― ヘパリン類似物質ローション0.3%「NIT」について医薬品の安全性・健康情報を解説(最終更新:2026年10月)
- 医薬品のニュースでよく自主回収、、、そのリスクはどのくらいなのか?
- ニトロソアミンとは?実は日常生活にも関係する物質
- 「発がん性がある」と「がんになる」は違う
- 医薬品のニトロソアミンは、どのような基準で管理されている?
- 今回、自主回収された医薬品では何が起きた?
- 今回の回収対象は、主に製造から長期間経過した製品
- 今回は飲み薬ではなく、皮膚に塗るローションであることも重要
- 過去に当該製品を使用した人は、がんリスクを心配する必要がある?
- 今回のローションを持っている場合は、どうすればよい?
- 医薬品の自主回収は、必ずしも「危険な薬」という意味ではない
- まとめ:必要な対応を知り、過度に心配しないことが大切
- 参考文献・公的資料
医薬品のニュースでよく自主回収、、、そのリスクはどのくらいなのか?
「いつも使っている薬から、発がん性が懸念される物質が検出された」
こんなニュースを目にしたら、誰でも不安になるのではないでしょうか。特に「発がん性」という言葉には、強い印象があります。
しかし、発がん性が懸念される物質が見つかったことと、その薬を使用した人が実際にがんになることは、まったく別の話です。
2026年10月13日、日東メディック株式会社は、皮膚の保湿などに使われる「ヘパリン類似物質ローション0.3%『NIT』」の一部製品について、自主回収を発表しました。
その理由は、製品から「ニトロソアミン」と呼ばれる化学物質の一種が規定量を検出されたためです。
ただし、メーカーは今回の製品について、生涯発がんリスクを著しく高める可能性は極めて低いと判断しています。
今回の記事では、ニトロソアミンとはどのような物質なのか、なぜ医薬品の回収が行われるのか、そして私たちはどの程度心配する必要があるのかを、できるだけわかりやすく解説します。
ニトロソアミンとは?実は日常生活にも関係する物質
ニトロソアミンとは、特定の化学構造を持つ物質の総称です。一つの物質を指す名前ではなく、共通する特徴を持つ化学物質のグループを意味します。
一部のニトロソアミンには、細胞の遺伝情報であるDNAを傷つけ、長期間にわたる曝露によって発がんリスクを高める可能性があります。ニトロソアミンは、アミン類と亜硝酸塩などが特定の条件で反応することによって生成される場合があります。
実は、このような化学反応は医薬品の製造過程だけでなく、私たちの日常生活とも関係しています。
ハムやベーコンなどの加工食品
食品の加工に使われる亜硝酸塩などが、特定の条件でニトロソアミンの生成に関係することがあります。
燻製・塩蔵食品
加工方法や加熱条件などによって、ニトロソアミンが生成される場合があります。
私たちの体内
食品などに由来する成分が、消化管内で反応して一部のニトロソ化合物を生成する場合もあります。
ただし、これらの食品に必ず有害な量のニトロソアミンが含まれているわけではありません。重要なのは、物質の種類と、実際に体内に取り込まれる量、そして接触(摂取)する期間です。
「発がん性がある」と「がんになる」は違う
ここは今回の記事で、最も理解していただきたいポイントの一つです。
例えば、ある化学物質に発がん性があることがわかっていても、その物質にごく少量、短期間摂取しただけで、必ずがんになるわけではありません。
発がん性とは、その物質ががんを引き起こす性質を持つかどうかです。
一方、発がんリスクとは、その物質に実際にさらされたとき、がんになる可能性がどの程度増えるかを意味します。
| 発がん性 | 発がんリスク | |
|---|---|---|
| 意味 | がんを引き起こす性質 | がんになる可能性の大きさ |
| 主な判断材料 | 物質の毒性や作用 | 物質の毒性、曝露量、期間など |
| 今回のポイント | 一部のニトロソアミンに発がん性が懸念される | 実際の使用条件から健康への影響を考える必要がある |
つまり、発がん性の有無だけでなく、どれくらいの量に、どれくらいの期間さらされたのかが重要なのです。
医薬品のニトロソアミンは、どのような基準で管理されている?
医薬品に含まれるニトロソアミンは、国際的なガイドラインに基づいて厳しく管理されています。
その基本的な考え方の一つが、生涯にわたる曝露によって増加する理論上の発がんリスクを、10万人に1人程度以下に抑えるというものです。

ここでいう「10万人に1人」は、がんになる人の割合ではありません。対象となる化学物質への曝露によって、追加的にがんが発生する可能性を示すものです。
CPCAという基準
今回の自主回収では、CPCA(Carcinogenic Potency Categorisation Approach)という評価方法が用いられています。
CPCAは、ニトロソアミンの化学構造から発がん性の強さを予測し、5つのカテゴリーに分類する方法です。
| CPCA分類 | 1日許容摂取量 |
|---|---|
| Category 1 | 18 ng |
| Category 2 | 100 ng |
| Category 3 | 400 ng |
| Category 4 | 1,500 ng |
| Category 5 | 1,500 ng |
Category 1から4にかけて、予測される発がん性の強さは低くなります。Category 5は、構造に基づいて変異原性・発がん性が予測されない分類です。
今回の物質には、Category 3に相当する400 ng/日という値が設定されています。
これは、今回の物質を使用した人の発がん率を直接測定して求めた数値ではありません。化学構造と既存の毒性学的知見をもとに設定された、予防的な管理基準です。
なお、Category 3の400 ng/日は、Category 2の100 ng/日を基準として、予測される発がん性が4分の1程度になるという考え方から設定されています。
今回、自主回収された医薬品では何が起きた?

