COVID-19パンデミックに関する歴史的物語は動機に偏っている(Nature. 2023)

man standing in front of paintings 09_感染症
Photo by Clem Onojeghuo on Pexels.com
この記事は約5分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

SARS-CoV-2パンデミックに関する人々の関心とは?

SARS-CoV-2パンデミックを人々がどのように想起するかは、パンデミックへの備えや適切な政治行動に関する今後の社会的議論において極めて重要であると考えられます。

しかし、これまでの研究では、歴史的な出来事を単純に忘れるだけでなく、強い動機や現在の状況に対する固定的な認識によって想起が歪められる可能性が示唆されていることから、どのような要因が影響しているのか検証することが求められます。

そこで今回は、11カ国にわたる4件の研究(n=10,776)を解析した研究結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

リスク認知、制度への信頼、防御行動の想起が、現在の評価に強く依存していることが示されました。

予防接種を受けた人も受けていない人もこのバイアスの影響を受けましたが、予防接種を受けたか受けていないかにかかわらず、予防接種を受けていることを強く認識している人ほど、想起の歪みが大きく、特に反対の歪みを示す傾向が認められました。

想起バイアスは、一般的な想起エラーに関する情報の提供や、正確な想起に対する少額の金銭的インセンティブでは減少しませんでしたが、高額のインセンティブでは部分的に減少しました。

このように、動機づけとアイデンティティは、過去の想起が歪められる方向に影響するようです。さらに偏った想起は、過去の政治的行動の評価や、将来のパンデミック時に規制を守る、政治家や科学者を罰するなどの将来の行動意図と関連していました。

コメント

想起バイアス(反応バイアス、反応者バイアス、報告バイアス、思い出しバイアス)とは疫学的研究において、研究参加者に対して過去の出来事や経験を想起させて得られた回想の正確性や完全性の違いから生じる系統的な誤差のことです。想起バイアスは日常生活にも容易に入り込み、人々の認識を歪めてしまいます。歪められた認識は、人々に誤った判断をさせたり、合理的な理由のない区別(差別や偏見など)を生じさせ、社会全体の損益を生み出してしまいます。

歴史的に伝染病やパンデミックは偏見や差別を誘発することが示されています。具体的には、エボラウイルス病や中東呼吸器症候群(MERS)が挙げられます。近年では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が該当すると考えられ、事実、COVID-19の流行後、米国ではアジア系人種に対する偏見や嫌がらせ、いじめを報道するニュースが増えました。これは、ウイルスの起源が中国の特定地域に関連する情報や報道に起因しているためですが、特定の人種や民族で感染や拡散のリスクが高いわけではないことから、合理的な理由はありません。

これまでの研究結果から、差別が性的マイノリティや人種マイノリティの心身の健康を損なうことが示されています。偏見や差別の対象となった人々は、伝染病やパンデミックの際に特に弱い立場におかれ、家族までをもより大きな危険にさらす可能性があります。元から差別されている人々が、さらなる差別を恐れてCOVID-19に罹患していることを隠蔽する可能性が高いためです。これを回避あるいは防ぐために、誤った認識や認知がどのように生み出されるのかを明らかにする必要があります。

さて、11カ国にわたる4件の研究(n=10,776)を解析した結果、感染症に対するリスク認知、社会制度への信頼、感染予防行動の想起が、現在の評価に強く依存していることが示されました。予防接種を受けた人も受けていない人もこのバイアスの影響を受けましたが、予防接種を受けたか受けていないかにかかわらず、予防接種を受けていることを強く認識している人ほど、想起の歪みが大きく、特に反対の歪みを示す傾向が認められました。

COVID-19に対する誤った認識や認知、反ワクチンの思想が生み出される構造が示されましたが、具体的にどのような対策が必要となるのかについては、今後の課題となります。本研究では触れられていませんが、現状維持バイアス(現在の状況より好転すると分かっていても変化を避け現状維持を選ぶこと。認知できていないまま、日常生活や会社の成長を妨げている可能性がある)も影響していると考えられます。

続報に期待。

people wearing diy masks

✅まとめ✅ COVID-19のパンデミックに関する歴史的な語りは動機づけに偏りがあり、社会の偏向を維持し、将来のパンデミックへの備えにも影響を及ぼすことが示された。

根拠となった試験の抄録

背景:SARS-CoV-2パンデミックを人々がどのように想起するかは、パンデミックへの備えや適切な政治行動に関する今後の社会的議論において極めて重要であると考えられる。これまでの研究では、単純に忘れるだけでなく、強い動機や現在の状況に対する固定的な認識によって想起が歪められる可能性が示唆されている。

方法・結果:11カ国にわたる4件の研究(n=10,776)を解析したところ、リスク認知、制度への信頼、防御行動の想起が、現在の評価に強く依存していることが示された。予防接種を受けた人も受けていない人もこのバイアスの影響を受けたが、予防接種を受けたか受けていないかにかかわらず、予防接種を受けていることを強く認識している人ほど、想起の歪みが大きく、特に反対の歪みを示す傾向があった。偏った想起は、一般的な想起エラーに関する情報の提供や、正確な想起に対する少額の金銭的インセンティブでは減少しなかったが、高額のインセンティブでは部分的に減少した。このように、動機づけとアイデンティティは、過去の想起が歪められる方向に影響するようである。偏った想起はさらに、過去の政治的行動の評価や、将来のパンデミック時に規制を守る、政治家や科学者を罰するなどの将来の行動意図と関連していた。

結論:以上の結果から、COVID-19のパンデミックに関する歴史的な語りは動機づけに偏りがあり、社会の偏向を維持し、将来のパンデミックへの備えにも影響を及ぼすことが示された。その結果、今後の対策は、公衆衛生への直接的な影響だけでなく、社会の結束と信頼に対する長期的な影響にも目を向ける必要がある。

引用文献

Historical narratives about the COVID-19 pandemic are motivationally biased
Philipp Sprengholz et al. PMID: 37914928 DOI: 10.1038/s41586-023-06674-5
Nature. 2023 Nov 1. doi: 10.1038/s41586-023-06674-5. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37914928/

コメント

タイトルとURLをコピーしました