― 子どもの自己評価と教師関係を検討した研究(Br J Educ Psychol. 2015)
臨床疑問
子どもへのフィードバックにおいて、
- 「あなたは頭がいい」のような person feedback
と、 - 「よく頑張ったね」のような process feedback
では、教師との関係性の感じ方に違いは生じるのか?
また、失敗時の批判は子どもの教師認識へどのような影響を与えるのか?
研究の背景
教育現場では、子どもへの「褒め方」や「叱り方」が長年議論されてきました。
特に近年は、固定マインドセット(fixed mindset)、グロースマインドセット(growth mindset)という概念が注目されており、「頭がいい」のようなパーソン・プレイズ(person praise)は、「努力した」というプロセスプライズ(process praise)と比較して、失敗耐性を低下させる可能性が指摘されています。
しかしこれまでの研究では「学業成績やモチベーションへの影響が中心であり、「教師との関係性」そのものへの影響は十分検討されていませんでした。
そこで本研究では、パーソンフィードバック(person feedback)、プロセスフィードバック(process feedback)、フィードバックなし(no feedback)が、生徒と教師の関係性に対する認識・認知(student-teacher relationship perception)に与える影響が実験的に検討されました。
情報元:PubMed論文ページ
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P(患者) | 7〜11歳の英国児童 |
| I(介入) | パーソンフィードバック または criticism(批判:真剣な調査と判断) |
| C(比較) | プロセスフィードバック または フィードバックなし |
| O(評価項目) | 教師との関係性認識 |
試験デザイン
本研究は、英国児童を対象とした実験研究です。研究は2つのexperimentで構成されていました。
Experiment 1では、成功場面、praise(称賛)が扱われました。
Experiment 2では、失敗場面、criticism(批判)が扱われました。
いずれも「架空の教師」とのシナリオを子どもへ読ませる形式で実施されました。その後、「先生が好きか」、「先生が自分を好きと思うか」について評価しました。
試験結果から明らかになったことは?

Experiment 1:褒め方の影響
Experiment 1には、9〜11歳の145人が参加しました。
子どもたちは、パーソンフィードバック、プロセスフィードバック、賞賛なしのいずれかを受ける成功シナリオを読み、その後失敗シナリオを読みました。
結果:成功後は全体的に良好
まず重要な結果として、成功後の方が、失敗後よりも、子どもは教師との関係性を肯定的に感じていました。
つまり、「成功体験」自体が教師関係へ強い影響を与えていたことになります。
賞賛の種類では差がなかった
興味深い点として、パーソン賞賛とプロセス賞賛の間で、教師との関係性認識に有意差は認められませんでした。
つまり本研究では「頭がいいね」と「頑張ったね」の違いだけでは、教師への好感度や「先生が自分を好いている感覚」は変化しませんでした。
Experiment 2:批判の影響
Experiment 2には、7〜11歳の98人が参加しました。
こちらでは、子どもたちは失敗場面を読み、パーソン批判、プロセス批判、批判なしを受けました。その後、成功シナリオを読みました。
パーソン批判は関係性を悪化させた
最も重要な結果はここです。失敗時に、パーソン批判を受けた子どもは、教師との関係性をより否定的に捉えていました。
さらに、その否定的認識は、次の成功場面の後も維持されました。つまり、「あなたはダメな子」のような人格ベース批判は、一時的な失敗だけではなく「教師との関係そのもの」へ悪影響を与える可能性が示唆されました。
なぜパーソン批判が問題となる可能性があるのか
本研究は心理機序を直接証明したものではありません。
しかし一般的には、パーソン批判(個人批判、person criticism)は、「失敗=能力不足」として受け取られやすく、自己価値や対人信頼へ影響する可能性があります。これは教師と生徒という限定された関係のみに生じる問題ではありません。企業などすべての組織に共通していると考えられます。
一方、プロセス批判(過程批判、process criticism)では、「やり方」、「努力」、「方法」へ焦点が当たるため、人格否定として受け取られにくい可能性があります。
教育現場への示唆
本研究結果からは、成功体験そのものが、教師関係形成に重要である可能性が示唆されます。また失敗時には「あなたは〜だ」という人格ベース批判を避け、行動、方法、戦略へ焦点を当てることが重要かもしれません。
試験の限界(批判的吟味)
本研究には重要な限界があります。
まず、実際の教師ではなく、虚構の教師(fictional teacher)を用いたシナリオ研究でした。したがって、現実の学校関係へ完全に一般化できるとは限りません。
また、短期的な感情反応評価であり、長期的学業成績、自尊感情、実際の教師関係への影響は検討されていません。
さらに、英国児童のみを対象としており、文化差の影響も考慮する必要があります。
加えて、賞賛の内容、批判の表現は限定されたシナリオであり、現実の複雑なコミュニケーションを完全再現しているわけではありません。
まとめ
今回の研究では「頭がいいね」というような個人の能力にフォーカスするようなフィードバックと、「頑張ったね」というような過程を賞賛するフィードバックの違いは、教師との関係性認識へ大きな差を与えませんでした。
一方で、個人批判は、子どもにおける教師認識を悪化させ、その影響が成功後も残存する可能性が示されました。
本研究は「褒め方」よりも、「失敗時にどのように批判するか」が、教師関係へ重要かもしれないことを示唆しています。
今回はイギリスで行われた仮想実験の結果を紹介しました。教師と生徒という関係性で検証されましたが、本研究の本質はヒトとヒトとの良好な関係性を構築するためのヒントを示しています。
何か失敗したときや、困難に直面し上手くいかなかったとき、我々はしばしば個人の責任にフォーカスしがちです。この際、どのような視点から問題に向き合うのかで失敗に至るまでのプロセス全体を俯瞰し、

