心筋梗塞後のインフルエンザワクチン接種は心血管疾患や死亡リスクを低減する(DB-RCT; IAMI試験; Circulation. 2021)

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心筋梗塞既往患者におけるインフルエンザワクチン接種の効果は?

炎症は、動脈硬化プラークの発生から破裂まで、動脈硬化の進行に中心的な役割を果たしています。 炎症プロセスは多因子性であるが、インフルエンザウイルスを含む外因性病原体は、炎症反応を調節する可能性があります(PMID: 30336831)。1918年〜1920年に発生したパンデミックを含む、1915年〜1929年までのインフルエンザの流行に関する研究では、インフルエンザと心血管イベントのリスクに正の相関があることが報告されています(PMID: 19315373)。その後の観察研究においても、時間的な関連性が確認されています(PMID: 29365305PMID: 23048170PMID: 23966030PMID: 32760080PMID: 21172383)。

心血管疾患のハイリスク患者を対象に、インフルエンザワクチンを無接種またはプラセボと比較したいくつかの臨床試験では、ワクチン接種により心血管イベントの減少が認められましたが(PMID: 14683739PMID: 18187561PMID: 21289042)、心血管疾患のハイリスク患者を対象とした最近の大規模ランダム化試験では、3価の高用量インフルエンザワクチンと4価の標準用量ワクチンを比較した結果、死亡率や心肺機能低下による入院に差は認められませんでした(PMID: 33275134)。心血管疾患患者の将来の心血管イベントの予防にインフルエンザワクチン接種が有効であるかどうかを確実に評価するには、大規模臨床試験によるエビデンスが必要です(PMID: 25940444)。

そこで今回は、最近心筋梗塞を発症した患者や高リスクの冠動脈疾患を有する患者を対象に、インフルエンザワクチン接種が死亡、心筋梗塞(MI)、ステント血栓症の複合的な発生率を低下させるか否かを検証したIAMI試験(Influenza Vaccination After Myocardial Infarction)の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

COVID-19のパンデミックのため、データ安全性監視委員会は、事前に規定したサンプルサイズに到達する前に試験を中止するよう勧告しました。2016年10月1日から2020年3月1日までの間に、8か国の30施設で2,571例の参加者がランダム化されました。

インフルエンザワクチンに割り付けられた参加者は1,290例、プラセボに割り付けられた参加者は1,281例で、このうち2,532例が試験治療を受け(インフルエンザワクチン1,272例、プラセボ1,260例)、修正intention to treat解析の対象となりました。

インフルエンザ
ワクチン接種群
プラセボ群ハザード比
(95%CI)
主要評価項目*67例(5.3%)91例(7.2%)ハザード比 0.72
0.52〜0.99
P=0.040
 全死亡2.9%4.9%0.59
0.39〜0.89
P=0.010
 心筋梗塞2.0%2.4%0.86
0.50〜1.46
P=0.57
 ステント血栓症0.5%0.2%1.94
0.48〜7.76
P=0.34
 心血管死2.7%4.5%0.59
0.39〜0.90
P=0.014

12ヵ月間の追跡調査で、主要評価項目*が発生したのは、インフルエンザワクチンを接種した67例(5.3%)とプラセボを接種した91例(7.2%)でした。
☆ハザード比 0.72、95%CI 0.52〜0.99、P=0.040

全死亡率はインフルエンザワクチン群で2.9%、プラセボ群で4.9%(ハザード比 0.59[95%CI 0.39〜0.89]、P=0.010)、心血管死は2.7%、4.5%(ハザード比 0.59[95%CI 0.39〜0.90]、P=0.014)、心筋梗塞はそれぞれ2.0%、2.4%(ハザード比 0.86[95%CI 0.50〜1.46]、P=0.57)であり、インフルエンザワクチン群、プラセボ群ともに、心筋梗塞の発症率は低かった。

ステント血栓症については、インフルエンザワクチン群で0.5%、プラセボ群で0.2%(ハザード比 1.94 [95%CI 0.48〜7.76]、P=0.34)でした。

*全死亡、心筋梗塞、ステント血栓症

コメント

α=0.05、検出力80%でイベント発生数386件が必要とされましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミッックのため試験は早期となりました。その結果、イベント発生数は158件でした。ただし、主要評価項目の発生率において、有意な群間差が認められていることから、サンプルサイズについて、そこまで気にする必要はないと考えます。

