急性心不全に対するガイドラインに沿った薬物療法の漸増は心不全による再入院や全死亡リスクを低減できますか?(RCT; STRONG-HF試験; Lancet. 2022)

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ガイドラインに沿った薬物療法の漸増は心不全患者の転帰に有益なのか?

急性心不全による入院後のガイドラインに基づく治療薬の用量と漸増ペースに関するエビデンスは不足しています。

そこで今回は、急性心不全で入院した18~85歳の患者で、ガイドラインに沿った薬物治療が充分に行われていない患者を対象に、ガイドラインベースの薬剤用量の漸増をする場合(高強度ケア)と、通常ケアをする場合で心不全による入院や全死亡リスクに差がないか検証した多国籍非盲検ランダム化並行群間試験(STRONG-HF)の結果をご紹介します。本試験では、14か国87病院から参加者が募集されました。

退院前に、適格患者は左室駆出率(≦40% vs. >40%)と国によって層別化され、層内のブロックサイズは30、サブブロックは2、4、6でランダムに配置され、通常ケアまたは高強度ケアのいずれかにランダムに割り付けられました(1:1)。通常ケアは地域の通常の診療に従ったもので、高強度ケアでは退院後2週間以内に推奨用量の100%まで治療薬を増量し、退院後2ヵ月間に4回の定期外来受診を行って臨床状態、検査値、N末プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)濃度が注意深くモニターされなした。

本試験の主要評価項目は、180日間の心不全による再入院または全死亡でした。有効性と安全性はintention-to-treat(ITT)集団(すなわち、有効に治療にランダムに割り付けられたすべての患者)において評価されました。主要評価項目は、180日目まで患者をフォローアップした病院で登録されたすべての患者で評価されました。主要評価項目に関するプロトコルの修正により、この修正以前に登録された患者の結果の重みづけは減らされました。

試験結果から明らかになったことは?

2018年5月10日から2022年9月23日の間に、1,641例の患者がスクリーニングされ、1,078例が高強度ケア(n=542)または通常ケア(n=536、ITT集団)にランダムに割り付けられました。平均年齢は63.0歳(SD 13.6)、1,078例中416例(39%)が女性、662例(61%)が男性、832例(77%)が白人またはコーカソイド、230例(21%)が黒人、12例(1%)がその他の人種、1例(1%未満)がアメリカ先住民、1例(1%未満)が東洋人(人種のデータが不足していたのは2例〔1%未満〕)でした。本試験は、予想以上に群間差が大きかったため、データ・安全性モニタリング委員会の勧告により早期に中止されました。

高強度ケア群通常ケア
レニン-アンジオテンシン受容体拮抗薬505例中278例
(55%)
497例中11例
(2%)
β遮断薬249例
(49%)
20例
(4%)
ミネラルコルチコイド受容体遮断薬423例
(84%)
231例
(46%)

データカットオフ(2022年10月13日)時点で、90日目までに、高強度ケア群の患者では通常ケアと比較して、処方された薬剤が最大用量まで増量された割合が高いことが示されました(レニン-アンジオテンシン受容体拮抗薬 505例中278例[55%] vs. 497例中11例[2%]、β遮断薬 249例[49%] vs. 20例[4%]、ミネラルコルチコイド受容体遮断薬 423例[84%]vs. 231例[46%])。

高強度ケア群通常ケア調整リスク差 RD
リスク比 RR
(95%CI)
180日目までの
心不全再入院または全死亡
506例中74例
(15.2%)
502例中109例
(23.3%)
RD 8.1%
(2.9〜13.2)
p=0.0021

RR 0.66
(0.50 〜 0.86)

90日目までに、血圧、脈拍、NYHAクラス、体重、NT-proBNP濃度は、高強度ケア群のほうが通常ケア群よりも低下していました。180日目までの心不全再入院または全死亡は、高強度ケア群では506例中74例(減量調整済みカプラン・マイヤー推定値 15.2%)、通常ケア群では502例中109例(23.3%)に認められました(調整リスク差 8.1% [95%CI 2.9〜13.2]; p=0.0021; リスク比 0.66 [95%CI 0.50 〜 0.86])。

90日後までの有害事象は、通常ケア群(536例中158例[29%])よりも高強度ケア群(542例中223例[41%])で多く発生しましたが、重篤な有害事象(88例[16%] vs. 92例[17%])と致命的な有害事象の発生率は各群で同程度でした(25例[5%] vs. 32例[6%])。

コメント

心不全治療において、治療薬の迅速な用量漸増が求められますが、その治療効果については充分に検証されていません。

さて、本試験結果によれば、急性心不全入院後にガイドラインに沿った治療薬を迅速に増量し、綿密なフォローアップを行う集中治療戦略は、通常治療と比較して、心不全の症状を軽減し、QOLを改善し、180日間の全死亡または心不全再入院のリスクを低減することが示されました。

