2型糖尿病の心血管アウトカムに対する第一選択薬としてSGLT-2阻害剤を使用すると心血管イベントのリスクを低下できるのか?
2型糖尿病治療において、インスリンを含めてさまざまな治療薬が販売されています。日本の診療ガイドライン(糖尿病治療ガイドライン2019)では、経口血糖降下薬の明確な使い分けは示されておらず、横並びの推奨となっています。一方、米国(ADA2022)では、基本的にはメトホルミンが第一選択薬ですが、対象患者によってはグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1RA)、そしてナトリウムグルコースコトランスポーター2阻害薬(SGLT-2i)が第一選択薬として推奨されています。これは、心血管疾患の発症リスクが高い2型糖尿病患者を対象とした大規模臨床試験において、GLP-1RAやSGLT-2iがプラセボと比較して、有意にリスクを低下させたためです。
メトホルミンが販売されてから50年以上が経過し、多くの臨床試験の結果が集積しています。一方で、SGLT-2iの使用に関連する心血管イベントのリスクに関するエビデンスは限定的です。
そこで今回は、2型糖尿病(T2D)の成人患者において、メトホルミンと比較してSGLT-2i(カナグリフロジン、エンパグリフロジン、またはダパグリフロジン)を第一選択薬として治療を開始した患者における心血管イベントを評価したコホート研究の結果をご紹介します。
本試験では、米国の大規模な商業データベースとメディケアデータベースの請求データ(2013年4月~2020年3月)が用いられました。試験参加者は2013年4月から2020年3月の間にSGLT-2iまたはメトホルミンによる治療を開始した18歳以上(メディケアでは65歳以上)のT2D患者(コホート参加前に抗糖尿病薬の使用なし)でした。本試験の主要アウトカムは、心筋梗塞(MI)による入院、虚血性または出血性脳卒中による入院または全死亡(MI/脳卒中/死亡)の複合、心不全による入院(HHF)または全死亡(HHF/死亡)の複合でした。また性器感染症を含む安全性のアウトカムも評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
メトホルミン投与開始者17,226例とマッチした8,613例のSGLT-2i投与開始者において、SGLT-2i投与開始者は平均12ヵ月のフォローアップ期間中にMI/脳卒中/死亡のリスクは同等であり(HR 0.96、95%CI 0.77〜1.19)、HHF/脳卒中(HR 0.80、95%CI 0.66〜0.97)リスクは低値でした。
SGLT-2i投与群はメトホルミン投与群と比較して、HHFのリスクが低く(HR 0.78、95%CI 0.63〜0.97)、MIのリスクが数値的に低く(HR 0.70、95%CI 0.48〜1.00)、脳卒中、死亡率、MI/脳卒中/HHF/死亡は同等であることが示されました。
SGLT-2i投与者は性器感染症のリスクの高さ(HR 2.19、95%CI 1.91〜2.51)が示されましたが、それ以外はメトホルミン投与者と同様の安全性を有していました。
コメント
2型糖尿病に対する経口治療薬として、古くからメトホルミンが使用されています。しかし、ランダム化比較試験のような強固なエビデンスは限られています。比較的新しい薬剤であるSGLT-2阻害薬については、多くのランダム化比較試験が実施されており、さらに大規模な心血管安全性試験の結果も公表されていますが、標準治療薬としてメトホルミンをはじめとした薬剤が使用されているため、初期治療(第一選択薬)としてのSGLT-2阻害薬の使用に関するエビデンスは限られています。そのため、メトホルミンおよびSGLT-2阻害薬を第一選択薬として使用した場合の有効性・安全性の比較試験の実施が求められます。
さて、本試験結果によれば、2型糖尿病治療の第一選択薬として、SGLT-2i投与開始者は、メトホルミン投与者と比較して、心筋梗塞/脳卒中/死亡のリスクが同等、心不全による入院/死亡および心不全による入院のリスクが低く、性器感染症のリスクが高いことを除いて安全性プロファイルが同等であることが示されました。ただし、本試験はデータベースを用いたコホート研究である、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。また試験期間は平均12ヵ月と、主要評価項目の設定を踏まえると、やや短期間であるように思われます。より長期的な試験の実施が求められます。とはいえ、作用機序および過去の研究報告の結果を踏まえると、心不全を合併する2型糖尿病患者においては、SGLT-2阻害薬の初期治療を検討しても良いのかもしれません。
