急性期虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去術後の集中的な血圧管理は機能回復を妨げる?(PROBE法; ENCHANTED2/MT試験; Lancet 2022)

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血管内血栓除去術後の血圧管理はほどほどで良いかもしれない

急性虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去術後の最適な収縮期血圧のコントロール目標値は不明です。そこで今回は、血管内治療による再灌流後に血圧が上昇した患者を対象に、より集中的な治療目標とより低い治療目標による血圧低下治療の安全性と有効性を比較したENCHANTED2/MT試験の結果をご紹介します。

中国の3次レベル病院44施設において、非盲検エンドポイントランダム化比較試験が実施されました。対象は、頭蓋内大血管閉塞による急性期虚血性脳卒中に対し、血管内血栓除去術による再灌流が成功した後に収縮期血圧が持続的に上昇(140mmHg以上および10分以内)した患者(18歳以上)でした。本試験の主要評価項目は機能回復で、90日後の修正Rankinスケール(範囲0[症状なし]~6[死亡])のスコア分布により評価されました。解析は修正intention-to-treat原則に従って行われました。有効性の解析は、固定効果としての治療割り付け、ランダム効果としての部位、およびベースラインの予後因子を調整した比例オッズロジスティック回帰で行い、同意を得たランダム割り付け患者全員と主要アウトカムに関するデータが利用可能な患者が対象でした。安全性の解析では、ランダムに割り付けられたすべての患者が対象とした。治療効果はオッズ比(OR)で表されました。

試験結果から明らかになったことは?

2020年7月20日から2022年3月7日の間に、821例の患者がランダムに割り付けられました。2022年6月22日にアウトカムデータをレビューした結果、有効性と安全性の懸念が継続したため、試験は中止されました。より集中的な治療群に407例、より集中的ではない治療群(対照群)に409例が割り付けられ、そのうち、より集中的な治療群の404例、対照群の406例で主要アウトカムデータが利用可能でした。

オッズ比 OR
(95%CI)
機能的転帰不良共通OR 1.37
1.07〜1.76
早期の神経学的悪化共通OR 1.53
1.18〜1.97
90日間の重大な障害OR 2.07
1.47〜2.93

機能的転帰が不良となる可能性は、より集中的な治療群で対照群よりも高いことが示されました(共通OR 1.37[95%CI 1.07〜1.76])。より集中的な治療群は対照群と比較して、早期の神経学的悪化(共通OR 1.53[95% 1.18〜1.97])および90日間の重大な障害(OR 2.07[95%CI 1.47〜2.93])が多かったものの、症候性脳内出血に有意差はみられませんでした。

重篤な有害事象や死亡率にも群間で有意差はありませんでした。

コメント

発症から4.5時間以内の急性期脳梗塞に対する血栓溶解剤(tPA静注療法)は、現在標準的な治療として広く行われています。しかし、tPA静注療法は再開通率が低いこと(約30~40%)や適応時間が短いことが問題であり、その適応患者も限られています。また、主幹動脈を原因血管とする脳梗塞の場合、t-PAの効果が不十分で血栓が溶けにくく、大きな後遺症につながりやすいことがわかっています。

そこで、血管内治療(カテーテル治療)により血栓除去器具を下肢の血管から脳血管まで移動させ、物理的に血栓を取り除く方法(血栓回収デバイスによる血栓回収療法)が開発されました。2015年に発症6~8時間程度まで大きな効果があることがわかり、世界中で使用されるようになり、2018年には患者の状態によっては24時間程度まで効果が期待できることが明らかとなっています。

脳梗塞に対するtPA静注療法や血栓改修療法の使い分けについては充分に検討されていますが、その一方で、血栓除去後の血圧管理目標については明らかとなっていません。

さて、本試験結果によれば、頭蓋内大血管閉塞による急性虚血性脳卒中に対して血管内血栓除去術を受けた患者の機能回復において、収縮期血圧を120mmHg以下に集中的にコントロールすることは、対照と比較して、機能的転機不良(主要評価項目:機能的回復)、早期の神経学的悪化、90日間の重大な障害のリスクを高めることが明らかとなりました。

