血栓性脳卒中患者の主要心血管イベントに対するプラスグレル vs. クロピドグレル、どちらが良いのか?(DB-RCT; PRASTRO-III試験; J Atheroscler Thromb. 2022)

man and woman holding a giant chess piece 02_循環器系
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虚血性脳卒中再発のリスク因子を有する血栓性脳卒中患者の

非心原性塞栓性脳卒中の再発予防のために、日本の脳卒中診療ガイドラインでは、抗血小板療法としてシロスタゾール、クロピドグレル、アスピリンが推奨されています(脳卒中治療ガイドライン)。プラスグレルは、チエノピリジン骨格を有するアデノシン二リン酸受容体拮抗薬であり、クロピドグレルよりも速やかで強力、かつ安定した抗血小板作用を示します(PMID: 18056526)。プラスグレルは、経皮的冠動脈形成術を受けた心臓病患者の治療薬として、欧州、米国、日本で承認されています(PMID: 17982182PMID: 25342212PMID: 24759796)。

脳血管疾患領域では、国内の非心原性塞栓症脳梗塞患者を対象とした2つの多施設共同二重盲検比較試験(PRASTRO-I、PRASTRO-II)において、プラスグレルの有効性および安全性が確認されています(PMID: 30784555PMID: 32208397)。また、SOCRATES試験やCHANCE試験のデータから、頭蓋内・頭蓋外動脈狭窄による大動脈動脈硬化症患者には、急性期に強力な抗血小板療法が有効であることが示されています(PMID: 26330567PMID: 28238711)。PRASTRO-I試験のサブ解析(脳卒中のサブタイプ別)では、大動脈硬化と小血管閉塞を有する患者において、強い抗血小板作用を有するプラスグレルはクロピドグレルと同等の有効性を示しました(PMID: 32493881)。しかし、近年、塞栓性脳梗塞の可能性が指摘されている原因不明の脳梗塞患者においては、期待通りの結果が得られませんでした(PMID: 32493881)。血小板由来の血栓が原因と考えられる血栓性脳卒中患者では、虚血性脳卒中(致死性および非致死性)、心筋梗塞(MI;致死性および非致死性)および他の血管系原因による死亡の複合発生率は、プラスグレル群3.5%、クロピドグレル群4.3%でした(PMID: 30784555)。また、ハザード比(95%信頼区間[CI])は0.81(0.53〜1.22)であり、プラスグレル投与により19%のリスク低減が認められました(PMID: 30784555)。

そこで今回は、虚血性脳卒中再発のリスク因子を有する血栓性脳卒中患者において、プラスグレルとクロピドグレルの有効性と安全性を、虚血性脳卒中、心筋梗塞、他の血管系原因による死亡の複合発生率を有効性の指標、出血イベントの発生率を安全性の指標とし検討したPRASTRO-III試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

プラスグレル群
(118例)
クロピドグレル群
(112例、すべて75 mg投与)
複合イベント*の発生率6.8%
(95%CI 3.0~12.9%)
7.1%
(95%CI 3.1~13.6%)
リスク比
(プラスグレル/クロピドグレル)
0.949
(95%CI 0.369〜2.443
*投与開始から投与終了1日後までの虚血性脳卒中、心筋梗塞、その他の血管系の原因による死亡

プラスグレル群(N=118)およびクロピドグレル群(N=112、すべて75 mg投与)では、主要評価項目である複合イベントの発生率(95%信頼区間)はそれぞれ6.8%(3.0~12.9%)、7.1%(3.1~13.6%)であり、リスク比(プラスグレル/クロピドグレル)は0.949(0.369〜2.443)でした。

プラスグレル群
(118例)
クロピドグレル群
(112例、すべて75 mg投与)
生命を脅かす出血、大出血、
および臨床的に重要な出血の発生率
5.0%3.5%
全出血事象19.2%24.6%
有害事象の発生率76.7%82.5%

