Efficacy and safety of abatacept in active primary Sjögren’s syndrome: results of a phase III, randomised, placebo-controlled trial
Alan N Baer et al.
Ann Rheum Dis. 2020 Nov 9; annrheumdis-2020-218599.
doi: 10.1136/annrheumdis-2020-218599. Online ahead of print.
PMID: 33168545
DOI: 10.1136/annrheumdis-2020-218599
Keywords: Sjogren’s syndrome; autoimmune diseases; therapeutics.
目的
活動性原発性シェーグレン症候群(pSS)を有する成人を対象とした第 III 相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験において、アバセプ トの有効性と安全性を評価すること。
方法
適格患者(中等度から重度のpSS [2016 ACR/European League Against Rheumatism (EULAR) criteria]、EULARシェーグレン症候群疾患活動指数[ESSDAI]≧5、抗SS関連抗原A/抗Ro抗体陽性)は、毎週アバセプ ト125mgまたはプラセボを皮下投与し、169日間投与した後、非盲検で365日目まで延長し追跡した。
一次エンドポイントは169日目のESSDAIのベースラインからの平均変化量であった。
主要な副次評価項目は、169日目におけるEULARシェーグレン症候群患者報告指数(ESSPRI)および刺激性唾液流量(SWSF)のベースラインからの平均変化だった。
その他の副次的臨床エンドポイントには、腺機能および患者が報告した転帰が含まれていた。
選択されたバイオマーカーと免疫細胞の表現型が調査された。また安全性もモニターされた。
結果
・ランダム化された患者 187例のうち、168例が二重盲検期間を終了し、165例が非盲検期間へ継続した。
・ベースラインの平均値(SD)はESSDAIが9.4(4.3)、ESSPRIの合計値は6.5(2.0)であった。
・主要評価項目(ESSDAI -3.2 アバセプト vs プラセボ -3.7、p=0.442)および主要副次評価項目(ESSPRI、p=0.337、SWSF、p=0.584)については、統計的有意差は認められなかった。
・169日目におけるアバセプトのプラセボに対する臨床的有用性は、他の臨床的エンドポイントおよびPROエンドポイントでは認められなかった。
・ベースラインとの比較では、いくつかの疾患関連バイオマーカー(IgG、IgA、IgM-リウマチ因子を含む)および病原性細胞サブポピュレーション(ポストホック解析)において、アバセプトはプラセボと比較して有意な差を示した。
・新たな安全性シグナルは確認されなかった。
結論
生物学的活性が認められたにもかかわらず、中等度から重度のpSS患者を対象としたアバタセプト治療は、プラセボと比較して有意な臨床効果は得られなかった。
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シェーグレン症候群とは?
疾患名の由来
シェーグレン症候群は、1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンの発表した論文にちなんでその疾患名がつけられました。
日本では1977年の厚生労働省研究班の研究により、医師の間で広く認識されるようになったようです。
疫学
シェーグレン症候群は、主として中年女性に好発する涙腺と唾液腺を標的とする臓器特異的な自己免疫疾患ですが、全身性の臓器病変を伴う全身性の自己免疫疾患でもあります。
シェーグレン症候群は、膠原病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、混合性結合組織病) に合併する二次性と、これらの合併のない原発性に分類されます。
原発性シェーグレン症候群の病変は以下の3つに分けることができます。
- 目の乾燥(ドライアイ)、口腔乾燥の症状のみがある場合で、ほとんど健康に暮らしている患者もいますが、ひどい乾燥症状に悩まされている患者が全体の約45%いるようです。
- 何らかの全身性臓器病変を伴い、諸臓器へのリンパ球の浸潤 、増殖病変や自己抗体 、高γグロブリン血症などによる病変を伴う患者が約50%を占めます。
- 悪性リンパ腫や原発性マクログロブリン血症を発症した状態が残りの約 5%です。経過をみると、約半数の患者では10年以上経っても何の変化もないが、半数の患者では10年以上経過すると何らかの検査値異常や新規の病変がみられます。
症状
- 目の乾燥(ドライアイ)
涙が出ない、ごろごろする、かゆい、痛い、疲れる、霞む、まぶしい、目やにがたまる、悲しい時でも涙が出ないなど。 - 口腔乾燥(ドライマウス)
渇く、唾液が出ない、摂食時によく水を飲む、口が渇いて日常会話が続けられない、味がよくわからない、口内が痛む、外出時水筒を持ち歩、夜間に飲水のために起きる、虫歯が多くなったなど。 - 鼻腔の乾燥
鼻腔内が渇く、鼻の中にかさぶたが出来る、鼻出血があるなど。 - その他
唾液腺の腫れと痛み、息切れ、熱が出る、関節痛、毛が抜ける、肌荒れ、夜間の頻尿、紫斑、皮疹、レイノー現象、アレルギー、日光過敏、膣乾燥(性交不快感)など。 - 全身症状として疲労感、記憶力低下、頭痛は特に多い症状で、めまい、集中力低下、気分が移りやすい 、うつ傾向など。
診断
以下の4項目のうち、2項目以上が陽性であればシェーグレン症候群と診断されます。
- 口唇小唾液腺または涙腺の生検組織でリンパ球の浸潤が認められる。
- ガムテスト、サクソンテストで唾液分泌量の低下が示され、シンチグラフィーでの異常、または唾液腺造影で異常が認められる。
- シャーマーテストで涙の分泌低下が示され、ローズベンガル試験または蛍光色素試験で角結膜の上皮障害が認められる。
- 抗SS‐A抗体あるいは抗SS‐B抗体の陽性が認められる。
アバタセプトとは?
アバタセプトは抗原提示細胞表面のCD80/CD86に結合することで、CD28を介した共刺激シグナルを阻害します。その結果、T細胞の活性化及びサイトカイン産生を抑制(抗原特異的なナイーブT細胞及びメモリーT細胞の増殖を減弱させ、IL-2、TNF-α及びIFN-γなどの炎症性サイトカインの産生を抑制)し、さらに他の免疫細胞の活性化あるいは関節中の結合組織細胞の活性化によるマトリックスメタロプロテアーゼ、炎症性メディエーターの産生を抑制すると考えられます。
今回の試験から明らかになったことは?+α
さて、本試験結果によれば、シェーグレン症候群に対するアバタセプト使用は、プラセボと比較して、169日目のEULARシェーグレン症候群疾患活動指数[ESSDAI]に差が認められませんでした。一方、シェーグレン症候群に関するバイオマーカー(ベースラインからの変化)については、アバタセプト群で有意に低下しています。より長期の試験では、ESSDAIに変化が認められるかもしれませんが、今後、同様の試験を実施しうるのかは不明です。
一方、過去に行われた日本の前向き観察研究(ROSE trial)において、関節リウマチ合併の二次性シェーグレン症候群に対するアバタセプトの有効性が明らかになっています。ただし現時点(2020年12月)において、シェーグレン症候群に対するアバタセプト(オレンシア®️)使用は、適応外使用です。
シェーグレン症候群のうち、どのような患者でアバタセプトの恩恵が最大限得られるのかについて明らかにして欲しいところ。続報に期待。
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