✅まとめ✅ イギリスで行われた研究の結果、
根拠となった試験の抄録
背景: 教師は、人称表現(「あなたは賢い」)またはプロセス表現(「あなたはよく頑張った」)を用いてフィードバックを与えることができる。人称表現を用いたフィードバックは学業成績に悪影響を及ぼす可能性があるが、フィードバックが生徒と教師の関係に対する子どもの認識に与える影響を検証した実験的研究はほとんどない。
目的: 成功と失敗後の(架空の)教師との関係に対する子供たちの認識に、人、プロセス、フィードバックの有無がどのような影響を与えるかを調べた。
被験者: 参加者はイギリスの子供たち(実験1では9~11歳の子供145名、実験2では7~11歳の子供98名)であった。
方法: 実験1では、参加者は成功した3つのシナリオを読み、2種類の賞賛(人物またはプロセス)のいずれか、または賞賛なしのいずれかを受けました。次に、参加者は失敗した2つのシナリオを読みました。実験2では、参加者は3つの課題で失敗し、2種類の批判(人物またはプロセス)のいずれか、または批判なしのいずれかを受けたことを読みました。次に、参加者は成功した2つのシナリオを読みました。参加者は、教師をどれだけ好きか、そして教師が自分をどれだけ好きだと感じたかを評価しました。
結果: 子どもたちは、失敗した時よりも成功した時の方が、教師との関係についてより肯定的な感情を抱いた。褒め方の種類は、成功後または失敗後の教師との関係に対する認識に影響を与えなかった。しかし、人格批判は、子どもたちが失敗後に教師との関係をより否定的に捉えるようになり、最初の成功後もその否定的な見方を維持することに繋がった。
結論: 成功は、良好な生徒と教師の関係を築く上で重要であると考えられる。失敗した場合、教師は生徒と教師の関係に悪影響を及ぼす可能性のある人格攻撃を避けるべきである。
キーワード: 批判、フィードバック、賞賛、生徒と教師の関係
引用文献
The influence of teacher feedback on children’s perceptions of student-teacher relationships
Yvonne Skipper et al. PMID: 25847064 DOI: 10.1111/bjep.12070
Br J Educ Psychol. 2015 Sep;85(3):276-88. doi: 10.1111/bjep.12070. Epub 2015 Apr 6.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25847064/

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