血小板膜の糖蛋白IIb/IIIa阻害薬 チロフィバンの効果は?
急性虚血性脳卒中患者に対する抗血小板療法を支持するエビデンスがあります。しかし、現在推奨されている抗血小板療法では神経学的悪化が一般的であり、臨床転帰が不良であることから、新たな治療方法の確立が求められています。
そこで今回は、脳卒中発症後24時間以内にチロフィバンを静脈内投与することで、急性非心原性塞栓性脳卒中患者において、経口アスピリンと比較して早期の神経学的悪化を予防できるかどうかを検討したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験は、盲検下でエンドポイント評価を行う多施設共同非盲検ランダム化比較試験であり、2020年9月~2023年3月に中国の脳卒中総合センター10施設で実施されました。対象は18~80歳の発症24時間以内の急性非心臓塞栓性脳梗塞患者で、National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア4~20の患者でした。
患者はチロフィバン静注群(72時間)とアスピリン経口投与群にランダムに割り付けられました(1:1)。
本試験の有効性の主要アウトカムは、ランダム化後72時間以内の早期神経学的悪化(NIHSSスコア*の4点以上の増加)であった。安全性の主要アウトカムはランダム化後72時間以内の症候性脳内出血でした。
*National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)score:脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など)の神経学的重症度を評価するスケールの一つ。とくに発症初期の段階の重症度を把握することが期待できるスケール。スコアスケールは0点〜42点であり、0点が「正常」、42点に近づくほど神経学的重症度が高い。
試験結果から明らかとなったことは?
チロフィバン静注群(n=213)とアスピリン経口投与群(n=212)に計425例が組み入れられました。年齢中央値は64.0歳(IQR 56.0〜71.0)、女性124例(29.2%)、男性301例(70.8%)でした。
チロフィバン群 | アスピリン群 | 調整相対リスク aRR あるいは調整オッズ比 aOR (95%CI) | |
72時間以内の早期神経学的悪化 | 9例(4.2%) | 28例(13.2%) | aRR 0.32 (0.16〜0.65) P=0.002 |
90日以内の死亡 | 3例(1.3%) | 3例(1.5%) | aRR 1.15 (0.27〜8.54) P=0.63 |
修正ランキンスケールスコア | 1.0 (IQR 0〜1.25) | 1.0 (IQR 0〜2) | aOR 1.28 (0.90〜1.83) P=0.17 |
早期の神経学的悪化はチロフィバン群で9例(4.2%)、アスピリン群で28例(13.2%)にみられました(調整相対リスク 0.32、95%CI 0.16〜0.65;P=0.002)。
チロフィバン群で脳内出血を経験した患者は認められませんでした。
90日後の追跡では、チロフィバン群で3例(1.3%)、アスピリン群で3例(1.5%)が死亡し(調整RR 1.15、95%CI 0.27〜8.54;P=0.63)、修正ランキンスケールスコア*の中央値はそれぞれ1.0(IQR 0〜1.25)および1.0(IQR 0〜2)でした(調整オッズ比 1.28、95%CI 0.90〜1.83;P=0.17)。
*modified Rankin Scale(mRS)score:脳血管障害(脳出血、脳梗塞など)、神経疾患(パーキンソン病など)といった神経運動機能に異常を来す疾患の重症度を評価するためのスケール。スコアスケールは0点〜6点の7段階評価であり、0点が「症候が全くない」、6点が「死亡」。本スケールによる評価は歩行が可能か否かが重要な判断基準(3点と4点の評価)となるため、疾患の発症前の歩行状態の確認が必須。また1点〜4点は主観的評価となることから評価者バイアスが生じる点には留意。
コメント
急性虚血性脳卒中患者における神経学的悪化はアンメットニーズであり、早急な対策が求められています。
さて、エンドポイント盲検化ランダム化比較試験の結果、状発現後24時間以内に受診した非心原性塞栓性脳卒中患者において、チロフィバンはアスピリンと比較して早期の神経学的悪化のリスクを減少させ、かつ症候性脳内出血や系統的出血のリスクを増加さませんでした。
ただし、90日を超える評価は実施されていないことから、早期の神経学的悪化がもたらす利益について、更なる評価が求められます。また、糖蛋白IIb/IIIa阻害薬であるAbciximab、Eptifibatideとの比較検討も待たれるところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ エンドポイント盲検化ランダム化比較試験の結果、状発現後24時間以内に受診した非心原性塞栓性脳卒中患者において、チロフィバンはアスピリンと比較して早期の神経学的悪化のリスクを減少させ、かつ症候性脳内出血や系統的出血のリスクを増加させなかった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:急性虚血性脳卒中患者に対する抗血小板療法を支持するエビデンスがある。しかし、現在推奨されている抗血小板療法では神経学的悪化が一般的であり、臨床転帰が不良である。
目的:脳卒中発症後24時間以内にチロフィバンを静脈内投与することで、急性非心原性塞栓性脳卒中患者において、経口アスピリンと比較して早期の神経学的悪化を予防できるかどうかを検討する。
試験デザイン、設定、参加者:本試験は、盲検下でエンドポイント評価を行う多施設共同非盲検ランダム化比較試験であり、2020年9月~2023年3月に中国の脳卒中総合センター10施設で実施された。対象は18~80歳の発症24時間以内の急性非心臓塞栓性脳梗塞患者で、National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア4~20の患者であった。
介入:患者を72時間チロフィバン静注群とアスピリン経口投与群にランダムに割り付けた(1:1)。
主要アウトカム:有効性の主要アウトカムは、ランダム化後72時間以内の早期神経学的悪化(NIHSSスコア≧4点の上昇)であった。安全性の主要アウトカムはランダム化後72時間以内の症候性脳内出血であった。
結果:チロフィバン静注群(n=213)とアスピリン経口投与群(n=212)に計425例が組み入れられた。年齢中央値は64.0歳(IQR 56.0〜71.0)、女性124例(29.2%)、男性301例(70.8%)であった。早期の神経学的悪化はチロフィバン群で9例(4.2%)、アスピリン群で28例(13.2%)にみられた(調整相対リスク 0.32、95%CI 0.16〜0.65;P=0.002)。チロフィバン群で脳内出血を経験した患者はいなかった。90日後の追跡では、チロフィバン群で3例(1.3%)、アスピリン群で3例(1.5%)が死亡し(調整RR 1.15、95%CI 0.27〜8.54;P=0.63)、修正Rankinスケールスコアの中央値はそれぞれ1.0(IQR 0〜1.25)および1.0(IQR 0〜2)であった(調整オッズ比 1.28、95%CI 0.90〜1.83;P=0.17)。
結論と関連性:症状発現後24時間以内に受診した非心原性塞栓性脳卒中患者において、チロフィバンは早期の神経学的悪化のリスクを減少させ、かつ症候性脳内出血や系統的出血のリスクを増加させなかった。
臨床試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT04491695
引用文献
Effects of Tirofiban on Neurological Deterioration in Patients With Acute Ischemic Stroke: A Randomized Clinical Trial
Wenbo Zhao et al. PMID: 38648030 PMCID: PMC11036313 (available on 2025-04-22) DOI: 10.1001/jamaneurol.2024.0868
JAMA Neurol. 2024 Apr 22:e240868. doi: 10.1001/jamaneurol.2024.0868. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38648030/
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