ー 日本で使用されているトローチの主要含有成分と臨床研究を徹底レビュー(ブログ管理者によるナラティブレビュー)
臨床疑問(Clinical Question)
日本で販売されているトローチ(OTC・医療用)の主な含有成分には、咽頭痛や咽頭炎に対する臨床的有効性を支持するエビデンスは存在するのだろうか?
背景
急性咽頭痛(Acute sore throat)は外来で極めて頻度の高い症状です。
原因の約70〜90%はウイルス感染であり、抗菌薬は不要であることが多いため、症状緩和(Symptomatic treatment)が中心となります。
日本では、臨床でデカリニウム塩酸塩(商品名:SPトローチ)が用いられています。またOTC医薬品として、以下のような製品が使用されています
- コルゲンコーワトローチ
- パブロントローチAZ
- ヴイックスメディカルトローチ
- ルルトローチ
- 浅田飴 など
しかし興味深いことに、日本で使用されている成分の有効性評価はあまり実施されていません。
海外ではランダム化比較試験やメタ解析まで実施されている成分がありますが、日本で主流の成分の検証は不充分です。
そこで今回は、日本で使用されているトローチの主要成分について文献を調査しました。
調査結果から明らかになったことは?
① セチルピリジニウム塩化物(CPC)
- 【指定医薬部外品】 コルゲンコーワトローチ 18個
- 【第3類医薬品】パブロントローチAZ 24錠
- 【指定医薬部外品】カイゲントローチS 24錠
- 【指定医薬部外品】ソアレスローチ 18錠
- 【指定第2類医薬品】ヴイックス メディカル トローチ 24錠 など
- 第四級アンモニウム系殺菌薬
- 細菌・一部ウイルスに対する膜障害作用
CPCについては、口腔内細菌数、プラーク、SARS-CoV-2の唾液中ウイルス量などを評価した研究は多数あります。
一方、「急性咽頭痛の疼痛改善」を主要評価項目としたCPC単独トローチRCTはほとんど確認できませんでした。
★★☆☆☆
殺菌作用の根拠はあるものの、咽頭痛改善の直接的なエビデンスは限定的です。
参考文献
- Pitten FA, Kramer A. Efficacy of cetylpyridinium chloride used as oropharyngeal antiseptic. Arzneimittelforschung. 2001;51(7):588-95. doi: 10.1055/s-0031-1300084. PMID: 11505791.
- Mao X, Auer DL, Buchalla W, Hiller KA, Maisch T, Hellwig E, Al-Ahmad A, Cieplik F. Cetylpyridinium Chloride: Mechanism of Action, Antimicrobial Efficacy in Biofilms, and Potential Risks of Resistance. Antimicrob Agents Chemother. 2020 Jul 22;64(8):e00576-20. doi: 10.1128/AAC.00576-20. PMID: 32513792; PMCID: PMC7526810.
② アズレンスルホン酸ナトリウム
- 抗炎症
- 粘膜保護
RCTでは気管挿管後の術後咽頭痛を有意に軽減した報告があります。しかし、急性咽頭炎、感冒による咽頭痛を対象としたRCTは見当たりません。
★★★☆☆
術後咽頭痛では一定のエビデンスがありますが、一般感冒への外挿には注意が必要です。
参考文献
Ogata J, Minami K, Horishita T, Shiraishi M, Okamoto T, Terada T, Sata T. Gargling with sodium azulene sulfonate reduces the postoperative sore throat after intubation of the trachea. Anesth Analg. 2005 Jul;101(1):290-3, table of contents. doi: 10.1213/01.ANE.0000156565.60082.7C. PMID: 15976248.
③ グリチルリチン酸二カリウム(甘草)
主成分であるグリチルリチン酸(代謝物のグリチルレチン酸)が、ステロイドホルモンを代謝する酵素を阻害し、抗炎症作用、粘膜保護作用を発揮。
甘草含有製剤(うがい時に使用)では術後咽頭痛の軽減を示したRCTがあります。一方、市販トローチそのもののRCTは確認できませんでした。
★★★☆☆
作用機序は妥当ですが、エビデンスは限定的です。
参考文献
- Agarwal A, Gupta D, Yadav G, Goyal P, Singh PK, Singh U. An evaluation of the efficacy of licorice gargle for attenuating postoperative sore throat: a prospective, randomized, single-blind study. Anesth Analg. 2009 Jul;109(1):77-81. doi: 10.1213/ane.0b013e3181a6ad47. PMID: 19535697.
- Kuriyama A, Maeda H. Topical application of licorice for prevention of postoperative sore throat in adults: A systematic review and meta-analysis. J Clin Anesth. 2019 May;54:25-32. doi: 10.1016/j.jclinane.2018.10.025. Epub 2018 Nov 2. PMID: 30391446.
④ 桔梗エキス・桔梗湯
キキョウの根に含まれる成分「サポニン」が、気道粘膜分泌液の増加、去痰、局所の抗炎症作用、排膿作用を発揮。
急性上気道炎を対象としたプラセボ対照RCTにおいて、有意な効果は示されませんでした(ただし、キキョウ単独ではなくカンゾウも含む桔梗湯での効果検証)。一方、術後咽頭痛では有効性が報告されています。
★★★☆☆
急性咽頭炎に対するエビデンスは「期待されたほど強くない」というのが現状です。
参考文献
- Ishimaru N, Kinami S, Shimokawa T, Kanzawa Y. Kikyo-to vs. Placebo on Sore Throat Associated with Acute Upper Respiratory Tract Infection: A Randomized Controlled Trial. Intern Med. 2019 Sep 1;58(17):2459-2465. doi: 10.2169/internalmedicine.2748-19. Epub 2019 Jun 7. PMID: 31178508; PMCID: PMC6761347.
