サイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症の発症リスクはどのくらいか?
医薬品の添付文書によると、サイアザイド誘発性低ナトリウム血症の頻度は不明、またはまれから非常にまれ(すなわち、1万人に1人未満から100人に1人未満)であるが、正確な負担は不明なままです。
そこで今回は、日常臨床において、非サイアザイド系降圧薬と比較してサイアザイド系利尿薬を使用した場合の低ナトリウム血症の累積発生率の増加を推定することを目的に実施された標的試験のエミュレーションを用いた人口および登録ベースのコホート研究の結果をご紹介します。
本研究はデンマークにおける2014年1月1日~2018年10月31日のデータが利用されました。
最近降圧薬の処方を受けておらず、低ナトリウム血症の既往がなく、検討した降圧治療の対象となる40歳以上の人を対象に、2つの標的試験がエミュレートされました。最初のエミュレーションでは、ベンドロフルメチアジド(bendroflumethiazide,BFZ; 日本未承認)の新規使用とカルシウム(Ca)拮抗薬の新規使用が比較されました。2番目のエミュレーションでは、ヒドロクロロチアジド+レニン-アンジオテンシン系阻害薬(HCTZ-RASi;配合剤)の新規使用とRASi単独が比較されました。
本研究のアウトカムは、治療加重生存曲線の安定化逆確率を用いたナトリウム値130mmol/L未満の2年間の累積発生率でした。
試験結果から明らかになったことは?
本試験では、bendroflumethiazide(BFZ)の新規使用者 37,786人とCa拮抗薬の新規使用者 44,963例、HCTZ-RASiの新規使用者 11,943例とRASiの新規使用者 85,784例が比較されました。
BFZ群 | HCTZ-RASi群 | |
2年間の低ナトリウム血症の累積発生率 | 3.83% | 3.51% |
対照薬群との差 | vs. Ca拮抗薬 1.35% (95%CI 1.04~1.66%) | vs. RASi 1.38% (95%CI 1.01~1.75%) |
2年間の低ナトリウム血症の累積発生率はBFZで3.83%、HCTZ-RASiで3.51%でした。リスク差はBFZとCa拮抗薬の間で1.35%(95%CI 1.04~1.66%)、HCTZ-RASiとRASiの間で1.38%(CI 1.01~1.75%)であり、リスク差は年齢が高く、合併症の負担が大きいほどリスクが大きいことが示されました。
BFZ群 vs. Ca拮抗薬 | HCTZ-RASi群 vs. RASi | |
治療開始後30日間 | HR 3.56(95%CI 2.76~4.60) | HR 4.25(95%CI 3.23~5.59) |
1年後 | HR 1.26(95%CI 1.09~1.46) | HR 1.29(95%CI 1.05~1.58) |
それぞれのハザード比(HR)は、治療開始後30日間では3.56(CI 2.76~4.60)および4.25(CI 3.23~5.59)、1年後では1.26(CI 1.09~1.46)および1.29(CI 1.05~1.58)でした。
コメント
サイアザイド系利尿薬は臨床で長期間にわたり使用されていることから、多くの副作用データが集積されています。一方、各副作用の発生頻度について、各薬剤の添付文書への反映は充分になされていません。特に、低ナトリウム血症の発症リスクが高い可能性が示唆されていますが、その発生の程度については充分に検証されていません。
さて、コホート研究の出たを利用した標的試験エミュレーションの結果、サイアザイド系利尿薬による治療開始は、低ナトリウム血症、特に治療開始後数ヵ月間の低ナトリウム血症について、薬剤の添付文書に示されているよりも実質的な過剰リスクを示しているようです。
用いられたのはデンマークのデータであることから、他の国や地域で同様の結果が示されるのかについては不明です。とはいえ、薬剤や疾患の特徴から同様の傾向が示される可能性は充分にあります。
続報に期待。
✅まとめ✅ サイアザイド系利尿薬による治療開始は、低ナトリウム血症、特に治療開始後数ヵ月間の低ナトリウム血症について、薬剤の添付文書に示されているよりも実質的な過剰リスクを示唆している。
根拠となった試験の抄録
背景:医薬品の添付文書によると、サイアザイド誘発性低ナトリウム血症の頻度は不明、またはまれから非常にまれ(すなわち、1万人に1人未満から100人に1人未満)であるが、正確な負担は不明なままである。
目的:日常臨床において、非サイアザイド系降圧薬と比較してサイアザイド系利尿薬を使用した場合の低ナトリウム血症の累積発生率の増加を推定すること。
試験デザイン:標的試験のエミュレーションを用いた人口および登録ベースのコホート研究。
試験設定: デンマーク、2014年1月1日~2018年10月31日。
試験参加者:最近降圧薬の処方を受けておらず、低ナトリウム血症の既往がなく、検討した降圧治療の対象となる40歳以上の人を対象に、2つの標的試験をエミュレートした。最初のエミュレーションでは、ベンドロフルメチアジド(bendroflumethiazide,BFZ)の新規使用とカルシウム拮抗薬(CCB)の新規使用を比較した。2番目のエミュレーションでは、ヒドロクロロチアジド+レニン-アンジオテンシン系阻害薬(HCTZ-RASi;配合剤)の新規使用とRASi単独を比較した。
測定法:治療加重生存曲線の安定化逆確率を用いたナトリウム値130mmol/L未満の2年間の累積発生率。
結果:本試験では、bendroflumethiazide(BFZ)の新規使用者 37,786人とCa拮抗薬の新規使用者 44,963例、HCTZ-RASiの新規使用者 11,943例とRASiの新規使用者 85,784例が比較された。2年間の低ナトリウム血症の累積発生率はBFZで3.83%、HCTZ-RASiで3.51%であった。リスク差はBFZとCa拮抗薬の間で1.35%(95%CI 1.04~1.66%)、HCTZ-RASiとRASiの間で1.38%(CI 1.01~1.75%)であり、リスク差は年齢が高く、合併症の負担が大きいほど大きかった。それぞれのハザード比は、治療開始後30日間では3.56(CI 2.76~4.60)および4.25(CI 3.23~5.59)、1年後では1.26(CI 1.09~1.46)および1.29(CI 1.05~1.58)であった。
限界:この研究では、充填された処方と薬剤の使用がイコールであると仮定しており、交絡が残存している可能性が高い。
結論:サイアザイド系利尿薬による治療開始は、低ナトリウム血症、特に治療開始後数ヵ月間の低ナトリウム血症について、薬剤の添付文書に示されているよりも実質的な過剰リスクを示唆している。
主要資金源:デンマーク独立研究基金
引用文献
Cumulative Incidence of Thiazide-Induced Hyponatremia : A Population-Based Cohort Study
Niklas Worm Andersson et al. PMID: 38109740 DOI: 10.7326/M23-1989
Ann Intern Med. 2023 Dec 19. doi: 10.7326/M23-1989. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38109740/
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