―111グループを比較した実験研究(Journal of Applied Psychology. 1999)
会議時間を短くするには?
「会議が長い」という問題への対策として、スタンディングミーティングが提案されることがあります。
では、単純に「座らずに会議をする」だけで、本当に会議時間は短くなるのでしょうか。そして、短くなった代わりに意思決定の質が落ちることはないのでしょうか。
今回取り上げるのは、1999年に Journal of Applied Psychology に掲載された、Bluedornらによる興味深い実験研究です。
Bluedorn AC, Turban DB, Love MS. The effects of stand-up and sit-down meeting formats on meeting outcomes. J Appl Psychol. 1999;84(2):277-285.
DOI: 10.1037/0021-9010.84.2.277 / 原著PDF
臨床疑問ならぬ「実務疑問」
5人程度で意思決定を行う会議では、座って会議をするより立って会議をしたほうが、意思決定の質を低下させずに会議時間を短縮できるのか?
今回は医学研究ではありませんが、他の科学論文と同じように「介入→比較→アウトカム」で考えてみます。
研究の背景
会議時間を短縮する方法として「参加者を立たせれば、会議がだらだら続かなくなる」という考え方は以前から時間管理の文献で提唱されていました。
しかし、会議が短くなる代わりに、十分な情報交換ができなくなって意思決定の質が低下するのでは?という懸念もあります。
そこで研究者らは、会議中の姿勢を、Stand-up meeting(立位) vs Sit-down meeting(座位)に分け、会議時間だけでなく、意思決定の質や満足度、情報利用などを比較しました。
PICO
医学論文風に整理すると以下のようになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P(Participants) | 大学のIntroduction to Managementコースの学生555人、5人×111グループ |
| I(Intervention) | Stand-up meeting:立った状態で会議(56グループ) |
| C(Comparison) | Sit-down meeting:座って会議(55グループ) |
| O(Outcomes) | 会議時間、意思決定の質、タスク情報の活用、相乗効果、会議満足度、決定へのコミットメント |
参加者555人は5人ずつのグループに割り当てられ、111グループが形成されました。
試験デザイン
本研究は、実際の企業の会議を観察したコホート研究ではなく、条件を操作した実験研究です。
参加者に与えられたのは「Lost on the Moon」と呼ばれるグループ意思決定課題でした。
月面で遭難したというシナリオのもと、生き残るために必要な15個のアイテムについて優先順位を決めます。専門家による基準順位があるため、グループが出した回答と比較することで「意思決定の質」を定量的に評価できます。
グループ構成
| 会議形式 | グループ数 | 1グループ |
|---|---|---|
| Stand-up | 56 | 5人 |
| Sit-down | 55 | 5人 |
| 合計 | 111 | 555人 |
試験結果から明らかになったことは?

会議時間
| アウトカム | Stand-up | Sit-down | 結果 |
|---|---|---|---|
| 平均会議時間 | 589秒 | 788秒 | Sit-downが約34%長い |
| “分” 換算 | 約9分49秒 | 約13分8秒 | 約3分19秒の差 |
| 意思決定の質 | ― | ― | 有意差なし |
| 会議の満足度 | 低い | 高い | 有意差あり |
| タスク情報の活用 | 低い | 高い | 有意差あり |
| 相乗効果 | ― | ― | 有意差なし |
| 決定へのコミットメント | ― | ― | 有意差なし |
会議時間はStand-up群589秒に対してSit-down群788秒であり、座って行った会議は立って行った会議より約34%長くなりました。
「34%」の読み方には注意
ここは数字の表現として重要です。論文が報告しているのは、
Sit-down meetingはStand-up meetingより34%長かった
です。
逆向きに「立ち会議にすると34%短縮できる」と表現すると厳密には違います。
意思決定の質は低下しなかった?
