薬剤誘発性アカシジアに対して有効な治療薬とは?
アカシジア(akathisia)は静座不能症と訳され、座位の姿勢を保つのが困難となる症状であり、そわそわと動き回るといった特徴があります。アカシジアのほとんどは薬剤誘発性であり、特に抗精神病薬によるアカシジア(Antipsychotic-induced akathisia, AIA)は抗精神病薬治療を受けた患者の14~35%にみられ、統合失調症患者における自殺の増加やアドヒアランスの低下と関連していることが報告されています。しかし、AIAに対する治療効果を比較するための包括的レビューやネットワークメタ解析は行われていません。
そこで今回は、AIA治療に関する有効性を比較することを目的に実施されたネットワークメタ解析の結果をご紹介します。
本解析では複数の研究者により3つのデータベース(MEDLINE、Web of Science、Google Scholar)が系統的に検索され、2023年5月30日〜6月18日にAIAの治療薬として有効な薬剤をプラセボまたは別の治療薬と比較した二重盲検ランダム化臨床試験(RCT)が対象となりました。
選択された試験は、アカシジアの基準を満たす抗精神病薬で治療された患者において、AIAに対する補助薬をプラセボまたは補助治療と比較したRCT、サンプルサイズが10例以上のRCT、試験中に追加薬剤が投与されなかった試験のみ、検証されたアカシジアスコアを用いたRCTでした。主要アウトカム(エンドポイント時のアカシジアスコア)のデータが欠落している試験は除外されました。
解析は、PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)ガイドラインに従い、ランダム効果モデルを用いたペアワイズおよびネットワークメタ解析により標準化平均差(SMD)が推定され、データ抽出と統合が行われました。
本解析の主要アウトカムは、最終エンドポイントにおけるアカシジアの重症度でした。
試験結果から明らかになったことは?
492例が参加した15件の試験で、10種類の治療法がプラセボと比較されました。
標準化平均差(SMD) | |
ミルタザピン(15mg/日、5日以上) | SMD -1.20、95%CI -1.83 ~ -0.58) |
ビペリデン(6mg/日、14日以上) | SMD -1.01、95%CI -1.69 ~ -0.34) |
ビタミンB6(600~1200mg/日、5日以上) | SMD -0.92、95%CI -1.57 ~ -0.26) |
トラゾドン(50mg/日、5日以上) | SMD -0.84、95%CI -1.54 ~ -0.14) |
ミアンセリン(15mg/日、5日以上) | SMD -0.81、95%CI -1.44 ~ -0.19) |
プロプラノロール(20mg/日、6日以上) | SMD -0.78、95%CI -1.35 ~ -0.22) |
ミルタザピン(15mg/日、5日以上;SMD -1.20、95%CI -1.83 ~ -0.58)、ビペリデン(6mg/日、14日以上;SMD -1.01、95%CI -1.69 ~ -0.34)、ビタミンB6(600~1200mg/日、5日以上;SMD -0.92、95%CI -1.57 ~ -0.26)、トラゾドン(50mg/日、5日以上;SMD -0.84、95%CI -1.54 ~ -0.14)、ミアンセリン(15mg/日、5日以上;SMD -0.81、95%CI -1.44 ~ -0.19)、およびプロプラノロール(20mg/日、6日以上;SMD -0.78、95%CI -1.35 ~ -0.22)は、プラセボよりも高い有効性と関連しており、異質性は低~中程度でした(I2=34.6%、95%CI 0.0~71.1%)。
一方、シプロヘプタジン、クロナゼパム、ゾルミトリプタン、バルプロ酸は有意な効果を示しませんでした。
バイアスリスクは、8試験が低リスク、2試験が中リスク、5試験が高リスクと評価されました。感度分析では、シプロヘプタジンとプロプラノロールを除くすべての薬物について、概ね同様の結果が確認されました。
効果量と精神病の重症度との関連はみられませんでした。
コメント
アカシジアの発現頻度については、国や地域、臨床試験結果により大きな差異があり、定型抗精神病薬では平均 20~40%と報告されています。非定型抗精神病薬によるアカシジア発現頻度は、リスペリドンが22.9%、ペロスピロンが40%、クエチアピンが5.2%、オランザピンが17.6%であることが各薬剤の長期試験で報告されています。しかし、これらの結果は各薬剤の臨床試験で示された結果であることから直接、間接比較することができません。
さて、系統的レビューおよびネットワークメタ解析の結果、ミルタザピン、ビペリデン、ビタミンB6が抗精神病薬によるアカシジアに対する最大の有効性と関連しており、ビタミンB6は最も優れた有効性と忍容性プロファイルを有していました。トラゾドン、ミアンセリン、プロプラノロールは、有効性と忍容性プロファイルがやや劣るものの、有効な代替薬であることが示されました。
