SGLT2阻害薬服用中にアルコール検知器反応陽性を示した正常血糖ケトーシス症例(症例報告; 糖尿病 2019)

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アルコールを摂取していないのにも関わらずアルコール検知器で陽性?

Sodium-glucose cotransporter 2(SGLT2)阻害薬は、近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制することで尿糖排泄を促進し、血糖および体重を減少させることから、糖尿病治療薬として承認されています。この他の作用として、脂肪肝の改善、アルブミン尿の低下、心血管(大血管)イベントの抑制などの多面的な臓器保護効果が示されています。

一方、安全性については「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」が作成され、ケトアシドーシスについて「血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性があり,全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には血中ケトン体を確認する」よう注意喚起されている。SGLT2阻害薬内服中に過度の糖質制限やエネルギー制限を行うと、血糖が低下するだけでなく脂肪分解が促進されることにより、ケトン体産生が増大し正常血糖ケトーシス/ケトアシドーシスを発症しやすくなると考えられています。

飲酒運転については、まだまだ社会問題となっていることから、2011年には事業用自動車の飲酒運転ゼロの目標を達成するために、点呼時にアルコール検知器による検査を義務づける改正が行われました。大半のアルコール呼気検査では、ケトン体産生が増加することでアルコール呼気検査で基準値超と検出されることがありますが、この事象についてはあまり認識されておらず、社会的な注意喚起が必要であると考えられます。

そこで今回は、アルコール未摂取の2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬服用中にアルコール検知器反応陽性を示した正常血糖ケトーシス症例をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

症例:57歳男性、タクシー運転手。

血糖コントロール不充分なため教育入院。入院時のBMI 33 kg/m2、HbA1c 9.1%、尿ケトン(-)、GAD抗体(-)。

22kcal/標準体重の食事療法および入院前から服用していたカナグリフロジンを継続し退院しましたが、翌日より職場の呼気アルコール検知器で陽性反応が持続するため退院後3日目に再度受診。血糖 113mg/dL、尿糖 4+、尿ケトン 2+、血中総ケトン体 2,350μmol/L、血中アルコールは感度未満でした。アシドーシスの所見は認められず、正常血糖ケトーシスと診断されました。

カナグリフロジンを中止したところ、3日後に呼気アルコール検知器が陰性となり、その後外来で尿ケトン陰性と確認され、職場復帰できました。

コメント

本症例では、職業運転手である2型糖尿病患者が、SGLT2阻害薬服用中にエネルギー摂取を制限し正常
血糖ケトーシスをきたしたことから、呼気アルコール検知器反応で陽性を示したようです。

本症例から、簡易アルコール検知器はケトン体により偽陽性となり得ることが再確認され、SGLT2阻害薬服用者のアルコール検知器反応陽性は、ケトーシスの早期発見のきっかけになる一方で、乗務者には酒気帯び誤認トラブルになる可能性があることから社会的な注意を要するものと考えられます。

2型糖尿病の治療では、しばしば糖質に注目が亜埋まりがちになりますが、治療薬でコントロールしていることから、過度に糖質摂取制限をしない方が安定して血糖コントロールを行えると考えられます。

何事も程々に、バランスの良い食事と適度な運動を心がけましょう。医療従事者においては、SGLT2阻害薬による正常血糖ケトーシスの発症を頭の片隅に置いとくと役立つかもしれません。

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✅まとめ✅

根拠となった試験の抄録

症例:57歳男性、タクシー運転手。血糖コントロール不充分なため教育入院となる。入院時BMI 33kg/m2、HbA1c 9.1%、尿ケトン(-)、GAD抗体(-)、22kcal/標準体重の食事療法および入院前から服用していたカナグリフロジンを継続し退院した。翌日より職場の呼気アルコール検知器で陽性反応が持続するため受診した。血糖 113mg/dL、尿糖 4+、尿ケトン 2+、血中総ケトン体 2,350μmol/L、血中アルコールは感度未満であった。アシドーシスなく、正常血糖ケトーシスと診断した。カナグリフロジンを中止したところ、3日後に検知器は陰性となり、その後外来で尿ケトン陰性を確認した。簡易アルコール検知器はケトン体により偽陽性となり得る。SGLT2阻害薬服用者のアルコール検知器反応陽性は、ケトーシスの早期発見のきっかけになる一方、乗務者には酒気帯び誤認トラブルになる可能性があり注意を要する。

引用文献

SGLT2 阻害薬服用中にアルコール検知器反応陽性を示した正常血糖ケトーシスの1例
中川 朋子ら
糖尿病 62(9):520~526,2019.
— 読み進める www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/62/9/62_520/_article/-char/ja

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