ワクチン接種済みの集団コホートにおけるパキロビッドの効果とは?
EPIC-HR(Evaluation of Protease Inhibition for Covid-19 in High-Risk Patients)試験において、ニルマトルビル+リトナビル(商品名:パキロビッド)は、ワクチン未接種の早期COVID-19外来患者において入院または死亡を89%減少させました。しかし、ワクチン接種を受けた集団におけるパキロビッドの臨床的影響については不明です。
そこで今回は、SARS-CoV-2免疫と免疫回避型SARS-CoV-2系統の流行状況において、パキロビッドが早期COVID-19外来患者の入院または死亡のリスクを低減するかどうかを評価した集団ベースのコホート研究の結果をご紹介します。本試験では、治療の偏りを考慮し、逆確率加重モデルを用いて臨床試験を模擬した解析が行われました。オミクロン流行期間(2022年1月1日から7月17日)における、マサチューセッツ州とニューハンプシャー州の150万人の患者にケアを提供する大規模な医療システムが用いられました。
本試験の対象患者は、COVID-19を発症し、パキロビッド使用における禁忌を有していない50歳以上の非入院成人44,551例(90.3%がワクチン3回以上の接種者)でした。
本試験の主要アウトカムは、COVID-19の診断から14日以内の入院または28日以内の死亡の複合でした。
試験結果から明らかになったことは?
試験期間中、12,541例(28.1%)にニルマトレルビル+リトナビル(商品名:パキロビッド)が処方され、32,010例(71.9%)には処方されませんでした。パキロビッドを処方された患者は、高齢者、併存疾患が多い、ワクチン接種を受けているなどの傾向が示されました。
ニルマトレルビル+リトナビル (商品名:パキロビッド)を処方された患者 (12,541例) | 処方されなかった患者 (32,010例) | 調整リスク比 aRR (95%CI) | |
入院または死亡の複合転帰 | 69例(0.55%) | 310例(0.97%) | aRR 0.56 (0.42~0.75) |
入院 | – | – | aRR 0.60 (0.44~0.81) |
死亡 | – | – | aRR比 0.29 (0.12~0.71) |
入院または死亡の複合転帰は、パキロビッドを処方された患者 69例(0.55%)と処方されなかった患者 310例(0.97%)で発生しました(調整リスク比 0.56、95%CI 0.42~0.75)。
パキロビッドを処方された患者は、入院(調整リスク比 0.60、95%CI 0.44~0.81)および死亡(調整リスク比 0.29、95%CI 0.12~0.71)のリスクが低いことが示されました。
コメント
ニルマトレルビル+リトナビル(商品名:パキロビッド)は、ワクチン未接種の早期COVID-19外来患者において入院または死亡を89%減少させましたが、早期に中止された試験結果であるため、有効性・安全性を過大評価(あるいは過小評価)している可能性があります。また、ワクチン接種者における効果については充分に検証されていません。
さて、本試験結果によれば、90.3%が3回目のワクチン接種済みの患者コホートにおいて、COVID-19外来患者の入院または死亡のリスクはすでに1%と低かったものの、パキロビッドはこのリスクをさらに低下させることが明らかとなりました。大規模な米国の人口ベースコホート研究であることから、より米国の一般的な集団に近いと考えられ、結果の外挿性は高いと考えられます。ただし、流行株やワクチン接種などの要因により、そもそもの死亡リスクが低いことから、パキロビッドの追加の益はかなり小さいと考えられ、ルーティンに使用する必要性は低いと考えられます。また他の国や地域においても同様の結果が示されるのかについては不明です。
どのような患者にパキロビッドを優先的に使用した方が良いのか、さらなる検証が求められます。
続報に期待。
☑まとめ☑ 90.3%が3回目のワクチン接種済みの患者コホートにおいて、COVID-19外来患者の入院または死亡のリスクはすでに1%と低かったが、ニルマトレルビル+リトナビルはこのリスクをさらに低下させた。
根拠となった試験の抄録
背景:EPIC-HR(Evaluation of Protease Inhibition for Covid-19 in High-Risk Patients)試験において、ニルマトレルビル+リトナビルは、ワクチン未接種の早期COVID-19外来患者において入院または死亡を89%減少させた。ワクチン接種を受けた集団におけるニルマトレルビル+リトナビルの臨床的影響については不明である。
目的:SARS-CoV-2免疫と免疫回避SARS-CoV-2系統の流行状況において、ニルマトレルビル+リトナビルが早期COVID-19外来患者の入院または死亡のリスクを低減するかどうかを評価することである。
試験デザイン:集団ベースのコホート研究で、治療の偏りを考慮し、逆確率加重モデルを用いて臨床試験を模擬した解析を行った。
試験設定:オミクロン流行間(2022年1月1日から7月17日)における、マサチューセッツ州とニューハンプシャー州の150万人の患者にケアを提供する大規模な医療システムを活用した。
患者:COVID-19を発症し、ニルマトレルビル+リトナビルの禁忌を有していない50歳以上の非入院成人44,551例(90.3%がワクチン3回以上の接種者)。
測定方法:主要アウトカムは、COVID-19の診断から14日以内の入院または28日以内の死亡の複合とした。
結果:試験期間中、12,541例(28.1%)にニルマトレルビル+リトナビルが処方され、32,010例(71.9%)に処方されなかった。ニルマトレルビル+リトナビルを処方された患者は、高齢者、併存疾患が多い、ワクチン接種を受けているなどの傾向があった。入院または死亡の複合転帰は、ニルマトレルビル+リトナビルを処方された患者 69例(0.55%)と処方されなかった患者 310例(0.97%)で発生した(調整リスク比 0.56、95%CI 0.42~0.75)。ニルマトレルビル+リトナビルを処方された患者は、入院(調整リスク比 0.60、95%CI 0.44~0.81)および死亡(調整リスク比 0.29、95%CI 0.12~0.71)のリスクを低くしていた。
試験の限界:COVID-19ワクチン、診断検査、および治療へのアクセスの差による交絡が残存している可能性がある。
結論:外来でCOVID-19と診断された後の入院または死亡のリスクはすでに1%と低かったが、ニルマトレルビル+リトナビルはこのリスクをさらに低下させた。
主な資金源:米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)
引用文献
Nirmatrelvir Plus Ritonavir for Early COVID-19 in a Large U.S. Health System : A Population-Based Cohort Study
Scott Dryden-Peterson et al. PMID: 36508742 DOI: 10.7326/M22-2141
Ann Intern Med. 2022 Dec 13. doi: 10.7326/M22-2141. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36508742/
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