非心臓手術を受けた高齢成人患者における術後早期の認知機能障害に対するネオスチグミンの効果は?(DB-RCT; Anesth Analg. 2023)

a surgeon in an operating room 01_中枢神経系
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術後認知機能障害に対するネオスチグミンの効果は?

高齢者において、加齢に伴い認知症リスクが増加することが知られています。また、手術後におこる可能性があるものに「術後せん妄」と「術後認知機能障害」があります。

「術後せん妄」は、手術後に意識・注意・知覚障害が出現し、1日のうちでも症状の波(日内変動)がみられる病態で、経過とともに改善することが多いことが報告されています。 一方、「術後認知機能障害」は、手術や麻酔を受けた高齢患者において、神経認知機能障害(記憶・注意・遂行機能・言語など)が日内変動なく出現し、経過とともに改善する場合もありますが、時間がかかるだけでなく改善しないことも報告されています。したがって、術後認知機能障害に対する治療が求められています。

そこで今回は、術後認知機能障害に対するネオスチグミンの有効性を検討し、高齢患者における酸化ストレスの系統的マーカーに対する効果を明らかにすることを目的に実施されたランダム化比較試験の結果をご紹介します。

この二重盲検プラセボ対照試験は、非心臓手術を受けた高齢患者118例(65歳以上)を登録し、術後にネオスチグミン治療群(0.04mg/kg)あるいはプラセボ対照群(通常の生理食塩水)に割り付けました。

ミニメンタルステート検査(MMSE)とMontreal Cognitive Assessment(MCA)のZスコアがともに≦-1.96の場合に術後認知機能障害と診断されました。マロンジアルデヒド(MDA)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、脳由来神経栄養因子(BDNF)の術後血清レベルも比較されました。アトロピンの投与量を調整した多変量回帰分析を用いて、POCDの発生率に対するネオスチグミンの影響が示されました。

試験結果から明らかになったことは?

術後認知機能障害の発生率
(95%CI)
術後1日目-22%
-37 ~ -7
術後3日目8%
-4 ~ 20
術後7日目3%
-7 ~ 13

ネオスチグミンを投与された患者は、プラセボを投与された患者と比較して、術後1日目の術後認知機能障害の発生率が有意に減少しました(-22%、95%信頼区間[CI] -37 ~ -7)が、術後3日目(8%、95%CI -4 ~ 20)および7日目(3%、95%CI -7 ~ 13)には減少しませんでした。

術後の血漿中MDA値は有意に低いことが示されましたが(P=0.016)、術後1日目のSOD値とBDNF値は対照群と比較してネオスチグミン群で増加していました(それぞれP=0.036、P=0.013)。

コメント

術後認知機能障害に対する治療が求められていますが、有効な治療方法については確立されていません。

さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、ネオスチグミンは高齢患者の非心臓手術後初日の術後認知機能障害を減少させました。しかし、術後3日目及び7日目の認知機能障害についてはプラセボと同様でした。

術後認知機能障害は、発生後に改善しないこともあることから、発生抑制効果が示されたことは非常に期待の持てる結果です。一方、より長期的な患者転帰については不明であることから、薬剤使用に伴う副作用も含め更なる検証が求められます。

続報に期待。

close up photo of a stethoscope

✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、ネオスチグミンは高齢患者の非心臓手術後初日の術後認知機能障害を減少させた。しかし、術後3日目及び7日目の認知機能障害についてはプラセボと同様であった。

根拠となった試験の抄録

背景:本研究の目的は、術後認知機能障害(POCD)に対するネオスチグミンの有効性を検討し、高齢患者における酸化ストレスの系統的マーカーに対する効果を明らかにすることである。

方法:この二重盲検プラセボ対照試験は、非心臓手術を受けた高齢患者118例(65歳以上)を登録し、術後にネオスチグミン治療群(0.04mg/kg)とプラセボ対照群(通常の生理食塩水)に割り付けた。ミニメンタルステート検査(MMSE)とMontreal Cognitive Assessment(MCA)のZスコアがともに≦-1.96の場合にPOCDと診断した。マロンジアルデヒド(MDA)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、脳由来神経栄養因子(BDNF)の術後血清レベルも比較した。アトロピンの投与量を調整した多変量回帰分析を用いて、POCDの発生率に対するネオスチグミンの影響を示した。

結果:ネオスチグミンを投与された患者は、プラセボを投与された患者と比較して、術後1日目のPOCD発生率が有意に減少した(-22%、95%信頼区間[CI] -37 ~ -7)が、術後3日目(8%、95%CI -4 ~ 20)および7日目(3%、95%CI -7 ~ 13)には減少しなかった。術後の血漿中MDA値は有意に低かったが(P=0.016)、術後1日目のSOD値とBDNF値は対照群と比較してネオスチグミン群で増加していた(それぞれP=0.036、P=0.013)。

結論:ネオスチグミンは高齢患者の非心臓手術後初日の術後認知機能障害を減少させた。ネオスチグミン投与は酸化ストレスを抑制し、血清BDNF値を上昇させた。術後3日目および7日目のPOCDに対するネオスチグミンの有意な影響はみられなかった。ネオスチグミンがPOCDに及ぼす臨床的影響についてはさらに検討されるべきである。

引用文献

Influence of Neostigmine on Early Postoperative Cognitive Dysfunction in Older Adult Patients Undergoing Noncardiac Surgery: A Double-Blind, Placebo-Controlled, Randomized Controlled Trial
Chengcheng Deng et al. PMID: 38100389 DOI: 10.1213/ANE.0000000000006687
Anesth Analg. 2023 Dec 15. doi: 10.1213/ANE.0000000000006687. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38100389/

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