― 30年間・14.7万人を追跡した最新コホート研究(Br J Sports Med. 2026)
臨床疑問
レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)は全死亡や疾患別死亡を減少させるのだろうか?また、最も効果的な運動量(用量)はどの程度なのだろうか?
研究の背景
レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)は、筋力維持、サルコペニア予防、骨密度維持、インスリン感受性改善など多くの健康効果が報告されています。
近年の診療ガイドラインでは、有酸素運動に加えて週2回以上の筋力トレーニングが推奨されていますが、長期間継続した場合の死亡リスクへの影響、最適な運動時間、有酸素運動との相乗効果については十分なエビデンスがありません。
そこで本研究では、米国の3つの大規模前向きコホートを統合し、最大30年間にわたり筋力トレーニングと死亡リスクとの関連を検討しました。
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P | 米国3つの大規模前向きコホート参加者(147,374例) |
| I | レジスタンストレーニング(筋力トレーニング) |
| C | 筋力トレーニングを行わない群 |
| O | 全死亡、心血管死亡、がん死亡、神経疾患死亡 |
試験デザイン
- 前向きコホート研究
- Health Professionals Follow-up Study
- Nurses’ Health Study
- Nurses’ Health Study II
- 最大30年間追跡
- 2年ごとに運動習慣を再評価
- Cox比例ハザードモデル
対象患者
- 147,374例
- 男性:31,540例
- 女性:115,834例
追跡期間
最大30年
評価項目
主要評価項目
- 全死亡
副次評価項目
- 心血管死亡
- がん死亡
- 神経疾患死亡
試験結果から明らかになったことは?

全死亡
筋トレを全く行わない群と比較すると、週90~119分の筋力トレーニングでは全死亡リスクは13%低下。
| 評価項目 | ハザード比 HR(95%CI) |
|---|---|
| 全死亡 | HR 0.87(0.81–0.95) |
心血管死亡
| 評価項目 | ハザード比 HR(95%CI) |
|---|---|
| 心血管死亡 | HR 0.81(0.67–0.97) |
19%低下した。
神経疾患死亡
| 評価項目 | ハザード比 HR(95%CI) |
|---|---|
| 神経疾患死亡 | HR 0.73(0.58–0.92) |
27%低下した。
がん死亡
がん死亡は比較的少ない運動量でも低下が認められた。
| 筋トレ時間 | ハザード比 HR(95%CI) |
|---|---|
| 1~29分/週 | HR 0.91(0.86–0.97) |
| 30~59分/週 | HR 0.88(0.81–0.97) |
一方、120分/週以上では追加的な利益は認められなかった。
用量反応関係
本研究では、週90~119分程度で死亡リスクは最も低くなり、120分/週以上では明らかな追加効果は認められなかった。
つまり、筋トレは「多ければ多いほど良い」という結果ではなかった。
有酸素運動との組み合わせ
有酸素運動が十分でなく、筋トレも行わない群を基準とすると、有酸素運動30~45 METs時間/週かつ筋トレ60~119分/週では45%の死亡リスク低下が認められた。
| 評価項目 | ハザード比 HR(95%CI) |
|---|---|
| 全死亡 | HR 0.55(0.50–0.60) |
さらに、有酸素運動が45 METs時間/週以上では、筋トレ量に関係なくHRは0.53〜0.58程度と低値を示した。
この研究から何が言えるか?
本研究は、30年間という非常に長期の追跡により、中等量の筋力トレーニングが全死亡・心血管死亡・神経疾患死亡を減少させることを示した。特に注目すべき点は、週90~119分程度で効果が頭打ち(プラトー)となったことである。
また、筋トレ単独だけでなく、有酸素運動を十分に実施している人では、さらに死亡リスクが低かった。
つまり、健康長寿のためには筋トレか有酸素運動のどちらか一方ではなく、両方を組み合わせることが重要であることが示唆された。
批判的吟味(研究の限界)
① 観察研究である
本研究は前向きコホート研究であり、筋トレと死亡率との因果関係を証明したものではない。
健康意識や食事、社会経済的背景などの残余交絡が残る可能性がある。
② 運動量は自己申告
筋トレ時間および有酸素運動量は質問票による自己申告であり、測定誤差や過大・過小評価が生じる可能性がある。
③ 筋トレ内容は評価されていない
筋トレの種類、セット数、使用重量などは評価されておらず、最適なトレーニング方法までは明らかではない。
質問票では「ウェイトマシン/筋力トレーニング」に限定されている。自分の体重を利用した運動(自重トレーニング)やピラティス、ヨガなどの他の形態の筋力強化活動が正確に捕捉されていない可能性がある。これにより、低頻度群の中に実際には他の筋力トレーニングを行っている対象が混入し、群間の差を縮めてしまっている可能性がある。
④ 医療従事者コホートである
対象は医療従事者が中心であり、一般集団にも同様の結果が当てはまるかは慎重な解釈が必要である。また女性の割合が多い。
⑤ 120分以上で利益が増えなかった理由は不明
プラトー効果の原因として、生理学的限界なのか、対象者数の問題なのかは明らかではない。
著者らは、癌死亡におけるIGF-1の影響について言及している。
