― 慢性便秘患者280例を対象とした前向きコホート研究(J Gastroenterol. 2026)
臨床疑問
センノシドやピコスルファートナトリウムなどの刺激性下剤を長期間使用すると「依存」や「耐性」が生じるのか?
慢性便秘診療では「刺激性下剤はクセになる」、「長く使うと効かなくなる」といった説明がしばしば行われます。
一方で、その根拠となる前向き研究は多くありません。
そこで本研究では、慢性便秘患者を対象として、刺激性下剤の使用状況と依存・習慣化を示唆する症状との関連が検討されました。
研究の背景
慢性便秘症は高齢者を中心に非常に頻度の高い疾患です。
近年は、酸化マグネシウム、ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバット、ポリエチレングリコールなど様々な治療薬が利用可能となりました。
しかし実臨床では現在でも、センノシド、センナ、ビサコジル、ピコスルファートなどの刺激性下剤が広く使用されています。
刺激性下剤の長期使用により、習慣化、用量増加・中止困難などが起こる可能性は以前から指摘されていました。
しかし、「実際に依存症様症状がどの程度存在するのか」を前向きに評価した研究は限られていました。
本研究はその疑問に答えるために実施されました。
情報元:PubMed論文ページ
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P | 慢性便秘患者 |
| I | 刺激性下剤を長期定期使用(週3回以上、1年以上) |
| C | 未使用または短期・頓用使用 |
| O | 依存症関連症状(CAGE-AID、ICD-11、DSM-5-TR) |
試験デザイン
本研究は、多施設共同、前向き観察研究として実施されました。
対象は慢性便秘患者280例です。
患者は刺激性下剤の使用状況により以下の3群に分類されました。
1)N群(None)
刺激性下剤未使用:197例
2)SR群(Short-term/Rescue)
短期使用または頓用使用:51例
3)R群(Regular)
週3回以上かつ1年以上使用:32例
評価方法
依存症関連症状について、以下のスクリーニングツールが用いられました。
1)CAGE-AID
アルコール・薬物依存症のスクリーニング質問票:2点以上を陽性と判定
2)ICD-11基準
WHOが定める物質使用障害診断基準
3)DSM-5-TR基準
米国精神医学会による物質使用障害診断基準
試験結果から明らかになったことは?

CAGE-AID陽性率
| 群 | 陽性率 |
|---|---|
| N群 | 5.1% |
| SR群 | 58.8% |
| R群 | 90.6% |
ICD-11基準陽性率
| 群 | 陽性率 |
|---|---|
| N群 | 0% |
| SR群 | 11.8% |
| R群 | 65.6% |
DSM-5-TR基準陽性率
| 群 | 陽性率 |
|---|---|
| N群 | 0% |
| SR群 | 15.7% |
| R群 | 65.6% |
得られた研究結果の解釈
刺激性下剤を長期定期使用していたR群ではCAGE-AID、ICD-11、DSM-5-TRの全てで陽性率が著しく高くなりました。
研究者らは、長期刺激性下剤使用患者において、物質使用障害に類似した症状や習慣化の特徴が認められる可能性を示唆しています。
この研究から分かること
まず重要なのは、本研究は「刺激性下剤依存症を診断した研究」ではないことです。評価されたのは、依存症診断基準に類似する症状の有無です。
それでも、週3回以上かつ1年以上使用していた患者群で、ICD-11およびDSM-5-TR陽性率が65%以上に達したことは注目すべき結果です。
慢性便秘患者の一部では、刺激性下剤への心理的・行動学的依存が形成されている可能性があります。
薬剤師としての視点
便秘外来では「下剤を飲まないと出ない」という患者にしばしば遭遇します。
ただし、刺激性下剤による習慣化には複数の要因が関与します。
例えば、重症便秘そのもの、排便不安、長年の服薬習慣、医療者からの継続処方なども影響する可能性があります。
そのため、本研究の結果だけをもって「刺激性下剤は依存を起こす」と断定することはできません。
しかし、長期連用患者では依存症様症状が高頻度に認められたという事実は、処方や服薬指導を行う上で重要な情報といえます。
試験の限界(批判的吟味)
本研究にはいくつか重要な限界があります。
まず、観察研究であり因果関係を証明する研究ではありません。
刺激性下剤の長期使用によって依存症様症状が生じたのか、もともと症状の強い患者が長期使用していたのかは区別できません。