続報に期待。
✅まとめ✅ 2型糖尿病治療の第一選択薬として、SGLT-2i投与開始者は、メトホルミン投与者と比較して、MI/脳卒中/死亡のリスクが同等、HHF/死亡およびHHFのリスクが低く、性器感染症のリスクが高いことを除いて安全性プロファイルが同等であることが示された。
根拠となった試験の抄録
背景:第一選択薬のナトリウムグルコースコトランスポーター2阻害薬(SGLT-2i)の使用に関連する心血管イベントのリスクに関するエビデンスは、メトホルミンと比較して限定的である。
目的:2型糖尿病(T2D)の成人患者において、メトホルミンと比較してSGLT-2iを第一選択薬として治療を開始した患者の心血管イベントを評価すること。
試験デザイン:母集団ベースのコホート研究
試験設定:米国の大規模な商業データベースとメディケアデータベースの請求データ(2013年4月~2020年3月)
試験参加者:2013年4月から2020年3月の間にSGLT-2iまたはメトホルミンによる治療を開始した18歳以上(メディケアでは65歳以上)のT2D患者(コホート参加前に抗糖尿病薬の使用なし)を同定した。各データベースで1:2の傾向スコアマッチングを行った後、プールされたハザード比(HR)と95%CIを報告した。
介入:第一選択薬としてSGLT-2i(カナグリフロジン、エンパグリフロジン、またはダパグリフロジン)またはメトホルミン
測定方法:主要アウトカムは、心筋梗塞(MI)による入院、虚血性または出血性脳卒中による入院または全死亡(MI/脳卒中/死亡)の複合、心不全による入院(HHF)または全死亡(HHF/死亡)の複合であった。性器感染症を含む安全性のアウトカムも評価した。
結果:メトホルミン投与開始者17,226例とマッチした8,613例のSGLT-2i投与開始者において、SGLT-2i投与開始者は平均12ヵ月のフォローアップ期間中にMI/脳卒中/死亡のリスクは同等であり(HR 0.96、95%CI 0.77〜1.19)、HHF/脳卒中(HR 0.80、95%CI 0.66〜0.97)リスクも低値であった。SGLT-2i投与群はメトホルミン投与群と比較して、HHFのリスクが低く(HR 0.78、95%CI 0.63〜0.97)、MIのリスクが数値的に低く(HR 0.70、95%CI 0.48〜1.00)、脳卒中、死亡率、MI/脳卒中/HHF/死亡は同等であることが示された。SGLT-2i投与者は性器感染症のリスクが高かったが(HR 2.19、95%CI 1.91〜2.51)、それ以外はメトホルミン投与者と同様の安全性を有していた。
試験の制限:治療法の選択はランダム化されていない。
結論:T2D治療の第一選択薬として、SGLT-2i投与開始者は、メトホルミン投与者と比較して、MI/脳卒中/死亡のリスクが同等、HHF/死亡およびHHFのリスクが低く、性器感染症のリスクが高いことを除いて安全性プロファイルが同等であることが示された。
主な資金源:Brigham and Women’s HospitalおよびHarvard Medical School
引用文献
Cardiovascular Outcomes in Patients Initiating First-Line Treatment of Type 2 Diabetes With Sodium–Glucose Cotransporter-2 Inhibitors Versus Metformin
A Cohort Study
HoJin Shin et al. https://doi.org/10.7326/M21-4012
Annals of Internal Medicine 2022(Published: 24 May 2022)
— 読み進める www.acpjournals.org/doi/10.7326/M21-4012
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