日本における高血圧妊婦への降圧剤処方傾向の推移は?(後向きコホート研究; Hypertens Res. 2022)

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妊婦に使用できる降圧薬とその処方傾向の推移は?

高血圧症は妊婦において、高頻度で認められる疾患の一つです。妊婦を対象としたランダム化比較試験の実施は倫理的側面から困難であり、主にレジストリー研究やコホート研究の結果を参照することになります。

妊娠中の降圧薬使用は、胎児への影響があることから、使用できる薬剤は限られており、これまでメチルドパ(商品名:アルドメ ット)、ヒドララジン塩酸塩(商品名:アプレゾリン)、アテノロール(商品名:テノーミン)、ニカルジピン塩 酸塩(商品名:ペルジピン)、ラベタロール塩酸塩(商品名:トランデート)が使用されていました。

高血圧治療ガイドライン2019において、国内の妊娠20週未満の高血圧(高血圧合併妊娠)では第一選択薬としてメチルドパ、ラベタロールが推奨されています。20週以降ではニフェジピンも使用可能であることが記載されています(ただし、他に選択する薬剤がなくニフェジピンを妊娠 20 週未満で使用する場合は、十分な説明と同意のうえで使用)。妊娠高血圧では、上記3剤にヒドララジンを加えた4剤が第一選択薬となります。

このように高血圧症を有する妊婦において、使用する降圧薬の変遷がみてとれます。しかし、実臨床における使用量の変化については充分に検討されていません。そこで今回は、日本における規制措置の前後で、妊娠中の患者に対する診療ガイドラインに記載された降圧薬の処方割合と妊娠アウトカムの推移を検討した後向きコホート研究の結果をご紹介します。

本研究では、2005年1月から2020年4月までの日本医療データセンターの請求データが用いられました。出産経験のある女性で、産前に高血圧性疾患を有していた女性を特定しました。規制措置(2011年の添付文書改訂、2014年の診療ガイドライン更新)の影響を評価するため、研究期間を最終月経の年に基づいて3期に分けました。抗高血圧薬の処方割合の時間推移を評価し、調査タームが妊娠アウトカム(早産、帝王切開、緊急帝王切開、溶血・肝酵素上昇・低血小板症候群)に及ぼす影響について多変量ロジスティック回帰分析が実施されました。

試験結果から明らかになったことは?

https://www.nature.com/articles/s41440-022-01018-8より引用

対象患者13,797例のうち、1,739例(12.6%)が妊娠中に経口抗高血圧薬による治療を受けていました。改訂前(2005〜2010年)は、最も処方頻度の高い降圧剤はメチルドパでしたが、添付文書および診療ガイドライン改訂後は、ニフェジピンが最も処方頻度の高い降圧剤となりました。

処方割合の傾向は、ニフェジピンが増加(P<0.001)、ヒドララジンが減少(P<0.001)しましたが、メチルドパとラベタロールは有意な傾向を示しませんでした。4つの妊娠アウトカム(早産、帝王切開、緊急帝王切開、溶血・肝酵素上昇・低血小板症候群)の調整オッズ比は、調査項目による有意差は認められませんでした。

コメント

高血圧を有する妊婦に対する降圧薬の使用傾向は、時代の変化、エビデンスの蓄積により変化してきています。

さて、本試験結果によれば、添付文書・診療ガイドラインの改訂前後で3つの条件を検討した結果、妊婦への処方割合の傾向には、ニフェジピンの増加、ヒドララジンの減少という有意な変化が認められましたが、妊娠アウトカムには有意な変化は認められませんでした。

ニフェジピンについては、添付文書上、妊娠20週未満に対して使用しないことが原則ですので、基本的にはヒドララジンが使用されると考えられます。しかし、ヒドララジンは腎・肝機能により使用が制限されることから、注意を要します。今後も、妊婦を対象としたデータの蓄積が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 添付文書・診療ガイドラインの改訂前後で3つの条件を検討した結果、妊婦への処方割合の傾向には、ニフェジピンの増加、ヒドララジンの減少という有意な変化が認められたが、妊娠アウトカムには有意な変化は認められなかった。

根拠となった試験の抄録

目的:日本における規制措置の前後で、妊娠中の患者に対する診療ガイドラインに記載された降圧薬の処方割合と妊娠アウトカムの推移を検討した。

方法:本レトロスペクティブコホート研究は、2005年1月から2020年4月までの日本医療データセンターの請求データを用いた。出産経験のある女性で、産前に高血圧性疾患を有していた女性を特定した。規制措置(2011年の添付文書改訂、2014年の診療ガイドライン更新)の影響を評価するため、研究期間を最終月経の年に基づいて3期に分けた。抗高血圧薬の処方割合の時間推移を評価し、調査タームが妊娠アウトカム(早産、帝王切開、緊急帝王切開、溶血・肝酵素上昇・低血小板症候群)に及ぼす影響について多変量ロジスティック回帰分析を実施した。

結果:対象患者13,797例のうち、1,739例(12.6%)が妊娠中に経口抗高血圧薬による治療を受けていた。改訂前は、最も処方頻度の高い降圧剤はメチルドパでしたが、添付文書および診療ガイドライン改訂後は、ニフェジピンが最も処方頻度の高い降圧剤となった。処方割合の傾向は、ニフェジピンが増加(P<0.001)、ヒドララジンが減少(P<0.001)したが、メチルドパとラベタロールは有意な傾向を示さなかった。4つの妊娠アウトカムの調整オッズ比は、調査項目による有意差は認められなかった。

結論:添付文書・診療ガイドラインの改訂前後で3つの条件を検討した結果、妊婦への処方割合の傾向には、ニフェジピンの増加、ヒドララジンの減少という有意な変化が認められたが、妊娠アウトカムには有意な変化は認められなかった。

キーワード:高血圧症治療薬、クレームデータベース(Claims database, 複数の健康保険組合より寄せられたレセプトおよび健診データを蓄積している疫学レセプトデータベース)、妊娠高血圧症候群、規制措置

引用文献

Trends in antihypertensive prescription for pregnant women with hypertension and their peripartum outcomes before and after label and guideline revisions in Japan
Reina Taguchi et al. PMID: 36109600 DOI: 10.1038/s41440-022-01018-8
Hypertens Res. 2022 Sep 15. doi: 10.1038/s41440-022-01018-8. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36109600/

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