経皮的冠動脈インターベンションにおけるニカルジピンと二硝酸イソソルビドの併用療法によるスパスムの予防効果は二硝酸イソソルビドより優れていますか?(DB-RCT; NISTRA試験; Am J Cardiol. 2023)

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経皮的心血管系処置中の橈骨動脈痙攣の予防に対するニカルジピン+二硝酸イソソルビド併用療法は二硝酸イソソルビド単独療法より優れているのか?

虚血性心疾患に対する非薬物療法としては、一般的に経皮的インターベンション(PCI)が選択されます。通常、PCIでカテーテルを挿入する動脈には、大腿動脈、撓骨動脈、遠位橈骨動脈、上腕動脈などの選択肢があり、従来は主に大腿動脈アプローチが行われてきました。大腿動脈は体表から比較的容易に穿刺できる太い動脈であるため、冠動脈の治療に用いる太いカテーテルを無理なく挿入できる利点があります。その一方で、治療後の止血のために術後数時間はベッド上で安静を保って圧迫止血する必要があるなど、患者負担が大きいことが知られています。また、安静が保てないと術後の止血が不充分になり、前述の穿刺部出血や仮性動脈瘤などの穿刺部合併症を起こすリスクが高まります。さらに大腿動脈穿刺で止血が得られなかった場合、体表への出血ではなく後腹膜(骨盤内)へ内出血が広がる場合があり、出血量が多くても体表からの観察では出血の存在がわかりにくく、重篤な状態となることがあります。

1993年に橈骨動脈(手首の血管)アプローチでのPCIが報告されて以後、その安全性・優位性が証明され、現在の標準的なアプローチ方法となっています。橈骨動脈アプローチでは、術後は手首に止血バンドを装着することで止血ができ、穿刺部の合併症の頻度は大腿動脈アプローチより少ないとされています。大腿動脈アプローチと違って術後に鼠径部の圧迫止血のために長時間のベッド上安静を強いられることがないことから、患者は手術直後から比較的自由に過ごすことができます。

PCIの課題として、術中あるいは術後の動脈攣縮(スパスム、spasm)が引き起こされる点があげられます。このスパスムへの対応として、橈骨動脈痙攣(RAS)ではベラパミルやニトログリセリン、フェンタニル、ミダゾラムが予防薬として報告されています。なかでもニトログリセリンおよびベラパミルは、RAS予防に広く使用されていますが、アフリカのほとんどの国ではこれらの薬剤は一般的に入手できず、その結果、二硝酸イソソルビドが唯一の鎮痙治療薬となることが多いとされています。しかし、二硝酸イソソルビド単独ではスパスムを充分に予防することが困難であることから、新たなスパスム予防戦略の確立が求められます。

そこで今回は、経橈骨冠動脈手術中のRASを予防するために、二硝酸イソソルビド単独とニカルジピン併用療法と、二硝酸イソソルビド単独療法の有効性を比較したNISTRA試験の結果をご紹介します。

本試験は、多施設共同ランダム化二重盲検比較試験であり、患者(n=1,523)は、硝酸イソソルビドの単独療法(n=760)または硝酸イソソルビドとニカルジピンの併用療法(n=763)のいずれかにランダムに割り付けられました。

本試験の主要評価項目はRASの発生であり、カテーテルの前進にかなりの支障があると認識されることと定義されました。副次的エンドポイントは重度のRASとし、(1)重度の腕の痛み、(2)モルヒネまたはミダゾラム治療の必要性、(3)対側の橈骨動脈または大腿動脈へのクロスオーバーの必要性として定義されました。

試験結果から明らかになったことは?

