― 使用時間は約13年間で増加? 若年者を追跡した縦断研究(Int J Audiol. 2026)
使用時間が長いと聴力低下につながるのか?
スマートフォンやワイヤレスイヤホンの普及によって、Personal Listening Device(PLD:個人用音響機器)を使用する時間は以前より長くなっているかもしれません。
では、10代から20代へ成長する過程でPLDの使用状況や余暇騒音への曝露はどのように変化し、それに伴って聴力にも変化が生じるのでしょうか?
今回取り上げるのは、2009/2010年に調査された小児・青年を2022/2023年に再調査した縦断研究です。
臨床疑問
10代から若年成人になるまでの約13年間で、イヤホン・ヘッドホンなどのPLD使用時間、余暇騒音曝露、耳鳴りなどの聴覚症状や聴力はどのように変化するのか?
特に、「PLDを長く使用するようになったことが聴力低下につながっているのか?」が気になるところです。
上記の臨床疑問を解消しようとした横断研究の結果をご紹介します。
ただし後述するように、本研究だけからPLD使用と聴覚障害の因果関係を結論することはできません。
研究の背景
若年者では、イヤホン・ヘッドホン、音楽イベント、その他の余暇騒音などが騒音曝露源となります。
さらに、通常の純音聴力検査では明確な難聴を認めなくても、聴覚機能に微細な変化が生じている可能性も議論されています。
しかし、若年者を同一人物で長期間追跡した研究は容易ではありません。
そこで本研究では、2009/2010年に10~17歳だったコホートを2022/2023年に再調査し、PLD使用状況や聴力検査結果がどう変化したのかを検討しました。
PICO(より正確にはPECO)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P(Population) | Time 1では10~17歳だったコホート237人。そのうち59人をTime 2で再評価 |
| E(Exposure) | PLD使用、余暇騒音曝露など |
| C(Comparison) | Time 1:2009/2010年 vs Time 2:2022/2023年 |
| O(Outcome) | PLD使用時間・音量、余暇騒音曝露、耳鳴りなどの自覚症状、聴覚保護具使用、純音聴力、難聴有病率など |
研究デザイン
縦断研究(longitudinal study)です。
調査時点
| Time 1 | Time 2 | |
|---|---|---|
| 調査年 | 2009/2010 | 2022/2023 |
| 年齢 | 10~17歳 | 22~30歳 |
| 元コホート | 237人 | ― |
| 再検査参加者 | ― | 59人 |
つまり、約13年間にわたる追跡です。
評価には、PLDの使用行動、余暇騒音曝露、聴覚障害に関連する自覚症状、聴覚保護具(hearing protection:HP)、純音聴力検査などが用いられました。
さらに多変量回帰分析によって各因子と聴力検査との関連も検討されています。
試験結果から明らかになったことは?

PLD使用時間は7時間/週から18時間/週へ
最も分かりやすい変化はPLDの使用時間です。
| 評価項目 | Time 1 | Time 2 | 結果 |
|---|---|---|---|
| PLD平均使用時間 | 7時間/週 | 18時間/週 | 増加 |
| High-volume listening | 20% | 20% | 同程度 |
| 余暇騒音曝露 | ― | ― | 同程度 |
| 難聴有病率 | ― | ― | 同程度 |
| 余暇騒音後の耳鳴り | ― | ― | 約3倍 |
| 聴覚保護具使用 | ― | ― | 約2倍 |
| 平均聴力閾値 | Time 1の方が高い | より低い | Time 1 > Time 2 |
PLDの平均使用時間は、7時間/週 → 18時間/週と大きく増加していました。一方、「高音量で聴く」とされた割合は両時点とも約20%でした。
また、男性ではPLDの使用時間がより長い結果でした。
耳鳴りは約3倍に
余暇騒音曝露後に生じる耳鳴り(tinnitus)は、Time 2ではTime 1の約3倍になりました。同時に、聴覚保護具の使用も約2倍に増加していました。ただし抄録にはそれぞれの絶対値が示されていません。
したがって「3倍」、「2倍」という相対的な変化だけで、その臨床的重要性を判断することはできません。
難聴そのものは増えていない
ここが非常に重要です。PLD使用時間や耳鳴りは増加していましたが、純音聴力検査による難聴有病率はTime 1とTime 2で同程度でした。つまり、この研究は、「イヤホン使用時間が増えた結果、約13年間で明らかな難聴が増加した」ことを示した研究ではありません。
むしろ平均聴力閾値はTime 1の方が高かった
さらに興味深いことに、平均hearing threshold(HT:聴力閾値)はTime 1の方が高い結果でした。通常、聴力閾値は低いほど小さな音を聞き取れることを意味します。
したがって単純な純音聴力検査だけを見る限り、「約13年間で聴力閾値が悪化した」という結果ではありません。
この点は、論文の「subtle auditory changes(微妙な聴覚の変化)が生じている可能性」という結論を解釈するうえで重要です。
イヤホン・ヘッドホンのフィット感にも変化
同一参加者を比較すると、Time 2では「より密閉性の高い(tight-fitting)イヤホン・ヘッドホン」を使用する参加者が増加していました。
また、聴覚障害に関連するいくつかの自覚症状についても、Time 2で「あり」と答える人が増加しました。
著者らが指摘する「hidden hearing loss」とは?
