スタチン服用後の副作用はほとんどがノセボ効果?
スタチン治療を開始した人のほとんどが、副作用のために治療を中断しています。そのため、この薬剤群の潜在的な有益性の半分以上が失われています。80,000例以上の参加者を対象としたプラセボ対照試験では、スタチンとプラセボを比較して症状が悪化したという証拠はありませんでした。しかし、個人が副作用を経験した場合、他の人(たとえ数万人でも)からのプラセボ対照情報では、ほとんど安心できないというジレンマが生じています。
スタチンで症状が出ている患者の相談を受ける際、医師はスタチンが原因かどうかを判断しなければなりません。たとえ症状が消えたとしても、中止したり再開したりすれば、スタチンが原因であることが証明されるのでしょうか。
そこで今回は、スタチン、プラセボ、無治療の3種類のプロトコルを、各4ヵ月間、計12ヵ月間実施したSAMSON(Self-Assessment Method for Statin Side-effects Or Nocebo)試験の結果をご紹介します。
本試験では、重篤な副作用のためにスタチン治療を断念した被験者が登録されました。それぞれの参加者は、スマートフォンアプリを用いて、毎日の症状スコアを収集しました。
試験結果から明らかになったことは?
合計60例の参加者がランダムに割り付けられ、49例が12ヵ月間のプロトコルを完了しました。症状スコアの平均値は、錠剤を服用していない無治療の月では8.0(95%CI 4.7〜11.3)であり、無治療期間と比較して、スタチン投与群(16.3、95%CI 13.0〜19.6、P<0.001)、プラセボ投与群(15.4、95%CI 12.1〜18.7、P<0.001)いずれの期間においても高いことが示されましたが、両群間に差は認められませんでした(P=0.388)。また、対応するノセボ比は0.90でした。
個々の患者における毎日のデータでは、開始時の症状の強さ(OR 1.02、95%CI 0.98〜1.06、P=0.28)と中止時の症状緩和の程度(OR 1.01、95%CI 0.98〜1.05、P=0.48)は、スタチンとプラセボで有意差はありませんでした。
治療の中止頻度はプラセボとスタチンで同様であり(P=0.173)、その後の症状緩和もスタチンとプラセボで同様でした。
試験の6ヵ月後には、60例中30例(50%)の参加者が再びスタチンを服用していました。
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本試験では、スタチン投与開始後2週間以内にあらゆる種類の耐え難い症状が生じたために、臨床的にスタチン投与を中止し、再開する意思のない被験者を対象としました。患者背景としては、LDLコレステロール約76mg/dL、平均体重82kg、BMIは29.1でした。以前のスタチン服用が2.84±4.65年であり、平均で2〜3種類のスタチン服用を以前に試していました。
さて、試験結果によれば、スタチンとプラセボで患者報告による症状に差は認められませんでした。いずれも無治療期間と比較すると有意に症状が強いことも示されました。
本試験の特徴は、無治療期間を設けクロスオーバーデザインで実施している点、これによるノセボ比を算出していることにあると考えられます。通常、高LDLコレステロール値が基準値を超える場合において、無治療期間を設定することは倫理的に困難です。本試験では、一次予防目的の服用者が76.7%であり、LDLコレステロール値が約76mg/dLであることから、心血管イベントのリスク因子を有する患者が大半であったと考えられます。とはいえ、23.3%が二次予防であることは倫理的な側面における解釈を困難にします。ここからは推測になりますが、他の薬剤を使用していたため許容されたのではないかと考えられます。