したがって、頭蓋内大血管閉塞による急性虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去術後の血圧管理は収縮期血圧120mmHg以下にする必要はなさそうです。

続報に期待。

a doctor taking patient s blood pressure

✅まとめ✅ 頭蓋内大血管閉塞による急性虚血性脳卒中に対して血管内血栓除去術を受けた患者の機能回復を損なわないために、収縮期血圧を120mmHg以下に集中的にコントロールすることは避るべきである。

根拠となった試験の抄録

背景:急性虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去術後の最適な収縮期血圧は不明である。血管内治療による再灌流後に血圧が上昇した患者を対象に、より集中的な治療目標とより低い治療目標による血圧低下治療の安全性と有効性を比較することを目的とした。

方法:中国の3次レベル病院44施設において、非盲検エンドポイントランダム化比較試験を実施した。対象は、頭蓋内大血管閉塞による急性期虚血性脳卒中に対し、血管内血栓除去術による再灌流が成功した後に収縮期血圧が持続的に上昇(140mmHg以上および10分以内)した患者(18歳以上)であった。主要評価項目は機能回復で、90日後の修正Rankinスケール(範囲0[症状なし]~6[死亡])のスコア分布により評価した。解析は修正intention-to-treat原則に従って行われた。有効性の解析は、固定効果としての治療割り付け、ランダム効果としての部位、およびベースラインの予後因子を調整した比例オッズロジスティック回帰で行い、同意を得たランダム割り付け患者全員と主要アウトカムに関するデータが利用可能な患者を対象とした。安全性の解析では、ランダムに割り付けられたすべての患者を対象とした。治療効果はオッズ比(OR)で表された。本試験は ClinicalTrials.gov, NCT04140110、the Chinese Clinical Trial Registry, 1900027785に登録されており、参加全施設で募集を停止している。

調査結果:2020年7月20日から2022年3月7日の間に、821例の患者をランダムに割り付けた。2022年6月22日にアウトカムデータをレビューした結果、有効性と安全性の懸念が継続したため、試験は中止された。より集中的な治療群に407例、より集中的ではない治療群(対照群)に409例が割り付けられ、そのうち、より集中的な治療群の404例、対照群の406例で主要アウトカムデータが利用可能であった。機能的転帰が不良となる可能性は、より集中的な治療群で対照群よりも高かった(共通OR 1.37[95%CI 1.07〜1.76])。より集中的な治療群は対照群と比較して、早期の神経学的悪化(共通OR 1.53[95% 1.18〜1.97])および90日間の重大な障害(OR 2.07[95%CI 1.47〜2.93])が多かったが、症候性脳内出血に有意差はみられなかった。重篤な有害事象や死亡率にも群間で有意差はなかった。

解釈:頭蓋内大血管閉塞による急性虚血性脳卒中に対して血管内血栓除去術を受けた患者の機能回復を損なわないために、収縮期血圧を120mmHg以下に集中的にコントロールすることは避けるべきであると考える.

資金提供:上海病院開発センター、オーストラリア国立保健医療研究評議会、オーストラリア医学研究未来基金、中国脳卒中予防、上海長栄病院、上海市科学技術委員会、武田薬品(中国)、Hasten Biopharmaceutic, Genesis Medtech, Penumbra.

引用文献

Intensive blood pressure control after endovascular thrombectomy for acute ischaemic stroke (ENCHANTED2/MT): a multicentre, open-label, blinded-endpoint, randomised controlled trial
Pengfei Yang et al. PMID: 36341753 DOI: 10.1016/S0140-6736(22)01882-7
Lancet. 2022 Nov 5;400(10363):1585-1596. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01882-7. Epub 2022 Oct 28.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36341753/

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