プラセボ対照試験を実施した。患者は、1日180mgのベンペド酸の経口投与とプラセボ投与に割り付けられた。
主要評価項目は、主要な有害心血管イベント(心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建術)の4要素複合とした。

結果:合計13,970例の患者がランダム化を受け、6,992例がベンペド酸群に、6,978例がプラセボ群に割り当てられた。追跡期間の中央値は40.6ヵ月であった。ベースライン時の平均LDLコレステロール値は両群とも139.0mg/dLであり、6ヵ月後のLDLコレステロール値の減少量は、プラセボ群よりベンペド酸群で29.2mg/dL大きく、減少率の観察差はベンペド酸群で21.1%ポイントであった。
主要エンドポイントイベントの発生率は、ベムペド酸がプラセボよりも有意に低く(819例[11.7%] vs. 927例[13.3%]、ハザード比 0.87、95%信頼区間[CI]0.79~0.96、P=0.004)、心血管系の原因による死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合の発生率は(575例[8.2%] vs. 663例[9.5%];ハザード比 0.85、95%CI 0.76~0.96、P=0.006)、致死的または非致死的心筋梗塞(261例[3.7%] vs. 334例[4.8%];ハザード比 0.77、95%CI 0.66~0.91、P=0.002)、および冠動脈血行再建術(435例 [6.2%] vs. 529例 [7.6%];ハザード比 0.81、95%CI 0.72~0.92、P=0.001) 。
ベンペド酸は、致死的または非致死的な脳卒中、心血管系の原因による死亡、およびあらゆる原因による死亡に有意な影響を与えなかった。
痛風および胆石症の発生率は、プラセボに比べてベンペド酸で高く(それぞれ3.1%対2.1%、2.2%対1.2%)、血清クレアチニン、尿酸、肝酵素値の微増の発生率も同じであった。

結論:スタチン不耐症の患者において、ベンペド酸による治療は、主要な有害心血管イベント(心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈再灌流)のリスクの低下と関連していた。

資金提供:エスペリオン・セラピューティクス社

ClinicalTrials.gov 番号:NCT02993406

引用文献

Bempedoic Acid and Cardiovascular Outcomes in Statin-Intolerant Patients
Steven E Nissen et al. PMID: 36876740 DOI: 10.1056/NEJMoa2215024
N Engl J Med. 2023 Mar 4. doi: 10.1056/NEJMoa2215024. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36876740/

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