2026年10月13日、日東メディック株式会社は、このローションから「N-ニトロソジイソプロパノールアミン」が検出されたため、一部製品の自主回収を開始しました。メーカーによると、製品に使用されている添加剤と、原料などに含まれる亜硝酸塩が反応して、ニトロソアミンが生成された可能性があるとのことです。
今回の公表値を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 生涯曝露を想定した1日許容摂取量 | 400 ng/日 |
| 今回の暫定管理値 | 2,680 ng/日 |
| 製剤中の暫定管理値 | 268 ng/g |
ng(ナノグラム)は、10億分の1グラムという非常に小さな重さの単位です。今回の暫定管理値は、通常の1日許容摂取量に6.7を掛けて設定されています。なぜ、このような値が採用されたのでしょうか。
それは、この製品が2024年6月14日に発売された医薬品であり、70年間にわたって使用されてきた製品ではないからです。
メーカーは、使用期間が生涯より短いことを考慮するLTL(Less-Than-Lifetime)アプローチを用い、厚生労働省との協議を経て暫定管理値を設定しています。
1日10gという使用量を考えると?

このように、管理値の設定には一定の使用量が想定されています。実際の使用量が少なければ、同じ濃度の製品であっても、皮膚に塗布されるニトロソアミンの総量は少なくなります。
ただし、今回の公表資料では実測濃度の詳細や超過幅が示されていないため、個々の患者さんの曝露量を正確に計算することはできません。
今回の回収対象は、主に製造から長期間経過した製品
今回の発表で、特に注目したいのが製造からの経過期間です。メーカーは、暫定管理値を超える、または超える可能性がある製造後25か月以上の市場流通品を回収するとしています。さらに、確実に回収するため、製造後20か月以上経過した製品も定期的に回収する方針です。

一般に、医薬品は製造後、卸売業者・調剤薬局を経由して患者さんに交付されます。薬局では医薬品の使用期限や在庫を管理しながら供給しているため、すべての製品が製造後2年以上も保管されているわけではありません。
特に需要が高く、在庫の入れ替わりが速い医薬品であれば、長期間経過した製品が残っている機会は少なくなると考えられます。
ただし、今回の製品について、実際にどの程度の製品が20~25か月以上保管されていたのかを示す流通統計は確認できていません。
そのため、回収対象製品が患者さんの手元に残っている可能性を否定することはできませんが、過去にこの製品を使用した人すべてが、長期間経過した製品を使用していたと考える必要もありません。
今回は飲み薬ではなく、皮膚に塗るローションであることも重要
もう一つ、健康への影響を考えるうえで知っておきたいことがあります。それは、今回の製品が飲み薬ではなく、皮膚に塗る医薬品だということです。
私たちの皮膚には、外部の物質が体内に侵入するのを防ぐバリア機能があります。一方、胃や腸などの消化管は、食べ物や薬の成分を吸収する働きを持っています。
つまり、口から摂取する場合と皮膚に塗る場合では、体内に取り込まれる仕組みが異なります。皮膚に塗布したニトロソアミンの全量が、そのまま体内に吸収されるとは限りません。
したがって、実際の全身曝露量は、製品に含まれている量より少なくなる可能性があります。
ただし、今回検出された物質について、ヒトの皮膚からどの程度吸収されるのかは、公表資料から確認できません。また、経口摂取より経皮吸収の方が必ず少ないとは限らず、物質の性質や皮膚の状態などによって異なります。
なお、EMAの公式資料では、ニトロソアミンの許容摂取量について、投与経路にかかわらず原則として共通のリスク評価方法を適用しています。経皮吸収率が低いことを理由とする管理値の補正には、個別の科学的根拠が必要です。
つまり、今回の400 ng/日という値は、ローションを使用した際の経皮吸収率を実測して求めた数値ではありません。
この違いを理解することも、健康への影響を冷静に考えるために大切です。
過去に当該製品を使用した人は、がんリスクを心配する必要がある?
今回の自主回収について、メーカーは次のように説明しています。
患者さまの生涯発がんリスクを著しく高める可能性は極めて低いと判断しております。
さらに、非臨床情報、公表文献、臨床安全性情報などを総合的に検討した結果、今回のニトロソアミンに関連する発がん性を示唆する重篤な健康被害等の報告は認められていないとしています。
今回の製品については、ここまで説明してきた内容を整理すると、健康への影響を考えるうえで重要なポイントが4つあります。