ノセボ比についてですが、試験後に解析方法を変更しているようです。その理由を著者は以下のように述べています;「我々は、すべての参加者(副作用のためにスタチン系薬剤の服用を永久に放棄した者)が、薬理学的な理由であれ、ノセボであれ、スタチン系薬剤を服用した場合の方が、服用しなかった場合よりも症状が大幅に高くなると誤って想定していた。しかし、残念なことに、参加者が試験を終了し始めると、スタチンを服用した方が服用しない場合よりも症状が低い集団がいることが明らかになった。このため、ノセボ比は非常に広い分布を示し、事前に設定した計算はとても役に立たなかった。この問題について独立した統計学的助言を求めたところ、ノセボ比を報告したいのであれば、参加者のスコアをプールしてからノセボ比を計算するという順序に変更すべきであると助言された。これにより、予想外のパターンを示した少数の患者集団によって、測定値が解釈不能になるのを防ぐことができた。したがって、この修正された計算結果を報告することにした(修正後のノセボ比 0.90)。ただし、元の方法での結果も報告しているが、その場合はCIが非常に広くなっている(2.2、95%CI -62.3〜66.7)。個別比例変化は、患者が理解できるとしても、試験の正式な統計的エンドポイントとしては適していないようである。」
試験の内的妥当性について、大きな問題はないと考えられます。また試験結果は以前に報告されたN-of-1試験と同様です。スタチンによる服用後の症状については、やはりノセボ効果が大きいのかもしれません。
✅まとめ✅ スタチンによる症状の大部分はノセボであった。臨床家はスタチンと服用後に認められた症状について、薬理学的な因果関係を示すものと解釈してはならない。
根拠となった試験の抄録
背景:スタチンによる治療を始めた人の多くは、副作用のためにスタチンをやめてしまう。
目的:本研究の目的は、スタチンを断念した参加者を対象に、スタチン、プラセボ、無治療における日々の症状スコアを評価することである。
方法:本試験では、マルチプルクロスオーバー、3群、二重盲検、プラセボ対照デザインを採用し、英国内の紹介センター17施設および自己紹介により参加者を募った。本試験では、英国ロンドンのハマースミス病院で行われた2回の試験参加のみで終了した。参加者は1ヵ月分の薬瓶を12本受け取り、そのうち4本にはアトルバスタチン20mgが入っており、4本にはプラセボが入っており、4本には空の薬瓶が入っていた。それぞれについて、アプリを用いて日常的な症状の強さを測定した(尺度:1~100)。また、「ノセボ比(スタチン服用により誘発される症状と、プラセボ服用により誘発される症状の比)」を測定した。患者諮問委員会が求めた主要評価項目である「ノセボ比」は、以下のように定義された。
結果:合計60例の参加者がランダムに割り付けられ、49例が12ヵ月間のプロトコルを完了した。症状スコアの平均値は、錠剤を服用していない月では8.0(95%CI 4.7〜11.3)であった。スタチン投与群では高く(16.3、95%CI 13.0〜19.6、P<0.001)、プラセボ投与群でも高く(15.4、95%CI 12.1〜18.7、P<0.001)、両群間に差はなかった(P=0.388)。また、対応するノセボ比は0.90であった。
個々の患者の毎日のデータでは、開始時の症状の強さ(OR 1.02、95%CI 0.98〜1.06、P=0.28)と中止時の症状緩和の程度(OR 1.01、95%CI 0.98〜1.05、P=0.48)は、スタチンとプラセボで区別されなかった。中止の頻度はプラセボよりもスタチンの方が高くなく(P=0.173)、その後の症状緩和もスタチンとプラセボで同様であった。試験の6ヵ月後には、60例中30例(50%)の参加者が再びスタチンを服用していた。
結論:スタチンによる症状の大部分はノセボであった。臨床家は、症状の強さや、症状の発現や相殺のタイミング(スタチンの服用開始時または中止時)がプラセボと同じパターンであるため、薬理学的な因果関係を示すものと解釈してはならない(Self-Assessment Method for Statin Side-effects Or Nocebo [SAMSON]; NCT02668016)。
引用文献
Side Effect Patterns in a Crossover Trial of Statin, Placebo, and No Treatment | Journal of the American College of Cardiology
James P. Howard et al.
J Am Coll Cardiol. 2021 Sep, 78 (12) 1210–1222
— 続きを読む www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2021.07.022
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