メラトニンは入院高齢者のせん妄重症度を減少させない?(DB-RCT; J Am Geriatr Soc. 2024)

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せん妄に対するメラトニンの効果は?

せん妄は高齢の入院患者によくみられ、苦痛、認知機能の低下、死亡の原因となることが報告されています。しかし、現在の治療法は満足のいくものではなく、有効性の欠如と副作用によって制限されています。効果的なせん妄治療が急務です。

せん妄では睡眠覚醒サイクルが障害され、これは主に内因性メラトニンが関与しています。したがって、外因性メラトニン投与は安全で有効な睡眠障害治療薬となることが期待されますが、充分に検証されていません。

そこで今回は、高齢(65歳以上)の内科入院患者において、メラトニン5mg即時放出(IR)を毎晩5日間経口投与した場合のせん妄の重症度に対する効果を明らかにすることを目的に実施されたランダム化比較試験の結果をご紹介します。

本試験は、三次教育病院の一般内科病棟における二重盲検ランダム化比較試験です。入院後48時間以内にConfusion Assessment Method陽性、多動性せん妄、混合性せん妄を呈した高齢入院患者、または入院中にせん妄を発症した高齢入院患者が対象でした。

本試験の主要アウトカムは、Memorial Delirium Assessment Scale(MDAS)を用いて測定したせん妄重症度の変化でした。以前のパイロット試験では、120例の参加者をメラトニンとプラセボに1:1でランダムに割り付けた場合、MDASの3ポイント減少を証明する90%の検出力が得られることが示されています。

試験結果から明らかになったことは?

120例の参加者がランダムに割り付けられ、61例がメラトニン5mgに、59例がプラセボに割り付けられました。薬物の忍容性は良好でした。

メラトニン群プラセボ群
平均MDAS改善度4.9(SD 7.6)
P=0.42
5.4(SD 7.2)

平均MDAS改善度はメラトニン群で4.9(SD 7.6)、プラセボ群で5.4(SD 7.2)であり、p値は0.42で有意差はありませんでした。

メラトニン群プラセボ群
入院期間中央値9日
(IQR 4、12)
P=0.033
中央値10日
(IQR 6、16)

事後分析によると、入院期間(LOS)は介入群で短いことが示されました(中央値9日[四分位範囲(IQR)4、12] vs. プラセボ群10日[IQR 6、16]、p値=0.033、Wilcoxon Rank Sum検定)。

コメント

せん妄に対する効果的な治療方法の確立が求められています。

さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、メラトニンがせん妄の重症度を軽減するという仮説は支持されませんでした。本試験の対象患者は、高齢(65歳以上)の内科入院患者であり、入院後48時間以内にConfusion Assessment Method陽性、多動性せん妄、混合性せん妄を呈した高齢入院患者、または入院中にせん妄を発症した高齢入院患者でした。患者背景によってメラトニンの効果が異なるのか、あるいはせん妄に対するメラトニンの効果がないのか、サンプルサイズが小さかったのか等、追試が求められるところです。

また、より大規模な臨床試験(Pro-MEDIC試験)において、ICU 入室後 48 時間以内に開始された経腸メラトニンは、プラセボと比較してせん妄の有病率を減少させないことが報告されています。対象は予想在院日数が72時間を超える、ICUへの入院を必要とする少なくとも18歳の患者841例であり、今回の試験とは剤型や患者背景が異なりますが、メラトニンを用いた臨床試験では期待される効果が示されていません。

一方、メラトニン受容体作動薬であるラメルテオン(商品名:ロゼレム)は、せん妄予防に有効であることが報告されています。ラメルテオンは、視交叉上核にあるメラトニン受容体MT1、MT2に選択的に作用し、入眠を促す作用を有しています。この作用は、メラトニンよりも数倍強いとされていることから、差異が生じているものと考えられます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、メラトニンがせん妄の重症度を軽減するという仮説は支持されなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:せん妄は高齢の入院患者によくみられ、苦痛、認知機能の低下、死亡の原因となる。現在の治療法は満足のいくものではなく、有効性の欠如と副作用によって制限されている。効果的なせん妄治療が急務である。せん妄では睡眠覚醒サイクルが障害される。内因性メラトニンは障害され、外因性メラトニンは安全で有効な睡眠障害治療薬である。本研究の目的は、高齢(65歳以上)の内科入院患者において、メラトニン5mg即時放出(IR)を毎晩5日間経口投与した場合のせん妄の重症度に対する効果を明らかにすることである。

方法:三次教育病院の一般内科病棟における二重盲検ランダム化比較試験である。入院後48時間以内にConfusion Assessment Method陽性、多動性せん妄、混合性せん妄を呈した高齢入院患者、または入院中にせん妄を発症した高齢入院患者を対象とした。
主要アウトカムは、Memorial Delirium Assessment Scale(MDAS)を用いて測定したせん妄重症度の変化であった。以前のパイロット試験では、120例の参加者をメラトニンとプラセボに1:1でランダムに割り付けた場合、MDASの3ポイント減少を証明する90%の検出力が得られることが示された。

結果:120例の参加者がランダムに割り付けられ、61例がメラトニン5mgに、59例がプラセボに割り付けられた。薬物の忍容性は良好であった。平均MDAS改善度はメラトニン群で4.9(SD 7.6)、プラセボ群で5.4(SD 7.2)であり、p値は0.42で有意差はなかった。事後分析によると、入院期間(LOS)は介入群で短かった(中央値9日[四分位範囲(IQR)4、12]対プラセボ群10日[IQR 6、16]、p値=0.033、Wilcoxon Rank Sum検定)。

結論:この試験では、メラトニンがせん妄の重症度を軽減するという仮説は支持されなかった。これは、メラトニンの効果がなかったか、予想よりも効果が小さかったか、多次元せん妄評価尺度でとらえられなかった効果、またはII型統計誤差によるものである可能性がある。メラトニンはLOSを改善するかもしれない;この仮説は研究されるべきである。

キーワード:高齢神経認知障害、せん妄、入院患者、メラトニン、敗血症関連脳症、睡眠覚醒障害

引用文献

Melatonin does not reduce delirium severity in hospitalized older adults: Results of a randomized placebo-controlled trial
Peter W Lange et al. PMID: 38438279 DOI: 10.1111/jgs.18825
J Am Geriatr Soc. 2024 Mar 4. doi: 10.1111/jgs.18825. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38438279/

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