黄連解毒湯は高血圧患者の「随伴症状」を改善するのか?

02_循環器系
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― 二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(Phytomedicine. 2006)

黄連解毒湯の効果とは?

今回取り上げるのは、黄連解毒湯(TJ-15)が高血圧患者の「のぼせ」「顔面紅潮」などの随伴症状に有効かを検討した二重盲検プラセボ対照試験です。

結論から言うと、本研究で示されたのは「黄連解毒湯が血圧を下げる」という結果ではありません。

血圧そのものにはプラセボとの差を認めなかった一方、高血圧に伴う随伴症状では黄連解毒湯群が有意に良好だった、という研究です。


臨床疑問

高血圧に加えて、のぼせや顔面紅潮、いらいら、不安、不眠などの随伴症状を有する患者に黄連解毒湯を投与すると、プラセボと比較してこれらの症状を改善できるのか?

また、副次的な問いとして「血圧そのものにも影響するのか?」という点も評価されています。

研究の背景

黄連解毒湯(Orengedokuto:TJ-15)は、日本で使用されている漢方製剤の一つです。

本研究では単に「高血圧患者」を集めたわけではありません。

日本東洋医学会のRCTエビデンスレポートによると、対象患者には、いらいら感、精神不安、睡眠障害、のぼせ、顔面紅潮の少なくとも1つがあり、逆に漢方医学的に「寒・虚証」と考えられる患者は除外されていました。

つまり、黄連解毒湯が適すると考えられる症候を有する患者をある程度選択した試験です。この点は結果の解釈で非常に重要になります(日本東洋医学会・漢方治療エビデンスレポート)。

PICO

項目内容
P:Patient選択・除外基準を満たした高血圧患者265例
I:Intervention黄連解毒湯(TJ-15)2カプセル、1日3回、毎食前、8週間
C:Comparisonプラセボ2カプセル、1日3回、毎食前、8週間
O:Outcome主要評価:高血圧随伴症状の総合評価。
その他:個別随伴症状、血圧、降圧効果、安全性

試験デザイン

二重盲検ランダム化プラセボ対照比較試験です。

日本東洋医学会の資料では、大学病院・病院を含む116施設で実施された多施設試験として整理されています。

症例数

TJ-15群プラセボ群合計
割り付け134例131例265例
有効性・有用性解析103例101例204例
安全性解析128例123例251例

したがって、登録された265例全員が有効性解析に含まれたわけではなく、61例(23.0%)が除外されています。

ここは後述する本試験の重要な限界です。

評価された随伴症状

日本東洋医学会のエビデンスレポートによると、いらいら感、精神不安、睡眠障害、のぼせ(ホットフラッシュ)、顔面紅潮などを7段階(−3~+3)で評価していました。

さらに、頭重・頭痛、肩こり、めまい、全身倦怠感なども評価されています(日本東洋医学会・漢方治療エビデンスレポート)。

試験結果から明らかになったことは?

主要な有効性評価

評価項目TJ-15 vs プラセボP値
随伴症状総合スコア(主要評価項目)TJ-15群が有意に良好0.013
のぼせ(ホットフラッシュ)TJ-15群が有意に良好0.034
顔面紅潮TJ-15群が有意に良好0.022
血圧低下有意差なし
降圧効果有意差なし
総合安全性評価有意差なし
有用性評価TJ-15群が有意に良好0.016

主要評価項目である随伴症状総合スコアは、TJ-15群で有意に良好でした(Wilcoxon順位和検定、P=0.013)。

個別症状では、のぼせ(P=0.034)、顔面紅潮(P=0.022)でTJ-15群が有意に良好でした。

血圧は?

ここが本研究で最も誤解してはいけないポイントです。血圧低下および降圧効果について、TJ-15群とプラセボ群との間に有意差は認められませんでした。

したがって、黄連解毒湯は、選択された高血圧患者において「高血圧に伴う随伴症状」を改善した

と解釈する必要があります。

安全性

抄録では、総合安全性評価についてTJ-15群とプラセボ群に有意差はありませんでした。日本東洋医学会のエビデンスレポートには、黄連解毒湯と関連する可能性のある事象として吐き気や検査値異常、発疹なども記載されています(日本東洋医学会・漢方治療エビデンスレポート)。

なお、原著抄録の結論にはTJ-15が「efficacy, safety, and utility」で優れていたとの表現がありますが、本文抄録内ではoverall safety ratingに有意差なしとされています。

したがって本研究から「TJ-15はプラセボより安全だった」と結論するのは適切ではありません。


批判的吟味:試験の限界

1.265例中204例しか有効性解析されていない

本研究で最も注意したい点です。265例が割り付けられたにもかかわらず、有効性・有用性解析は204例です。61例、全体の約23%が解析対象から外れています。

日本東洋医学会の資料でも「解析不能例61名」とされていますが、抄録だけでは除外理由や欠測値の取り扱いを十分に評価できません。

ランダム化後の多数の患者を解析から除外した場合、ランダム化によって得られた群間の比較可能性が損なわれ、attrition bias(脱落バイアス)や選択バイアスが生じる可能性があります。

