心血管イベント既往のない高血圧症患者における降圧レベルはどの程度が良いのか?(韓国 全国規模のコホート研究; J Am Heart Assoc. 2021)

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アジア人において、降圧の程度と心血管イベントとの関連性はどのくらいか?

日本の高血圧治療ガイドライン2019において、高血圧の基準値が変更され、I度高血圧は140〜159/90〜99mmHg(家庭血圧 135〜144/85〜89mmHg)のままですが、I度高血圧より下の血圧分類が2014年版から変更となりました。

分類診察室血圧
(mmHg)
庭血圧
(mmHg)
収縮期血圧拡張期血圧収縮期血圧拡張期血圧
正常血圧<120かつ<80<115かつ<75
正常高値血圧120〜129かつ<80115-124かつ<75
高値血圧130〜139 かつ/または80〜88125〜134かつ/または75〜84
I度高血圧140〜159かつ/または90〜99135〜144かつ/または85〜89
Ⅱ度高血圧160〜179かつ/または100〜109145〜159 かつ/または90〜99
Ⅲ度高血圧≧180かつ/または≧110≧160かつ/または≧100
(孤立性)
収縮期血圧
≧140かつ<90≧135かつ<85

これは海外で行われた臨床試験の結果だけでなく、EPOCH-JAPANなど日本で行われた試験結果も含め総合的に判断された結果です。またEPOCH-JAPAN試験からの試算では、全脳心血管病死亡の50%、脳卒中死亡の52%、冠動脈疾患死亡の59%が、120/80 mmHgを超える血圧高値に起因する死亡と評価され,I度高血圧からの過剰死亡数がもっとも多いことが明らかになりました。ただし、日本の研究はいずれも観察研究(疫学研究)であり、あくまでも血圧値とアウトカムの相関関係が認められたにすぎません。つまり、降圧治療を行うことで、心血管イベントを抑制できるのか、また血圧の目標値はどのくらいなのか、については明らかになっていません。さらに心血管イベントの既往の有無により目標とする降圧レベルが異なる可能性があります。

そこで今回は、心血管イベントの既往がない高血圧患者を対象とした韓国の人口ベース研究の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

韓国国民健康保険サービスのデータベースを用いて、2002年から2011年にかけて、血圧測定が可能で心血管イベントの既往がない高血圧患者479,359例のデータを抽出した本試験において、中央値9年間の追跡期間中に、55,401件のMACEが記録されました。

全集団のデータ

MACEリスクは、130~139/80~89mmHgと比較して、120/70mmHg未満で最も低く(調整後のハザード比[HR] 0.79、95%CI 0.76~0.84)、150/100mmHg以上で最も高いことが明らかとなりました(HR 1.32、95%CI 1.29~1.36)。これらの結果は、すべての年齢層、男女ともに一貫していました。

血圧
(mmHg)
イベント
(例)
発生率
(件/100,000人・年)
調整後HR(95%CI)
<120/701,6768300.79(0.76〜0.84)
120〜129/70〜7911,3621,0900.92(0.90〜0.94)
130~139/80~8921,4601,2161.00(reference)
140〜149/90〜9913,1121,4691.12(1.10〜1.15)
150/100≦7,7911,9901.32(1.29〜1.36)
全体のデータ

降圧治療を受けている患者集団のデータ

降圧治療を受けている患者(n=237,592、49.5%)において、BP値が130~139/80~89mmHgの場合と比較して、BP値が高い(140/90mmHg以上)患者ではMACEリスクが有意に高いことが明らかになりました。しかし、BP値が130/80mmHg未満の患者において有意ではありませんでした。

血圧
(mmHg)
イベント
(例)
発生率
(件/100,000人・年)
調整後HR(95%CI)
<120/707281,3820.99(0.92〜1.07)
120〜129/70〜795,4181,2340.96(0.93〜0.99)
130~139/80~8910,9431,2381.00(reference)
140〜149/90〜996,8431,4481.10(1.07〜1.13)
150/100≦4,1511,9431.30(1.25〜1.35)
降圧治療を受けている患者集団のデータ

血圧120/70mmHg未満は、すべての年齢層で全死亡または心血管死亡のリスク増加と関連していました。

コメント

本試験の特徴は、降圧治療を受けている患者集団における血圧とアウトカムの関連性を検証していることです。

試験全体のデータを見ると、血圧を130/80mmHgより下げた方が、主要心血管イベント(MACE:心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合)の発生は少なそうです。これは過去の試験結果とも一致しています。一方、降圧治療を受けている患者集団の解析では、血圧130/80mmHg未満によるMACEリスクの低下は明らかではありませんでした。また区間推定値から、血圧150/90mmHg以上でなければ、そこまでMACEリスクに差があるようには見えません。さらに、MACEの内訳としては、脳卒中の発生のみが一貫して降圧レベルと正の相関を示しています。一方、心血管死亡については、血圧130/80mmHgより高くても低くても発生リスクが高くなっています。

ベースの血圧は低ければ低い方が良いのかもしれませんが、心血管イベント既往を有さない降圧治療中の高血圧患者においては、降圧目標はそこそこで良いのかもしれません。

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✅まとめ✅ 韓国データベース研究の結果、血圧値はMACEリスクと有意に相関していたが、降圧治療を受けている患者の血圧120/70mmHg未満においては、130~139/80~89mmHgと比較して全死亡または心血管死亡のリスクが増加するかもしれない

根拠となった論文の抄録

背景:高血圧患者において、どの程度のオフィス血圧(BP)が最適な治療目標範囲であるかは不明である。

方法:韓国国民健康保険サービスのデータベースを用いて、2002年から2011年にかけて、血圧測定が可能で心血管イベントの既往がない高血圧患者479,359例のデータを抽出した。
試験のエンドポイントは主要心血管イベント(MACE)で、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合イベントとした。
このコホート研究では、BP値(120/70mmHg未満、120〜129/70〜79mmHg、130〜139/80〜89mmHg、140〜149/90〜99mmHg、150/≧100mmHg)とMACEとの関連を評価した。

結果:中央値9年間の追跡期間中に、55,401件のMACEが記録された。MACEリスクは、130~139/80~89mmHgと比較して、120/70mmHg未満で最も低く(調整後のハザード比[HR] 0.79、95%CI 0.76~0.84)、150/100mmHg以上で最も高かった(HR 1.32、95%CI 1.29~1.36)。これらの結果は、すべての年齢層、男女ともに一貫していた。
降圧治療を受けている患者(n=237,592、49.5%)では、BP値が130~139/80~89mmHgの場合と比較して、BP値が高い(140/90mmHg以上)患者ではMACEリスクが有意に高かったが、BP値が130/80mmHg未満の患者において有意ではなかった。低い血圧(120/70mmHg未満)は、すべての年齢層で全死亡または心血管死亡のリスク増加と関連していた。

結論:韓国人の高血圧患者全員において、BP値はMACEリスクと有意に相関していた。しかし、BP120/70mmHg未満の高血圧治療を受けた患者では、MACEに対する追加的なメリットはなかった。

引用文献

Office Blood Pressure Range and Cardiovascular Events in Patients With Hypertension: A Nationwide Cohort Study in South Korea
Chang Hee Kwon et al. PMID: 33739126 DOI: 10.1161/JAHA.120.017890
J Am Heart Assoc. 2021 Mar 19;e017890. doi: 10.1161/JAHA.120.017890. Online ahead of print.
ー続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33739126/

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