新規発症1型糖尿病の小児および若年成人に対するゴリムマブの効果はどのくらいですか?(RCT, Phase Ⅱ; T1GER trial; NEJM 2020)

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Golimumab and Beta-Cell Function in Youth with New-Onset Type 1 Diabetes

Teresa Quattrin et al.

N Engl J Med. 2020 Nov 19;383(21):2007-2017. doi: 10.1056/NEJMoa2006136.

PMID: 33207093

DOI: 10.1056/NEJMoa2006136

Funded by Janssen Research and Development

ClinicalTrials.gov number, NCT02846545.

背景

1型糖尿病は、膵臓のβ細胞の欠損が進行することを特徴とする自己免疫疾患である。

ゴリムマブは、腫瘍壊死因子α(TNFα)に特異的なヒトモノクローナル抗体であり、成人および小児の自己免疫疾患の治療薬として承認されている。

ゴリムマブが、新たに診断された表在性(ステージ3)1型糖尿病の若年者において、β細胞機能を維持できるかどうかは不明である。

試験方法

第2相多施設共同プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験では、新たに表在性1型糖尿病と診断された小児および若年成人(年齢範囲 6~21歳)を2:1の割合でランダムに割り付け、ゴリムマブ皮下投与群とプラセボ投与群を52週間追跡した。

主要評価項目は、52週目の4時間混合食耐性試験(4時間C-ペプチドAUC)におけるC-ペプチド濃度時間曲線下面積に基づいて評価した内因性インスリン産生量だった。

二次エンドポイントおよび追加エンドポイントには、インスリン使用量、糖化ヘモグロビン値、低血糖イベントの回数、空腹時プロインスリンとC-ペプチドの経時的比率、反応プロファイルが含まれた。

結果

・合計84例の参加者がランダム化され、56例がゴリムマブ群、28例がプラセボ群に割り付けられた。

・52週目の4時間C-ペプチドAUCの平均値(±SD)は、ゴリムマブ群とプラセボ群で有意な差が示された(0.64±0.42pmol/mL vs. 0.43±0.39pmol/mL、P<0.001)。

・treat-to-targetアプローチにより、両群とも良好な血糖コントロールが得られ、糖化ヘモグロビン値には両群間で有意差はなかった。インスリン使用量は、ゴリムマブ群の方がプラセボ群よりも少なかった。

・部分寛解反応(インスリン投与量調整後の糖化ヘモグロビン値スコア[糖化ヘモグロビン値にインスリン投与量の4倍を加えて算出]が9点以下と定義)は、ゴリムマブ群で43%、プラセボ群で7%に認められた(差 36%ポイント、95%CI 22~55)。

・低血糖イベントの平均発生数は試験群間で差がなかった。

・治験責任医師の判断で有害事象として記録された低血糖イベントは、ゴリムマブ群で13例(23%)、プラセボ群で2例(7%)に報告された。

・ゴリムマブに対する抗体が検出されたのは30例で、29例では抗体価が1:1000以下であり、うち12例では中和抗体が陽性であった。

結論

新たに診断された1型糖尿病と診断された小児および若年成人において、ゴリムマブはプラセボと比較して内因性インスリン産生量が増加し、外因性インスリン使用量が減少した。

コメント

糖尿病とは?

糖尿病は1型と2型に大別され、9割以上を2型糖尿病が締めています。2型糖尿病は、その発症に遺伝的素因が強く関与していることが報告されています。病態としては、組織におけるインスリンの感受性低下により、血中の糖の利用率低下による高血糖がみられます。

一方、1型糖尿病の発症については不明な部分が多く、一説ではウイルス感染症の関与が報告されています。膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞の減少により、インスリン分泌能が低下することにより、血中の糖を利用できず、2型糖尿病と同様に高血糖がみとめられます。炎症性の自己免疫疾患にも分類されています。

つまり糖尿病とは、膵β細胞からのインスリン分泌の低下あるいは組織におけるインスリン作用不足により血中の糖利用率が低下し、これに伴う恒常的な高血糖を呈する疾患です。

糖尿病の治療は?