著者らは結論として、
subtle auditory changes, such as hidden HL, may be occurring over time(隠れた難聴など、微妙な聴覚の変化が時間の経過とともに生じている可能性がある)
と述べています。
ここで極めて重要なのが“may be”です。本研究によって「hidden hearing lossが発生した」と証明されたわけではありません。
むしろ、明確な難聴有病率は増えていない、それでも耳鳴りなど一部の症状は増えていることから、通常の聴力検査だけでは捉えにくい微細な聴覚変化が存在する可能性を著者らが提案している、と理解するのが適切でしょう。
批判的吟味:研究の限界
1.237人中、追跡できたのは59人だけ
本研究で最大の限界です。元のコホートは237人でしたが、Time 2に再検査できたのは59人です。追跡率を計算すると59/237=24.9%です。つまり、約75%が長期追跡に参加していません。
| 人数 | |
|---|---|
| 元コホート | 237 |
| 追跡できた参加者 | 59 |
| 追跡率 | 24.9% |
| 追跡できなかった割合 | 75.1% |
これはかなり大きなattrition(追跡脱落)です。例えば「聴力に関心の高い人ほど再調査に参加した」といった違いがあれば、結果に選択バイアスが生じます。
したがって59人の結果が元の237人全体を代表しているとは限りません。
2.サンプルサイズが非常に小さい
追跡解析は59人です。さらに性別やPLD使用状況など複数の変数を扱って多変量解析を行う場合、推定値が不安定になる可能性があります。
「有意差なし」についても、差が本当に存在しないのか、単に検出力が不足していたのかを慎重に判断する必要があります。
著者自身も、small follow-up sampleを理由にさらなる縦断研究が必要としています。
3.PLD使用時間の増加=PLDが耳鳴りを起こした、ではない
本研究では、PLD使用時間:7 → 18時間/週、騒音後耳鳴り:約3倍という2つの変化が観察されました。
しかし、「PLD使用時間増加 → 耳鳴り増加」という因果関係が証明されたわけではありません。
余暇騒音、職業性騒音、健康状態、ライフスタイルなど、約13年間にはさまざまな変化が生じます。
4.Time 1とTime 2では生活環境そのものが違う
10~17歳から22~30歳への変化です。つまり「13年間」というだけではなく、小児・青年期 → 成人期という大きなライフステージの変化を含んでいます。
PLD使用時間の増加も、単純な時代変化だけではなく、年齢・生活環境・通学から就労への変化などが影響している可能性があります。
5.PLD自体が大きく変化している
2009/2010年と2022/2023年では、スマートフォン、ワイヤレスイヤホン、ノイズキャンセリング、イヤホン形状などの技術環境が大きく異なります。
したがって、例えば「音量設定」や「密着型のイヤホン/ヘッドホン」を同じ概念として単純比較することにも限界があります。
6.自己申告による測定
PLD使用時間、音量、余暇騒音曝露、自覚症状などには質問票が使用されています。そのため、記憶バイアス、報告バイアス、音量設定と実際の耳への音圧の違いなどが入り得ます。
「18時間/週」という値も、機器による客観的ログ測定とは限らない点に注意が必要です。
7.「潜在性難聴」は直接証明されていない
ここは本研究を紹介するときに特に注意したいポイントです。難聴有病率はTime 1とTime 2で同程度であり、平均聴力閾値はむしろTime 1の方が高い結果でした。
したがって、「長期間のイヤホン使用によって潜在性難聴が発症した」とは結論できません。
本研究の結果から言えるのは「明確な純音聴力低下とは別に、耳鳴りや自覚症状などの微細な聴覚変化が生じている可能性がある」という仮説レベルです。
8.測定は2時点しかない
約13年間の変化をTime 1とTime 2の2点で比較しています。そのため、いつPLD使用時間が増えたのか、いつ耳鳴りが増えたのか、両者のどちらが先だったのかという経時的な軌跡は分かりません。
この研究をどう解釈するか?