会議時間だけを見るとStand-up群に軍配が上がります。
一方、短くなったことで意思決定の質が悪化したのかというと、統計学的な有意差は認められませんでした。これは非常に興味深い結果です。
しかし、「立っても座っても意思決定の質は完全に同じ」とまでは言えません。この点は後ほど批判的吟味で触れます。
座った会議にもメリットがあった
「それなら全部の会議を立ってやればいい」と結論するのは早計です。
Sit-down群では、会議への満足度、課題情報の活用がStand-up群より有意に高い結果でした。つまり、この研究は単純な「立ち会議の勝利」ではありません。
大まかには、Stand-up → 時間効率に優れる、Sit-down → 満足度・情報利用に優れるというトレードオフが示唆されています。
批判的吟味:研究の限界
1.実際の会社員を対象とした研究ではない
最大の注意点です。試験参加者は大学のIntroduction to Managementコースの学生555人でした。
したがって、「会社の会議も立てば25%短くなる」と、そのまま一般化することはできません。
管理職会議、医療現場のカンファレンス、薬局のミーティングなどとは参加者の経験や責任、意思決定の重要性が大きく異なります。
2.人工的な意思決定課題
実験では「Lost on the Moon」という明確に構造化された1つの問題を解いています。
実際の職場では、正解そのものが存在しない、複数の議題がある、利害関係が対立する、人間関係への配慮が必要、複雑な資料を読み込む、長期戦略を考えるといった会議もあります。
本研究の結果は、こうした複雑な会議まで保証するものではありません。
3.短時間の会議である
平均会議時間は約10~13分でした。したがって、「1時間の会議を全員立たせれば短縮できる」というエビデンスではありません。
研究者ら自身も、より長時間で構造の異なる問題を扱う会議については追加研究が必要としています。
4.「有意差なし」=「同じ質」とは限らない
意思決定の質について統計学的有意差がなかったことは、両形式の意思決定の質が同等であることを証明した、という意味ではありません。
同等性あるいは非劣性を証明するために設計された試験ではないため、厳密には「Stand-upによる意思決定の質の有意な低下は検出されなかった」と表現するほうが正確です。
5.情報利用はむしろSit-downのほうが良かった
これは実務上見逃せません。Stand-up群では会議時間が短縮されましたが、課題情報の利活用という指標ではSit-down群が上回りました。
したがって、時間短縮と同時に「必要な情報まで削られていないか?」を見る必要があります。単純に「短ければ良い会議」とは言えません。
6.満足度というトレードオフ
会議満足度もSit-down群のほうが高い結果でした。毎日繰り返す会議の場合、時間だけでなく、発言しやすさ、心理的安全性、疲労、参加者の納得感なども重要です。今回の研究では長期継続した場合の影響までは評価していません。
7.1999年の研究である
この研究は1999年に発表されています。当然ながら、Zoom/Teamsなどのオンライン会議、ハイブリッド会議、リモートワーク、現在のDaily Stand-up(朝会など)を直接研究したものではありません。
現在の職場環境へ適用する際には注意が必要です。
この研究を実務でどう考えるか?
この研究から「すべての会議は立って行うべき」とは言えません。一方で、「短時間で、明確な1つの意思決定を行う会議では、立って実施することで意思決定の質を明らかに損なわず、会議時間を短縮できる可能性がある」という仮説を支持する実験結果ではあります。
例えば薬局業務なら、朝の短時間ミーティング、当日の注意事項の共有、1つの業務課題について決める、短時間の進捗確認などでは試す余地がありそうです。
逆に、患者安全上の重大事例、複雑な症例検討、人事・心理的安全性に関する話し合いなど、十分な情報共有と熟考が必要な場面まで立ち会議に置き換える根拠は、この研究からは得られません。
まとめ
今回の実験研究では、5人×111グループをStand-upとSit-downに分けて意思決定課題を実施しました。
最も重要な結果は、
Sit-down meeting:788秒
Stand-up meeting:589秒
であり、Sit-down meetingは34%長かったという点です。
その一方で、意思決定の質に有意差は検出されませんでした。ただし、Sit-down meetingでは満足度と課題情報の利用が良好でした。したがって、この研究を「立ち会議のほうが優れている」と単純化するより、Stand-up meetingは「短時間で明確な意思決定をする」という限定された状況で、会議効率を高める選択肢になり得ると捉えるのが妥当でしょう。
以上を踏まえると、最初は座って会議をした方がグループメンバー間の関係性構築に好感的な正の効果を与えられそうです。一方、プロジェクトのデッドラインが迫ってきたときやトラブル対応など、短期間で意思決定を行う必要がある場合は、立って会議を行った方が実益が大きいかもしれません。
あくまでも仮説生成的な結果ではありますが、非常に興味深い結果です。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅
根拠となった試験の抄録
会議形式(立席または着席)が会議時間とグループ意思決定の質に及ぼす影響を調査するため、立席形式で会議を行った5人グループ56組と、着席形式で会議を行った5人グループ55組の会議結果を比較した。着席会議は立席会議より34%長かったが、意思決定の質は立席会議と変わらなかった。会議への満足度と会議中のタスク情報の利用については有意差が認められたが、シナジー効果やグループの意思決定へのコミットメントについては有意差は認められなかった。これらの結果は、時間管理に関する文献における会議管理の推奨事項と概ね一致していたが、意思決定の質に有意差が認められなかった点は理論的予測とは異なっていた。この予想と異なる結果は、本研究が実施された時間的状況と、他の時間制約研究が実施された時間的状況との違いによるものと考えられる。これにより、時間的状況という潜在的に重要な偶発要因が明らかになった。
引用文献
The effects of stand-up and sit-down meeting formats on meeting outcomes.
Bluedorn, Allen C. et al.
Journal of Applied Psychology. 1999; 84(2): 277–285.
― 続きを読む https://doi.org/10.1037/0021-9010.84.2.277

コメント