男性における心筋梗塞既往の有無とアルコール摂取による長期的死亡率への影響は?(コホート研究; JACC試験; J Atheroscler Thromb. 2022)

two persons holding drinking glasses filled with beer 02_循環器系
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心筋梗塞既往の有無とアルコール摂取は死亡リスクにどのように影響するのか?

軽度から中等度のアルコール摂取は、高密度リポタンパク質コレステロールの血中濃度とその機能的能力を高め、血小板および凝固因子の活性化および凝集を減少させ、内皮機能、インスリン感受性を向上させることから、心血管を健康に保ちために有益であるとされています。 健康な男性において、軽度から中等度のアルコール摂取は、飲酒を全くしない、あるいは現在は飲酒しない場合と比較して、脳卒中を除いて、冠動脈心疾患(CHD)および全死因死亡のリスクが低いことが一貫して観察されています(PMID: 17159008PMID: 26916878PMID: 24820756)。しかし、飲酒は血圧を用量反応的に上昇させ、大量の飲酒は脳卒中および全死亡のリスク上昇と関連していることが明らかになっています。

心筋梗塞(MI)は心機能を低下させることで心筋を損傷し、場合によっては心不全に至ることもあります。飲酒による心機能への悪影響は、健常者よりもMI経験者の方が強い可能性があります。しかし、米国、欧州、日本におけるCHDおよびMI予防のためのガイドラインには、MI患者に対する飲酒の推奨はありません(PMID: 23247304PMID: 25249586PMID: 28886621PMID: 30930428)。心筋梗塞生存者を対象とした長期コホート研究では、心筋梗塞後の軽度から中等度のアルコール摂取は、心血管系および全死亡の長期リスクと一貫した関連性は認められていません。英国地域における心臓研究では、心筋梗塞の既往のある男性455例を追跡調査しましたが、時々しか飲酒しない人は全く飲酒しない人と比較して全死亡リスクは同様でしたが、軽度から中等度のアルコール摂取では心血管系および全死亡のリスクは低くなりませんでした(PMID: 10722536)。男性の心筋梗塞生存者1,818例を追跡したHealth Professional Follow-up Studyでは、心筋梗塞発症直前からの軽度から中等度のアルコール摂取は、飲酒しない場合と比較して心血管系および全死亡のリスク低下と関連していました(PMID: 22453658)。これらの知見は英国と米国のものであり、CHD死亡率よりも脳卒中死亡率が高いアジアの集団には当てはまらない可能性があります。日本人のアルコール摂取量は欧米人よりも幅が広いため、米国や英国の研究結果と異なる可能性があります。

そこで今回は、日本人男性において、心筋梗塞既往の有無で層別したアルコール摂取と原因別死亡率および全死因死亡率との関連を調べ、心筋梗塞既往がその関連を修飾するかどうかを検証することを目的としたJACC研究の結果をご紹介します。先行研究では、脳卒中と心疾患ではアルコール摂取の影響が異なることが報告されており、また、日本では脳卒中発症率が欧米人に比べて高いことから、心疾患と脳卒中に分けて検討されました。

試験結果から明らかになったことは?

(MI既往歴を有する集団)23〜45g/日のアルコール摂取 vs. 全く飲酒しない集団
CHD死亡リスク多変量ハザード比 0.36
(95%信頼区間 0.16〜0.80

MI既往歴を有する集団では、23〜45g/日のアルコール摂取は、全く飲酒しない集団に比べて冠動脈心疾患(CHD)死亡リスクの低下と関連していました(多変量ハザード比は0.36、95%信頼区間 0.16〜0.80)。

MI既往歴を有さない男性では、<23または23〜45g/日で10〜26%低いリスクが観察され、CHD、心血管疾患、その他の原因、全原因でU字型の関連が見られました(P-quadratic <0.001)。

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アルコール摂取と心疾患や死亡リスクとの関連性については一貫した結果が得られていません。これは人種的な背景(代謝酵素、CYPの遺伝子多型など)や摂取量により大きく影響を受けるためです。日本人は白人と比較して、アルコール代謝能が低いとされており、そのため平均のアルコール摂取量が少ないとされています。

さて、日本人を対象としたコホート試験の結果によれば、23〜45g/日*のアルコール摂取は、心筋梗塞のない男性と同様に、心筋梗塞の既往を有する生存者における冠動脈心疾患(CHD)死亡率の低下と関連していました。1日にビール中びん1〜2本ぐらいまでなら、心筋梗塞の既往の有無に関わらず、CHDのリスク低下と関連していました。あくまでも仮説生成的な相関関係が示されてにすぎませんが、日本人を対象に検討された貴重な結果です。個人的には心不全患者での検討結果が知りたいところです。続報に期待。

*ちなみにアルコール摂取量の基準とされる酒の1単位は純アルコールに換算して20gとされています。この20gは、ビールで中びん1本(500ml)、日本酒で1合(180ml)、ウイスキーでダブル1杯(60ml)、焼酎で0.6合(110ml)が目安となります。

three assorted beverage bottles on brown wooden table

✅まとめ✅ 23〜45g/日のアルコール摂取は、心筋梗塞のない男性と同様に、心筋梗塞の既往を有する生存者におけるCHD死亡率の低下と関連していた。

根拠となった試験の抄録

目的:心筋梗塞(MI)生存者におけるアルコール摂取が長期死亡率に与える影響に関するエビデンスは限られていた。我々は、心筋梗塞の既往のある男性またはない男性において、アルコール摂取が原因別死亡率および全死因別死亡率と関連しているかどうかを検討することを目的とした。

方法:MI既往歴のない40~79歳の男性32,004例と、脳卒中やがんの既往がないMI生存者の男性1,137例を対象に、2009年末まで追跡調査を行った。アルコール摂取量は、ベースラインと5年目に自記式質問票を用いて評価した。

結果:MI既往歴を有する集団では、23〜45g/日のアルコール摂取は、全く飲まない集団に比べて冠動脈心疾患(CHD)死亡リスクの低下と関連していた:多変量ハザード比は0.36(95%信頼区間 0.16〜0.80)であった。MI既往歴を有さない男性では、<23または23〜45g/日で10〜26%低いリスクが観察され、CHD、心血管疾患、その他の原因、全原因でU字型の関連が見られた(P-quadratic <0.001)。

結論:23〜45g/日のアルコール摂取は、心筋梗塞のない男性と同様に、心筋梗塞の既往を有する生存者におけるCHD死亡率の低下と関連していた。

キーワード:アルコール消費量、アジア人、コホート研究、死亡率、心筋梗塞

引用文献

Alcohol Consumption and Long-Term Mortality in Men with or without a History of Myocardial Infarction
Isao Muraki et al. PMID: 35781275 DOI: 10.5551/jat.63517
J Atheroscler Thromb. 2022 Jul 1. doi: 10.5551/jat.63517. Online ahead of print.
— 読み進める www.jstage.jst.go.jp/article/jat/advpub/0/advpub_63517/_article

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