2型糖尿病の妊婦における非インスリン系糖尿病薬の安全性評価
妊娠中の2型糖尿病(T2DM)患者において、治療のファーストライン(第一選択)はインスリンです。一方、セカンドライン(第二選択)の非インスリン系抗糖尿病薬(ADM)の使用が近年増加しており、胎児への曝露をもたらす可能性がありますが、その催奇形性リスクは不明です。
そこで今回は、第二選択薬である非インスリン系抗糖尿病薬の妊娠期間中の使用と児の重大な先天奇形(major congenital malformations, MCM)のリスク増加との関連について評価することを目的に実施されたメタ解析の結果をご紹介します。
メタ解析の対象となったのは、観察集団ベースのコホート研究であり、北欧4ヵ国(2009~2020年)、米国のMarketScan Database(2012~2021年)、イスラエルのMaccabi Health Servicesデータベース(2009~2020年)のデータが用いられました。T2DMの妊婦が同定され、その出生児が出生後1年まで追跡されました。
妊娠周期の曝露は、妊娠90日前から妊娠第1期(first trimester)の終わりまでに、スルホニル尿素薬、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害薬、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体作動薬、ナトリウムグルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬、またはインスリン(活性比較薬)が1回以上処方されたことと定義されました。
各コホートにおける主要交絡因子を調整した対数二項回帰モデルを用いて児の重大な先天奇形の相対リスク(RR)および95%CIが推定され、メタ解析が実施されました。
試験結果から明らかになったことは?
妊娠周期のセカンドライン非インスリン系抗糖尿病薬への曝露は国によって異なり(北欧、米国、イスラエルではそれぞれ10万妊娠あたり32例、295例、73例)、特に米国では研究期間中に増加しました。
児の重大な先天奇形の標準化された有病率は、すべての乳児(n=3,514,865)で3.7%、T2DMの女性から生まれた乳児(n=51,826)で5.3%、スルホニル尿素に曝露された乳児では9.7%(n=1,362)、DPP-4阻害薬は6.1%(n=687)、GLP-1受容体作動薬は8.3%(n=938)、SGLT2阻害薬は7.0%(n=335)、インスリンは7.8%(n=5,078)でした。
相対リスク RR (95%CI) vs. インスリン | |
スルホニル尿素薬 | RR 1.18(0.94〜1.48) |
DPP-4阻害薬 | RR 0.83(0.64〜1.06) |
GLP-1受容体作動薬 | RR 0.95(0.72〜1.26) |
SGLT2阻害薬 | RR 0.98(0.65〜1.46) |
インスリンと比較して、スルホニル尿素薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬に曝露された乳児の重大な先天奇形の調整後RRは、それぞれ1.18(95%CI 0.94〜1.48)、0.83(95%CI 0.64〜1.06)、0.95(95%CI 0.72〜1.26)、0.98(95%CI 0.65〜1.46)でした。
コメント
2型糖尿病を有する妊婦における非インスリン治療が増加しています。しかし、治療に伴う安全性については充分に検討されていません。
さて、コホート研究のメタ解析の結果、一部の推定値は不正確であるものの、結果は第二選択薬による治療が必要な母体において、2型糖尿病がもたらすリスク以上の重大な先天奇形のリスク増加を示しませんでした。少なくとも先天性の大奇形の発生リスクを増加させることはなさそうですが、より長期的な安全性モニタリング、他のモニタリング項目についても検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 観察研究のメタ解析の結果、一部の推定値は不正確であったが、結果は第二選択薬による治療が必要な母体において、2型糖尿病がもたらすリスク以上の重大な先天奇形のリスク増加を示さなかった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:妊娠中の2型糖尿病(T2DM)患者において、セカンドラインの非インスリン系抗糖尿病薬(ADM)の使用が増加しており、胎児への曝露をもたらす可能性があるが、その催奇形性リスクは不明である。
目的:第二選択非インスリンADMの妊娠期間中の使用と児の重大な先天奇形(major congenital malformations, MCM)のリスク増加との関連について評価すること。
試験デザイン、設定、参加者:この観察集団ベースのコホート研究は、北欧4ヵ国(2009~2020年)、米国のMarketScan Database(2012~2021年)、イスラエルのMaccabi Health Servicesデータベース(2009~2020年)のデータを用いた。T2DMの妊婦を同定し、その生児を出生後1年まで追跡した。
曝露:妊娠周期の曝露は、妊娠90日前から妊娠第1期の終わりまでに、スルホニル尿素薬、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害薬、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体作動薬、ナトリウムグルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬、またはインスリン(活性比較薬)を1回以上処方されたことと定義した。
主要アウトカムと評価基準:各コホートにおける主要交絡因子を調整した対数二項回帰モデルを用いて児の重大な先天奇形の相対リスク(RR)および95%CIを推定し、メタ解析を行った。
結果:妊娠周期のセカンドライン非インスリン系抗糖尿病薬への曝露は国によって異なり(北欧、米国、イスラエルではそれぞれ10万妊娠あたり32例、295例、73例)、特に米国では研究期間中に増加した。児の重大な先天奇形の標準化された有病率は、すべての乳児(n=3,514,865)で3.7%、T2DMの女性から生まれた乳児(n=51,826)で5.3%、スルホニル尿素に曝露された乳児では9.7%(n=1,362)、DPP-4阻害薬は6.1%(n=687)、GLP-1受容体作動薬は8.3%(n=938)、SGLT2阻害薬は7.0%(n=335)、インスリンは7.8%(n=5,078)であった。インスリンと比較して、スルホニル尿素薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬に曝露された乳児の重大な先天奇形の調整後RRは、それぞれ1.18(95%CI 0.94〜1.48)、0.83(95%CI 0.64〜1.06)、0.95(95%CI 0.72〜1.26)、0.98(95%CI 0.65〜1.46)であった。
結論と関連性:セカンドラインの非インスリン系抗糖尿病薬の使用は、T2DMおよびその他の適応症の治療のために急速に増加しており、その結果、曝露される妊娠の数が増加している。一部の推定値は不正確であったが、結果は第二選択薬による治療が必要な母体のT2DMがもたらすリスク以上の重大な先天奇形の大きなリスク増加を示さなかった。心強いことではあるが、他の研究による確認が必要であり、継続的なモニタリングによってデータが蓄積されれば、より正確な推定値が得られるであろう。
引用文献
Safety of GLP-1 Receptor Agonists and Other Second-Line Antidiabetics in Early Pregnancy
Carolyn E Cesta et al. PMID: 38079178 PMCID: PMC10714281 DOI: 10.1001/jamainternmed.2023.6663
JAMA Intern Med. 2023 Dec 11:e236663. doi: 10.1001/jamainternmed.2023.6663. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38079178/
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