妊娠中のmRNAワクチン接種により出生児におけるCOVID-19入院リスクを低減できるのか?
妊娠中のコロナウイルス症2019(COVID-19)は、重症化、入院、死亡(PMID: 33151921)に加え、妊娠中の有害事象や新生児合併症のリスク上昇と関連しています(PMID: 34818318)。一般集団におけるCOVID-19の多くの合併症は、ワクチン接種によって予防可能です。研究により、mRNAワクチン(BNT162b2[ファイザー・ビオンテック社製]および mRNA-1273[モデナ社製])は、妊娠中の重症COVID-19の予防に高い効果があることが示されています(PMID: 34618693、PMID: 34493859) 。また、妊娠中のCOVID-19ワクチン接種の安全性を裏付けるデータもあり、米国疾病対策予防センター(CDC)は、妊娠中または妊娠を予定している人に対して、適格な場合にはブースターを含むCOVID-19ワクチン接種を推奨しています(PMID: 34990445、PMID: 33882218、PMID: 34496196、PMID: 34670062、CDC)。
母体へのワクチン接種は、二重の効果があります。ワクチン接種により妊婦は保護され、またワクチン接種の対象とならない乳児を保護するという付加的な効果が得られるかもしれません(PMID: 28433704、PMID: 34100881、PMID: 28355514、PMID: 35176002、PMID: 35648413)。妊婦のCOVID-19ワクチン接種により、臍帯血、母乳、乳児の血清検体に母体抗体が検出され、母体抗体の乳児への移行を示唆する所見が得られました。乳児の抗体価は、妊娠第2期後半から第3期前半の母体接種で最も高くなることが報告されています(PMID: 33812808、PMID: 34014840、PMID: 33910219、PMID: 33843975、PMID: 34297643、PMID: 34963127、PMID: 34562636、PMID: 34547533)。さらに、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)に対する抗スパイク抗体は生後6ヵ月まで持続し、この抗体値は、妊娠中にワクチンを接種した母親から生まれた乳児では、妊娠中のSARS-CoV-2の自然感染により抗体が誘導された母親の乳児よりも高いことが分かっています(PMID: 35129576)。
SARS-CoV-2のB.1.1.259(オミクロン)変異株の流通のピーク時には、SARS-CoV-2に感染した生後6ヵ月未満の乳児の入院率は、B.1.617.2(デルタ)変異株のピーク時の6倍に達し、このような乳児の85%でCOVID-19が入院の主な理由となりました(PMID: 35129576、PMID: 35298458)。この年齢層の乳児は、4歳以下の小児のCOVID-19関連入院の44%を占めています(PMID: 35298458)。以前の報告では、妊娠中の母親による2回のmRNA COVID-19ワクチン接種に関連して、生後6ヵ月未満の乳児のCOVID-19による入院のリスクが61%減少することが示されました(PMID: 35176002)。この研究で得られたデータは、主にデルタ変異株の流行期間中に入院した乳児のものでした。
今回ご紹介するのは、オミクロン変異株の流行が優勢になった後に登録された乳児を含む、追加分の361例のケース乳児と309例のコントロール乳児からなるより大きな集団における、母親のCOVID-19ワクチン接種とCOVID-19による入院の関連を評価したcase-control test negative design(症例対象試験陰性)試験の結果です。これらの追加登録により、ワクチン接種の妊娠時期と乳児のCOVID-19による入院との関連、およびワクチン接種とCOVID-19による集中治療室(ICU)への入院または生命維持のための介入を受けることとの関連を評価する統計的検出力が高まっています。
試験結果から明らかになったことは?