また、長期定期使用群は32例と少数です。サンプルサイズが小さいため推定値の不確実性は比較的大きいと考えられます。
さらに、評価項目として用いられたCAGE-AID、ICD-11、DSM-5-TRは本来アルコールや薬物依存評価のために開発された尺度です。
刺激性下剤依存の診断ツールとして妥当性が十分検証されているわけではありません。
加えて、自己記入式アンケートで評価されているため、回答バイアスの影響も否定できません。
本研究は「刺激性下剤が依存症を引き起こすことを証明した研究」ではなく、「長期使用患者で依存症様症状が高頻度に観察された研究」として解釈する必要があります。
臨床への応用
本研究から得られる実践的なメッセージは、刺激性下剤を長期間定期使用している患者では、漫然投与を避け、定期的な見直しを行うことの重要性です。
特に、用量が徐々に増えている、飲まないと不安になる、効果が弱くなったと感じているといった患者では、便秘の病態を再評価し、浸透圧性下剤や分泌促進薬など他の選択肢も検討する価値があります。
まとめ
慢性便秘患者280例を対象とした前向き研究において、刺激性下剤を週3回以上かつ1年以上使用している患者では、依存症関連スクリーニング陽性率が著しく高いことが示されました。
特に長期使用群では、CAGE-AID陽性率 90.6%、ICD-11陽性率 65.6%、DSM-5-TR陽性率 65.6%でした。
一方で、本研究は観察研究であり因果関係を証明したものではありません。刺激性下剤の長期使用患者では習慣化や依存症様症状に注意しながら、定期的な治療見直しを行うことが重要と考えられます。
より大規模な研究の実施など、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 3施設の前向きコホート研究の結果、慢性便秘患者において、刺激性下剤の長期使用は、薬物乱用に関連する症状の増加や、習慣化を示唆する特徴と関連している。
根拠となった試験の抄録
背景: 慢性便秘はよく見られる疾患であり、刺激性下剤の適切な使用は依然として課題となっている。刺激性下剤の常用による依存症は頻繁にみられるものの、常用による依存性や耐性への長期的な影響は十分に解明されていない。本研究は、慢性便秘患者における刺激性下剤の使用に伴う臨床的特徴および物質使用関連症状を明らかにすることを目的とした。
方法: この多施設共同前向き観察研究は3つの施設で実施され、Rome IV基準を満たす患者を含む慢性便秘患者が登録された。患者は刺激性下剤の使用に基づいて、なし(N)、短期/緊急用(SR)、および定期的(R)に分類された。定期的使用は、1年以上にわたり週3回以上の刺激性下剤の使用と定義された。物質使用関連症状は、CAGE-AID質問票(2点以上)および自己申告によるICD-11およびDSM-5-TR物質使用障害基準を用いて評価された。
結果: 合計280名の患者が対象となった(N群197名、SR群51名、R群32名)。ベースライン特性は各群間で有意差は認められなかった。CAGE-AID陽性率は、N群、SR群、R群でそれぞれ5.1%、58.8%、90.6%であった。ICD-11基準は、N群(0%)およびSR群(11.8%)と比較してR群(65.6%)で著しく高かった。DSM-5-TR基準も同様の傾向を示した(それぞれ0%、15.7%、65.6%)。R群は、すべてのツールにおいて一貫して高いスクリーニング陽性率を示した。
結論: 慢性便秘患者において、刺激性下剤の長期使用は、薬物乱用に関連する症状の増加や、習慣化を示唆する特徴と関連している。
治験登録: 本研究は、2023年7月15日に大学病院医療情報ネットワーク(UMIN000051617)に登録されました。
引用文献
Dependence-related screening positivity among regular stimulant-laxative users with chronic constipation: a multicenter prospective observational study
Yo Ishihara et al. PMID: 42215713 DOI: 10.1007/s00535-026-02455-9
J Gastroenterol. 2026 May 29. doi: 10.1007/s00535-026-02455-9. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42215713/

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