Effect of Digoxin vs Bisoprolol for Heart Rate Control in Atrial Fibrillation on Patient-Reported Quality of Life: The RATE-AF Randomized Clinical Trial
Dipak Kotecha et al.
JAMA. 2020 Dec 22;324(24):2497-2508. doi: 10.1001/jama.2020.23138.
PMID: 33351042
PMCID: PMC7756234
試験の重要性
永続性心房細動患者(permanent atrial fibrillation)、特に心不全を併発している患者において心拍コントロール療法を選択することを支持するエビデンスはほとんどない。
目的
低用量ジゴキシンとビソプロロール(β遮断薬)を比較する。
試験デザイン、設定、および参加者
60歳以上かつ永続的な心房細動(洞調律の回復計画がないと定義)及び呼吸困難がニューヨーク心臓協会クラス II 以上に分類された患者 160例を含むランダム化、非盲検、盲検エンドポイント臨床試験。
患者は2016年から2018年にかけて英国の病院3施設及びプライマリーケア診療所から募集され、最終フォローアップは2019年10月に実施された。
介入
ジゴキシン(n=80;用量範囲 62.5~250μg/日;平均用量 161μg/日)
ビソプロロール(n=80;用量範囲 1.25~15mg/日;平均用量 3.2mg/日)。
*日本での承認用量(一部抜粋)
ジゴキシン
(1)急速飽和療法(飽和量:1.0〜4.0mg)
初回0.5〜1.0mg、以後0.5mgを6〜8時間毎に経口投与し、十分効果のあらわれるまで続ける。
(2)比較的急速飽和療法を行うことができる。
(3)緩徐飽和療法を行うことができる。
(4)維持療法
1日0.25〜0.5mg(250〜500μg)を経口投与する。
ビソプロロール
(1)虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全
1日1回0.625mgから開始する。
1日1回0.625mgの用量で2週間以上投与し、忍容性がある場合には、1日1回1.25mgに増量する。
その後4週間以上の間隔で忍容性をみながら段階的に増量し、忍容性がない場合は減量する。
通常、維持量として1日1回1.25〜5mgを経口投与する。最高投与量は1日1回5mgを超えないこと。
(2)頻脈性心房細動
1日1回2.5mgから開始し、効果が不十分な場合には1日1回5mgに増量する。最高投与量は1日1回5mgを超えないこと。
主要アウトカムおよび測定法
主要エンドポイントは、36項目のShort Form Health Survey physical component summary score(SF-36 PCS)を用いた6ヵ月後の患者報告によるQOL(スコアが高いほど良好;範囲 0~100)であり、minimal clinically important difference(MCID)は0.5SDとした。
副次的エンドポイントは、6ヵ月時点で17項目(安静時心拍数、修正欧州心臓リズム協会(European Heart Rhythm Association, EHRA)の症状分類、N末端プロ脳内ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)レベルを含む)、12ヵ月時点で20項目、有害事象(AE)の報告であった。
結果
・患者160例(平均年齢 76[SD 8]歳、女性 74[46%]、平均ベースライン心拍数 100/分[SD 18/分])のうち、145例(91%)が試験を終了し、150例(94%)が主要アウトカムの解析に含まれた。
・主要アウトカムである6ヵ月後の正常化SF-36 PCSに有意差はなかった。
- 平均値 :ジゴキシン 31.9[SD 11.7] vs. ビソプロロール 29.7[11.4]
- 調整後平均差:1.4[95%CI -1.1~3.8];P=0.28
・6ヵ月後の17の副次的アウトカムのうち、安静時心拍数を含む16のアウトカムについては、グループ間に有意差は認められなかった。
- 平均値:ジゴキシン 76.9/分[SD 12.1/分] vs. ビソプロロール 74.8/分[11.6/分]
- 差 :1.5/分[95%CI -2.0~5.1/分];P = 0.40
・修正EHRAクラスは、6ヵ月目の時点でグループ間で有意に異なっていた;ジゴキシン群では53%の患者が2クラスの改善を報告したのに対し、ビソプロロール群では9%の患者が2クラスの改善を報告した。
- 修正オッズ比 10.3[95%CI 4.0~26.6];P<0.001
・12ヵ月目のアウトカムは20例中8例で有意差が認められ(すべてジゴキシンで有利)、ジゴキシン群ではNT-proBNPレベルの中央値が960pg/mL(中間値範囲 626~1531pg/mL)であったのに対し、ビソプロロール群では1250pg/mL(中間値範囲 847~1890pg/mL)であった。
- 幾何学的平均比 0.77[95%CI 0.64~0.92];P = 0.005
・有害事象(Adverse Event, AE)はジゴキシンの方が少なかった;ジゴキシン群では20例(25%)の患者で少なくとも1回のAEが発生したのに対し、ビソプロロール群では51例(64%)であった(P < 0.001)。治療に関連したAEはジゴキシン群で29件、重篤なAEは16件であったのに対し、ビソプロロール群ではそれぞれ142件、37件であった。
結論と関連性
永久的な心房細動と心不全の症状を有する患者に低用量ジゴキシンまたはビソプロロールが投与されたが、6ヵ月後のQOLに統計学的に有意な差は認められなかった。
これらの所見は、他のエンドポイントに基づいて治療法を決定する可能性を支持するものである。
コメント
心房細動の治療において、基本的には抗凝固療法を行います。これに加え、レートコントロールまたはリズムコントロールを選択します。
心房細動患者では、しばしば心不全の症状を合併することが報告されており、この場合は新負荷の軽減も期待し、β遮断薬によるレートコントロールを選択することが多いです。しかし、心不全の症状を呈する永続性心房細動患者におけるレートコントロール実施のエビデンスは、まだまだ充分ではありません。一方、ジゴキシンをはじめとする強心配糖体は、心筋収縮力の増大により心拍出量を増大させ、全身循環、特に腎血行の改善により尿量が増大する結果、浮腫が減少し、心臓の前負荷の増大も改善されることから、ニューヨーク心臓協会クラス(NYHA)クラス分類 II 以上の慢性心不全に使用されています。
以上のことから、心不全の症状を呈する永続性心房細動患者におけるβ遮断薬の有効性・安全性の検証が求められています。
さて、本試験結果によれば、60歳以上かつ永続的な心房細動(洞調律の回復計画がないと定義)及びNYHAクラス分類 II 以上の患者を対象に低用量ジゴキシンとビソプロロールを比較した結果、6ヵ月後のQOL評価に差は認められませんでした。
どちらを選択しても、患者報告によるQOLに差はないようですので、患者背景により選択すれば良さそうです。著者も述べている通り、他のアウトカムを検証した臨床試験の結果を考慮し、どちらの治療を選択するか決定すれば良いと考えられます。
✅まとめ✅
永続性心房細動および心不全症状を有する患者において、低用量ジゴキシンまたはビソプロロールの投与は、6ヵ月後のQOLに統計学的有意差は認められなかった
コメント
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