軽症脳卒中および一過性脳虚血発作におけるチカグレロル-アスピリンとクロピドグレル-アスピリンの有効性および安全性に対する高血圧の影響について(RCT; CHANCE-2試験; Stroke. 2022)

two people holding pineapple fruit on their palm 02_循環器系
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軽症脳卒中および一過性脳虚血発作における脳卒中の再発において、高血圧症の影響はどのくらいあるのか?

高血圧は脳卒中の予後不良の危険因子であり、抗血小板薬による治療抵抗性と関連しています。しかし、軽症脳卒中および一過性脳虚血発作における脳卒中の再発において、高血圧症の有無により抗血小板薬の有効性が異なるのかについては、充分に検討されていません。

そこで今回は、CHANCE-2試験(Clopidogrel in High-Risk Patients With Acute Nondisabling Cerebrovascular Events-II)のランダム化試験データを用いて、高血圧の状態が異なる患者におけるチカグレロル-アスピリンとクロピドグレル-アスピリンの有効性と安全性の検討結果をご紹介します。

本試験では、CYP2C19機能喪失アレルを有する軽症脳卒中または一過性脳虚血発作患者6,412例を登録し、チカグレロル-アスピリン群またはクロピドグレル-アスピリン群にランダムに割り付けられました。高血圧の状態は、病歴、血圧、入院中の降圧薬によって、高血圧を有さない集団、新たに高血圧と診断された集団、過去に高血圧と診断された集団に分類されました。本試験の有効性と安全性の主要評価項目は、90日以内の脳卒中再発と中等度から重度の出血リスクでした。

試験結果から明らかになったことは?

脳卒中発生リスクチカグレロル-アスピリンクロピドグレル-アスピリンハザード比
(95%CI)
高血圧を有さない患者32例(4.8%)60例(7.2%)0.55
0.35〜0.86
新たに高血圧と診断された患者20例(5.3%)36例(9.1%)0.59
0.33〜1.07
過去に高血圧と診断された者139例(7.0%)147例(7.4%)0.93%
0.74〜1.18

チカグレロル-アスピリンは、クロピドグレル-アスピリンと比較して、高血圧を有さない患者(32例[4.8%]vs. 60例[7.2%]、ハザード比 0.55[95%CI 0.35〜0.86])において新たな脳卒中のリスクを低減しましたが、新たに高血圧と診断された患者(20例[5.3%]vs. 36例[9.1%]、ハザード比 0.59[95%CI 0.33〜1.07])、または過去に高血圧と診断された者 (139例[7.0%] vs. 147例[7.4%]、ハザード比 0.93%[95%CI 0.74〜1.18])では認められませんでした(交互作用P=0.04)。

出血リスクチカグレロル-アスピリンクロピドグレル-アスピリン
高血圧を有さない患者0.1%0.4%
新たに高血圧と診断された患者0.3%0.5%
過去に高血圧と診断された者0.4%0.3%
交互作用PP=0.50

チカグレロル-アスピリンの出血リスクは、高血圧の状態とは関連がありませんでした(0.1% vs. 0.4%、0.3% vs. 0.5%、0.4% vs. 0.3%、交互作用P=0.50)。治療法間の有効性と安全性のすべてのアウトカムに入院時の血圧値による差は認められませんでした。

コメント

高血圧は脳卒中の予後不良の危険因子であり、抗血小板薬による治療抵抗性と関連していますが、高血圧の有無による抗血小板薬の効果については充分に検討されていません。

さて、本試験結果によれば、軽症脳卒中または一過性脳虚血発作後、高血圧のない患者は高血圧の既往のある患者よりもチカグレロル-アスピリンにより有意に大きな利益を受け、新たに高血圧と診断された患者でも同様の利益傾向がみられました。

過去の報告(NEJM 2018)によれば、軽症脳卒中または一過性脳虚血発作後の患者集団において、5年間の脳卒中リスクは、推定累積率で9.5%であり、この集団における高血圧の併存は70.3%でした。患者集団が異なるため、この数値をそのまま流用できませんが、同様に傾向にあると仮定すると、軽症脳卒中または一過性脳虚血発作後の患者集団において、高血圧症を有さない患者は少ないと考えられます。

したがって、本試験(CHANCE-2)の結果をもって、チカグレロル-アスピリンが、クロピドグレル-アスピリンよりも優れているとは言えません。追試が求められます。

個人的には、CYP2C19機能喪失アレルを有する割合が多いアジア人における検討結果が気になるところです。続報に期待。

photo of person s palm

✅まとめ✅ CYP2C19機能喪失アレルを有する軽症脳卒中または一過性脳虚血発作後、高血圧のない患者は高血圧の既往のある患者よりもチカグレロル-アスピリンにより有意に大きな利益を受け、新たに高血圧と診断された患者でも同様の利益傾向がみられた。

根拠となった試験の抄録

背景:高血圧は脳卒中の予後不良の危険因子であり、抗血小板薬抵抗性と関連している。本研究では、CHANCE-2試験(Clopidogrel in High-Risk Patients With Acute Nondisabling Cerebrovascular Events-II)のランダム化試験データを用いて、高血圧の状態が異なる患者におけるチカグレロル-アスピリンとクロピドグレル-アスピリンの有効性と安全性を検討することを目的としている。

方法:CYP2C19機能喪失アレルを有する軽症脳卒中または一過性脳虚血発作患者6,412例を登録し、チカグレロル-アスピリン群またはクロピドグレル-アスピリン群にランダムに割り付けた。高血圧の状態は、病歴、血圧、入院中の降圧薬によって、高血圧なし、新たに診断された者、過去に診断された者に分類された。有効性と安全性の主要評価項目は、90日以内の脳卒中再発と中等度から重度の出血リスクであった。

結果:チカグレロル-アスピリンは、クロピドグレル-アスピリンと比較して、高血圧のない患者(32例[4.8%]vs. 60例[7.2%]、ハザード比0.55[95%CI 0.35〜0.86])において新たな脳卒中のリスクを低減したが、新たに高血圧と診断された患者(20例[5.3%]vs. 36例[9.1%]、ハザード比 0.59[95%CI 0.33〜1.07])、または過去に高血圧と診断された者 (139例[7.0%] vs. 147例[7.4%]、ハザード比 0.93%[95%CI 0.74〜1.18])では認められなかった(交互作用P=0.04)。チカグレロル-アスピリンの出血リスクは、高血圧の状態とは関連がなかった(0.1% vs. 0.4%、0.3% vs. 0.5%、0.4% vs. 0.3%、交互作用P=0.50)。治療法間の有効性と安全性のすべてのアウトカムに入院時の血圧値による差はなかった。

結論:CHANCE-2試験において、軽症脳卒中または一過性脳虚血発作後、高血圧のない患者は高血圧の既往のある患者よりもチカグレロル-アスピリンにより有意に大きな利益を受け、新たに高血圧と診断された患者でも同様の利益傾向がみられた。

試験登録:https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04078737
Clinicaltrials.gov; Unique identifier: NCT04078737

キーワード:クロピドグレル、高血圧症、軽症脳卒中、チカグレロル、一過性脳虚血発作

引用文献

Effect of Hypertension on Efficacy and Safety of Ticagrelor-Aspirin Versus Clopidogrel-Aspirin in Minor Stroke or Transient Ischemic Attack
Anxin Wang et al. PMID: 35656824 DOI: 10.1161/STROKEAHA.122.038662
Stroke. 2022 Jun 3;101161STROKEAHA122038662. doi: 10.1161/STROKEAHA.122.038662. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35656824/

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