120分以上の高用量で癌死亡リスクの低減がみられなかった(あるいはリスクが上昇傾向にある)。高強度の筋トレがインスリン様成長因子1(IGF-1)のレベルを上昇させる可能性を示唆している。高いIGF-1レベルは、大腸癌、前立腺癌、乳癌のリスク増加と関連があるという報告があり、高負荷が有益性を打ち消している可能性という生物学的な懸念について言及されている。あくまでも仮説生成的な論調であり、今後の検証結果が待たれる。
⑥ 不朽時間バイアス(Immortal Time Bias)の可能性
本研究では、長期的な運動習慣を捉えるために、フォローアップ期間中に繰り返し行われた調査結果の累計平均(cumulative average)を曝露量として使用。累積平均を用いる場合、例えば「週120分以上のグループ」に分類されるためには、複数回の調査回答時まで生存している必要があり、この「調査に回答するまで死ぬことができない期間(不朽時間)」が、高頻度運動群の死亡率を過小評価させる要因となる。本研究では時間依存性共変量としてモデルに組み込み、各サイクルでの平均値を次期リスク期間に割り当てることでこのバイアスの最小化を図っているが、長期的な「習慣」を定義する性質上、完全な排除は困難な場合がある。
⑦ 逆の因果関係(Reverse Causation)
疾患の発症(または未診断の初期段階)により活動量が低下し、その結果として「低活動が死亡リスクを高める」ように見える現象。本研究では、ベースライン時に癌や心疾患を有する対象を除外し、曝露測定から死亡までの間に2年間のラグタイム(時間差)を設けている。しかし、文献内でも指摘されている通り、アルツハイマー病などの神経変性疾患は数十年単位の前駆期があり、診断の前から身体活動が徐々に低下する。8年や12年のラグタイムを用いた感度分析でも同様の傾向がみられたと記載されているが、神経疾患死に関しては依然として逆の因果関係の可能性を慎重に考慮する必要がある。
⑧ 死因分類の誤分類(Misclassification of Outcomes)
死亡診断書や医療記録に基づく死因特定には限界がある。特に神経疾患(認知症など)による死亡は、過小評価されたり、他の疾患による死亡と誤分類されたりすることが多い。研究では医師がブラインドで判定を行っているが、元の記録自体の精度に依存するため、結果に偏りが生じる可能性がある。
⑨ 測定誤差と非差別的誤分類
自己申告による質問票(FFQなど)には本質的な測定誤差が含まれる。筋トレ時間は10のカテゴリから選択する形式であり、正確な分単位の把握ではない。このような測定誤差は、通常、「非差別的(non-differential)」に生じるため、因果関係を弱める方向(無効仮説の方向)に結果を減衰させる傾向がある。つまり、実際の筋トレの効果は、本研究の結果よりもさらに強い可能性がある一方で、用量反応関係の正確な形状を歪めている可能性もある。
⑩ 「健康な受診者バイアス」と残余交絡
筋トレを積極的に行う人は、もともと健康意識が極めて高い集団である。事実、本研究において、筋トレ時間が長い群は、若く、BMIが低く、喫煙率が低く、食生活(AHEIスコア)も健康的であり、有酸素運動量も多い傾向にある。本研究ではこれらの要因を多変量モデルで調整しているが、睡眠の質、社会的なつながり、回復力(レジリエンス)など、質問票では捉えきれない「健康的なライフスタイル」に関連する要因が調整しきれずに残っている(残余交絡)可能性がある。
⑪ 競合リスク(Competing Risks)
例えば、高齢者コホートでは、ある死因(例:心血管疾患)で亡くなるリスクは、別の死因(例:癌)で亡くなるリスクと競合する。本研究ではCox比例ハザードモデルを用い、特定の死因を分析する際に他の死因で亡くなった対象を検閲(censoring)している。しかし、高齢になるほど複数の疾患を抱えるため、特定の死因のみを独立して評価することには統計的な限界が伴う。
医療従事者への臨床的示唆
本研究は、筋力トレーニングが死亡リスク低下に関連することを、30年間という長期追跡で示した重要な研究です。
患者指導では「毎日長時間筋トレをしなければ意味がない」ではなく、週90~120分程度の継続的な筋トレでも十分な健康効果が期待できることを伝え、運動することを後押しできます。
さらに、筋トレのみではなく、有酸素運動と組み合わせることで最大の健康利益が期待できることも重要なメッセージです。
まとめ
✅ 147,374例・最大30年間追跡した大規模前向きコホート研究
✅ 週90~119分の筋力トレーニングで全死亡リスクが13%低下(HR 0.87)
✅ 心血管死亡は19%、神経疾患死亡は27%低下
✅ がん死亡は比較的少ない運動量(1~59分/週)でも低下
✅ 120分/週以上では追加的利益は認められず、効果はプラトーとなった
✅ 有酸素運動と筋トレを組み合わせた群で最も死亡リスクが低かった(HR 0.55)
医療従事者を対象とした米国の大規模コホート研究の結果であることから、あくまでも仮説生成的な結果です。一般化することには限界があります。とはいえ、有酸素運動と筋力トレーニングの複合効果については、これまでの研究結果から明らかです。
また、日本人でも同様の結果が示されるのかは不明です。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 3件の大規模な前向きコホート研究の結果、最長30年間の追跡調査において、筋力トレーニングを繰り返し測定した結果、中程度の長期的な筋力トレーニングは全死因死亡率の低下と関連しており、リスクは週120分以上の筋力トレーニングで最低値に達した。筋力トレーニングは、週45MET時間以上の有酸素運動までのすべてのレベルで、死亡リスクのさらなる低下と関連していた。
METsとは?
