― 英国初の大規模ランダム化比較試験が示した有効性と安全性(BMJ. 2026)
臨床疑問
近視のある小児において、アトロピン0.01%点眼は近視進行を抑制し、安全に使用できるのだろうか?
研究の背景
近年、小児近視は世界的な公衆衛生上の問題となっています。特に東アジアでは近視有病率の急増が報告されており、網膜剥離、緑内障、近視性黄斑症、視力障害などの将来的な眼疾患リスクを高めることが知られています。そのため近視進行抑制(myopia control)は小児眼科領域における重要な課題となっています。
アトロピン点眼は近視進行抑制効果が期待されている治療法であり、シンガポールのATOM試験やLAMP試験などを中心に有効性が報告されてきました。しかし既存研究の多くはアジア人を対象としており、欧州系集団でも同様の効果が得られるのか、実臨床で長期使用可能かについては十分なエビデンスがありませんでした。
そこで本研究では、英国の小児を対象として、低用量であるアトロピン0.01%点眼の有効性と安全性を検証する多施設共同ランダム化比較試験が実施されました。
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P | 6~12歳の近視児(−0.50D ~ −10.0D)※ |
| I | 0.01%アトロピン点眼を毎日1回、2年間投与 |
| C | プラセボ点眼 |
| O | 近視進行(球面等価屈折度数)、眼軸長変化、安全性 |
※dioptres:ディオプター(D)とはメガネやコンタクトレンズのパッケージに記載されている数値。目のピントを合わせる力(屈折力)の単位で、ゼロから離れるほど度数が強くなる。
試験デザイン
研究デザイン
- 多施設共同RCT
- 二重盲検
- プラセボ対照
- 優越性試験
実施施設
英国5施設
- NHS病院眼科
- 学術研究機関
登録患者
289例(アトロピン群: 192例、プラセボ群: 97例)
割付比は2:1であった。
患者背景
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 平均年齢 | 9.3歳 |
| 女児 | 56% |
| 白人 | 72% |
| 平均近視度数 | -2.87D |
介入
アトロピン群
アトロピン0.01%点眼、1日1回、2年間
プラセボ群
プラセボ点眼、1日1回、2年間
主要評価項目
2年後の球面等価屈折度数(Spherical Equivalent Refraction)
副次評価項目
- 眼軸長変化
- 遠見視力
- 近見視力
- 読書速度
- 瞳孔径
- 眼鏡度数
- QOL
- 忍容性
- 有害事象
試験結果から明らかになったことは?

主要評価項目
近視進行抑制効果
| 評価項目 | 群間差 | 95%CI | P値 |
|---|---|---|---|
| 球面等価屈折度数 | +0.33D | 0.17~0.49 | <0.001 |
アトロピン0.01%群では近視進行が有意に抑制された。
眼軸長変化
| 評価項目 | 群間差 | 95%CI | P値 |
|---|---|---|---|
| 眼軸長変化 | −0.14 mm | −0.21 ~ −0.07 | <0.001 |
眼軸伸長も有意に抑制された。
※眼軸長(がんじくちょう):目の表面(角膜)から目の奥(網膜)までの長さ、すなわち「眼球の奥行き」のこと。この長さは近視の進行や、白内障手術の際の人工レンズの度数を決定するために非常に重要な指標。
サブグループ解析
効果は以下の因子によって変化しなかった。
- 年齢
- 性別
- 人種
- 近視重症度
つまり、幅広い小児集団で一貫した効果が認められた。
安全性
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| 有害事象頻度 | 群間差なし |
| 忍容性 | 群間差なし |
| QOL | 群間差なし |
| 重篤な有害事象 | なし |
瞳孔径
| 評価項目 | 群間差 |
|---|---|
| 瞳孔径 | +0.36 mm |
アトロピン群で瞳孔径増大が認められた。しかし臨床的な問題となる頻度は低かった。
この研究から何が言えるか?