有害事象の内訳が知りたいところですが、重篤あるいは致命的な有害事象の発生率については通常治療と同様であることから、ベネフィットがリスクを上回ると考えられます。心不全は入退院を繰り返すことで病態の悪化、死亡リスクが増加することが報告されていることから、心不全増悪による入院を防ぐことが肝要です。治療に忍容性があれば最大用量まで漸増した方が良いと考えられます。

続報に期待。

a diagnosis form on a chemistry laboratory safety rules guidelines

✅まとめ✅ 急性心不全入院後にガイドラインに沿った治療薬を迅速に増量し、綿密なフォローアップを行う集中治療戦略は、通常治療と比較して、心不全の症状を軽減し、QOLを改善し、180日間の全死亡または心不全再入院のリスクを低減する。

根拠となった試験の抄録

背景:急性心不全による入院後のガイドラインに基づく薬物療法の用量と漸増ペースに関するエビデンスは乏しい。

方法:この多国籍非盲検ランダム化並行群間試験(STRONG-HF)では、急性心不全で入院した18~85歳の患者で、ガイドラインに沿った薬物治療が充分に行われていない患者を、14か国87病院から募集した。退院前に、適格患者は左室駆出率(≦40% vs. >40%)と国によって層別化され、層内のブロックサイズは30、サブブロックは2、4、6でランダムに配置され、通常の治療または高強度治療のいずれかにランダムに割り付けられた(1:1)。通常ケアは地域の通常の診療に従ったもので、高強度ケアでは退院後2週間以内に推奨用量の100%まで治療薬を増量し、退院後2ヵ月間に4回の定期外来受診を行って臨床状態、検査値、N末プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)濃度を注意深くモニターした。
主要評価項目は、180日間の心不全による再入院または全死亡とした。有効性と安全性はintention-to-treat(ITT)集団(すなわち、有効に治療にランダムに割り付けられたすべての患者)において評価された。主要評価項目は、180日目まで患者をフォローアップした病院で登録されたすべての患者で評価された。主要評価項目に関するプロトコルの修正により、この修正以前に登録された患者の結果の重みづけは減らされた。本試験はClinicalTrials.gov の NCT03412201に登録されており、現在は終了している。

所見で:2018年5月10日から2022年9月23日の間に、1,641例の患者がスクリーニングされ、1,078例が高強度ケア(n=542)または通常ケア(n=536、ITT集団)にランダムに割り付けられることに成功した。平均年齢は63.0歳(SD 13.6)、1,078例中416例(39%)が女性、662例(61%)が男性、832例(77%)が白人またはコーカソイド、230例(21%)が黒人、12例(1%)がその他の人種、1例(1%未満)がアメリカ先住民、1例(1%未満)が東洋人(人種のデータが不足していたのは2例〔1%未満〕)である。本試験は、予想以上に群間差が大きかったため、データ・安全性モニタリング委員会の勧告により早期に中止された。
データカットオフ(2022年10月13日)時点で、90日目までに、高強度ケア群の患者の方が、処方された薬剤の最大用量まで増量された割合が高かった(レニン-アンジオテンシン受容体拮抗薬 505例中278例[55%] vs. 497例中11例[2%]、β遮断薬 249例[49%] vs. 20例[4%]、ミネラルコルチコイド受容体遮断薬 423例[84%]vs. 231例[46%])。90日目までに、血圧、脈拍、NYHAクラス、体重、NT-proBNP濃度は、高強度ケア群のほうが通常ケア群よりも低下していた。180日目までの心不全再入院または全死亡は、高強度ケア群では506例中74例(減量調整済みカプラン・マイヤー推定値 15.2%)、通常ケア群では502例中109例(23.3%)に認められた(調整リスク差 8.1% [95%CI 2.9〜13.2]; p=0.0021; リスク比 0.66 [95%CI 0.50 〜 0.86])。90日後までの有害事象は、通常ケア群(536例中158例[29%])よりも高強度ケア群(542例中223例[41%])で多く発生したが、重篤な有害事象(88例[16%] vs. 92例[17%])と致命的な有害事象の発生率は各群で同程度であった(25例[5%] vs. 32例[6%])。

解釈:急性心不全入院後にガイドラインに沿った治療薬を迅速に増量し、綿密なフォローアップを行う集中治療戦略は、通常治療と比較して、心不全の症状を軽減し、QOLを改善し、180日間の全死亡または心不全再入院のリスクを低減するため、患者に受け入れられやすいものであった。

資金提供:Roche Diagnostics社

引用文献

Safety, tolerability and efficacy of up-titration of guideline-directed medical therapies for acute heart failure (STRONG-HF): a multinational, open-label, randomised, trial
Alexandre Mebazaa et al. PMID: 36356631 DOI: 10.1016/S0140-6736(22)02076-1
Lancet. 2022 Nov 4;S0140-6736(22)02076-1. doi: 10.1016/S0140-6736(22)02076-1. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36356631/

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