「METs(メッツ)」は運動や身体活動の「強さ」を表す単位。安静時(座ってリラックスしている状態)を 1METs とし、その運動が安静時の何倍のエネルギーを消費するかを示します。運動時間(時)をかけることで、消費カロリーや運動量(Ex)を計算できます。
代表的なMETsの目安
日常の動作やスポーツによってMETsの数値は異なります。
- 1.0METs:座ってテレビを見る、安静にする
- 2.0METs:軽い家事(掃除機をかけない程度の片付け)、ゆっくり歩く
- 3.0METs:普通の歩行、掃除機をかける、犬の散歩
- 4.0METs:やや速歩(平地)、ラジオ体操第1、軽いゴルフ
- 6.0METs:軽いジョギング、水泳、ウエイトトレーニング
- 8.0METs:ランニング、エアロビクス、重い荷物を運ぶ
消費カロリーの計算方法
消費カロリーは以下の計算式で求められます。
消費カロリー(kcal) = METs値×体重(kg)×時間(hr)
例:体重60kgのヒトが3.0METsの運動(普通の歩行など)を 30分 (0.5時間) 行った場合、消費カロリーは3.0×60×0.5 = 90kcal
根拠となった試験の抄録
目的: レジスタンストレーニングが全死因死亡率および原因別死亡率の低下と関連しているかどうか、用量反応関係、および有酸素運動との複合効果を検証する。
方法: 本研究では、3つの大規模な前向きコホート研究(医療従事者追跡調査、1992~2022年;看護師健康調査、2002~2021年;看護師健康調査II、2003~2021年)の参加者を対象とした。週あたりのレジスタンストレーニング期間と有酸素運動期間は、ベースライン時およびその後2年ごとに、検証済みの質問票を用いて評価した。ハザード比(HR)および95%信頼区間(95% CI)の推定には、Cox比例ハザードモデルを用いた。
結果: 最大30年間追跡調査した147,374人の参加者(男性31,540人、女性115,834人)のうち、35,798人の死亡が確認されました。抵抗運動を行わない場合と比較して、90~119分の週の抵抗運動は、全死因死亡リスクが13%低く(HR 0.87、95% CI 0.81~0.95)、心血管疾患による死亡リスクが19%低く(HR 0.81、95% CI 0.67~0.97)、神経疾患による死亡リスクが27%低い(HR 0.73、95% CI 0.58~0.92)ことが、有酸素運動を調整した上で示されました。120分/週を超えても、それ以上の効果は認められませんでした。がんによる死亡リスクの低下は、低レベルのレジスタンストレーニングでのみ見られました。1~29分/週ではHR 0.91(95% CI 0.86~0.97)、30~59分/週ではHR 0.88(95% CI 0.81~0.97)でした。共同分析では、不十分な有酸素運動(週あたり代謝当量(MET)時間未満)とレジスタンストレーニングを行っていない人と比較して、有酸素運動とレジスタンストレーニングの両方が充実している参加者(例えば、有酸素運動が週あたり30~45 METs時間未満、レジスタンストレーニングが週あたり60~119分の場合、HR 0.55(95% CI 0.50~0.60))と、レジスタンストレーニングのレベルに関係なく、有酸素運動が週あたり45 METs時間以上である参加者(HR 0.53~0.58)の間で死亡リスクが最も低かった。
結論: 最長30年間の追跡調査において、筋力トレーニングを繰り返し測定した結果、中程度の長期的な筋力トレーニングは全死因死亡率の低下と関連しており、リスクは週120分以上の筋力トレーニングで最低値に達しました。筋力トレーニングは、週45MET時間以上の有酸素運動までのすべてのレベルで、死亡リスクのさらなる低下と関連していました。
キーワード: 疫学;観察研究;身体活動;ウェイトリフティング
引用文献
Long-term resistance training with all-cause and cause-specific mortality: assessing dose-response and joint associations with aerobic physical activity
Yiwen Zhang et al. PMID: 42230125 DOI: 10.1136/bjsports-2025-110503
Br J Sports Med. 2026 Jun 12;60(12):874-883. doi: 10.1136/bjsports-2025-110503.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42230125/


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