― 頸動脈プラーク破綻による塞栓性脳梗塞症例報告と文献レビュー(J Stroke Cerebrovasc Dis. 2025)
臨床疑問
市販のハンディ型首マッサージ器(neck massager)の使用は、脳梗塞の原因となり得るのだろうか?
研究の背景
脳梗塞の原因としては、心房細動、頸動脈狭窄、動脈硬化性プラーク、小血管病変などが広く知られています。
近年、マッサージガン、電動マッサージ器、頸部マッサージ器などの家庭用マッサージ機器が普及しています。
頸部には総頸動脈、内頸動脈、椎骨動脈といった重要な血管が走行しており、過度な外力が加わることで血管損傷やプラーク破綻を引き起こす可能性が理論上は考えられます。
これまでにも、頸動脈解離、椎骨動脈解離、脳梗塞と頸部マッサージとの関連を示唆する症例報告は存在していましたが、ハンディ型首マッサージ器との関連については十分に検討されていませんでした。
本論文では、首マッサージ器使用直後に発症した脳梗塞症例を報告するとともに、既報症例のレビューが行われました。
PICO
本研究は症例報告および文献レビューです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P | 首マッサージ器使用後に脳梗塞を発症した患者 |
| I | ハンディ型首マッサージ器使用 |
| C | なし |
| O | 脳梗塞発症、頸動脈プラーク破綻 |
症例の概要
患者背景
79歳男性
現病歴
首マッサージ器を使用後、左上肢脱力を発症した。その後医療機関を受診し、急性脳梗塞と診断された。
画像所見
画像検査では、頸動脈病変、右内頸動脈球部(right internal carotid artery bulb)に存在する狭窄性アテローム性プラークの破綻が認められた。
頭部MRI
右中大脳動脈領域(right MCA territory)に急性脳梗塞が認められた。
想定された発症機序
著者らは以下の機序を推定している。
① 頸動脈に動脈硬化プラークが存在
↓
② 首マッサージ器による機械的刺激
↓
③ プラーク破綻
↓
④ 血栓形成
↓
⑤ 血栓塞栓症
↓
⑥ 中大脳動脈領域脳梗塞
このため、塞栓性脳梗塞(thromboembolic stroke)と判断された。
文献レビューから明らかになったことは?
症例報告に加えて、著者らは過去の文献検索を実施した。
その結果、首マッサージ器や類似の頸部マッサージ機器による頸動脈損傷、頸動脈解離、脳梗塞の症例報告が複数存在することが確認された。
ただし、いずれも症例数は極めて少なく、発症頻度を推定できるレベルのデータは存在しなかった。
試験結果から明らかになったことは?

本研究は症例報告であるため、統計解析は行われていない。しかし、本症例から以下の知見が得られた。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 患者 | 79歳男性 |
| 誘因 | 首マッサージ器使用 |
| 頸動脈所見 | 右内頸動脈球部プラーク破綻 |
| 脳梗塞部位 | 右中大脳動脈領域 |
| 想定機序 | プラーク破綻による血栓塞栓症 |
| 文献レビュー | 類似症例あり |
この研究から何が言えるか?
本研究は、「首マッサージ器が脳梗塞を起こす」ことを証明した研究ではない。
しかし、高度な頸動脈アテローム硬化を有する患者では、首への強い機械的刺激がプラーク破綻を誘発する可能性があることを示唆している。
特に、高齢者、高血圧、糖尿病、喫煙歴、頸動脈狭窄を有する患者では注意が必要かもしれない。
また近年はマッサージガン、電動ネックマッサージャー、EMS機器などが広く普及しているため、医療者側も潜在的なリスクを認識しておく必要がある。
批判的吟味(研究の限界)
① 症例報告である
最大の限界は単一症例報告である点である。
症例報告は因果関係を証明できない。
首マッサージ器使用と脳梗塞発症が偶然重なった可能性も否定できない。
② 発症率は不明
本研究からは「どの程度の頻度で脳梗塞が起こるのか」を評価できない。
世界中で多数の人が首マッサージ器を使用していることを考えると、発症は極めて稀である可能性が高い。
③ プラーク破綻の直接証明は困難
画像所見からプラーク破綻が推定されているが、マッサージ器が直接原因だったことを証明することはできない。
④ 選択バイアス
重篤な症例ほど報告されやすい。
実際には何も起こらなかった多数の使用者が存在するため、リスクを過大評価する可能性がある。
⑤ 一般化は困難
本症例は79歳高齢男性であり、若年者や頸動脈病変を有しない人へ同じリスクが存在するかは不明である。
薬剤師への臨床的示唆
本研究は、首マッサージ器が一般に危険であることを示した研究ではない。
しかし、頸動脈狭窄、脳梗塞既往、動脈硬化リスク因子を有する患者では、頸部への強い機械的刺激に注意する必要性を示唆している。
薬局では、脳梗塞既往患者や高齢患者から健康機器について相談を受けることもある。その際、「首を強く圧迫するような器具は避ける」という一般的な助言は有用かもしれない。
まとめ
✅ 79歳男性が首マッサージ器使用後に脳梗塞を発症した症例報告
✅ 右内頸動脈球部のアテローム性プラーク破綻が認められた
✅ 血栓塞栓性脳梗塞が疑われた
✅ 文献レビューでも類似症例が確認された
✅ 因果関係は証明できないが、頸動脈病変を有する患者では注意が必要な可能性がある
✅ 首マッサージ器による脳梗塞は極めて稀な事象と考えられる
症例報告であるため、リスクを過大評価している可能性が高い。その一方で、同様の症例では同じような転帰をたどるかもしれないことは念頭に置きたい。
マッサージ機器に限らず、頸部のマッサージは脳血管イベントを引き起こすことが報告されていることも踏まえると、軽視しない方が良いのかもしれない。
いずれにせよ、目の前の患者がどの程度のリスクを抱えているのか、継続的な把握が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 症例報告によれば、動脈硬化性プラークが存在する場合、まれに頸部マッサージ器の使用が血栓塞栓性脳卒中を引き起こす可能性がある。このリスクを認識することは、脳卒中の病因を理解する上で重要である。
根拠となった試験の抄録
背景: 携帯型ネックマッサージャーは血栓塞栓性脳卒中のリスクをもたらすが、このテーマは文献で十分に検討されていない。
症例報告と文献レビュー: 本稿では、携帯型ネックマッサージャー使用後に左上肢の筋力低下を呈した79歳男性の急性虚血性脳卒中の症例を報告する。画像検査により、右内頸動脈球部の狭窄性動脈硬化プラークの破裂と、右中大脳動脈領域の急性梗塞が明らかになった。文献レビューでは、携帯型マッサージ器に関連した他の症例も確認された。
結論: 動脈硬化性プラークが存在する場合、まれに頸部マッサージ器の使用が血栓塞栓性脳卒中を引き起こす可能性がある。このリスクを認識することは、脳卒中の病因を理解する上で重要である。
キーワード: 頸動脈アテローム性動脈硬化症;虚血性脳卒中;ネックマッサージャー;血栓塞栓性脳卒中
引用文献
Embolic stroke associated with handheld electric neck massager: A case report and literature review
Anika Pruthi et al. PMID: 39396658 DOI: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2024.108086
J Stroke Cerebrovasc Dis. 2025 Jan;34(1):108086. doi: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2024.108086. Epub 2024 Oct 11.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39396658/

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