イスラエルにおけるCOVID-19に対するBNT162b2ワクチン・ブースター投与の効果はどのくらい?(データベース研究; NEJM 2021)

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Pfizer-BioNTech社製 mRNAワクチン(BNT162b2)の3回目(ブースター)投与の有効性は?

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染症に対する有効なワクチンを迅速に開発し、一般住民に普及させることは、ウイルス感染と疾病負担の両方を軽減するための戦略として非常に有効であることが証明されています。イスラエルでは、全国的なキャンペーンを早期に開始した結果、完全なワクチン接種(すなわち、2回のワクチン接種)が行われました。その結果、コロナウイルス2019感染症(COVID-19)の発生率は、2021年1月中旬には100万人あたり約900件/日だったのが、2021年6月には100万人あたり2件/日以下にまで低下しました(Our World in Data. 2020)。しかし、懸念される新たな亜種(特にデルタ型)の出現により、最近、感染が確認されたり、重症化したりするケースが再燃しています(プレプリント1)。6月上旬には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で確認されたCOVID-19の症例は1日あたり20件以下で、そのうち約半数は海外からの帰国者で診断されていました。この時点で、アクティブな重症患者数は約20例に達していました。8月末には、1日に1万人以上のPCR確認症例が検出され、600例以上の重症患者が入院しました。

デルタ型の感染が多発している原因としては、デルタ型の感染力の増大(MHRA)、ワクチンによって得られた免疫力の低下(プレプリント1プレプリント2)、デルタ型の免疫回避能力の増大(PMID: 34090624)などが考えられますが、中でも後者の2つはワクチンの効果を低下させる直接的な要因となります。デルタ型の発生に関するイスラエルのデータを分析したところ、高度な免疫力の低下が見られましたプレプリント1プレプリント2)。

デルタ型の問題に対処し、医療システムの負担を軽減するため、イスラエル当局は、まず2021年7月12日に高リスク集団に、次いで2021年7月30日に60歳以上の集団にブースターを投与することを承認しました。初期の研究では、BNT162b2のブースター投与により、2回目の投与後の抗体中和レベルと比較して、平均して約10倍に増加することが示唆されています(Pfizer)。中和抗体価が増加することで、感染症や重篤な疾患に対する保護効果が高まると考えられています(PMID: 34002089)が、実世界での有効性という観点からは、そのような効果の大きさはまだ不明です。

そこで今回は、イスラエル保健省データベースの初期データを用いて、60歳以上で3回目のブースター接種を受けた被験者(ブースター群)と、ワクチンを2回接種した被験者との間で、感染が確認された割合と重症化した割合を評価した試験結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

2021年7月30日から8月31日までの期間に、イスラエル保健省のデータベースから、60歳以上で5ヵ月以上前に完全なワクチン接種を受けていた(すなわち、BNT162b2を2回接種していた)1,137,804例に関するデータを抽出しました。

ブースター投与後12日以上経過した時点で、感染が確認された割合は、非投与群に比べてブースター投与群で11.3倍(95%信頼区間[CI] 10.4~12.3)低く、重症化した割合は19.5倍(95%CI 12.9~29.5)低いことが示されました。二次解析では、ワクチン接種後12日以上経過してから感染が確認された割合は、4~6日経過してからの割合よりも5.4倍(95%信頼区間 4.8~6.1)低いことが示されました。

2回接種3回接種率比
(95%CI)
感染者数11.3(10.4〜12.3)
 症例数4,439934
 リスクのある人数・日5,193,82510,603,410
重篤な疾患19.5(12.9〜29.5)
 症例数29429
 リスクのある人数・日4,574,4396,265,361

コメント

各国でCOVID-19 mRNAワクチンの3回目接種が検討されています。なかでもイスラエルは最も早く3回目接種の実施を承認しました。

さて、本試験結果によれば、60歳以上かつ5か月以上前にBNT162b2ワクチンを2回接種した集団において、3回目の接種(ブースター投与)により、接種しなかった集団と比較して、COVID-19発症および重症化を大幅に下げることが明らかとなりました。ただし、本試験の対象は60歳以上の集団が対象です。60歳未満の集団においても、同様な結果が得られるのかは不明です。また本試験の追跡期間はブースター接種12日後から7日間と比較的短期間です。より長期の検証結果が待たれます。

今後の報告に期待。

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✅まとめ✅ 60歳以上かつ5か月以上前にBNT162b2ワクチンを2回接種した集団において、BNT162b2ワクチンのブースター(3回目)を接種した場合、COVID-19と重症化が確認される割合が大幅に低いことが明らかとなった

根拠となった試験の抄録

背景:2021年7月30日、イスラエルにおいて、60歳以上で5ヵ月以上前に2回目のワクチンを接種した被験者に対して、BNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech社製)の3回目(ブースター)投与が承認された。コロナウイルス病2019(COVID-19)の確定率と重症化率に対するブースター投与の効果についてのデータが必要である。

方法:2021年7月30日から8月31日までの期間に、イスラエル保健省のデータベースから、60歳以上で5ヵ月以上前に完全なワクチン接種を受けていた(すなわち、BNT162b2を2回接種していた)1,137,804例に関するデータを抽出した。
主要解析では、12日以上前にブースター投与を受けた被接種者(ブースター群)と受けていない被験者(非ブースター群)の間で、COVID-19が確認された割合と重症化した割合を比較した。また、副次的な解析として、ブースター投与の4~6日後の感染率を、少なくとも12日後の感染率と比較して評価した。すべての解析において、考えられる交絡因子を調整した後、ポアソン回帰を使用した。

結果:ブースター投与後12日以上経過した時点で、感染が確認された割合は、非投与群に比べてブースター投与群で11.3倍(95%信頼区間[CI] 10.4~12.3)低く、重症化した割合は19.5倍(95%CI 12.9~29.5)低かった。
二次解析では、ワクチン接種後12日以上経過してから感染が確認された割合は、4~6日経過してからの割合よりも5.4倍(95%信頼区間 4.8~6.1)低かった。

結論:60歳以上で、5か月以上前にBNT162b2ワクチンを2回接種した参加者を対象とした本研究では、BNT162b2ワクチンのブースター(3回目)を接種した被験者では、COVID-19と重症化が確認される割合が大幅に低いことが明らかとなった。

引用文献

Protection of BNT162b2 Vaccine Booster against Covid-19 in Israel
Yinon M Bar-On et al. PMID: 34525275 DOI: 10.1056/NEJMoa2114255
N Engl J Med. 2021 Sep 15. doi: 10.1056/NEJMoa2114255. Online ahead of print.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34525275/

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