ニカルジピン+二硝酸イソソルビド併用療法二硝酸イソソルビド単独療法NNT
【主要評価項目】
RAS発生率
15%
p<0.001
25%10
【副次的評価項目】
重度のRAS発生率
3.6%
p<0.001
8.2%22

橈骨動脈痙攣(RAS)の発生率は二硝酸イソソルビド単独療法に対して、ニカルジピン+二硝酸イソソルビド併用療法で減少し(15% vs. 25%、p<0.001)、治療に必要な患者数は10人でした。副次的エンドポイントの発生率も併用療法で有意に減少し(3.6% vs. 8.2%、p<0.001)、治療必要数は22人でした。この結果は、併用療法により、大腿骨クロスオーバー(0.5% vs. 2.4%、p=0.003)およびモルヒネまたはミダゾラム注射の使用(1.6% vs. 3.5%、p=0.02)の両方が減少したことによるものでした。

コメント

医療資源および医療アクセスの課題解決がなされていない分野の一つに、発展途上国におけるPCIに伴うスパスムがあげられます。

さて、本試験結果によれば、二硝酸イソソルビドとニカルジピンの併用療法は、二硝酸イソソルビド単独療法と比較して、橈骨動脈痙攣の発生を抑制する点で優れていることが証明されました。

医療資源や医療アクセスが限られた国や地域で有用となる情報であると考えられます。また、日本においても、医薬品の供給が不安定となったり、何かの災害時に治療選択肢が限られるケースが想定されることから、今回のような試験報告は貴重であると考えられます。

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☑まとめ☑ 二硝酸イソソルビドとニカルジピンの併用療法は、二硝酸イソソルビド単独療法と比較して、橈骨動脈痙攣の発生を抑制する点で優れていることが証明された。

根拠となった試験の抄録

背景:ベラパミルとニトログリセリンは、経皮的心血管系処置中の橈骨動脈痙攣(RAS)の予防に広く使用されている。しかし、アフリカのほとんどの国ではこれらの薬剤は一般的に入手できず、その結果、二硝酸イソソルビドが唯一の鎮痙治療薬となることが多い。我々の目的は、経橈骨冠動脈手術中のRASを予防するために、二硝酸イソソルビド単独とニカルジピンと併用した硝酸イソソルビドの有効性を比較することであった。

方法:多施設共同ランダム化二重盲検比較試験。患者(n=1,523)は、二硝酸イソソルビドの単独療法(n=760)または二硝酸イソソルビドとニカルジピンの併用療法(n=763)のいずれかにランダムに割り付けられた。主要評価項目はRASの発生で、カテーテルの前進にかなりの支障があると認識されることと定義した。副次的エンドポイントは重度のRASとし、(1)重度の腕の痛み、(2)モルヒネまたはミダゾラム治療の必要性、(3)対側の橈骨動脈または大腿動脈へのクロスオーバーの必要性として定義した。

結果:RASの発生率は二硝酸イソソルビド単独療法に対して併用療法で減少し(15% vs. 25%、p<0.001)、治療に必要な患者数は10人であった。副次的エンドポイントの発生率も併用療法で有意に減少し(3.6% vs. 8.2%、p<0.001)、治療必要数は22人であった。この結果は、併用療法により大腿骨クロスオーバー(0.5% vs. 2.4%、p=0.003)およびモルヒネまたはミダゾラム注射の使用(1.6% vs. 3.5%、p=0.02)の両方が減少したことによるものであった。

結論:以上より、二硝酸イソソルビドとニカルジピンの併用療法は、二硝酸イソソルビド単独療法に対してRASの発生を抑制する点で優れていることが証明された。

引用文献

Combination Therapy With Nicardipine and Isosorbide Dinitrate to Prevent Spasm in Transradial Percutaneous Coronary Intervention (from the NISTRA Multicenter Double-Blind Randomized Controlled Trial)
Nidhal Bouchahda et al. PMID: 36481522 DOI: 10.1016/j.amjcard.2022.11.005
Am J Cardiol. 2023 Feb 1;188:89-94. doi: 10.1016/j.amjcard.2022.11.005. Epub 2022 Dec 5.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36481522/

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