早期アルツハイマー病に対するレカネマブの効果はどのくらいですか?(DB-RCT; Clarity AD試験; N Engl J Med. 2023)

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抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体であるレカネマブの効果は?

可溶性および不溶性のアミロイドβ(Aβ)凝集体の蓄積は、アルツハイマー病の病理学的プロセスを開始または促進する可能性があります。レカネマブ(商品名:レケンビ)は、Aβ可溶性プロトフィブリルに高親和性で結合するヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、早期アルツハイマー病患者に効果が期待できるものの充分に検証されていませんでした。

そこで今回は、早期アルツハイマー病(軽度認知障害またはアルツハイマー病による軽度認知症:MCI)の50~90歳で、PETまたは脳脊髄液検査でアミロイドが認められた患者を対象に、18ヵ月間の多施設共同二重盲検第3相試験(Clarity AD試験)の結果をご紹介します。

試験参加者は、レカネマブ静脈内投与(10mg/体重1kgを2週間ごとに投与)とプラセボ投与に1:1の割合でランダムに割り付けられました。

本試験の主要エンドポイントは、CDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes*;範囲0~18、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)の18ヵ月時点におけるベースラインからの変化でした。

主な副次評価項目は、PETによるアミロイド負荷の変化、アルツハイマー病評価尺度(ADAS-cog14)の14項目の認知機能サブスケールのスコア(ADAS-cog14、範囲:0~90、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)、アルツハイマー病複合スコア(ADCOMS、範囲:0~1. 97;高得点ほど障害が強いことを示す)、Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment(ADCS-MCI-ADL;0~53;低得点ほど障害が強いことを示す)のスコアでした。

*CDR-SB:Clinical Dementia Ratinは、 1982年にHughesらにより開発された認知機能評価スケール(PMID: 7104545)。 当初はアルツハイマー型認知症の病期評価に使用されていたが、 現在では様々な種類の認知症の重症度や進行度を評価するために利用されている。CDR-SBとは、CDR各スコアの合計点を示した認知機能評価スケールの一つ。範囲は0~18で、スコアが高いほど障害が大きいことを示す。過去の報告によれば、1〜2ポイントの変化が臨床上重要な変化(MCID)である。

試験結果から明らかになったことは?

合計1,795例が登録され、898例がレカネマブ投与群に、897例がプラセボ投与群に割り付けられました。ベースライン時の平均CDR-SBスコアは両群とも約3.2でした。

レカネマブ投与群プラセボ投与群群間差
(95%CI)
ベースライン時の平均CDR-SBスコア約3.2約3.2
18ヵ月時のベースラインからの調整最小二乗平均変化量1.211.66差 -0.45
-0.67 ~ -0.23
P<0.001

18ヵ月時のベースラインからの調整最小二乗平均変化量は、レカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66でした(差 -0.45、95%信頼区間[CI] -0.67 ~ -0.23;P<0.001)。

群間差
(レカネマブ -プラセボ)
脳アミロイド負荷の減少差 -59.1センチロイド
(95%CI -62.6 ~ -55.6
ADAS-cog14スコア差 -1.44
(95%CI -2.27 ~ -0.61
P<0.001)
ADCOMSスコア差 -0.050
(95%CI -0.074 ~ -0.027
P<0.001
ADCS-MCI-ADLスコア差 2.0
(95%CI 1.2~2.8
P<0.001

698例の参加者を対象としたサブスタディでは、レカネマブの方がプラセボよりも脳アミロイド負荷の減少が大きいことが明らかとなりました(差 -59.1センチロイド、95%CI -62.6 ~ -55.6)。ADAS-cog14スコアでは-1.44(95%CI -2.27 ~ -0.61、P<0.001)、ADCOMSスコアでは-0.050(95%CI -0.074 ~ -0.027、P<0.001)、ADCS-MCI-ADLスコアでは2.0(95%CI 1.2~2.8、P<0.001)でした。

レカネマブの投与により、26.4%の症例で注入に関連した反応がみられ、12.6%の症例で浮腫または胸水を伴うアミロイド関連の画像異常がみられました。

コメント

超高齢社会に伴い認知症をはじめとする認知機能低下に関心が寄せられています。認知機能低下を抑制、あるいは回復する薬剤の開発が望まれています。

さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、レカネマブは初期アルツハイマー病におけるアミロイドのマーカーを減少させ、18ヵ月時点の認知機能および機能指標においてプラセボよりも中等度の低下をもたらしました。しかし、有害事象として、注射部位反応、浮腫または胸水を伴うアミロイド関連の画像異常などの発生と関連していました。