本研究から最も明確に言えることは、10代から20代へ成長した追跡参加者では、PLDの平均使用時間が7時間/週から18時間/週へ増加し、余暇騒音後の耳鳴りも増えていたということです。
一方、明確な難聴有病率の増加は確認されていません。したがって、この研究を「イヤホンを長時間使うと難聴になることが13年間の追跡で証明された」と紹介するのは明らかに過剰な解釈です。
むしろ、「従来の純音聴力検査では大きな悪化を認めなくても、PLD使用時間や耳鳴りなどの行動・自覚症状は変化しており、その意味を明らかにするにはさらに長期かつ大規模な追跡が必要」と捉えるのが妥当でしょう。
まとめ
- 2009/2010年から2022/2023年までの縦断研究
- Time 1:10~17歳 → Time 2:22~30歳
- 元コホート237人中、再調査できたのは59人(24.9%)
- PLD使用時間は7 → 18時間/週へ増加
- High-volume listeningは両時点とも約20%
- 余暇騒音後の耳鳴りは約3倍
- 聴覚保護具の使用は約2倍
- 余暇騒音曝露と難聴有病率は大きく変化せず
- 平均聴力閾値はむしろTime 1の方が高かった
- PLD使用増加が耳鳴りや難聴を引き起こしたという因果関係は証明されていない
- “潜在性難聴”は著者が提示した可能性であり、本研究で直接診断・証明されたものではない
- 最大の限界は約75%という大きな追跡脱落
この研究は「イヤホンで難聴になることを証明した研究」というより、若年者のPLD使用行動と聴覚症状が約13年間でどう変化したかを追った、貴重だが探索的な縦断データとして読むのがよいでしょう。
より大規模かつ長期的な調査の実施が求められます。個人的には、使用時間だけでなく、音量がどのくらいなのか、四分位などで比較する方が理解できます。
続報に期待。

✅まとめ✅
根拠となった試験の抄録
目的: 2009/2010年時点1と2022/2023年時点2における、個人用リスニングデバイス(PLD)の使用行動、余暇時の騒音曝露、聴力検査結果、聴覚保護具(HP)の使用、および自己申告による難聴(HL)症状を比較する。時点1と2において、マッチングされたペア間で、平均聴力閾値(HT)、純音聴力検査による平均HL有病率、PLDの音量レベル、使用時間、イヤホン/ヘッドホンの装着度、および性別を比較した。
研究デザイン: 縦断的研究デザイン。PLD(プライベート・ライフ・ディスコース)の聴取行動、レジャー時の騒音曝露、および難聴症状を評価する質問票を使用。変数と聴力検査結果との関係を明らかにするために、多変量回帰分析を実施。
研究対象者: 元のコホート(n = 237、10~17歳)のうち、22~30歳の参加者59名が再検査を受けた(時点2)。
結果: 時間の経過とともに、レジャーノイズ後の耳鳴りは3倍、HPは2倍になり、平均PLDリスニング時間も増加しました(週7時間対18時間)。男性の方がリスニング時間が長くなりました。高音量リスニングは、どちらの時点でも20%でした。レジャーノイズへの曝露とHLの有病率は時間を通じて類似していましたが、平均HTはTime 1で高くなりました。マッチングペアでは、Time 2の参加者の方が、より密着したイヤホン/ヘッドホンを作成し、HLの症状に関するいくつかの質問に肯定的に回答しました。
結論: 潜在性難聴などの軽微な聴覚変化は、時間の経過とともに発生する可能性がある。難聴予防に関する啓発活動は有益であろう。追跡調査のサンプル数が少ないため、さらなる長期的な研究が必要である。
キーワード: 青年期;聴覚;聴覚保護;レジャー騒音;縦断的研究;耳鳴り;若年成人
引用文献
Personal listening device usage, leisure noise exposure, hearing protection usage and hearing at standard frequencies: a longitudinal study from child/adolescence to young adulthood
Katya Feder et al. PMID: 42400132 DOI: 10.1080/14992027.2026.2678286
Int J Audiol. 2026 Jul 3:1-24. doi: 10.1080/14992027.2026.2678286. Online ahead of print.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42400132/

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