さて、試験結果によれば、心筋梗塞またはハイリスクの安定冠動脈疾患(0.3%)の発症直後にインフルエンザワクチンを接種すると、プラセボ(生理食塩水)接種と比較して、全死亡、心筋梗塞、ステント血栓症の複合アウトカムの発生は有意に低下しました(ハザード比 0.72、95%CI 0.52〜0.99、P=0.040)。

複合アウトカムの内訳を確認すると、全死亡および心筋梗塞の発生抑制が大きく影響していることがわかります。さらに心血管死についてもインフルエンザワクチン接種群で有意に低いことが明らかとなりました。一方、ステント血栓症については、インフルエンザワクチン接種群で発生率が高いですが、全体の発生数が少ないことから、結論付けられません。

安全性について、重篤な有害事象の発生はまれであり、インフルエンザワクチン群とプラセボ群で種類と発生率はほぼ同じでした(補足データ)。注射後7日以内の全身反応は2群で同程度の頻度で報告されましたが、痛み、発赤、腫れ、硬化などの注射部位反応は、インフルエンザワクチン接種群で有意に多く報告されました。また、両群とも7人に1人がインフルエンザワクチンを接種したと報告されています。ワクチン接種に伴う注射部位反応が多いことは致し方ないこと、反応は重篤でなく、接種後数日以内に治ることから、リスクベネフィットを考慮するとワクチンを接種しない理由としては弱いと考えられます。

心血管リスクの高い、心筋梗塞の既往を有する患者においては、流行状況にもよりますが、早期にインフルエンザワクチン接種を実施した方が良さそうです。

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✅まとめ✅ 心筋梗塞後または高リスクの冠動脈心疾患の患者に対して発症後早期にインフルエンザワクチンを接種すると、プラセボと比較して、12ヵ月後の全死亡、心筋梗塞、ステント血栓症の複合リスクが低下し、全死亡と心血管死のリスクも低下した。

根拠となった試験の抄録

背景:観察研究および小規模なランダム化研究では、インフルエンザワクチンが心血管疾患患者の将来の心血管イベントを減少させる可能性が示唆されている。

方法:不活化インフルエンザワクチンと生理食塩水プラセボを、心筋梗塞(MI)またはハイリスクの安定冠動脈疾患(0.3%)の直後に投与して比較する医師主導のランダム化二重盲検試験を実施した。
主要評価項目は、12ヵ月後の全死亡、心筋梗塞、ステント血栓症の複合とした。主要な副次的評価項目である全死亡、心血管死、MI、ステント血栓症については、階層的な検定法を用いた。

結果:COVID-19のパンデミックのため、データ安全性監視委員会は、事前に規定したサンプルサイズに到達する前に試験を中止するよう勧告した。2016年10月1日から2020年3月1日までの間に、8か国の30施設で2,571例の参加者がランダム化された。
インフルエンザワクチンに割り付けられた参加者は1,290例、プラセボに割り付けられた参加者は1,281例で、このうち2,532例が試験治療を受け(インフルエンザワクチン1,272例、プラセボ1,260例)、修正intention to treat解析の対象となった。
12ヵ月間の追跡調査で、主要転帰が発生したのは、インフルエンザワクチンを接種した67例(5.3%)とプラセボを接種した91例(7.2%)であった(ハザード比 0.72[95%CI 0.52〜0.99]、P=0.040)。
全死亡率はインフルエンザワクチン群で2.9%、プラセボ群で4.9%(ハザード比 0.59[95%CI 0.39〜0.89]、P=0.010)、心血管死は2.7%、4.5%(ハザード比 0.59[95%CI 0.39〜0.90]、P=0.014)、心筋梗塞はそれぞれ2.0%、2.4%(ハザード比 0.86[95%CI 0.50〜1.46]、P=0.57)であり、インフルエンザワクチン群、プラセボ群ともに、心筋梗塞の発症率は低かった。

結論:心筋梗塞後または高リスクの冠動脈心疾患の患者に対して発症後早期にインフルエンザワクチンを接種すると、プラセボと比較して、12ヵ月後の全死亡、心筋梗塞、ステント血栓症の複合リスクが低下し、全死亡と心血管死のリスクも低下した。

試験登録:URL: https://www.clinicaltrials.gov、登録番号: NCT02831608

キーワード:インフルエンザワクチン、心筋梗塞、ランダム化比較試験

引用文献

Influenza Vaccination After Myocardial Infarction: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Multicenter Trial
Ole Fröbert et al. PMID: 34459211 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.121.057042
Circulation. 2021 Nov 2;144(18):1476-1484. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.121.057042. Epub 2021 Aug 30.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34459211/

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