本研究は、英国で実施された初めての大規模プラセボ対照RCTであり、低用量アトロピン0.01%点眼が近視進行、眼軸伸長を有意に抑制することを示しました。
これまで近視抑制効果は主にアジア人集団で報告されていましたが、本試験により欧州系集団でも有効性が確認されました。
また、QOL低下なし、読書速度低下なし、有害事象増加なしであり、安全性プロファイルも良好でした。
そのため、低用量アトロピン0.01%点眼は小児近視進行抑制の有力な選択肢と考えられます。
臨床的な意義
過去に実施されたLAMP試験では0.05%、0.025%、0.01%の濃度比較が行われ高濃度ほど効果が高いことが示されています。
一方で、眩しさ、調節障などの副作用も増加します。
本研究は、最も低濃度である0.01%でも有効性が認められることを示した点で臨床的価値が高いといえます。
批判的吟味(研究の限界)
① 効果量は比較的小さい
有意差は認められたものの、2年間での差は0.33Dであった。高濃度アトロピンの研究と比較すると効果量は控えめである。
② 2年間の結果である
近視は学童期を通して進行する。本試験では2年間の評価であり、より長期の効果やリバウンド現象は評価できない。
③ 割付比が2:1
プラセボ群が97例と比較的少なく、副作用検出力には限界がある。
④ 主に白人集団
参加者の72%が白人であった。アジア人を中心とした既報研究との直接比較には注意が必要である。
⑤ 実臨床での適用
試験では電子モニタリングによりアドヒアランスが管理されていた。実臨床では同等の服薬遵守率が得られるとは限らない。
薬剤師への臨床的示唆
日本でも近視進行抑制への関心は急速に高まっています。本研究は、アトロピン0.01%点眼が有効性、安全性、忍容性良好であることを示しました。
薬剤師としては、点眼継続の重要性、定期眼科受診、光過敏への注意などの指導が重要となります。
また近視進行抑制は「見え方の改善」ではなく「将来の高度近視リスク低減」を目的とする治療であることを保護者へ説明する必要があります。
まとめ
✅ 英国5施設で実施された二重盲検RCT
✅ 289例の小児近視患者を対象
✅ アトロピン0.01%点眼は近視進行を有意に抑制した
✅ 眼軸伸長も有意に抑制した
✅ 年齢・性別・人種に関係なく効果は一貫していた
✅ 有害事象は増加せず忍容性は良好であった
✅ アトロピン0.01%点眼は小児近視進行抑制の有力な選択肢となる可能性がある
神経軸索の太さにもよりますが、小児の近視進行抑制に対して、アトロピンが有効なことは疑いようのない事実です。その有効性が低用量で認められたことは非常に重要な研究成果です。
ただし、本研究の治療期間は2年間です。実臨床において、いかに離脱を防ぐのか、モニタリング強化をどのようなタイミングで行っていくのか、また防腐剤入りの点眼液の使用がより長期的な影響を及ぼす可能性など、更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、英国の小児において、低濃度アトロピン(0.01%)点眼薬はプラセボと比較して近視の進行を著しく抑制し、忍容性も良好であった。
根拠となった試験の抄録
目的: 英国の小児における近視の進行を抑制するための低濃度アトロピン点眼薬の有効性と安全性を評価する。
試験デザイン: 多施設共同、二重盲検、優越性、プラセボ対照、ランダム化比較試験。
試験設定: 英国国内5か所の国立保健サービス(NHS)病院の眼科医療サービスおよび学術機関。
試験参加者: -0.50 ~ -10.0ジオプトリー(D)の近視を持つ6~12歳の子供289人。参加者はアトロピン群とプラセボ群に2:1の比率で割り付けられた。
介入: 防腐剤入りアトロピン0.01%点眼液またはプラセボを1日1回、2年間投与する。
主要評価項目: 主要評価項目は、2年後に調節麻痺下でオートレフラクトメーターを用いて測定した両眼の球面等価屈折異常値とした。副次評価項目には、眼軸長の変化、最良矯正遠方視力および近方視力、読書速度、瞳孔径、眼鏡矯正度、有害事象発生率、生活の質、および忍容性を含めた。評価項目は6か月ごとに収集した。服薬遵守状況の評価には電子モニタリングシステムを使用した。
結果: アトロピン群には192名、プラセボ群には97名が参加し、平均年齢は9.3歳(標準偏差(SD)1.7歳)でした。207名(72%)が白人、161名(56%)が女児で、平均近視度数は-2.87 D(SD 1.71 D)でした。合計235名(81%)が試験を完了し、主要評価項目のデータは230名(80%)について得られました。内訳はアトロピン群151名(79%)、プラセボ群79名(81%)でした。アトロピン点眼薬はプラセボよりも近視の進行抑制に効果的でした(平均差0.33 D、95%信頼区間(CI)0.17~0.49 D、P<0.001)。事前に規定したサブグループ解析では、年齢、人種、性別、近視の重症度による差は認められませんでした。中心眼軸長の変化は、アトロピン群の方がプラセボ群よりも有意に小さかった(平均差0.14 mm、95%信頼区間0.07~0.21、P<0.001)。瞳孔径を除き、その他の副次的評価項目に差は認められなかった。瞳孔径はアトロピン群の方が大きかった(0.36 mm、95%信頼区間0.17~0.55、P<0.001)。また、有害事象の発生頻度や忍容性に関する評価項目にも差は認められなかった。治験薬に関連する重篤な有害事象は認められなかった。
結論: 英国の小児において、低濃度アトロピン(0.01%)点眼薬はプラセボと比較して近視の進行を著しく抑制し、忍容性も良好であった。
治験登録: ISRCTN登録番号ISRCTN99883695、ClinicalTrials.gov NCT03690089
引用文献
Low concentration atropine eye drops and progression of myopia in children: multicentre placebo controlled, double masked, randomised trial in the UK (CHAMP-UK)
Augusto Azuara-Blanco et al. PMID: 42276557 PMCID: PMC13274572 DOI: 10.1136/bmj-2025-086698
BMJ. 2026 Jun 11:393:e086698. doi: 10.1136/bmj-2025-086698.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42276557/

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