変事不全を有する駆出率の保たれた心不全(HFpEF)患者におけるβ遮断薬休薬は心機能を改善させる?(小規模RCT; PRESERVE-HR試験; J Am Coll Cardiol. 2021)

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変事不全を有するHFpEF患者ではβ遮断薬を中止した方が良いのか?

駆出率維持型の心不全(HFpEF)において、chronotropic incompetence(変事性不全、変時不全*)は運動能力の低下と関連することが示されています。
*安静時や運動中止後には心拍数が高いが、最大運動時には必要な分の心拍数が上がらない現象

確固たるエビデンスがないにもかかわらず、HFpEFにおいても、他の心不全タイプ(HFrEF、HFmrEF)と同様にβ遮断薬が頻用されています。

そこで今回は、変事不全を有するHFpEF患者において、β遮断薬の休薬によるピーク酸素消費量(ピークVo2)への影響を評価したランダム化比較試験(PRESERVE-HR試験)の結果をご紹介します。

本試験は、2週間の治療期間と2週間のウォッシュアウト期間からなる多施設共同ランダム化医師盲検クロスオーバー臨床試験です。本試験では、安定したHFpEF、NYHA機能分類IIおよびIII、β遮断薬による治療歴、および変事不全を有する患者を、まずβ遮断薬治療の中止(A群:n=26)または継続(B群:n=26)にランダム化し、次に逆の介入を受けるようクロスオーバーされました。

本試験の主要アウトカムは、試験終了時に測定されたピークVo2および予測ピークVo2の割合(ピークVo2%)の変化でした。本試験ではクロスオーバー試験のペアデータの性質を考慮し、線形混合回帰分析が用いられました。

試験結果から明らかになったことは?

https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2021.08.073より引用

平均年齢は72.6±13.1歳、女性が59.6%で、New York Heart Associationの機能分類II(66.7%)の患者がほとんどでした。平均ピークVo2およびピークVo2%はそれぞれ12.4±2.9mL/kg/minおよび72.4±17.8%でした。治療群間でベースラインの有意差は認められませんでした。

β遮断薬中止β遮断薬継続群間差
ピークVo214.3mL/kg/min12.2mL/kg/minΔ +2.1mL/kg/min
P<0.001
ピークVo2%81.1%69.4%Δ +11.7%
P<0.001

ピークVo2およびピークVo2%は、β遮断薬中止後に有意に増加しました(14.3 vs. 12.2mL/kg/min[Δ +2.1mL/kg/min];P<0.001および81.1 vs. 69.4%[Δ +11.7%];P<0.001)。

コメント

心不全の分類はいくつかあります。左室駆出率により大きく3つに分類され、LVEF40%未満をLVEFの低下した心不全(HFrEF)、LVEF 50%以上をLVEFの保たれた心不全(HFpEF)、そしてその境界であるLVEF 40~50%をLVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF)としています。

HFpEF患者において、安静時や運動中止後には心拍数が高いものの、最大運動時には必要な分の心拍数が上がらない現象である “変事不全” が認められています。β遮断薬は、心機能を抑制し心負荷を軽減することから、変事不全を助長してしまう可能性があります。したがって、変事不全を有するHFpEF患者におけるβ遮断薬の中止により、心機能が改善する可能性があります。

さて、本試験結果によれば、小規模なランダム化比較試験の結果ではあるものの、β遮断薬の休薬により、変事不全を有する心不全(HFpEF)患者の最大機能能力が改善されました。

ただし、本試験は小規模なクロスオーバー試験であることから、追試が求められます。

続報に期待。

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☑まとめ☑ 小規模なランダム化比較試験において、β遮断薬の休薬により、変事不全を有する心不全(HFpEF)患者の最大機能能力が改善されたが、追試が求められる。

根拠となった試験の抄録

背景:駆出率維持型の心不全(HFpEF)において、chronotropic incompetence(変事性不全、変時不全*)は運動能力の低下と関連することが示されているが、確固たるエビデンスがないにもかかわらず、HFpEFではβ遮断薬がよく使用される。
*安静時や運動中止後には心拍数が高いが、最大運動時には必要な分の心拍数が上がらない現象

目的:本研究では、HFpEFと変事不全を有する患者において、β遮断薬の休薬によるピーク酸素消費量(ピークVo2)への影響を評価することを目的とした。

方法:本試験は、2週間の治療期間と2週間のウォッシュアウト期間からなる多施設共同ランダム化医師盲検クロスオーバー臨床試験である。安定したHFpEF、NYHA機能分類IIおよびIII、β遮断薬による治療歴、および変事不全を有する患者を、まずβ遮断薬治療の中止(A群:n=26)または継続(B群:n=26)にランダム化し、次に逆の介入を受けるようクロスオーバーさせた。試験終了時に測定されたピークVo2および予測ピークVo2の割合(ピークVo2%)の変化を主要アウトカム指標とした。このクロスオーバー試験のペアデータの性質を考慮し、線形混合回帰分析が用いられた。

結果:平均年齢は72.6±13.1歳で、New York Heart Associationの機能分類II(66.7%)の患者がほとんどで、女性が59.6%であった。平均ピークVo2およびピークVo2%はそれぞれ12.4±2.9mL/kg/minおよび72.4±17.8%であった。治療群間でベースラインの有意差は認められなかった。ピークVo2およびピークVo2%は、β遮断薬中止後に有意に増加した(14.3 vs. 12.2mL/kg/min[Δ +2.1mL/kg/min];P<0.001および81.1 vs. 69.4%[Δ +11.7%];P<0.001)。

結論:β遮断薬の休薬により、変事不全を有する心不全(HFpEF)患者の最大機能能力が改善された。HFpEFにおけるβ遮断薬の使用は、深く再評価されるべきものである。

試験登録番号:NCT03871803; 2017-005077-39

キーワード:HFpEF、クロノトロピック不全、クロスオーバー試験、心拍数、ピークVo2、予測ピークVo2の割合、βブロッカー

引用文献

Effect of β-Blocker Withdrawal on Functional Capacity in Heart Failure and Preserved Ejection Fraction
Patricia Palau et al. PMID: 34794685 DOI: 10.1016/j.jacc.2021.08.073
J Am Coll Cardiol. 2021 Nov 23;78(21):2042-2056. doi: 10.1016/j.jacc.2021.08.073.
— 読み進める www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2021.08.073

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