主要評価項目である平均CDR-SBスコアは、18ヵ月時点において、プラセボ群との差が -0.45(-0.67 ~ -0.23)であることが示されています。しかし、過去の報告によれば、1〜2ポイントの変化が臨床上重要な変化(MCID)であることから、生物学的統計解析により示された有意な群間差と、実臨床における有効性に乖離があると考えられます。認知症のケアにおいては、家族や施設スタッフ、医師との関係性における”社会的な負荷”の軽減が実現できるのかについても評価が求められます。より広い観点からの評価が求められます。

また、レカネマブによる治療を開始した場合、生涯にわたり薬剤を使用する可能性が高いことから、より長期間におけるレカネマブの有効性・安全性を検証する必要があります。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、レカネマブは初期アルツハイマー病におけるアミロイドのマーカーを減少させ、18ヵ月時点の認知機能および機能指標においてプラセボよりも中等度の低下をもたらしたが、有害事象(浮腫または胸水を伴うアミロイド関連の画像異常など)と関連していた。

根拠となった試験の抄録

背景:可溶性および不溶性のアミロイドβ(Aβ)凝集体の蓄積は、アルツハイマー病の病理学的プロセスを開始または促進する可能性がある。レカネマブ(商品名:レケンビ)は、Aβ可溶性プロトフィブリルに高親和性で結合するヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、早期アルツハイマー病患者を対象に試験が行われている。

方法:早期アルツハイマー病(軽度認知障害またはアルツハイマー病による軽度認知症:MCI)の50~90歳で、PETまたは脳脊髄液検査でアミロイドが認められた患者を対象に、18ヵ月間の多施設共同二重盲検第3相試験を実施した。参加者は、レカネマブ静脈内投与(10mg/体重1kgを2週間ごとに投与)とプラセボ投与に1:1の割合でランダムに割り付けられた。
主要エンドポイントは、CDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes;範囲0~18、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)の18ヵ月時点におけるベースラインからの変化であった。主な副次評価項目は、PETによるアミロイド負荷の変化、アルツハイマー病評価尺度(ADAS-cog14)の14項目の認知機能サブスケールのスコア(ADAS-cog14、範囲:0~90、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)、アルツハイマー病複合スコア(ADCOMS、範囲:0~1. 97;高得点ほど障害が強いことを示す)、Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment(ADCS-MCI-ADL;0~53;低得点ほど障害が強いことを示す)のスコアであった。

結果:合計1,795例が登録され、898例がレカネマブ投与群に、897例がプラセボ投与群に割り付けられた。ベースライン時の平均CDR-SBスコアは両群とも約3.2であった。18ヵ月時のベースラインからの調整最小二乗平均変化量は、レカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66であった(差 -0.45、95%信頼区間[CI] -0.67 ~ -0.23;P<0.001)。698例の参加者を対象としたサブスタディでは、レカネマブの方がプラセボよりも脳アミロイド負荷の減少が大きかった(差 -59.1センチロイド、95%CI -62.6 ~ -55.6)。ADAS-cog14スコアでは-1.44(95%CI -2.27 ~ -0.61、P<0.001)、ADCOMSスコアでは-0.050(95%CI -0.074 ~ -0.027、P<0.001)、ADCS-MCI-ADLスコアでは2.0(95%CI 1.2~2.8、P<0.001)であった。レカネマブの投与により、26.4%の症例で注入に関連した反応がみられ、12.6%の症例で浮腫または胸水を伴うアミロイド関連の画像異常がみられた。

結論:レカネマブは初期アルツハイマー病におけるアミロイドのマーカーを減少させ、18ヵ月時点の認知機能および機能指標においてプラセボよりも中等度の低下をもたらしたが、有害事象(浮腫または胸水を伴うアミロイド関連の画像異常など)と関連していた。早期アルツハイマー病におけるレカネマブの有効性と安全性を明らかにするために、より長期間の試験が必要である。

資金提供:(エーザイとBiogen社による資金提供。Clarity AD ClinicalTrials.gov番号、NCT03887455)。

引用文献

Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease
Christopher H van Dyck et al. PMID: 36449413 DOI: 10.1056/NEJMoa2212948
N Engl J Med. 2023 Jan 5;388(1):9-21. doi: 10.1056/NEJMoa2212948. Epub 2022 Nov 29.
— 読み進める www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2212948

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