糖尿病の治療目標は、長期にわたり血糖をコントロールすることです。2型糖尿病では食事・運動療法を実施することが基本ですが、それでも血糖コントロールが不良である場合、血糖降下薬として経口剤を使用します。患者背景により注射剤も用いられます。

一方、1型糖尿病の治療はインスリン補充が基本です。血糖コントロールをより適切に行えるようインスリンポンプが用いられるようになってきました。また2018年から、経口血糖降下薬であるSGLT-2阻害薬の使用が認められています。

ゴリムマブ

ゴリムマブは、可溶性及び膜結合型TNFαに対して選択的に結合し、TNFαのTNF受容体への結合を阻害します。また、TNFα刺激による線維芽細胞又は内皮細胞のサイトカイン(IL-6、IL-8、G-CSF、GM-CSF)の産生及び内皮細胞での接着分子(E-セレクチン、ICAM-1、VCAM-1)の発現を抑制することで、抗炎症作用を発揮します。したがって、早期の1型糖尿病に対するゴリムマブ使用により、膵β細胞を保護できる可能性があります。

現在、本邦ではゴリムマブ皮下注製剤としてシンポニー®️が承認されていますが、その適応症は以下の2つです。

  1. 既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
  2. 中等症から重症の潰瘍性大腸炎の改善及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)

また各疾患に対する用量は以下の通りです;

  • 〈関節リウマチ〉
    • メトトレキサートを併用する場合:通常、成人にはゴリムマブ(遺伝子組換え)として50mgを4週に1回、皮下注射する。なお、患者の状態に応じて1回100mgを使用することができる。
    • メトトレキサートを併用しない場合:通常、成人にはゴリムマブ(遺伝子組換え)として100mgを4週に1回、皮下注射する。
  • 〈潰瘍性大腸炎〉
    • 通常、成人にはゴリムマブ(遺伝子組換え)として初回投与時に200mg、初回投与2週後に100mgを皮下注射する。初回投与6週目以降は100mgを4週に1回、皮下注射する。

今回の試験では、薬物動態、薬理学的データ、安全性データに基づき、TNFαのピーク-トラフ間の大幅な変動を回避しつつ、迅速に定常状態を達成するための投与レジメンが開発されました。詳細は以下の通り;

  • 〈体重が45kg未満の被験者〉
    • 第0週と第2週に60mg/体表面積(m2
  • 〈体重が45kg以上の被験者〉
    • 第0週と第2週に100mgの導入用量を投与。
  • 誘導用量に続いて、第4週目に30mg/体表面積(m2)、第52週目まで2週間ごとに50mgの維持皮下投与を行ったとのこと。

今回の研究から明らかになったことは?

さて、本試験結果によれば、52週目の内因性インスリン産生量は、ゴリムマブ群で0.64±0.42pmol/mL、プラセボ群で0.43±0.39pmol/mLでした。有意な群間差が認められましたが、この差がどれほど有益であるのかは不明です。一方、糖化ヘモグロビン値に両群間で差はなかったようです。

インスリン使用量については、ゴリムマブ群の方がプラセボ群よりも少なかったことが明らかになりました(0.07U/kg vs. 0.24U/kg)。

低血糖イベントについて、有害事象としてはゴリムマブ群の方が、プラセボ群よりも多かったようですが、ベースラインからの低血糖イベントの平均はゴリムマブの方が少なかったとのこと(ゴリムマブ群 38.2イベント vs. プラセボ群 42.9イベント)。

第Ⅱ相試験であり小規模な検証結果ですが、1型糖尿病の治療においては有益であると考えます。引き続き追っていきたいテーマです。

本試験(T1GER trial)結果のビジュアルアブストラクトはこちら▶️ https://www.nejm.org/do/10.1056/NEJMdo005896/popup/?requestType=popUp&relatedArticle=10.1056%2FNEJMoa2006136

✅まとめ✅ 新たに診断された1型糖尿病と診断された小児および若年成人において、52週間のゴリムマブ投与は、プラセボと比較して内因性インスリン産生量の増加、外因性インスリン使用量の減少が示された

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