ACS患者におけるPCI後のDAPTデエスカレーション戦略の効果は?
経皮的冠動脈形成術(PCI)を受ける急性冠症候群(ACS)患者には、アスピリンと強力なP2Y12阻害剤による二重抗血小板療法(DAPT)が標準治療となっています。PCI後の虚血リスクと出血リスクのバランスをとるために、強力なP2Y12阻害剤の漸減(デエスカレーション)は魅力的な概念ですが、充分に検討されていません。
そこで今回は、ACS患者において、デエスカレーションと標準的なDAPTを比較するために実施された個々の患者データのメタ解析の結果をご紹介します。
PubMed、Embase、Cochraneデータベースを含む電子データベースを検索し、ACS患者におけるPCI後のデエスカレーション戦略と標準DAPTを比較するランダム化臨床試験(RCT)が特定されました。関連する試験から個々の患者レベルのデータが収集されました。
本試験の主要評価項目は、PCI後1年間の虚血性複合エンドポイント(心臓死、心筋梗塞、脳血管イベントの複合)および出血性エンドポイント(あらゆる出血)でした。
試験結果から明らかになったことは?
4件のRCT(TROPICAL-ACS、POPular Genetics、HOST-REDUCE-POLYTECH-ACS、TALOS-AMI試験)、10,133例の患者が分析されました。
デエスカレーション戦略 | 標準戦略 | ハザード比[HR] (95%信頼区間[CI]) | |
虚血性エンドポイント | 2.3% | 3.0% | HR 0.761 (0.597〜0.972) ログランクP=0.029 |
出血性エンドポイント | 6.5% | 9.1% | HR 0.701 (0.606〜0.811) ログランクP<0.001) |
虚血性エンドポイントは、デエスカレーション戦略に割り付けられた患者では、標準戦略に割り付けられた患者よりも有意に低いことが示されました(2.3% vs. 3.0%、ハザード比[HR]0.761、95%信頼区間[CI]0.597〜0.972、log rank P=0.029)。また出血もデエスカレーション戦略群で有意に少ないことが示されました(6.5% vs. 9.1%、HR 0.701、95%CI 0.606〜0.811、log rank P<0.001)。
全死亡および大出血イベントに関しては、グループ間で有意な差は認められませんでした。
サブグループ解析の結果、ガイド付きデエスカレーションと比較して、ガイドなしデエスカレーションは出血エンドポイントの減少に有意に大きな影響を与えることが明らかになりました(交互作用のP=0.007)。一方、虚血エンドポイントについてはグループ間差は観察されませんでした。
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経皮的冠動脈形成術(PCI)後に血栓塞栓リスクが増加することから、P2Y12阻害剤を用いた二重抗血小板療法(DAPT)が標準治療となっています。強力なP2Y12阻害剤の漸減(デエスカレーション)については、結果に一貫性が示されていません。
さて、本試験結果によれば、個別患者データのメタ解析によって、P2Y12阻害剤を用いたDAPTのデエスカレーションは、虚血性(心臓死、心筋梗塞、脳血管イベントの複合)および出血性エンドポイント両方の低下と関連していました。また、出血性エンドポイントの減少は、ガイド付きのデスカレーション戦略よりもガイドなしの戦略でより顕著でした。
ACS患者におけるアスピリンとP2Y12阻害剤によるDAPTにおいて、P2Y12阻害のデエスカレーションは有効性・安全性に優れているようです。一方で全死亡および大出血イベントについては群間差がないようです。心臓死、心筋梗塞、脳血管イベントのうち、どのイベントリスク減少が主要因となっているのか気にかかるところです。
また患者背景により、デエスカレーションを実施するとより出血リスクが少なそうですが、追試が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 個別患者データのメタ解析では、P2Y12阻害剤を用いたDAPTのデエスカレーションは、虚血性および出血性エンドポイント両方の低下と関連していた。出血性エンドポイントの減少は、ガイド付きのデスカレーション戦略よりもガイドなしの戦略でより顕著であった。
根拠となった試験の抄録
目的:経皮的冠動脈形成術(PCI)を受ける急性冠症候群(ACS)患者には、アスピリンと強力なP2Y12阻害剤による二重抗血小板療法(DAPT)が標準治療となっている。PCI後の虚血リスクと出血リスクのバランスをとるために、強力なP2Y12阻害剤の漸減は魅力的な概念である。ACS患者において、デエスカレーションと標準的なDAPTを比較するために、個々の患者データのメタアナリシスが実施された。
方法:PubMed、Embase、Cochraneデータベースを含む電子データベースを検索し、ACS患者におけるPCI後のデエスカレーション戦略と標準DAPTを比較するランダム化臨床試験(RCT)を特定した。関連する試験から個々の患者レベルのデータを収集した。
主要評価項目は、PCI後1年間の虚血性複合エンドポイント(心臓死、心筋梗塞、脳血管イベントの複合)および出血性エンドポイント(あらゆる出血)であった。
結果:4件のRCT(TROPICAL-ACS、POPular Genetics、HOST-REDUCE-POLYTECH-ACS、TALOS-AMI試験)、10,133例の患者が分析された。虚血性エンドポイントは、デエスカレーション戦略に割り付けられた患者では、標準戦略に割り付けられた患者よりも有意に低かった(2.3% vs. 3.0%、ハザード比[HR]0.761、95%信頼区間[CI]0.597〜0.972、ログ順位P=0.029)。出血もデエスカレーション戦略群で有意に少なかった(6.5% vs. 9.1%、HR 0.701、95%CI 0.606〜0.811、log rank P<0.001)。全死亡および大出血イベントに関しては、グループ間で有意な差は認められなかった。サブグループ解析の結果、ガイド付きデエスカレーションと比較して、ガイドなしデエスカレーションは出血エンドポイントの減少に有意に大きな影響を与えることが明らかになった(交互作用のP=0.007);虚血エンドポイントについてはグループ間差は観察されなかった。
結論:今回の個別患者データのメタ解析では、DAPTに基づくデエスカレーションは、虚血性および出血性エンドポイント両方の低下と関連していた。出血性エンドポイントの減少は、ガイド付きのデスカレーション戦略よりもガイドなしの戦略でより顕著であった。
研究登録番号 本試験はPROSPEROに登録された(ID:CRD42021245477)。
キーワード:急性冠症候群、抗血小板療法、出血転帰、ディエスカレーション、虚血転帰
引用文献
Dual antiplatelet therapy de-escalation in acute coronary syndrome: an individual patient meta-analysis
Jeehoon Kang et al. PMID: 36883613 DOI: 10.1093/eurheartj/ehac829
Eur Heart J. 2023 Apr 17;44(15):1360-1370. doi: 10.1093/eurheartj/ehac829.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36883613/
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