副次的な有効性評価項目も同様の傾向を示しました。生命を脅かす出血、大出血、および臨床的に重要な出血の発生率は、プラスグレル投与群で5.0%、クロピドグレル投与群で3.5%でした。全出血事象および有害事象の発生率は、それぞれ19.2%および24.6%、76.7%および82.5%でした。プラスグレルと因果関係のある重篤な有害事象は認められませんでした。

コメント

脳卒中の既往を有する患者においては、脳卒中の再発リスクが高いことから、再発予防戦略として抗血小板療法が実施されます。代表的な薬剤として、シロスタゾール、クロピドグレル、アスピリンがあり、なかでもクロピドグレルの使用量が多いです。また、比較的新しい薬剤としてプラスグレルがあり、クロピドグレルの課題である遺伝子多型による作用増減・薬物相互作用が、プラスグレルでは少ないことが報告されています。

さて、本試験結果によれば、虚血性脳卒中リスクを有する血栓性脳卒中の日本人患者において、投与開始から投与終了1日後までの虚血性脳卒中、心筋梗塞、その他の血管系の原因による死亡の複合発症率に差は認められませんでした。安全性についても、出血イベントや有害事象の発生に大差はありませんでした。また、CYP2C19のフェノタイプについて群間で調整されていることから、遺伝子多型の影響は少なかったのではないかと考えられます。治療コストを踏まえると、クロピドグレルで充分であると考えられます。どのような患者でプラスグレルを使用すると利益が最大化するのか、更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 虚血性脳卒中リスクを有する血栓性脳卒中の日本人患者において、投与開始から投与終了1日後までの虚血性脳卒中、心筋梗塞、その他の血管系の原因による死亡の複合発症率に差は認められなかった。安全性についても大差なかった。

根拠となった試験の抄録

目的:虚血性脳卒中のリスクを有する血栓性脳卒中患者を対象に、プラスグレルとクロピドグレルの有効性と安全性を検討する。

方法:本試験は、虚血性脳卒中のリスクを有する50歳以上の血栓性脳卒中患者を対象とした多施設共同、実薬対象、ランダム化、二重盲検、ダブルダミー、並行群間試験である。患者はプラスグレル(3.75 mg/日)またはクロピドグレル(75または50 mg/日)を24~48週間投与され、他の抗血小板薬は禁止された。
主要評価項目は、投与開始から投与終了1日後までの虚血性脳卒中、心筋梗塞(MI)、その他の血管系の原因による死亡の複合発症率とした。有効性の副次評価項目は、虚血性脳卒中、心筋梗塞、他の血管の原因による死亡、虚血性脳卒中および一過性脳虚血発作、脳卒中の発症率でした。安全性のエンドポイントは、出血イベントおよび有害事象(AE)であった。

結果:プラスグレル群(N=118)およびクロピドグレル群(N=112、すべて75 mg投与)では、主要評価項目である複合事象の発生率(95%信頼区間)はそれぞれ6.8%(3.0~12.9%)、7.1%(3.1~13.6%)であった。リスク比(プラスグレル/クロピドグレル)は0.949(0.369〜2.443)であった。副次的な有効性評価項目も同様の傾向を示した。生命を脅かす出血、大出血、および臨床的に重要な出血の発生率は、プラスグレル投与群で5.0%、クロピドグレル投与群で3.5%でした。全出血事象およびAEの発生率は、それぞれ19.2%および24.6%、76.7%および82.5%でした。プラスグレルと因果関係のある重篤なAEはなかった。

結論:プラスグレルとクロピドグレルの比較で5%のリスク低減が認められ、同等の有効性があることが示された。安全性については、大きな問題はなかった。

キーワード:Clopidogrel、Phase III、Prasugrel、Thrombotic stroke

引用文献

Efficacy and Safety of Prasugrel vs Clopidogrel in Thrombotic Stroke Patients With Risk Factors for Ischemic Stroke Recurrence: A Double-blind, Phase III Study (PRASTRO-III)
Takanari Kitazono et al. PMID: 35599000 DOI: 10.5551/jat.63473
J Atheroscler Thromb. 2022 May 21. doi: 10.5551/jat.63473. Online ahead of print.
— 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35599000/

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