機械的僧帽弁置換術後のワルファリンの用量は低用量と標準用量どちらが良い?(RCT; PROACT試験; Ann Thorac Surg. 2023)

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ワルファリンの減量療法の有効性・安全性は?

現在のガイドラインでは、人工僧帽弁を装着した患者における国際標準化比(INR)の目標値は2.5~3.5であることが推奨されています。これは術後に弁の血栓化が生じるのを予防するための術後管理であり、INRが至適範囲を外れることで弁の血栓化および、これに伴う緊急の人工弁再置換術リスクが増加します。

このためワルファリンによる術後管理が重要ですが、治療期間が長くなることで出血リスクが増加します。そのため、維持管理期間における減量療法が提案されますが、エビデンスは充分ではありません。

そこで今回は、On-X(Artivion, Inc)機械式僧帽弁装着患者において、現在の推奨量よりも低い用量でワルファリンの安全性と有効性を評価したProspective Randomized On-X Anticoagulation Clinical Trial (PROACT) Mitralランダム化比較非劣性試験の結果をご紹介します。

本試験では、On-X機械式僧帽弁置換術後、少なくとも3ヵ月間の標準的な抗凝固療法を行った後、北米の44施設で401例の患者が低用量ワルファリン(目標INR 2.0〜2.5)または標準用量ワルファリン(目標INR 2.5〜3.5)にランダムに割り付けられました。全患者にアスピリン(1日81mg)を処方し、在宅INR検査の利用を奨励しました。

本試験の主要エンドポイントは、血栓塞栓症、弁膜症、出血イベントの合併症発生率(linearized rates)の複合(sum)でした。イベント発生率は7.3%、非劣性マージンは1.5%と予想され、それに基づいたデザインでした。

試験結果から明らかになったことは?

患者の平均追跡期間は4.1年であり、平均INRは低用量ワルファリン群で2.47、標準用量ワルファリン群で2.92(P<0.001)でした。

低用量群
(/患者・年)
標準用量群
(/患者・年)
群間差
(95%CI)
一次エンドポイント発生率
血栓塞栓症、弁膜症、出血イベントの合併症発生率の複合
11.9%12.0%差 -0.07%
-3.40%~3.26%
非劣性は達成されなかった
 血栓塞栓症2.3%2.5%
 弁膜症0.5%0.5%
 出血9.13%9.04%

一次エンドポイント発生率は、低用量群11.9%/患者・年、標準用量群12.0%/患者・年(差 -0.07%、95%CI -3.40%~3.26%)でした。CIは1.5%以上であり、非劣性は達成されませんでした

主要評価項目の各要素の発生率(患者・年当たりの割合)は、血栓塞栓症が2.3% vs. 2.5%、弁膜症が0.5% vs. 0.5%、出血が9.13% vs. 9.04%でした。

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抗凝固療法や抗血小板療法は、術後の血栓塞栓症コントロールのために重要です。一方で出血リスクが増加することから、維持管理期間における減量療法の有効性・安全性の検証が求められます。

さて、本試験結果によれば、On-X機械式僧帽弁置換術後、少なくとも3ヵ月間の標準的な抗凝固療法を行った後のワルファリン減量は、標準用量ワルファリンに対して非劣性を示すことができませんでしたが、複合イベント発生率はほぼ同様でした。信頼区間がやや広いよう受け取れますが、群間差はほぼありません。症例数を増やしても結果が覆る可能性は低そうです。

より出血リスクの高い患者や、INRに基づく層別解析により、どのような集団でワルファリンを減量した方が得られる益が最大化するのか知りたいところです。

続報に期待。

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✅まとめ✅ On-X機械式僧帽弁置換術後、少なくとも3ヵ月間の標準的な抗凝固療法を行った後のワルファリン減量は、標準用量ワルファリンに対して非劣性を示せなかったが、複合イベント発生率はほぼ同様であった。

次のページに根拠となった論文情報を掲載しています。

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