ヘリコバクター・ピロリ感染と治療が大腸癌に及ぼす影響はどのくらい?(米国後向きコホート研究; J Clin Oncol. 2024)

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大腸がんの発生率と死亡率に対するピロリ菌の影響は?

ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、世界的に感染症関連がんの最も一般的な原因です。しかし、ピロリ菌感染、ピロリ除菌が大腸がんにどのように影響しているのかについては不明です。

そこで今回は、ピロリ菌の感染及び治療が大腸がん(CRC)の発生率と死亡率に及ぼす影響について評価した米国の人口ベースコホート研究の結果をご紹介します。

対象患者は、1999年から2018年の間にピロリ菌検査を完了した米国退役軍人でした。退役軍人健康管理局内でピロリ菌検査を完了した成人を対象にレトロスペクティブコホート解析が実施されました。主要な曝露は、ピロリ菌陽性者における(1)ピロリ菌検査結果(陽性/陰性)および(2)ピロリ菌治療(未治療/治療)でした。

主要アウトカムはCRC発症率と死亡率でした。追跡調査は最初のピロリ菌検査時に開始し、大腸がん発症または致死的大腸がん、大腸がん以外の原因による死亡、または2019年12月31日のいずれか早い日まで継続されました。

試験結果から明らかになったことは?

ピロリ菌検査を受けた812,736人のうち、205,178人(25.2%)が陽性でした。H.ピロリ陽性であることは、H.ピロリ陰性と比較して、より高いCRC発症率および死亡率と関連していました。

H.ピロリ菌治療は無治療と比較して、15年間の追跡調査を通じてCRC発生率および死亡率の低下(絶対リスク減少 0.23〜0.35%)と関連していました。

大腸がん発症リスク致死的大腸がんリスク
H.ピロリ陽性集団
vs. H.ピロリ陰性
調整後ハザード比 1.18
 (95%CI 1.12~1.24
調整後ハザード比 1.12
(95%CI 1.03~1.21

H.ピロリ陽性であることは、H.ピロリ陰性であることと比較して、それぞれ18%(調整後ハザード比[調整後HR] 1.18、95%CI 1.12~1.24)および12%(調整後HR 1.12、95%CI 1.03~1.21)高いCRC発症リスクおよび致死的CRCリスクと関連していました。

大腸がん発症リスク致死的大腸がんリスク
未治療のH.ピロリ陽性集団
vs. 治療済みのピロリ感染
調整後ハザード比 1.23
(95%CI 1.13~1.34
調整後ハザード比 1.40
(95%CI 1.24~1.58

未治療のピロリ菌感染者では、治療済みのピロリ菌感染者と比較して、CRC発症リスクおよび致死的CRCリスクがそれぞれ23%(調整後HR 1.23、95%CI 1.13~1.34)および40%(調整後HR 1.40、95%CI 1.24~1.58)高いことが示されました。

この結果は、非血清学的検査を受けた人に限定した解析ではより顕著でした。

コメント

ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori, ヘリコバクテル・ピロリ)は、1983年にオーストラリアのロビン・ウォレンとバリー・マーシャルにより発見された微生物であり、ヒトをはじめとした生物の胃に生息していることがあります。らせん型のグラム陰性微好気性細菌であり、単にピロリ菌(H.ピロリ)と呼ばれることもあります。特に胃がん発症リスクとの関連性が強いことが報告されていますが、大腸がん発症リスクとの関連性については充分に検証されていません。

さて、米国のコホート研究の結果、ピロリ菌陽性集団では、わずかではあるものの統計学的有意性をもって大腸がん発症率および死亡率と関連している可能性が示されました。

あくまでも相関関係が示されたに過ぎませんが、高齢の男性においてはピロリ菌感染により大腸がんリスクが上昇する可能性があります。ピロリ除菌により一部のアレルギー疾患の発症リスクが高まることも報告されていまることから、すべてのピロリ菌感染者においてピロリ菌を除菌した方が良いとは結論づけられないと考えます。患者背景によって、例えば消化器がん罹患の家族歴を有している、難治性の逆流性食道炎を有しているなど、より大腸がんを発症しやすい人においては、ピロリ除菌も選択肢の一つになると考えられます。どのような患者でピロリ除菌による益が最大化するのか追試が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 米国のコホート研究の結果、ピロリ菌陽性は、わずかではあるが統計学的に有意に高い大腸がん発症率および死亡率と関連している可能性が示された。

根拠となった試験の抄録

目的:ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、世界的に感染症関連がんの最も一般的な原因である。われわれは、ピロリ菌の感染と治療が大腸がん(CRC)の発生率と死亡率に及ぼす影響を評価することを目的とした。

対象患者:1999年から2018年の間にピロリ菌検査を完了した米国退役軍人。

方法:退役軍人健康管理局内でピロリ菌検査を完了した成人を対象にレトロスペクティブコホート解析を実施した。主要な曝露は、ピロリ菌陽性者における(1)ピロリ菌検査結果(陽性/陰性)および(2)ピロリ菌治療(未治療/治療)であった。
主要アウトカムはCRC発症率と死亡率であった。追跡調査は最初のピロリ菌検査時に開始し、CRC発症または致死的CRC、CRC以外の死亡、または2019年12月31日のいずれか早い日まで継続した。

結果:ピロリ菌検査を受けた812,736人のうち、205,178人(25.2%)が陽性であった。H.ピロリ陽性であることは、H.ピロリ陰性であることと比較して、より高いCRC発症率および死亡率と関連していた。H.ピロリ菌治療は無治療と比較して、15年間の追跡調査を通じてCRC発生率および死亡率の低下(絶対リスク減少 0.23〜0.35%)と関連していた。H.ピロリ陽性であることは、H.ピロリ陰性であることと比較して、それぞれ18%(調整後ハザード比[調整後HR] 1.18、95%CI 1.12~1.24)および12%(調整後HR 1.12、95%CI 1.03~1.21)高いCRC発症リスクおよび致死的CRCリスクと関連していた。未治療のピロリ菌感染者と治療済みのピロリ菌感染者では、CRC発症リスクおよび致死的CRCリスクがそれぞれ23%(調整後HR 1.23、95%CI 1.13~1.34)および40%(調整後HR 1.40、95%CI 1.24~1.58)高かった。この結果は、非血清学的検査を受けた人に限定した解析ではより顕著であった。

結論:ピロリ菌陽性は、わずかではあるが統計学的に有意に高いCRC発症率および死亡率と関連している可能性がある;未治療の人、特に活動性感染が確認された人が最もリスクが高いようである。

引用文献

Impact of Helicobacter pylori Infection and Treatment on Colorectal Cancer in a Large, Nationwide Cohort
Shailja C Shah et al. PMID: 38427927 DOI: 10.1200/JCO.23.00703
J Clin Oncol. 2024 Mar 1:JCO2300703. doi: 10.1200/JCO.23.00703. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38427927/

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