合計537例のケース乳児(うちデルタ期間に入院した181例、オミクロン期間に入院した356例、年齢中央値2ヵ月)と512例のコントロール乳児が登録され、解析に含まれました。ケース乳児の16%、コントロール乳児の29%が、妊娠中にCOVID-19を完全に接種した母親から誕生していました。
ケース乳児のうち113例(21%)が集中治療を受けました(64例[12%]が人工呼吸または血管作動薬の輸液を受けた)。2例がCOVID-19により死亡しましたが、どちらの乳児の母親も妊娠中にワクチン接種を受けていませんでした。
乳児のCOVID-19による入院リスクに対する 母親のワクチン接種の有効性 | |
全体(期間全体) | 52%(95%信頼区間 [CI] 33~65) |
デルタ変異株の流行期 | 80%(95%CI 60~90) |
オミクロン変異株の流行期 | 38%(95%CI 8~58) |
妊娠20週以降のワクチン接種 | 69%(95%CI 50~80) |
妊娠20週 | 38%(95%CI 3~60) |
乳児のCOVID-19による入院リスクに対する母親のワクチン接種の有効性は、全体で52%(95%信頼区間 [CI] 33~65)、デルタ期で80%(95%CI 60~90)、オミクロン期で38%(95%CI 8~58)でした。有効性は、母体へのワクチン接種が妊娠20週以降に行われた場合は69%(95%CI 50~80)、妊娠20週未満の場合は38%(95%CI 3~60)でした。
コメント
妊娠中のワクチン接種の安全性については多くの報告があり、ワクチン接種による胎児への影響に大きな懸念がないことが示されています。一方、胎盤を介した胎児、そして乳児に対するワクチンの有効性については充分に検証されていません。
さて、本試験結果によれば、母親におけるmRNAワクチンの2回接種は、生後6ヵ月未満の乳児における重症化を含むCOVID-19による入院のリスク低減と関連していました。母体におけるワクチンの接種タイミングについては、妊娠20週以降がCOVID-19予防効果がより高いことから適していそうです。
今後も同様の報告、症例の集積が予想されますので、引き続き情報を追っていきたいところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 母親におけるmRNAワクチンの2回接種は、生後6ヵ月未満の乳児における重症化を含むCOVID-19による入院のリスク低減と関連していた。
根拠となった試験の抄録
背景:生後6ヵ月未満の乳児は、コロナウイルス症2019(COVID-19)の合併症リスクが高く、ワクチン接種の対象にはならない。母親のCovid-19ワクチン接種後の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する抗体の経胎盤的移行は、乳児にCOVID-19に対する防御を与える可能性がある。
方法:生後6ヵ月未満の乳児のCOVID-19による入院に対する妊娠中の母親のワクチン接種の有効性を、症例対照試験陰性のデザインで評価した。2021年7月1日から2022年3月8日の間に、22の州の病院30施設でCOVID-19で入院した乳児(ケース乳児)とCOVID-19を受けずに入院した乳児(コントロール乳児)を登録した。B.1.617.2(delta, デルタ)変異型(2021年7月1日~2021年12月18日)およびB.1.1.259(omicon, オミクロン)変異型(2021年12月19日~2022年3月8日)の循環期間に、ケース乳児とコントロール乳児の完全母親接種(mRNAワクチン2回投与)の確率を比較してワクチン効果を推計した。
結果:合計537例のケース乳児(うちデルタ期間に入院した181例、オミクロン期間に入院した356例、年齢中央値2ヵ月)と512例のコントロール乳児が登録され、解析に含まれた。ケース乳児の16%、コントロール乳児の29%が、妊娠中にCOVID-19を完全に接種した母親から誕生していた。ケース乳児のうち113例(21%)が集中治療を受けた(64例[12%]が人工呼吸または血管作動薬の輸液を受けた)。2例がCOVID-19により死亡したが、どちらの乳児の母親も妊娠中にワクチン接種を受けていなかった。乳児のCOVID-19による入院に対する母親のワクチン接種の有効性は、全体で52%(95%信頼区間 [CI] 33~65)、デルタ期で80%(95%CI 60~90)、オミクロン期で38%(95%CI 8~58)であった。有効性は、母体へのワクチン接種が妊娠20週以降に行われた場合は69%(95%CI 50~80)、妊娠20週未満の場合は38%(95%CI 3~60)であった。
結論:生後6ヵ月未満の乳児において、2回接種のmRNAワクチンによる母親のワクチン接種は、重症化を含むCOVID-19による入院のリスク低減と関連していた。
資金提供:米国疾病対策予防センター
引用文献
Maternal Vaccination and Risk of Hospitalization for Covid-19 among Infants
Natasha B Halasa et al. PMID: 35731908 DOI: 10.1056/NEJMoa2204399
N Engl J Med. 2022 Jun 22. doi: 10.1056/NEJMoa2204399. Online ahead of print.
— 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35731908/
関連記事
【妊娠中のmRNA COVID-19ワクチン接種の安全性と有効性は?(SR&MA; Nat Commun. 2022)】
【妊婦に対するmRNA COVID-19ワクチンはどのくらい安全ですか?(データベース研究; NEJM 2021)】
【COVID-19ワクチン接種後の流産発生と自然流産発生リスクに差はありますか?(Vaccine Safety Datalink; JAMA. 2021)】
【妊娠中・授乳中の女性におけるCOVID-19 mRNAワクチンの接種は妊婦に免疫原性を示し、ワクチンによって誘発された抗体は乳児の臍帯血および母乳に移行する(探索的前向きコホート研究; JAMA. 2021)】
【妊婦における新型コロナワクチン(BNT162b2)接種の安全性・有効性は?(後向きコホート研究; JAMA. 2021)】
コメント