非定型抗精神病薬が登場してから、定型抗精神病薬と比較して、アカシジア発生頻度の減少が報告されています。一方で、アカシジアの過小診断についても指摘されています。そのため、よりアカシジアの発生リスクの低い薬剤の使用が求められます。定期的なエビデンスの更新が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 系統的レビューおよびネットワークメタ解析では、ミルタザピン、ビペリデン、ビタミンB6が抗精神病薬によるアカシジアに対する最大の有効性と関連しており、ビタミンB6は最も優れた有効性と忍容性プロファイルを有していた。トラゾドン、ミアンセリン、プロプラノロールは、有効性と忍容性プロファイルがやや劣るものの、有効な代替薬として現れた。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:抗精神病薬によるアカシジア(Antipsychotic-induced akathisia, AIA)は抗精神病薬治療を受けた患者の14~35%にみられ、統合失調症患者における自殺の増加やアドヒアランスの低下と関連している。しかしながら、AIAに対する治療効果を比較するための包括的レビューやネットワークメタ解析は行われていない。
目的:AIA治療に関する有効性を比較すること。
データ情報源:3つのデータベース(MEDLINE、Web of Science、Google Scholar)を複数の研究者により系統的に検索し、2023年5月30日から6月18日の間に、AIAの治療薬として有効な薬剤をプラセボまたは別の治療薬と比較した二重盲検ランダム化臨床試験(RCT)を検索した。
試験の選択:選択された試験は、アカシジアの基準を満たす抗精神病薬で治療された患者において、AIAに対する補助薬をプラセボまたは補助治療と比較したRCT、サンプルサイズが10例以上のRCT、試験中に追加薬剤が投与されなかった試験のみ、検証されたアカシジアスコアを用いたRCTであった。主要アウトカム(エンドポイント時のアカシジアスコア)のデータが欠落している試験は除外した。
データ抽出と統合:ランダム効果モデルを用いたペアワイズおよびネットワークメタ解析により標準化平均差(SMD)を推定し、データ抽出と統合を行った。PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)ガイドラインに従った。
主要アウトカムと評価基準:主要アウトカムは、最終エンドポイントにおけるアカシジアの重症度とした。
結果:492例が参加した15件の試験で、10種類の治療法がプラセボと比較された。ミルタザピン(15mg/日、5日以上;SMD -1.20、95%CI -1.83 ~ -0.58)、ビペリデン(6mg/日、14日以上;SMD -1.01、95%CI -1.69 ~ -0.34)、ビタミンB6(600~1200mg/日、5日以上;SMD -0.92、95%CI -1.57 ~ -0.26)、トラゾドン(50mg/日、5日以上;SMD -0.84、95%CI -1.54 ~ -0.14)、ミアンセリン(15mg/日、5日以上;SMD -0.81、95%CI -1.44 ~ -0.19)、およびプロプラノロール(20mg/日、6日以上;SMD -0.78、95%CI -1.35 ~ -0.22)は、プラセボよりも高い有効性と関連しており、異質性は低~中程度であった(I2=34.6%、95%CI 0.0~71.1%)。シプロヘプタジン、クロナゼパム、ゾルミトリプタン、バルプロ酸は有意な効果を示さなかった。バイアスリスクは、8試験が低リスク、2試験が中リスク、5試験が高リスクと評価された。感度分析では、シプロヘプタジンとプロプラノロールを除くすべての薬物について、概ね同様の結果が確認された。効果量と精神病の重症度との関連はみられなかった。
結論と関連性:この系統的レビューおよびネットワークメタ解析では、ミルタザピン、ビペリデン、ビタミンB6が抗精神病薬によるアカシジアに対する最大の有効性と関連しており、ビタミンB6は最も優れた有効性と忍容性プロファイルを有していた。トラゾドン、ミアンセリン、プロプラノロールは、有効性と忍容性プロファイルがやや劣るものの、有効な代替薬として現れた。これらの所見は、処方者が抗精神病薬によるアカシジアの治療に適切な薬剤を選択する際に役立つはずである。
引用文献
Drug Efficacy in the Treatment of Antipsychotic-Induced Akathisia: A Systematic Review and Network Meta-Analysis
Cyril Gerolymos et al. PMID: 38451521 PMCID: PMC10921255 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2024.1527
JAMA Netw Open. 2024 Mar 4;7(3):e241527. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2024.1527.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38451521/
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