これらを総合すると、過去にこのローションを短期間使用したという理由だけで、将来のがんの発生を過度に心配する必要はないと考えられます。
もちろん、個人ごとの使用量や使用期間、実際の吸収量まで正確に把握できるわけではありません。
しかし、科学的に重要なのは、単に「リスクがあるか、ないか」という二択ではなく、そのリスクが実際にどの程度の大きさなのかということです。
今回の発表は、使用した患者さんに重大な健康被害が確認されたという報告ではありません。
今回のローションを持っている場合は、どうすればよい?
対応は、それほど複雑ではありません。
現在使用している製品が回収対象かどうかを確認し、該当する場合には、基本的に廃棄(あるいはメーカーに相談)が基本です。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 過去に使用し、すでに使い切った | 今回のメーカー評価を踏まえ、過度に心配する必要はありません |
| 現在使用中で回収対象ロットに該当する | 使用を控え、廃棄しましょう |
| 回収対象外の製品を使用している | 今回の回収を理由に、直ちに使用を中止する必要はありません |
| 対象ロットかどうかわからない | 容器や外箱を確認し、メーカーに問い合わせましょう(あるいは公開されている資料を確認しましょう) |
回収対象製品を持っている場合は、すぐに廃棄してください。医薬品の回収において、薬局側で回収対象ロットを確認し、必要に応じて回収や代替製品の案内を受けられる場合もありますが、今回のケースでは適用されません。
日東メディック株式会社の公式資料には、回収対象となる製品のロット番号が掲載されています(2026年10月13日公表)。
回収対象の確認はこちら
※回収対象ロットはPDFの3ページ目以降に掲載されています。
医薬品の自主回収は、必ずしも「危険な薬」という意味ではない
医薬品の安全性を守るためには、健康被害が発生してから対応するのではなく、将来のリスクを予測して、早い段階で対策を取ることが重要です。今回の自主回収も、そのような予防的な品質管理の一環として理解できます。
医薬品の製造や品質管理では、非常に小さな量の不純物であっても、長期間使用した場合の健康への影響を考慮して管理しています。そのため、実際に健康被害が確認されていなくても、管理基準を超えた場合には自主回収が行われることがあります。これは、製品の安全性を確保するための重要な仕組みです。
一方で「自主回収された」という情報だけを受け取り「これまで使っていた薬は危険だったのではないか」と考えてしまうこともあるでしょう。
しかし、自主回収の必要性と、過去に使用した患者さんの健康リスクの大きさは、必ずしも一致しません。
今回のような事例では、なぜ回収が必要になったのか、実際の健康への影響はどのように評価されているのかを、分けて理解することが大切です。
まとめ:必要な対応を知り、過度に心配しないことが大切
今回のニトロソアミン検出と自主回収について、最も伝えたいことは次のとおりです。
ニトロソアミンには発がん性が懸念される物質が含まれますが、検出されたという事実だけで、健康への影響が大きいと判断することはできません。
今回のヘパリン類似物質ローション0.3%「NIT」は2024年6月に発売された医薬品であり、主に製造から長期間経過した製品が回収対象となっています。また、皮膚に塗る医薬品であるため、製品中に含まれるニトロソアミンの量と、実際に体内へ取り込まれる量は必ずしも同じではありません。メーカーも、患者さんの生涯発がんリスクを著しく高める可能性は極めて低いと判断しています。
したがって、過去にこの製品を使用したことだけを理由に、過度に不安になる必要はないでしょう。
現在お持ちの製品が回収対象であれば、基本的に廃棄しましょう。なお、心配事があればメーカーに相談できます。
大切なのは、発がん性という言葉だけに不安を感じるのではなく、実際のリスクの大きさを理解し、必要な対応を取ることです。
参考文献・公的資料
以下は、今回の記事の根拠とした一次資料です。
1. 日東メディック株式会社. ヘパリン類似物質ローション0.3%「NIT」ニトロソアミン化合物検出及び自主回収(クラスⅡ)に関するお知らせ. 2026年10月13日. メーカー公式資料(PDF)
2. European Medicines Agency (EMA). Appendix 2: Carcinogenic Potency Categorisation Approach for N-nitrosamines. EMA/451665/2023. CPCA分類と許容摂取量の設定方法(PDF)
CPCAの5分類と各許容摂取量の根拠を示した資料。
3. European Medicines Agency (EMA). Questions and answers for marketing authorisation holders/applicants on nitrosamine impurities in human medicinal products. EMA/409815/2020, Rev.23. EMA公式Q&A(PDF)
ニトロソアミンの許容摂取量、投与経路、複数不純物の管理などを解説。
4. International Council for Harmonisation (ICH). ICH M7(R2): Assessment and Control of DNA Reactive (Mutagenic) Impurities in Pharmaceuticals to Limit Potential Carcinogenic Risk. ICH M7(R2)ガイドライン(PDF)
遺伝毒性不純物の発がんリスク管理、生涯曝露および短期間曝露に関する国際的な考え方。
5. European Medicines Agency (EMA). Nitrosamine impurities: guidance for marketing authorisation holders. EMA公式ガイダンス
ニトロソアミンの評価・管理に関する最新の公表資料への案内。

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