2.効果の「大きさ」が分からない

主要評価項目はP=0.013でした。しかし、抄録には、群間差や効果量、95%信頼区間などが示されていません。

したがって、「統計学的な差はある」ことは分かっても、「患者にとってどの程度大きな改善なのか」は判断しにくい結果です。

P=0.013だから「非常によく効く」という意味ではありません。

3.個々の随伴症状は多重比較の影響を受ける可能性

のぼせや顔面紅潮など、複数の個別症状が検定されています。多数の項目を個別に検定すると偶然P<0.05となる確率が高くなるため、多重性の問題があります。

したがって、個別症状の結果は主要評価項目の結果より慎重に解釈する必要があります。

4.対象患者が「黄連解毒湯が効きそうな人」に選択されている

これは本研究の非常に興味深い点であると同時に、外的妥当性の問題でもあります。

対象者には黄連解毒湯の「証」に合致する随伴症状が求められ、「寒・虚証」の患者などは除外されていました(日本東洋医学会・漢方治療エビデンスレポート)。

したがって、「高血圧患者なら誰でも黄連解毒湯の恩恵を受ける」とは一般化できません。逆に言えば、「証」を考慮して対象を選んだことが有効性の検出につながった可能性もあります。

5.追跡期間は8週間

長期間使用した場合、効果が維持されるのか、長期的な安全性はどうか、中止後も効果が持続するのかは分かりません。

6.患者にとって重要なハードアウトカムは評価していない

本研究は、心筋梗塞、脳卒中、心血管死亡などを評価したものではありません。さらに、血圧そのものにもプラセボとの差はありませんでした。

したがって、通常の高血圧治療を黄連解毒湯で置き換えられることを示すエビデンスではありません。

7.安全性に「有意差なし」=「安全性が同等」ではない

安全性に有意差がなかったとしても、この規模・8週間の試験で、「プラセボと同等に安全である」と証明されたわけではありません。

安全性の非劣性を検証するよう設計された試験でもなく、まれな有害事象や長期投与による問題を評価するには規模・期間とも充分とはいえません。


この研究をどう解釈するか?

本研究のポイントを一言で表すなら、「黄連解毒湯は「高血圧を下げた」のではなく、黄連解毒湯に適すると考えられる症候を持った高血圧患者の「随伴症状」を改善した可能性がある」ということになります。

二重盲検・プラセボ対照RCTで主要評価項目が有意だった点は評価できます。一方で、解析対象から約23%が除外され、効果量や95%CIも抄録からは分かりません。

したがって、エビデンスとしては「効果を示唆するRCT」と評価できるものの、降圧治療の代替を支持する研究ではなく、症候を選択した上での補助的な位置づけとして考えるのが妥当でしょう。

まとめ

  • 黄連解毒湯(TJ-15)vs プラセボの二重盲検RCT
  • 登録265例、8週間
  • 随伴症状総合スコアはTJ-15群で有意に良好(P=0.013)
  • のぼせ(P=0.034)、顔面紅潮(P=0.022)もTJ-15群が良好
  • 血圧低下・降圧効果には有意差なし
  • 有効性解析は204/265例のみで、約23%が解析から外れている
  • 効果量・95%CIが抄録から分からず、臨床的重要性は評価しにくい
  • 黄連解毒湯の「証」を意識した患者選択であり、すべての高血圧患者には一般化できない
  • 「高血圧の治療薬」ではなく「選択された患者における随伴症状への効果」として解釈すべき

漢方薬の有効性を評価した二重盲検ランダム化比較試験の結果は限られており、本研究は大変貴重です。とはいえ、試験の限界を踏まえると、内的妥当性は低いと考えられます。

黄連解毒湯が有効であると考えられる「証」を踏まえると、更年期障害を有する高血圧患者において、より有用であると考えられます。

再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

a doctor taking patient s blood pressure

✅まとめ✅ プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験の結果、のぼせや顔面紅潮、いらいら、不安、不眠などの随伴症状を有する高血圧患者において、黄連解毒湯の追加は、プラセボと比較して、随伴症状総合スコア、のぼせ、顔面紅潮を改善する可能性がある。

根拠となった試験の抄録

高血圧の付随症状の治療薬として、ツムラオレンジゲドクトウエキス顆粒(TJ-15)の有効性、安全性、有用性を評価するために、二重盲検プラセボ対照試験を実施した。試験薬2カプセルを1日3回(食前)8週間経口投与した。試験に登録された265名の患者のうち、134名がTJ-15群に、131名がプラセボ群に割り付けられ、そのうち204名(TJ-15群103名、プラセボ群101名)が有効性および有用性解析に含まれ、251名(TJ-15群128名、プラセボ群123名)が安全性解析に含まれた。高血圧の付随症状の合計スコア(主要有効性評価項目)に基づくと、TJ-15群の有効性はプラセボ群よりも有意に高かった(Wilcoxon順位和検定、p=0.013)。高血圧の付随症状を個別に評価した場合、ホットフラッシュと顔面紅潮についてはTJ-15群の有効性がプラセボ群よりも高かった(Wilcoxon順位和検定、それぞれp=0.034および0.022)。血圧低下または降圧効果に関しては、TJ-15群とプラセボ群との間に有意差は認められなかった。また、全体的な安全性評価についても両群間に有意差は認められなかった。有用性評価は、TJ-15群の方がプラセボ群よりも有意に高かった(Wilcoxon順位和検定、p=0.016)。結論として、TJ-15は高血圧の付随症状の治療において、有効性、安全性、有用性の点でプラセボよりも優れていた。

引用文献

Improvement of accessory symptoms of hypertension by TSUMURA Orengedokuto Extract, a four herbal drugs containing Kampo-Medicine Granules for ethical use: a double-blind, placebo-controlled study
K Arakawa et al. PMID: 16360926 DOI: 10.1016/j.phymed.2004.02.012
Phytomedicine. 2006 Jan;13(1-2):1-10. doi: 10.1016/j.phymed.2004.02.012. Epub 2005 Jul 21.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16360926/

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