- Kuwamura A, Komasawa N, Takahashi R, Tanaka M, Minami T. Preoperative Oral Administration of Kikyo-To, a Kampo Medicine, Alleviates Postoperative Sore Throat: A Prospective, Double-Blind, Randomized Study. J Altern Complement Med. 2016 Apr;22(4):294-7. doi: 10.1089/acm.2015.0241. Epub 2016 Mar 30. PMID: 27028745.
⑤ デカリニウム塩化物
- 【指定医薬部外品】ルルトローチ 6錠 など
- (医療用医薬品)SPトローチ
殺菌作用
報告年の古いRCTでは急性扁桃炎患者に対し局所症状改善が認められました。しかし、発熱、炎症反応、A群溶連菌には有意な改善を認めませんでした。つまり、感染そのものを改善するというより局所症状緩和が中心と考えられます。
★★★☆☆
局所の症状緩和(咽頭痛、扁桃の発赤、滲出液といった局所症状)についてエビデンスは存在しますが、現代基準ではやや古い研究です。
参考文献
Krämer W. Zur Angina-Behandlung mit Dequaliniumchlorid [Treatment of tonsillitis with dequalinium chloride]. Fortschr Med. 1977 Apr 28;95(16):1108-10. German. PMID: 856702.
海外では何が使われているのか?
海外で主に使用されている成分をご紹介します。
1)フルルビプロフェン
フルルビプロフェン(Flurbiprofen 8.75 mg)を含有するNSAIDsトローチが使用されています。RCTは多数存在し、さらにシステマティックレビューまであります。
報告では、咽頭痛、嚥下痛、咽頭腫脹を有意に改善し、効果は15〜30分以内に出現し、3〜6時間程度持続するとされています。
参考文献
de Looze F, Shephard A, Smith AB. Locally Delivered Flurbiprofen 8.75 mg for Treatment and Prevention of Sore Throat: A Narrative Review of Clinical Studies. J Pain Res. 2019 Dec 27;12:3477-3509. doi: 10.2147/JPR.S221706. PMID: 31920372; PMCID: PMC6938200.
2)アミルメタクレゾール+2,4-ジクロロベンジルアルコール
他にもアミルメタクレゾール+2,4-ジクロロベンジルアルコール(AMC/DCBA, Amylmetacresol + 2,4-Dichlorobenzyl alcohol)が使用されています。日本では販売されていませんが、世界では代表的なトローチです(例:Strepsils)。
RCTが多数あり、2017年にはシステマティックレビュー・メタ解析も報告されています。結果として、咽頭痛、嚥下困難、咽頭違和感はいずれもプラセボより改善しました。
参考文献
- McNally D, Simpson M, Morris C, Shephard A, Goulder M. Rapid relief of acute sore throat with AMC/DCBA throat lozenges: randomised controlled trial. Int J Clin Pract. 2010 Jan;64(2):194-207. doi: 10.1111/j.1742-1241.2009.02230.x. Epub 2009 Oct 22. PMID: 19849767; PMCID: PMC7202229.
- Shephard A, Zybeshari S. Virucidal action of sore throat lozenges against respiratory viruses parainfluenza type 3 and cytomegalovirus. Antiviral Res. 2015 Nov;123:158-62. doi: 10.1016/j.antiviral.2015.09.012. Epub 2015 Sep 25. PMID: 26408353; PMCID: PMC7113872.
トローチの成分をエビデンスで整理すると
| 成分 | エビデンス |
|---|---|
| CPC | ★★☆☆☆ |
| アズレン | ★★★☆☆ |
| グリチルリチン酸 | ★★★☆☆ |
| 桔梗湯 | ★★★☆☆ |
| デカリニウム | ★★★☆☆ |
| (海外)フルルビプロフェン | ★★★★★ |
| (海外)AMC/DCBA | ★★★★★ |
まとめ
今回の文献調査から、以下の点が明らかになりました。
- 日本のトローチに含まれる成分は、殺菌・去痰・抗炎症作用を期待したものが中心であり、急性咽頭痛そのものを対象とした高品質RCTは限られていました。
- CPCやデカリニウムは殺菌作用の根拠はあるものの、「咽頭痛改善」を直接示す臨床エビデンスは限定的です。
- アズレンやグリチルリチン酸、桔梗湯は術後咽頭痛などで一定の有効性が報告されていますが、感冒による咽頭痛へのエビデンスは十分とは言えません。
- 一方、海外ではフルルビプロフェン8.75 mgトローチやAMC/DCBAトローチについて、多数のRCTやシステマティックレビュー・メタ解析が実施されており、短時間での疼痛軽減と嚥下痛改善が一貫して示されています。
総じて、日本で市販されているトローチは「のどの不快感を和らげる補助療法」として位置づけるのが妥当であり、海外でエビデンスが蓄積されたフルルビプロフェンやAMC/DCBA製剤と同等の臨床効果を期待できると結論づける根拠は現時点ではありません。とはいえ、臨床におけるトローチの使用を否定できるほどの結果ではありません。エビデンスがないことと、薬剤使用を推奨しないこととは別です。より堅牢性の高い試験デザインでの有効性・安全性の検証が求められます。
今後、日本製トローチについても急性咽頭痛を対象とした質の高いランダム化比較試験の蓄積が期待されます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ブログ管理者によるレビューの結果、日本で市販されているトローチは「のどの不快感を和らげる補助療法」として位置づけるのが妥当であり、海外でエビデンスが蓄積されたフルルビプロフェンやAMC/DCBA製剤と同等の臨床効果を期待できると結論づける根拠はなさそうである。
参考文献
各成分の項目を参照


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